瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

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TURN・END

「『南米に実体あるブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン出現!? KCの新技術か?新手の未確認生物か?』だと? フン。『青眼の白龍』と『青眼の亜白龍』の違いも分からん記者は適当なことを書くものだ」

「すいません、他に方法がなかったものですから……」

 

 数日後のKC社長室では、瀬人とキサラがパソコンでネット記事を追っていた。

 

 あの後結局。

 『青眼の亜白龍』としての姿を顕したキサラによって、行方不明だった3人は病院まで直送された。その後『青眼の亜白龍』は森まで飛んで戻り、キサラはそ知らぬ顔で森の捜索隊と合流したのである。

 もちろん森と病院を往復する間に目撃された『青眼の亜白龍』がニュースになることも覚悟の上であった。

 

「まあ構わん。むしろ良い判断だった。お陰で犠牲者ゼロで解決できたんだからな。やはりお前に任せて正解だった」

 

 例の3人はやはり一刻を争う病状だったが、『極めて速やかな』搬送のおかげで一命を取り留めた。他の昏睡や発狂の症状で苦しんでいた面々もドッペルゲンガーの呪縛が解けた故か、無事に快方へ向かっているとのことだった。

 かくして、南米のドッペルゲンガー事件は、キサラの活躍によって決着がつき、南米海馬ランド計画も再起動しつつあった。

 

「質量を持ったソリッドヴィジョンなんぞ技術として確立しておらんから、報道に関しては知らぬ存ぜぬで通せば良かろう」

「あっ、でも! こっちは確立しましたよ!」

 

 そう言ってキサラが瀬人に見せたのは、あの『青眼の亜白龍』だった。ドッペルゲンガーとのデュエル中とは違い、羽ばたいている姿のイラストが焼き付いている。

 

「もう私以外、というか貴方が使っても大丈夫です。貴方が持ってて下さい」

 

 手渡されたそれを見た瀬人の感情は、到底言葉で表せないものだっただろう。その強さと美しさに魅了され、このカードがいま自分の手元にある事実への感動と愛おしさが溢れる。

 だが実際に口にしたのは。

 

「……やっぱりもうちょっと、お前が持ってた方がいいんじゃないか?」

 

 大喜びでデッキに入れてくれるとばかり思っていたキサラは意表を突かれてしまう。

 

「えぇっ? でも私、オリジナルの力を借りないとフィールドに出られませんよ? 効果やイラストも凄く気に入って貰えると思って──」

「……俺が破いたせいだと思うと、どうもな」

 

 デッキに入れられないから破り捨てる。デッキに入れられるから大切にする。

 そうやって愛しい人の魂を道具のように扱うことには、抵抗があったのだ。

 

「……でも、貴方は救ってくれたじゃないですか」

 

 愛しい人の手を握りながら、キサラは瀬人に語りかける。

 

「盗賊に母を殺されて、道具として売られるところだった私を救って、生きる誇りをくれたのは貴方だったでしょう?」

「町で迫害されていた私を助けてくれたのも貴方だった」

「ほんのわずか1ヶ月程度でしたが、王宮で貴方に匿われながら過ごした日々は、私にとってかけがえのない時間でした」

「貴方への愛と、自分自身への罪悪感を拗らせて……パラドックスに利用されていた私を救って、新しい人生をくれたのも貴方でしょう?」

「その人生は、『キサラ』としてだけではなく、4枚目のブルーアイズ……。『Sin青眼の白龍』から生まれ変わった『青眼の亜白龍』としてのものでもあるんです。ワガママかもしれませんが……私は、人間としても、カードとしても……。貴方の傍に居たいんです」

 

 キサラが語りかけている間、二人の青い眼は互いを見つめ合い、言葉だけでなく眼でも会話をした。

 万感込めた自分の必死さが恥ずかしくなって、不意にキサラは顔を逸らしてしまった。

 

「それに! 保険としての意味もあるんですよ! この人間としての身体に何かあっても、カードが無事なら手の施しようがありますし!

 カード側がまた破かれたらどうなるか分かりませんが……。デュエル中に破壊されたり、融合やシンクロの素材になったぐらいなら、『キサラ』の方には大して影響出ませんし!」

 

 そうやって取り繕う彼女の姿が可愛らしくて、瀬人は笑みを溢しながらとうとう折れてしまった。

 

「分かった。本当に負けられない闘いのときだけ、大切に使わせてもらう」

 

 『青眼の亜白龍』が瀬人のデッキに入ったところで、話はまた変わる。

 

「あぁ、そういえば。こっちのカードはどうしましょうか」

 

 ドッペルゲンガーが残した、【未界域】デッキの話だ。

 

「本当は誰にも見つかりたくないが、どうせ見つかるなら派手な花火を打ち上げたい、というのが奴の動機だったか? くだらんことで我が社の足を引っ張りおって……」

 

 デュエルモンスターズのカードは、表向きはI2社が全て作っていることになっているが、実際はそうでもない。デュエルモンスターズ界から流れ着くカードや、カードの精霊をはじめとした何者かの意思で勝手に増えたり効果が変わったりするカードが存在する。古代遺跡からカードが発掘されるという意味不明なことも起こっており、もはや大会などでは「デュエルディスクがエラーを吐かなければOK」ということになっている。

 『クリティウスの牙』『オレイカルコスの結界』『光のピラミッド』『青眼の亜白龍』もある意味その定義に当てはまってしまうので、もう瀬人も気にしていない。ある意味諦めたとも言える。

 

「でも、強かったですよ?」

「まあそうだな。その強さに免じて、南米の海馬ランドには【未界域】のアトラクションを作ってやるか。I2社と連携して各種調整とカード販売計画を進めてくれ」

「はい。じゃあそろそろ開発室に戻りますね!」

 

 そう言って社長室を去ろうとするキャリアウーマン然とした彼女が、三千年前から意識に断絶はあれど記憶と存在を保ってきた人格だとは、知らない者からすれば信じられないだろう。

 今のキサラは、KCの権力で戸籍を偽造し、KCの開発部門で働いている。確かに一般教養などは働きながら覚えていく必要はあった。しかし、パラドックスと3枚のブルーアイズに由来するカード知識と決闘者としての腕は、開発部で大いに役立つことになった。

 これからも、彼女は自分と共に歩んでくれるだろう──と瀬人が思っていると、「嗚呼、そういえば」とキサラが扉に手をかけがてら、振り返って訊ねた。

 

「おれが実は、ホンモノと既にいれかわっている、という可能性は、かんがえ──」

「茶番はいいから胸を張っていけ、『本物』。 偽者だったなら会って3秒で気づいている」

「ふふっ、からかってすみませんでした!」

 

 ニコッと微笑んでキサラは仕事に向かった。

 

 『キサラ』として海馬瀬人を殺し、『Sin青眼の白龍』としてパラドックスと共に世界を滅ぼす破滅の未来は潰えた。

 

 『キサラ』としてKCで働き、『青眼の亜白龍』として瀬人や3枚のブルーアイズと共に闘う。

 

 それが、瀬人とキサラが勝ち得た真実の未来だった。

 

 




あとがき
≪ドッペルゲンガーのカード解説≫
【未界域】
 EXTRA PACK2019で日本に上陸した海外テーマ。
 レベル8を多く有し、全員が闇属性で特殊召喚&ドロー効果を持ち、メタポや手札抹殺とも好相性という、架空デュエル制作者の夢を詰め込んだような効果テキストをしているので「未界域を使った架空デュエルが書きたい!」というのが本作の最初の動機でした。実は当初キサラは関係なかった。
 で、いざ書き始めたり色々調べたり対戦したりしていたら、
 『デッキが空になるまで圧縮しまくる』タイプか
 『場ではバニラである未界域をラスティ・バルデッシュやオルフェゴールの素材として割り切る』タイプが環境の主流だと判明。ドローとアド稼ぎを止めさせるのが大変でした。
 本気で【未界域】組むんだったらたぶんダクリとかメタポとか開闢とかエネコンとか要らないですね。あとラストターンでラスティ・バルデッシュの効果を使っていないのは、強欲で貪欲な壺の効果で該当するカードを除外してしまったという設定でお願いします。
 あと『未界域のドッペルゲンガー』なるモンスターは存在しませんのであしからず。単なる超常現象繋がりです。
 でも私の筆が進んだり、今回の評判が良かったりしたら再登場させてもいいかもしれないですね。万能変身能力キャラは便利ですし。

≪キサラのカード解説≫
【青眼】【青き眼】
 海馬瀬人と差別化するために、レベル1モンスターを沢山使用させる構成にしました。
 最初は【未界域】のデュエルが描きたかった(相手は誰でも良かった)のですが、劇場版2016年でやたら増えた【青眼】達(しかも入手経路不明)について私(の作品世界)なりの解釈が書けたので満足しています。今後ディープアイズやカオスMAXについても触れられたらいいですね。
(というか劇場版の海馬ってどうやって亜白龍やカオスMAXやディープアイズ入手したんだろう、ペガサス死んでるのに)
 パワーウォールやクリアクリボーについては、架空デュエルクォリティとして勘弁して欲しいです。本気でデッキ組むんだったらやはり入らないカードだと思います。トレードインと調和の宝札も、目覚めの旋律辺りに換えたほうがいいと思います。

Q.キサラ=4枚目のブルーアイズなんだったら、3枚のブルーアイズとの間で記憶や感覚の共有はしてないんじゃね?
Q.他の3枚のブルーアイズもキサラとして活動し始める可能性は?

A.脳内設定ですが。
①石版の白き龍(100%)がペガサスによって4枚のブルーアイズ(25%ずつ)に分割された時点で、人格や意志は非常にぼんやりしたものになった。
②4枚目が破り捨てられた後パラドックスによってキサラとしての人格や意志もろとも復活させられた(罪に堕ちるブルーアイズ参照)。
③キサラ&パラドックスが瀬人に負けた時点で消えるはずだった(25%未満)が、3枚のブルーアイズと瀬人から力を吸収して(25%→10%ぐらい?)、キサラとしての人格や意志は消えずに済んだ(80%以上)

というつもりで考えてます。なので本作のキサラは4枚目のブルーアイズであると同時に4枚のブルーアイズの代表でもあると解釈して頂けたら幸いです。

 あと具体的な御名前は挙げませんが、素晴らしい瀬人キサを他の方々が発表されている中で、
・アニメ時空
・海馬瀬人≒神官セト
で書いてる自分にちょっと不安を覚えたりもしますね。
(劇場版時空、海馬瀬人≠神官セトで素晴らしいモノを書かれていらっしゃるのでね……)
(一応光のピラミッドは海馬瀬人≒神官セトの解釈で書かれているお話なんですけどね……)

 でも
・アニメ時空
・海馬瀬人≒神官セト
だからこそ書けるものも思い付いたので、次回作も気長にお待ち頂けたら幸いです。

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