瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

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TURN2-3《Sin青眼の白龍》

瀬人LP4000/手札6枚/伏せ0枚

ブラッド・ヴォルス/攻1900

 

 伏せカードがないとはいえ、瀬人の場にいるのは下級モンスターで最高級の攻撃力を持つ『ブラッド・ヴォルス』。だがシンは、それを歯牙にもかけず、自分のターンを始めた。

 

「私のターン、ドロー!

 ……手札が悪いわね。『手札抹殺』の魔法カードを発動!」

「ふぅん、威勢のよさの割には手札事故か! いいカードの一つでも引いてみるんだな!」

 

互いの手札を確認した後、墓地へと送る。

 

》瀬人が捨てたカード:6枚

サンダー・ドラゴン×2、

ボマー・ドラゴン

ゴブリンのやりくり上手

ロード・オブ・ドラゴン

ドル・ドラ

 

》シンが捨てたカード:5枚

Sin真紅眼の黒竜

Sinレインボー・ドラゴン

Sinトゥールス・ドラゴン

ダーク・アームド・ドラゴン

伝説の白石

 

 シンの『手札抹殺』は、手札事故からの脱出以外にも、明確なメリットとなる狙いがあった。

 

「いま捨てた『伝説の白石』の効果発動! このカードが墓地に送られた時、その過程を問わず、強制的に、デッキからこのカードを手札に加える!」

 

 その時、シンが手札に加えたカードを見た瞬間、瀬人の中で改めて、実感が湧いた。

 彼の命とも言えるカードが、奪われたという事実が――。

 

「この……『青眼の白龍』を!」

「ブルーアイズ……! それは俺のカードだッ!! 必ず取り戻す!」

 

 事実をその眼に突きつけられ、彼の闘志はさらに燃え上がった。だがシンは、怯むことなく反論する。

 

「それは不可能よ。貴方は、他ならぬ……ブルーアイズ自身の力で敗北するのだから!

 フィールド魔法、罪深き世界――『SinWorld』を発動!」

 

 そのフィールド魔法が発動されると、ソリッドビジョンの範疇を超えた変化が現れ始めた。

 最初に起こったのは、デュエルディスクから発せられる黒い電撃。それが、上空・右翼・左翼の三方向に放たれるとそこから世界の色が変わっていく。それは人を惑わすような紫色の銀河。元あった世界は、青と橙で「線」の輪郭のみを残し、「面」としての個性は侵食されて消えた。

 そして、目には見えない重苦しさが辺りに漂う。瀬人はこの感覚に、心当たりがあった。

 

(似ている……。『オレイカルコスの結界』に……)

 

 『オレイカルコスの結界』とは、彼が以前戦った『ドーマ』と呼ばれる組織が使っていたカードだ。デュエルの敗者の魂を封印する効果があり、瀬人もその身を以てその力を味わっている。

 

「このフィールド魔法が発動している時、ターン開始時のドローを放棄することで、デッキから『Sin』と名の付くモンスターをサーチ出来る。だけどこの効果はおまけ……おそらく使うことはないわ」

 

 その先にある効果に、瀬人は直感で気づいた。

 

「『SinWorld』のもうひとつの効果! デュエルに敗北した者は、その魂を打ち砕かれ、死に至る!」

「くっ! やはり……! 当たって欲しくはなかったが……」

 

 デュエルを命のやり取りに使うなど、軍事産業を潰し、ゲーム産業に取り組んできた彼の信念が許さなかった。

 

「そんな手段に頼るのはよせ! 俺が敗北するなどありえん! 貴様が後悔することになるぞ!」

 

 アテムや遊戯などとの出会いや、多くのデュエルを通して彼は変わった。たとえ怒りに燃えることこそあれど、ゲームと称して人の命を弄ぶような真似を、絶対に許さないように。

 

「そんなことはないわ。貴方がこれ以上未来へ進んでも、待っているのは罪と絶望だけ。私にとっても、貴方にとっても……世界にとっても! だから私に、後悔はない!」

「貴様ァ! 俺が創りあげる未来が、世界に罪と絶望を喚ぶというのか! そんなことは、ありえん!」

「信じる信じないは貴方の勝手よ。私には勝算がある!」

 

 『SinWorld』の効果に恐れをなす様子も見せず、シンはデュエルを再開した。

 

「まずは永続魔法『魂吸収』を発動! カードが1枚除外されるたびに、私のライフが500ポイント回復する。

 そして! デッキに眠る2枚目の『青眼の白龍』をゲームから除外することで、このモンスターを特殊召喚する!」

 

 最初にソリッドビジョンのカードから現れたのは、瀬人のよく知る『青眼の白龍』だった。しかし、それは本命の召喚のコストに、ベースに過ぎない。

 

「何!? なんだ、その召喚条件は!」

「見せてあげるわ! 『青眼の白龍』のもうひとつの姿――。罪と絶望を知り、それを変えるために現出した姿――。現れよ! 『Sin青眼の白龍』!!」

 

 何処からか現れた黒い兜がブルーアイズに被せられ、美しい白銀の翼がモノクロ模様に変わり――『Sin青眼の白龍』に姿を変えられてしまった……。

 

シンLP4000→4500

Sin青眼の白龍/攻3000

 

「よくも……! よくも俺のブルーアイズを、こんな姿に!!」

 

 己が魂も同然のカードを汚され、瀬人は怒りと悲しみに震えた声を上げる。しかしシンの表情は、彼以上にその感情を表現していた。

 

「……貴方は、『青眼の白龍』をもっと酷い姿にしたことがあるはずよ。その罪を、この一撃で思い出させてあげる……。バトルフェイズ! 『Sin青眼の白龍』で、『ブラッド・ヴォルス』を攻撃!」

 

 姿形こそ、青眼の白龍とは違う。しかし、その口腔に収束する輝きは、青眼の白龍のものと寸分も違わないーー。

 

「誅滅の爆裂疾風弾!!」

 

 強烈な攻撃を受け、『ブラッド・ヴォルス』が破壊される。

 

ブラッド・ヴォルス/攻1900(破壊)

《VS》

Sin青眼の白龍/攻3000

 

瀬人LP4000→2900

 

「ぐっ……!」

 

 それでもなお止まらない攻撃の余波に、海馬瀬人は飲み込まれた――。

 

**

 

『……くん、海馬くん……!』

 

 瀬人が気がつくと、夢の中のようなぼやけた風景に、誰かが立っていて、その人物の声が木霊していた。その誰かの正体に、瀬人は間もなくたどり着いた。

 

(あのぼやけた人影は、もしや遊戯? なぜこんなところに突然……? 俺は、白昼夢でも見ているのか……?)

 

『じいちゃんに、いったい何をしたんだ!?』

(……何の話をしているんだ?)

 

 何の脈絡もなくそんな質問をされても困る。瀬人はそういった主旨のことを言おうとしたのだが、彼の口は勝手に動いた。

 

『別に? 互いの一番大切なカード賭けて、少々刺激的なデュエルをしただけさ。ジジイには耐えられなかったようだがね』

 

 瀬人は……自分が過去に吐いた台詞を覚えていた。そして、次に何が起こるのか、ということも。

 

『そのデュエルに勝利したことで手に入れた、このカード……』

 

 1枚のカードが、彼の視界に入る。

 

(や、めろ……。やめろぉぉぉぉおお!!)

『4枚目は敵になるかもしれないからなぁ!!』

 

 破り捨てられた、否、破り捨てたカードの姿を目に焼き付けながら、瀬人の視界は黒く染まっていく。

 

 あんなに求めていたのに。あんなに憧れていたのに。あんなに……愛していたのに――。

 

**

 

「――思い出したかしら?貴方の罪を」

 

 気がつけば、瀬人は『SinWorld』で塗り替えられた屋上に戻っていた。

 

「おのれ……。人のトラウマにつけ込むとは……。」

 

 あれは過去にあった事実だった。当時の瀬人には、頼れる味方も、誇れる力もなかった。そんな中で、誰よりも強くあろうとする一方、自分を超える者の登場に怯えていた彼は、4枚目の『青眼の白龍』を破り捨てた。

 そして……あの時彼が恐れていたことが、いま現実のものになっている。

 

(ブルーアイズが、俺の敵として立ちふさがっている……!)

 

「カードを1枚伏せ、エンドフェイズに速攻魔法発動。『超再生能力』! このターンに手札から捨てた、または生贄に捧げたドラゴン1体につき、カードを1枚ドローする。

 手札抹殺で5体のドラゴンを捨てたから、5枚ドローさせてもらうわ。これで本当にターンエンド。

 さあ選びなさい、海馬瀬人。ブルーアイズの力によって未来を失うか、同じ罪を繰り返すか!」

 

シンLP4500/手札6枚/伏せ1枚

Sin青眼の白龍/攻3000

SinWorld

魂吸収

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 彼は究極の選択を迫られていた。シンが示した選択肢は2つ。

 ――海馬瀬人の敗北か、青眼の破壊か。

 敗北は許されない。負ける気はない。モクバのため、己の夢のために。

 そして――ブルーアイズも、そんな結末は望んでいないと、彼は信じている。

 だが彼が勝つには、あのブルーアイズを倒すしかない。第三の選択肢を導き出せる手札は揃っていなかった。相手の手札の枚数から考えて、問題の先延ばしをする訳にもいかなかった。

 

(俺は多くの出会いを通して変わったはずだ! アテム、遊戯、そして何よりブルーアイズ!

 ――にもかかわらず、俺は、またあの罪を繰り返すのか?)

 

 無力、罪悪、苦悩。様々な感情が彼の中で渦巻く。

 その結果――悲しい決断をする他なかった。

 

「――ブルーアイズよ。こんな手段に頼るしかない俺を許してくれ……」

 

 そう小さな声で詫びると、彼はメインフェイズに移った。

 

「『X-ヘッド・キャノン』を召喚! さらに装備魔法『巨大化』により、攻撃力を2倍にする!」

 

X-ヘッド・キャノン/攻1800→3600

 

 シンのフィールドにいる、強き命と生きる悲しみの象徴とは対称的に、無機質で近代的な瀬人のモンスター。カード効果で巨大化し、敵に銃口を向けている。

 

「バトルだ!『X-ヘッド・キャノン』で、『Sin青眼の白龍』を攻撃! X-ディストラクション!!」

 

レーザーの弾丸は敵に見事命中する。そして、巨大な爆風が、モンスターとプレイヤーに襲いかかった……。

 

Sin青眼の白龍/攻3000(破壊)

《VS》

X-ヘッド・キャノン/攻3600

 

シンLP4500→3900

 

 ただ攻撃力で上回っただけのバトル。凡骨並みのタクティクス。あまりに、彼にとっては虚しいバトルだった。

 

「すまない、ブルーアイズ……。リバースカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

瀬人LP2900/手札4枚/伏せ1枚

X-ヘッド・キャノン/攻3600

↑巨大化

 

「やはり……。貴方は、第三の選択肢を示すことができなかった」

 

 爆風の向こうから、悲しそうな声が聞こえてくる。

 

「これで確信したわ……。貴方が創りゆく未来は、罪と絶望で満ちるということを」

 

 爆風が晴れていく。シンと名乗った彼女の仮面はひび割れており、一片、また一片と崩れ落ちていく。

 

「だから、諦めさせてあげる。貴方のロードを、終わらせてあげる……。」

 

 仮面の下に隠されていた、美女の顔。瀬人は彼女を、知っている。

 それは、もう二度と会えないと思っていた相手だった。

 

「貴方を……愛しているから……」

 

 海のように澄んでいたはずの青い瞳は、黒く濁り、目元には涙の跡のような黒い刺青があったが、間違いなくその人だとわかった。

 

「キ、サラ……だと?」


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