瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】 作:生徒会副長
キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚
青眼の究極竜/攻4500
青き眼の乙女/攻0
魂吸収
SinWorld
瀬人LP1100/手札3枚/伏せ2枚
ドル・ドラ/守1000
「まさか――。記憶をっ、取り戻したというの? そんなことが……」
戸惑いを隠しきれないキサラの言葉に、瀬人は自嘲気味にフッっと笑う。
「さあな。そういう言い方が正しいかどうかは知らん。しかし――」
熱く拳を握りしめ、彼は再び宣言する。
「俺が胸に宿した想いに、偽りはいささかもない! 今度こそ、お前を救う! そして、共に歩む未来を、この手勝ち取ってみせる!!」
「――私を、救う? 共に歩む未来を、勝ち取る?」
キサラは、瀬人が宣言したことの要点を抜粋して、黒と蒼が混じった眼を丸くした。
「ふふふ……あっははは……」
続いて乾いた笑い声をあげる。無知で哀れな決闘者を、舞踏者を嘲笑う。そして仕方なく教えてやった。
「貴方が出した答えは矛盾しているわ」
「どういうことだ?」
「このデュエルで貴方が勝てば、私は死ぬことになる。逆もまた然り。そんな私と共に歩む未来なんて、絶対に存在しな――」
「もし存在するとしたら、どうだ?」
その発問は、キサラの表情をリセットさせた。
「あのヴィジョンの、モーメントが暴走する未来には至るまい。何故なら、あの未来にお前の姿はなかった! お前を救い、共に歩むという第三の選択をすれば、罪と絶望に満ちた未来を変えることができるはずだ!」
「……偉そうなこと言って、貴方のフィールドは、口ほどにもないじゃない」
彼女は理想論を避け、現実を指摘した。
「貴方を守っているのは2枚のリバースカードと、死に損ないの雑魚ドラゴンが一匹だけ。対する私の場には『青眼の究極竜』がいる」
それに同意するように、攻撃力4500の究極竜が低く吠えて瀬人を威嚇する。
「さらに――私の墓地に眠る『スキル・サクセサー』は、自身を墓地から除外することにより、モンスター1体の攻撃力を800ポイント上昇させる効果を、自分のターン限定で発動できる!」
「と、いうことは――」
先程キサラが披露したブルーアイズ召喚コンボを思い出すことで、瀬人は気づいた。
「そう。『青き眼の乙女』の効果でブルーアイズを特殊召喚すれば、さらなる追撃も可能! このターンで、今度こそ終わらせてあげる! 私のターン!!」
キサラにはドローカード以外に手札がない。しかし彼女は、それを一瞥して嗜虐的な笑みを浮かべた。
「『青き眼の乙女』を守備表示に変更し、バトルフェイズに入るわ! 『青眼の究極竜』で攻撃!」
白い指が瀬人のほうに向く。攻撃目標を定めた究極竜の3つの口腔で、エネルギーが充填されていく。
「喰らいなさい! アルティメット・バーストォ!!」
全てを滅ぼす光の砲撃が放たれ、『ドル・ドラ』を呑み込まんとする。しかし、瀬人の顔に恐怖の二文字はない。
「リバースカード、発動!」
対するキサラもまた、驚愕の二文字を現しはしない。
「言っておくけれど、並みのカードならば無意味よ!」
「並みのカードなどではない。俺自身が信じた最強の竜。それを迎え撃つなら、最強トラップのひとつを使わざるをえまい!」
勇ましき決闘者の足下でカードのイラストが、キサラからも見えるように反転する。それは、全てを跳ね返す無敵の光壁――。
「喰らえッ!『聖なるバリア‐ミラーフォース‐』! 相手の攻撃表示モンスターを全滅させる!!」
「なっ!?」
今度こそは、キサラを驚愕させるに至った。『ミラーフォース』は、彼女の計算を狂わせるのに十分なカードだったのだ。
「そして俺は信じている! ブルーアイズの強さは『ミラーフォース』1枚で破られるものではないと!」
光の奔流は『ミラーフォース』で反射され、光の矢となってキサラの方へ翔んでいく。
「さあ、どう避ける!?」
キサラは眉間に皺を寄せながら……。
「貴方に心配されるまでもない! 手札から速攻魔法発動!『融合解除』!! 『青眼の究極竜』の融合を解除し――」
すると究極竜が輝き、その光の中に三つの影が見えた。
「3体の『青眼の白龍』を、守備表示で蘇生召喚!」
青眼の究極竜/攻4500(EXデッキへ)
↓
青眼の白龍/守2500×3
光が止むと、影は白き龍の姿を現す。姿勢を低くしているのは守備表示の証だ。龍と乙女に迫っていた光の矢は、その頭上を空しく通過する。
「これで、私の場に攻撃表示モンスターはおらず、『ミラーフォース』による被害はゼロ! 残念だったわね」
「残念だったのはお前のほうだろう?」
同じ得意げな笑みであっても、キサラは止まり、瀬人は深まった。
「俺の伏せカードが『次元幽閉』のような対象を取る効果のカードだったなら、今のターンでトドメを刺せたはず――それができなかった。お前の想像を超え、究極竜を退けさせた俺に、流れは向いている!」
「減らず口を! 究極竜ではなく、3体のブルーアイズなら勝てるとでも!?」
キサラは嘗められたことに怒りを露にするが――何かに気づき、吸血鬼のような笑みを浮かべ始める。
「――いや、貴方が相手をするのは、3体のブルーアイズ以上の布陣よ!」
白い右手が天に掲げられる。まるで、何かの儀式を行うかのように。
「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ! レベル8の『青眼の白龍』に、レベル1のチューナーモンスター『青き眼の乙女』をチューニング!!」
「なにッ!?」
空へ翔んだ白龍と乙女は、テクスチャー前のような光の骨格に姿を変える。その後、龍は8つの光球、乙女は光輪1つのみを残して、完全に霧散した。
「進化の光と古の威光――いま交わりて、守護の光となる! 蒼天を臨む銀嶺が如く、此処にそびえ立て!」
☆8+☆1=☆9
集いし9つの輝きは、やがて光の柱となって空を貫く。その中に、巨龍の影が映る。
「シンクロ召喚! 君臨せよ、『蒼眼の銀龍』!!」
蒼眼の銀龍/守3000
最初に見えたのは、蒼く発光する眼だった。ブルーアイズよりも小さい眼が、射抜くような光線を放っている。四肢には、その巨体を支えられる強靭な筋肉が晒されている。鱗を纏わずとも、十分な防御力があるということだろう。『蒼眼の銀龍』は『青眼の白龍』とはまた異なる、逞しい美しさと強さを持つ龍であった。
瀬人は滅びのヴィジョンを観た際に、シンクロの概念は知ることができた。しかし実物を見たのは初めてである。
「シンクロ召喚!? これが――未来の召喚方法か!」
「そう。人類の進化とモーメントを加速させ、最後には滅びを招いた召喚方法よ! そして『蒼眼の銀龍』の効果発動、ホワイト・フレア・サンクチュアリ!!」
すると『蒼眼の銀龍』が踏みしめた所から、白い霧のようなものが立ち込め始める。それは残る2体の『青眼の白龍』の足下まで広がった。
「この効果は『蒼眼の銀龍』が特殊召喚に成功した時に発動し、その後2回目のエンドフェイズを迎えるまで続く! この聖域の加護を受けている限り、私が従えるドラゴンはカード効果の対象にならず、カード効果による破壊も通用しない!」
「次の俺のターンに、カード効果で対処するのは困難だということか……!」
瀬人の手札には、強力な魔法カードが1枚ある。しかしそれは『対象を選択する効果』のカードだった。故に、聖域に阻まれて効果を発揮できない。
「それだけじゃないわ!『蒼眼の銀龍』にはもう1つ効果がある! その名は銀龍の咆哮! スタンバイフェイズが訪れる度に、私の墓地の通常モンスターを、つまり『青眼の白龍』すら蘇生させることができる!」
つまり、瀬人がこのまま何もしなければ――。
「次のターン、3体のブルーアイズに『蒼眼の銀龍』を加えた巨龍の軍勢が、貴方に総攻撃をかける! 今度こそ終わりよ、セト!!」
鬼の形相でキサラは瀬人を睨む。3体の龍も同様に、柵を破らんとする猛獣のように激しく吼えたてる。対する瀬人の場では、『ドル・ドラ』が守備表示で平伏すのみ。
「私のターンは終了よ。さあ――今度こそ殺してあげる。罪と絶望を生む前に、積み重ねる前に!!」
キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚
青眼の白龍/守2500
青眼の白龍/守2500
蒼眼の銀龍/守3000
魂吸収
SinWorld
瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚
ドル・ドラ/守1000
「俺の、ターン……」
額に汗を浮かべながら、瀬人は恐る恐るデッキに手を伸ばす。キサラが歪んだ美貌と笑みでそれを見つめていることが、彼にはわかった。
(このターンで『あのカード』を引けなければ……俺は確実に負ける!)
『蒼眼の銀龍』を従えたことで勝利を確信しているキサラと違い、瀬人はデッキに可能性が残されていることに気づいていた。
だからこそ、信じるのが怖い。裏切られるのが怖い。
(どう贔屓目に見ても、『最強』と名乗れはしないこのデッキを……俺は心から信じられるのか? 俺が、俺が今まで信じてきた、数少ないものは――)
そこまで自問自答をして、瀬人はハッと気がついた。
(――何を、恐れる必要があったのだろうな……)
瀬人の表情は穏やかに、微笑すら浮かべるようになり、落ち着いた様子でデッキに手を伸ばしていく。その変化に、キサラは当然気づいている。
「どうしたの? 追い詰められすぎて、頭がおかしくなったのかしら?」
「まさか。――信じているだけさ」
「信じる?」
瀬人の手がデッキに触れる。彼はドローする前に、この一枚に託した想いを熱く語った。千載一遇の機を前にした勝負師のように。
「そう――。キサラ、あるいはブルーアイズ! お前は、闇に堕ちようと、傷つこうと、決して俺を裏切ることはない!
だからこそ俺は、必ずお前を闇から救い出す! そして二度と傷つけあうこともなく、庇い合うこともなく、未来へのロードを共に歩む! このターン、このドローは、その礎に足を掛けるための、第一歩であり、ラストチャンス!」
剣客が鞘から抜刀するように、気高き決闘者は風を切り光が差すほどの勢いで、運命のカードを引き払う――!
「行くぞ。俺の……タァァ――ン!!」
その見事なドローに、揺るぎない心に――彼のデッキは、応えてくれた。
「キサラ。お前の心のピーズがひとつ、いま救い出してやる! 俺が引いたカードは――」
二人の、再会のデュエルで使われたカードの1つ。
決闘者の王に引導を渡す鍵となったカードの1つ。
今まで多くの物語を紡いできた魔法。そして今、瀬人とキサラを繋ぐ魔法――。
「『死者蘇生』!!」
「な……なんですって!?」
キサラのデュエルディスクから、一枚のカードが瀬人の元へ舞い込んでくる。彼はそれを、慣れた手つきでフィールドに出した。
数多の決闘で繰り返してきた、今までの彼にとって当たり前だった動作――。
「蘇れ! 俺が最も信じ、愛するカードよ! 俺と志を同じとするならば、今一度、俺に力を貸せ!!」
紫色の銀河が、太陽の如き聖なる暖かい輝きで照らされた。
否、そのカードは、彼にとって紛れもない『太陽』だった。
彼に力を与える光。彼を見守る光。彼の征くロードを示す光――。
「ブルーアイズッ! ホワイト・ドラゴンッ!!」
青眼の白龍/攻3000(キサラの墓地→瀬人の場)
光の中から現れた白き龍は、この7ターンの中で最も力強い咆哮を上げた。
相手フィールドの三龍を前にして、恐れなど一片もない。
それを従える誇り高き決闘者も、その心は同じだ。
「ふぅん。俺はさらにカードを1枚伏せ、ターンエンド!
さあ、来るなら来い! 俺とブルーアイズが共にある限り、敗北の二文字などない!!」
普段の力強さ、自信、誇り――全てを取り戻した瀬人を前に、彼女は身体を震わせ、黒の混じった銀髪を振り乱して怒り狂った。
「かえせ……。そのカードを……かえせええェェッ!!」
7ターン目にして、決闘は様相を変えた。
もはや、白き龍が裁きを以て瀬人を救うデュエルではなくなった。
これは、白き龍を従える2人の決闘者のデュエル――!
キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚
青眼の白龍/守2500
青眼の白龍/守2500
蒼眼の銀龍/守3000
魂吸収
SinWorld
瀬人LP1100/手札2枚/伏せ2枚
青眼の白龍/攻3000
ドル・ドラ/守1000