瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

5 / 17
TURN8-9《青眼の究極竜》

キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚

青眼の白龍/守2500

青眼の白龍/守2500

蒼眼の銀龍/守3000

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札2枚/伏せ2枚

青眼の白龍/攻3000

ドル・ドラ/守1000

 

「ふぅん。アテが外れたな、キサラ」

 

 自分のターンを終えた瀬人は、2本先取の勝負で1本取ったかのように、余裕の笑みすら浮かべていた。

 

「これで次のターン、お前は3体のブルーアイズで攻撃することなど不可能だ。

 そして『蒼眼の銀龍』の効果、ホワイト・フレア・サンクチュアリもこれで終了。やっと互角の闘いが出来そうだ」

 

 3体のドラゴンを守っていた白い霧が晴れていく。

 

「互角? 互角ですって……?」

 

 しかし罪に堕ちた決闘者の表情は、負の感情によって曇る。

 

「今さらブルーアイズを従えればどうにかなるとでも!? 私のフィールドには、同じ『青眼の白龍』が2体! さらに墓地には『スキル・サクセサー』がある!」

 

 キサラが意地を張って示したもの。それは、前のターンから進展していない現状だった。対する瀬人のフィールドには、新しく『青眼の白龍』が堂々と存在を示す。

 

「ふぅん。誰が何と言おうと、俺とブルーアイズが創るのは、光輝く未来へのロード! あとはキサラ。お前を救い、共にそのロードを駆けるだけだ」

「戯れ言を! 貴方がそう言うなら――ブルーアイズの力で、貴方を滅ぼすまで! 私のターン!!」

 

 ドローカードを確認すると、彼女は悔しそうな舌打ちを洩らした。

 

「2体の『青眼の白龍』を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ!」

 

青眼の白龍×2/守2500→/攻3000

 

「たとえ『ドル・ドラ』を見逃すことになろうとも――ブルーアイズは残さない!」

 

 鏡の虚像と実像のように、2体のブルーアイズが東西に対峙する。

 相討ち狙いの攻勢である。

 

「ゆけ、『青眼の白龍』! 滅びのバーストストリーム!!」

 

 黒と蒼が混じった瞳を見開いたキサラの背で、巨龍の口腔が光輝く。

 

「アッハハハ! 期待が外れたわね、瀬人! 貴方と違って、私は『青眼の白龍』を散らせることに躊躇いなんてないの。私もブルーアイズも、罪深い存在だから! それに『スキル・サクセサー』を使えば、一方的に戦闘に勝つことも可能なのよ!」

「――まだ気付かないか」

 

 攻撃する前の高ぶりを語るキサラに対し、瀬人は静かに呟く。それでやっと彼女は違和感を覚えた。

 

「こ、攻撃が始まらない……?」 

 

 充填された『爆裂疾風弾』は、サーチライトのように瀬人の側に光を当ててくるが、それ自体は一向に発射される気配がない。

 瀬人が白く見えるほど照らされたフィールドでは、1枚の罠カードがリバースしていた。

 

「俺は罠カード『和睦の使者』を発動させてもらった! これでお前のモンスターは、俺に戦闘ダメージを与えることも、戦闘による破壊を行うことも出来ない!

 だが――俺の『青眼の白龍』には何の影響もない!」

 

 瀬人が操る龍の砲門が開く。2つの疾風弾から零れる幾条の光が、剣閃のように交錯する。

 

「キサラ! このままではお前の『青眼の白龍』が戦闘破壊されることになるぞ! 早く選ぶがいい! 『スキル・サクセサー』を使うか、否か!」

「ふざけた真似を! 私に裁かれるべき貴方が、私に選択を迫るというの!?」

「お前に何と言われようと、俺のブルーアイズが止まることはない!」

 

 彼女が苛立ちを見せている間にも、運命の瞬間は迫り――とうとう弾けた。

 

「いくぞ――滅びの爆裂疾風弾!!」

 

 限界まで引き絞られた弦から放たれる一撃。それを前にして、

 

「わ、私は……『スキル・サクセサー』を――」

 

 彼女はこのデュエルにおいて、初めて戸惑いの表情を見せる。

 しかし、何かを悟ったかのように――緊張の糸が切れたのように――淡い笑みを浮かべると、ポツンと呟いた。

 

「――使わない。使わないわ」

 

 キサラの背で、2つの爆裂疾風弾が衝突した。

 太陽が生まれたような閃光は、双龍を消し去る威力を持っていたはずだったが、片方を葬るに留まった。

 

青眼の白龍/攻3000(戦闘破壊)

《VS》

青眼の白龍/攻3000(和睦の使者)

 

 瀬人は空のように青い眼で全てを見ていた。その上で揺るぎない視線を彼女に送っている。

 送られた以上は返さねばということか、爆音が止んだ一瞬の静寂の後、罪に堕ちた決闘者が口を開く。

 

「フフ。だって、次のターンには『蒼眼の銀龍』の効果で蘇生できるのよ? だったら、犠牲にしたっていいじゃない」

「甘いな」

 

 聞きようによっては弁明とも取れるそれを、瀬人は一言で吐き捨てた。

 

「俺なら間違いなく『スキル・サクセサー』を使っていた! ブルーアイズを守れるなら、罠カードの1枚や2枚など惜しむものか! そんな計算で、そんな心で――ブルーアイズを従えて俺を倒すだと? 甘い!!」

「フン、甘いのは貴方のほうよ! 『青眼の白龍』も海馬瀬人も、そんな価値を持ってはいない! 罪を背負い、償いの名の下に散るより上の価値など――ありはしない!!」

 

 『青眼の白龍』の在り方と価値を巡り、デュエルに劣らぬほど激しく想いをぶつけ合う。だが、手を伸ばしても届かない距離での決闘と論争では、魂の交差する場所に2人が導かれることはない。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 2つの平行線を繋ぐ一筋の光は、何処にあるのだろうか――。

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

青眼の白龍/攻3000

蒼眼の銀龍/守3000

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 先のターンと違い、瀬人のドローに迷いはなかった。何故なら――。

 

「キサラ! このターンで、俺とブルーアイズが持ちうる可能性、創りゆく未来の片鱗を、お前に見せてやる!!」

 

 光は既に――彼の手にあったからだ。

 

「馬鹿なことを。貴方がどれだけ口上を並べようと、攻撃力3000の『青眼の白龍』では、守備力3000の『蒼眼の銀龍』を突破出来ない!」

「ふぅん。お見通しというわけか……」

 

 瀬人は穏やかな笑みを浮かべてキサラの意見を肯定する。

 

「さすがだと言いたいが……」

 

 彼の評価が一線を越えることはなかった。なぜなら、海馬瀬人のデュエルは――。

 

「甘いぞキサラ!」

 

 彼女の1歩先を行く――!

 

「リバースカードオープン!

 『エネミーコントローラー』!!」

「なに!?」

 

 十字キーと3つのボタンを持つそれは、紛れもなくコントローラーだが、操作対象は勇者でも配管工でもない。

 

「このカードはコマンド入力することで、お前のフィールドのモンスターを操ることができる!

 『ドル・ドラ』を発動コストの生贄にして、←、→、A、B!」

 

 コマンド入力が終わると、ケーブルが対象となるモンスター、『青眼の白龍』に接続された。

 

「このコマンドによって、お前フィールドの『青眼の白龍』は、俺の生贄として使用することができる!」

「いけ、にえ……!?」

 

 本来『エネミーコントローラー』で奪取した相手モンスターは、1ターンのみ、攻守を含めて手足のように操れるのだ。

 しかし、瀬人は敢えて『生贄』という言葉を使った。

 

「馬鹿な! 貴方がブルーアイズを生贄に捧げてまで喚ぶモンスターなど、いるはずが……」

「これがお前の――疑問に対する答えだ!

 『融合呪印生物―光』を通常召喚!!」

 

 融合呪印生物―光 /攻1000

 

 宝石や機械、生物の肉体を混ぜ合わせてカプセルに凝縮したような、奇怪な生命体が現れた。だがそれは、すぐさま眩い光に包まれて見えなくなった。

 

「融合呪印生物よ! いま最もふさわしい姿に、その身を変えよ!!」

 

 卵から天使が孵るように、光の球体から白翼が広がる。

 その後も成長を続け、仮染めの生命は美しさと誇りを宿した龍に生まれ変わる。

 海のように澄みわたる美しい青眼、穢れを知らぬ誇り高き白銀――。

 

「青眼の白龍!?」

「融合呪印生物が持つ第一の効果だ! このカードは、融合モンスターに記された融合素材の代用品にできる!」

 

 最もこれは本来、姿形をコピーする能力ではない。それにもかかわらず『青眼の白龍』の身体を得たのは、すぐに『融合素材』としての役目を果たすからに他ならない。

 

「そして、第二の効果を発動! 自身を含む融合素材モンスターを生贄に捧げることで――融合モンスターを特殊召喚する!!」

「まっ、まさか――!?」

「俺は、3体のブルーアイズを生贄に捧げる!!」

 

 対象となりうる組み合わせなど、瀬人のフィールドを見る限り、1つしかない!

 天空へ舞い上がるブルーアイズ達の交差点。そこから生まれた光が、月明かりのように瀬人へと降り注ぐ。

 

「強靭・無敵・最強たる竜よ! 今ここに具現し、未来へのロードとともに、真のブルーアイズの所有者を示せ!」

 

 淡い青さを帯びた輝きは、三つ首龍の輪郭を描き始める。

 幻想かと疑ってしまいそうな、儚いヴィジョン。

 だが夢や希望など、初めはそんなものだろう。

 それをカタチにするのが、知恵であり、力であり、勇気。

 今の瀬人には――全て揃っている!

 

「非正規手段による――特殊召喚!」

 

 絵画が完成するように、写真が色づくように、龍の輪郭に命が宿った。未来を切り拓く、究極の力――。

 

「ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン!!」

 

青眼の白龍×2(生贄)

融合呪印生物―光(生贄)

青眼の究極竜/攻4500

 

「そ、そんな……。『青眼の白龍』が1枚も入っていないデッキから『青眼の究極竜』を召喚した……?」

「キサラ! これが俺の答え――第3の選択肢だ! お前との闘いは、殺すか殺されるかの二択ではない! 共に歩み、未来を創ることも出来る!」

「ば、ばかな……。こんな、ことが……!」

 

 驚きのあまり呆然としていた彼女が、神に平伏す民のように、或いはオアシスを前にした放浪者のように片膝をつく。

 だが、その眼が未だ闇を拭えていないことから、瀬人は決意した。

 

「許せよ、蒼眼の銀龍……。バトルフェイズ! 『青眼の究極竜』で『蒼眼の銀龍』を攻撃!」

 

 短く小さな声で守護龍に詫びると、瀬人は躊躇いもなく、究極の一撃を解き放つことを宣言する。その砲撃の名は――。

 

「究極爆裂疾風――アルティメット・バーストォ!!」

 

 高速で暗闇の出口に迫った時のような、すさまじい光量――。果てなき紫の銀河が書き換えられて生まれたまっしろな世界に、『蒼眼の銀龍』が溶けて消えていく……。

 

青眼の究極竜/攻4500

《VS》

蒼眼の銀龍/守3000(破壊)

 

「ぐ、あ、あぁ……!」

 

 キサラもまた、究極竜が放った風と光に一瞬で覆われ、白く染まっていく。黒く汚れた雪が川の流れを受ける姿のように、罪に堕ちた決闘者の髪と身体がなびいて震えた。そして遂に、

 

「きゃああぁぁッ!!」

 

 と悲鳴を上げてキサラは吹き飛ばされた。

 

「カードを1枚伏せる。そして最後の手札、『超再生能力』を発動!」

 

 『超再生能力』は、このターンに手札から捨てた、もしくは生贄にしたドラゴン族モンスター1体につきカードを1枚ドローする魔法カードである。1ターン目にキサラも使用している。

 

「俺はこのターンに、『ドル・ドラ』と『青眼の白龍』2体――合計3体のドラゴンを生贄として使用した! よってデッキから3枚のカードをドローする! これでターンエンドだ!」

 

キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

モンスターなし

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

 

「目を覚ませ、キサラ! これでわかっただろう!? 俺たちは互いに傷つけ合う必要も、庇い合う必要もない! 2人で共に歩み、未来を創っていけるんだ! だから――刃(カード)を捨てろ! そして俺の元へ来い! キサラ!!」

 

 『青眼の究極竜』によって照らされながら、瀬人は今までにないほど強く、彼女の心に訴えかける。

 すると彼女は、足腰を震わせながら、カードを握りしめながら立ち上がった。その表情は、ロングヘアーの銀色に隠されて見えない。しかし――。

 

「今さら、出来もしないことを……。言わないで、下さいよ……」

 

 聞き逃しそうな程小さな声と、今までとは違う立ち方から、瀬人は感じ取った。

 最初の彼女は、女帝のような自信を土台にして立っていた。

 その後、瀬人が『青眼の白龍』を取り戻した時からは、怒りに燃える悪鬼のようであった。

 だが今の彼女は、悲劇を唄う歌姫のように、必死で、か弱さが感じられるようで……。

 

(顔が見えずとも……。俺にはわかる。そして、あくまでカードで語るというなら――俺は、どこまでも付き合ってやる! この魂を賭して、キサラの全てを受け止める!!)

 

 キサラの、彼女の心が――泣いていることを――。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。