瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

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だいぶと投稿が遅れました。
副長は死んでませんよ。死なないとは言い切れませんが。


TURN10-11《終わりの始まり》

キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚

モンスターなし

魂吸収

SinWorld

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚

青眼の究極竜/攻4500

 

 

 キサラが銀と黒のグラデーションを描く髪を振り払い、顔を露にする。

 やはり涙は流れていない。蒼と黒で混沌とした瞳の色合いも相変わらずだ。しかし視線が違う。見下すような断罪者の視線でも、睨みを利かせた鬼の視線でもない。瀬人と同じ――真剣な、生きている人間の視線だ。

 

「私のターン!」

 

 そのままドローするのかと思いきや、彼女はピタリと手を止めて一呼吸置く。そして決断した。

 

「私は……ターン開始時のドローを放棄することで、『SinWorld』の効果を発動します! デッキからSinモンスターを3枚選び、その中からランダムに貴方が選んだ1枚を手札に加えます!」

「ふぅん。とうとう、あからさまなコンボに頼らざるを得ないほど追い詰められたか?」

「あからさま? そんな評価をしていられるのも今のうちです! 私のエースモンスターは、確実に究極竜を粉砕します!」

 

 キサラがそう宣言しながら提示したのは、次の3枚のカードだった。

 

》Sinスターダスト・ドラゴン

》Sinパラレルギア

》Sinパラレルギア

 

(2体は攻撃力0のチューナー、1体は攻撃力2500のSinモンスターか……)

 

 情報の1つとて逃さない、鋭い瀬人の視線が止んだのを見計らって、キサラはイラストを伏せてシャッフルした。

 

「真ん中のカードを手札に加え、残りはデッキに戻してもらおうか」

 

 フッと軽い笑みを浮かべて、彼女は一連の処理を済ます。準備は整ってしまったのである。

 

「トラップ発動!『リビングデッドの呼び声』!」

 

 瀬人も使用している、万能蘇生カードの1つである。しかし攻撃表示でしか蘇生出来ず、低攻撃力モンスターを呼び戻しても壁にはならない。

 

「む? 究極竜を超える蘇生可能なモンスターなど、いないはずだが……」

「勘違いしてもらっては困りますね。私が蘇生させるモンスターは――序盤で墓地に落とした、『Sinパラレルギア』!」

 

 先ほど見たチューナーの、言うなれば1枚目が対象として選択される。キサラが何をするつもりか、瀬人には手に取るようにわかった。

 

「くっ……そのトラップに対して、手札の『増殖するG』の効果をチェーン発動! このカードを手札から捨て、その後相手が特殊召喚を行う度に、デッキからカードを1枚ドローする!」

「貴方が何をしようと……私はもう止まれない……止まるわけにはいかないんですよ……! 『Sinパラレルギア』を蘇生召喚!!」

 

瀬人手札3枚→2枚→3枚

Sinパラレルギア/攻0(墓地→場)

 

 3本のネジを地に向けて伸ばす奇怪な歯車が現れる。続いて非チューナーのモンスターが召喚されると思われたが――。

 

「『Sinパラレルギア』の制約効果! このカードをシンクロ素材とする場合、もう1体の素材として手札のSinモンスターを使用する!

 レベル2の『Sinパラレルギア』に、手札に存在する、レベル8の『Sinスターダスト・ドラゴン』をチューニング!!」

「なに、手札からシンクロ召喚だと!」

 

 フィールドに細身な龍の骨格が浮かび上がり、そこに2つの黒い輪が重なった。

 

☆2+☆8=☆10

 

「歴史の陰から生まれし悲しみよ!時空を超えた物語に、終焉のピリオドを打て!

 シンクロ召喚!『Sinパラドクス・ドラゴン』!!」

 

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4000

 

 現れたのは、瀬人の視界を覆うほどの黒翼を広げた獰猛な龍――Sinパラドクス・ドラゴンだった。

 

「Sinパラドクス・ドラゴンの効果発動! このカードがシンクロ召喚に成功した時、墓地のシンクロモンスター1体を復活させます!

 蘇れ、『蒼眼の銀龍』!」

 

蒼眼の銀龍/攻2500

 

 『Sinパラドクス・ドラゴン』の隣に新たなる龍が降り立つ。これにより、神に匹敵する要塞を造るコンボが組み上がった。

 

「そして、

チェーン1に『蒼眼の銀龍』の効果を、

チェーン2に『スキル・サクセサー』の効果を墓地から発動!

 『Sinパラドクス・ドラゴン』は攻撃力が4800まで上昇し、さらにホワイト・フレア・サンクチュアリの加護を受けます!」

 

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4000→4800

 

 強力な耐性と高い攻撃力を得た『Sinパラドクス・ドラゴン』は宙へ飛び立ち、獄炎のような赤い眼で瀬人と『青眼の究極竜』を見下ろす。

 

「さらにリバースマジック『終わりの始まり』を発動!

 いま私の墓地には、6体のSinモンスターと『ダーク・アームド・ドラゴン』――合計7体の闇属性モンスターがいます!

 この内、5体のSinモンスターを除外し、カードを3枚ドロー!」

 

墓地→除外

》Sin真紅眼の黒竜

》Sinレインボー・ドラゴン

》Sin青眼の白龍

》Sinパラレルギア

》Sinスターダスト・ドラゴン

 

 キサラは3枚ものカードをドローした上に、まだ通常召喚をしていない。しかし彼女は手札を見つめるばかりで、召喚もカードの発動もしなかった。

 

「ふぅん、どうしたキサラ。満足のいくカードは引けなかったか?」

 

 実を言えば図星であったが、あくまでキサラは気丈に振る舞う。 

 

「引く必要もありませんよ。『スキル・サクセサー』と5体のSinカードが除外されたことで『魂吸収』の効果が発動し、私のライフは3000ポイント回復します!」

 

キサラLP3900→6900

 

「しかも私の場には、神に匹敵する『Sinパラドクス・ドラゴン』がいます! 2体のドラゴンの攻撃で――このデュエルは、終わりです!」

「そうだな。もう、終わりだな……」

 

 瀬人が圧倒的な物量差を前に諦め、うつむきながらキサラの言葉を肯定した……少なくとも彼女の目にはそう映った。あとは、トドメを刺すだけ――。

 

「バトルフェイズ!『Sinパラドクス・ドラゴン』で『青眼の究極竜』を攻撃!

 逆刹の革新戦火砲ッ!!

(逆刹のパラダイムシフト・ブレイズ!!)」

 

 砲門のように最小限の開き方をした口から、暗黒の火炎が放たれる。

 それに対して彼と彼の竜は、何も出来なかった。

 ――いや、何もしなかったのだ。

 

「キサラ――気づいていたか? お前の口調が、元に戻り始めていることに!」

 

 一瞬の、勝機が訪れるまで……!

 

「このデュエルは……こんなデュエルは、もう終わりだ! お前が抱く罪の力が、が神に匹敵するというのなら! 俺とお前の絆は、神をも超える!!」

 

 『青眼の究極竜』の全身が、降り注ぐ昏い業火に包まれたこの瞬間――つまり“ダメージ計算時”こそ、瀬人の想いと策が煌めく時なのだ!

 

「リバースカードオープン!『ハーフ・カウンター』!」

 

 暗雲のような炎を払って姿を見せた『青眼の究極竜』は、その身に紫電を纏い『Sinパラドクス・ドラゴン』と同じ高さまで飛び上がった。

 

「このカードの効果で、『Sinパラドクス・ドラゴン』の元々の攻撃力の半分を、究極竜の攻撃力に加える! よって、究極竜の攻撃力は――」

 

青眼の究極竜/攻4500→6500

 

「こっ、攻撃力――6500!?」

「この一撃で、お前の目を覚ましてやる! いくぞ!

 反撃の――アルティメット・バースト!!」

 

 三つ首のそれぞれが、強化された光弾を解き放つ。『Sinパラドクス・ドラゴン』の右翼に風穴を開け、左翼を剥ぎ、黒い首を断ってなお余力ある爆裂疾風は――銀色の風となって、キサラを包む。

 

青眼の究極竜/攻6500

《VS》

Sinパラドクス・ドラゴン/攻4800(破壊)

 

(……超えて、くる……)

 

 つよいつよい光の中で、彼女は悟り始めていた。

 

(この人は、セト様は……。自身の、私の――罪も、絶望も、悲しみも――受け止め、超えてくる)

 

 Sin青眼の白龍、青眼の究極竜、蒼眼の銀龍、Sinパラドクス・ドラゴン。彼女の罪を具現化した存在たちを、瀬人は超えてみせた――ブルーアイズと共に。

 

(私にこの人は、殺せない。この人は私を、殺さない)

 

 二択と思われた選択肢。その両方が無為にして不可能であるというのなら。

 

(私が、為すべきことは――)

 

 彼女がそこまでを、真っ白にした頭で考えたところで、か細い体は清流に流されるように宙へ飛んだ……。

 

キサラLP6900→5200

 

「キサラ!!」

 

 彼女の身体が地に着いて間もなく、瀬人はそこに駆け寄った。

 髪はもとの清く白い輝きを取り戻していた。眼は閉じていたが、黒い涙の紋様は跡形もなく消えていた。

 抱き起こしてみれば、彼女は目を閉じたまま、か細い声で呟いた。

 

「セ、ト……さま……」

「キサラ! 元に――元に戻ったんだな!」

 

 二人の心と力が、未来を拓いた! 瀬人は柄にもなく嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そしてキサラは――。

 

「に……。に、げ……て……っ」

 

 熱でうなされているかのように息を乱れさせながら、必死で瀬人に伝えた。

 

「キサラ……。もう、俺は逃げない! 罪からも、過去からも! 今度こそ共に歩もう。二人で、未来を創り、拓こう。俺には、お前が――」

「ち、がう……。ちがう、の……っ!」

 

 瀬人の否定よりも更に強く、キサラは彼を言葉で突き放す。

 

「もう……私を、死なせ、て……。

 でない、と……」

 

 二択の中で苦しむ彼女の眼は――。

 

「私は、あなた、を……。

 殺す、こと、に…………っ」

 

 黄と黒と青。毒物をかき混ぜたような色で濁っていた。

 

「うっ……! ああッ!」

「――キサラ……?」

 

 キサラを中心に、地面にブラックホールのような渦が生まれ、彼女のライフが桁たましい音を立てながら削れていく。

 そして――。

 

「ああああアアアアァァ――ッッ!!」

「ガッ……!?」

 

キサラLP5200→2600

 

 瀬人の身体が突如跳ね飛ばされる。キサラの下と内から溢れだした銅色の影によって。

 銅色の影は紫の銀河とキサラの肉体を侵しながら膨らんでいき、生命の形を成していく。 視界を覆って突き付けられる、鋭い翼。

 人の世の、罪と真実を嘲笑う巨大な口腔。

 その竜の名は――『Sinトゥルース・ドラゴン』。瀬人とアルティメットを見下しながら、その全貌を現した……。

 

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000(墓地→場)

 

「――よくも、よくもここまで私を追い詰めたものだな……。瀬人!」

 

 その声はキサラの口から発せられたが、キサラのものではない声だった。

 声の主は、キサラという蛹から脱皮した成虫のように身体を起こして現れ、瀬人を睨みつけた。

 

「だが……それもここまでだ! 貴様は、この私自らの手で抹殺してやる……!!」

 

 金の長髪と、目元に血涙の痕のような刺青を持つその男を見て、瀬人は直感で確信した。

 

「貴様か! キサラを惑わし、こんなツラいデュエルを仕掛けたのは! 貴様は何者だ!?」

「私は、イリアステルの滅四星が1人、『逆刹のパラドックス』! 時空を超え、最善の歴史を探し求める者。このデュエルも、私が求める未来へ至るための一過程にすぎない!」

「いち、過程、だと……!」

 

 そこからパラドックスが話したことは、すでに瀬人も知っていたことだった。

 モーメントの開発によって、より一層の進化と発展を遂げた世界。だが欲望や誘惑も同時に増長され、その世界は自滅に至った……。

 

「その未来を回避するために、多くの実験を試した……。だがいずれも失敗した。

 特に前回の実験では、『SinWorld』の効果による死を覚悟した……」

「まさか、その自業自得に――キサラを巻き込んだのか!」

 

 パラドックスはニヤリと表情を歪め、我が物顔で彼女の白い首に腕を回す。キサラには抵抗する気力もないようで、苦しげに震えながら声を漏らすのみ。

 

「巻き込んだ、という言い方は心外だな。

 私と融合して生き延びたことにより、キサラは悲願を叶える機会を得たのだ」

 

 まあ、その見返りとして『キサラ』という元人間だった肉体を、我が魂の依り代として利用させてもらっているのは事実だが――とパラドックスが追加で暴露したものだから、瀬人が声を荒げるのも当然だろう。

 

「今の俺とキサラにとって、貴様の存在など邪魔だけだ。さっさと消え失せろ!」

「それは、出来ない相談だな――。

 今の私とキサラと『Sinトゥルース・ドラゴン』は――三位一体なのだから」

 

 パラドックスを殺すか、『Sinトゥルース・ドラゴン』を破壊すれば、キサラも死ぬ。

 キサラの救済はパラドックスの勝利と同じ。

 

「選択肢は2つだ、瀬人。私とキサラが死ぬか、お前が死ぬか――。どちらにせよ“我らが”悲願は達せられる。貴様が死んだ場合は勿論のこと、キサラをデュエルで殺した貴様が、デュエルの発展に携わることなど、できるはずがないからなぁ!!」

「くっ……!」

「私はこれでターンエンド。貴様の『青眼の究極竜』の攻撃力は4500に戻り、我が身『Sinトゥルース・ドラゴン』を下回る……」

 

青眼の究極竜/攻6500→4500

 

パラドックスLP2600/手札3枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

蒼眼の銀龍/攻2500

魂吸収

SinWorld

 

 パラドックスが言うことは当たっていた。それを認めた上でキサラを救うには――。

 

「俺は諦めんぞ、パラドックス!『Sinパラレルギア』の後、

『Sinパラドクス・ドラゴン』――。

『蒼眼の銀龍』――。

『Sinトゥルース・ドラゴン』――。

 これらが特殊召喚されたため、『増殖するG』の効果によりカードを3枚ドロー!」

 

瀬人手札3枚→6枚

 

「そして俺のターン!」

 

 創るしかないのだ、この手札7枚で。パラドックスを倒しつつキサラを救う道を。

 しかし――。

 

「フン、どうした瀬人。満足のいくカードは引けなかったか?」

「黙れ!!」

 

 それでも彼は進むしかなかった。たとえ、自分の心を、彼女の身を、傷つけることになろうとも――!

 

「バトルフェイズ!『青眼の究極竜』で……!」

 

 瀬人の視線の先では、下半身を『Sinトゥルース・ドラゴン』に埋められたキサラが、うっすらと目を開けていた。

 

「瀬人様……。ごめん……なさい……」

 

 自分のせいで、瀬人の記憶に消えない傷が刻まれた。自分のせいで、瀬人がいま苦しんでいる。瀬人の自分のせいで、瀬人の未来が閉ざされようとしている。自分のせいで……。

 そんな、彼女が抱く罪悪感を解った上で、彼は突き進む。

 

「ッッ! 攻撃! アルティメット・バースト!!」

 

青眼の究極竜/攻4500

《VS》

蒼眼の銀龍/攻2500

 

 キサラの写し身を以て写し身を討つ。その悲劇は、パラドックスとキサラのライフに大きなダメージを与えた。

 

パラドックスLP2600→600

 

「グフッ……!」

「かはっ……!」

 

 パラドックスが血を吐けば、キサラもまた同じ量の血を吐く。

 

「キサラ! くっ……!」

 

 果たして、瀬人がこの三位一体を相手に選択する道は――。

 

「モンスターをセット! カードを3枚伏せてターンエンドだ……!」

 

そして――。

 

「私のターン……!」

 

 罪と真実の龍に跨がり、少女を抱えた逆刹が、最後の牙を剥く――!

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ3枚

青眼の究極竜/攻4500

???/裏側守備

 

パラドックスLP600/手札3枚→4枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

魂吸収

SinWorld

 


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