瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】   作:生徒会副長

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副長「俺は死んだんDA-!!」

嘘です。リアルで色々ありましたが何とか書けました。


TURN12《龍の鏡》

「私のターン……!」

 

瀬人LP1100/手札3枚/伏せ3枚

青眼の究極竜/攻4500

???/裏側守備

 

パラドックスLP600/手札3枚→4枚/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻5000

魂吸収

SinWorld

 

 大袈裟にデッキから引き抜いたカードを、パラドックスはそのままプレイする。

 

「私は手札から『闇の誘惑』を発動!  デッキからカードを2枚ドローする」

 

 ドローフェイズからの、更なるドロー。それは、パラドックスがほくそ笑むのに充分な引きだった。

 

「その後手札から闇属性モンスター、『Sinサイバー・エンド・ドラゴン』を除外する。これにより、私のライフが『魂吸収』の効果で回復する」

 

パラドックスLP600→1100

 

 一方、パラドックスと一体化させられているキサラは、『青眼の究極竜』の攻撃によって気絶したままだ。

 

(キサラ……)

 

 何としても、今度こそキサラを救う。自身が定めた目的故に、瀬人の視線はやはり彼女へ向く。

 

「コレが気になるか?」

 

 ボールでも持つような手振りで、パラドックスはキサラの頭を鷲掴みにする。

 

「ゲスめ! 薄汚い手で触れるな!!」

「ふん、まあそう気にするな。貴様らの絆はもうすぐ無に帰す。歴史の闇の中へとな……。お前たちの希望はここまでのようだ……」

 

 パラドックスは、手札4枚の中から2枚に指を這わせた。

 

「手札から『モンタージュ・ドラゴン』を捨てることで『ハードアームドラゴン』を特殊召喚! このカードは、手札からレベル8以上のモンスターを捨てることで特殊召喚できるのだ」

 

ハードアームドラゴン/攻1500

 

 人体模型に対する龍体模型なるものがあれば、こんな見た目なのだろう。骨格と筋繊維で全身を覆った二足歩行の龍が召喚された。

 

(手札コストを払ってまで召喚した、攻撃力1500のモンスター……。シンクロ素材か? 生贄要員か?)

 

 瀬人の予想は、方向性としては正しい。だが――。

 

「これで今度こそ……勝利のキーカードが揃った!

 私は、『ハードアームドラゴン』と――」

 

 規模を、見誤っていたのだ。

 

「我が身『Sinトゥルース・ドラゴン』、『キサラ』を生贄に捧げる!!」

「な……に……!?」

 

 生贄と消滅を意味する風の渦。それが2人と2体を――何より、瀬人にとって最愛の人を覆い隠す。

 

「や……やめろおおぉぉォォ――っ!!」

 

 瀬人の叫びを他所に、彼女らの姿は霞んでいく。

 

「ハハハ……はははははは!!」

「あぅっ……うわあああああ!!」

 

 瀬人に続いて、キサラとパラドックスの声が、昏い空へと重なり響く。

 

「ちぃッ!」

 

 デュエルの掟を振り切って、風を振り切って瀬人は駆け出した。あと10メートル、5メートル……。

 

「キサラ!!」

 

 地を蹴って彼が伸ばした手は――宙を空しく掠めただけだった。

 後に残されたのは、独りの男と黒く渦巻く空――。

 そして暗闇から覗く紅い眼差し。

 

「な!?」

 

 隕石が墜ちてきたのかと思う程の勢いで、その眼光は瀬人に激突し、その身体を小石のように弾き飛ばした。

 図太い腕に巨大斧を握り、冷たく紅い眼差しを向ける巨大な爬虫類の暴君――『タイラント・ネプチューン』だった。

 

「ククク……驚いたか?」

 

 パラドックスの声が、頭に直接響く。

 

「これこそ、私が時空を超える旅と実験の中で手にしたカードの1つ……『タイラント・ネプチューン』だ。このカードは、召喚時にリリースしたモンスター1体の能力をコピーする。これにより、三位一体の魂は維持された……」

 

 コピーされたのは能力に留まらない。タイラント・ネプチューンの骨肉がミシミシと蠢き、再び『Sinトゥルース・ドラゴン』の巨翼が羽ばたいた。

 

「また、『ハードアームドラゴン』を生贄にして召喚された最上級モンスターは、カード効果で破壊されない!」

 

 『Sinトゥルース・ドラゴン』の身体に、『ハードアームドラゴン』と同じ骨格状の硬い皮膚が浮かび上がった。もはやミラーフォースも激流葬も通用しない。

 

「さらに、『タイラント・ネプチューン』の攻撃力は、召喚時にリリースした自軍モンスターの攻撃力の合計値となる!」

 

タイラント・ネプチューン/攻1500+5000→6500

 

「攻撃力、6500の破壊耐性持ちだと!?」

「これだけでも貴様と『青眼の究極竜』を消し去るには十分。だが私は、さらに最後の手札――融合召喚カード、『龍の鏡』を発動する!!」

 

 それはパラドックスの最後の手札だった。だから瀬人は驚きを隠せない。

 

「バカな!貴様のフィールドと手札には、融合素材となるモンスターはいないはず!」

「フフフ……。だがこのカードは、素材モンスターをフィールド、または墓地から除外することで融合召喚を行うのだ!」

「何!? まさか……」

 

 瀬人が想像したのは、青眼三体融合。しかし実際に素材として選ばれたのは、5体のモンスターだった。すなわち……。

 

 鉄壁の象徴『ハードアームドラゴン』。

 最強の象徴『青眼の白龍』。

 災厄の象徴『ダーク・アームド・ドラゴン』。

 未来の象徴『伝説の白石』。

 権力の象徴『モンタージュ・ドラゴン』。

 

 この組み合わせから出せるモンスターは、1体しかありえない。

 

「闇に沈みし五つの龍魂よ! いま混沌の渦のなか一つとなりて、凶つ邪神龍の血肉へと生まれ変われ!!

 融合召喚!『F・G・D』!!」

 

F・G・D/攻5000

 

 かつて瀬人の前に立ちふさがったこともある五色の邪神龍が、パラドックスの手で召喚された。しかもその血肉の一片には、ブルーアイズも含まれている。

 

「攻撃力5000級のモンスターが2体だと!?」

「さらに私のライフは『魂吸収』で2500ポイント回復だ!!」

 

パラドックスLP1100→3600

 

「瀬人! お前は第三の選択肢を! お前とキサラが共に歩む未来を示すと言ったな! この絶望を前に、何を示せるというのだ!!」

「だ、だめ……」

 

 デュエルやモンスターの主導権なく、半ば力尽きていたキサラが意識を取り戻す。Sinトゥルース・ドラゴンの体表に腕を立て、最後の抵抗を試みるが、その白い腕は鈍い色の龍の身体へと呑まれてしまう。

 

「バトルフェイズ! 『Sinトゥルース・ドラゴン』で『青眼の究極竜』を攻撃ッ!!

 罪と真実による圧殺!!

(Sinトゥルース・ストレッサー)!!」

「だめぇぇぇぇええええ――――ッ!!」

 

 攻撃宣言、絶叫悲鳴、巨龍咆哮が重なる中、紅いエネルギー光流が放たれ、究極竜と瀬人を押し潰さんとする。

 

「ガッ……!?」

「セト様!!」

 

 負けないで――という切望を裏切って、事実は二人にのし掛かる。究極竜の美しい翼が、首が、造形が。紅い力に圧し負けて、ひしゃげて、崩れて――。

 

Sinトゥルース・ドラゴン/攻6500

《VS》

青眼の究極竜/攻4500(戦闘破壊)

 

 地雷が散ったかのような轟音と粉塵こそ起こったものの、意外なほど呆気ない最期だった。

 

「あ……ああ……!」

 

 ブルーアイズはキサラの云わば分身で、トゥルース・ドラゴンとキサラは一心同体。だから実感として分かった。戦闘破壊に成功したことも、2000ポイントの戦闘ダメージが通ったことも。

 もちろんそれはパラドックスも同じである。

 

「勝った……! 勝ったぞ!! 確実な手応えがあった! ついにやった! 見ているか!? アンチノミー! アポリア! Z―ONE! 私はついにやり遂げたぞ! これで絶望の未来は変わる! 我々、イリアステルの勝利だ!! ハハハハハハ!!」

 

 狂喜の高笑いを上げるパラドックスに対し、キサラは絶望の雫石を落とした。

 

「な……んで」

 

 自分を失意の淵から救ってくれたあの人を、今度は自分が救う番だと思った。

 あまりに短い時間だったが、その間に互いの愛を確かめあった。

 だから異形の力を姿を受け入れて、時を超えて闘って……。

 なぜ、その異形の力と姿が、あの人を殺めてしまったのか。

 

「お前はそういう星の下に生まれているのだ」

 

 自信あるその声は、研究と証明を繰り返した科学者のそれだ。

 

「キサラ、お前の力と存在は、周りに罪と絶望をもたらすものなのだ。だが悲観することはない、むしろ誉れと受けとれ。お前と瀬人の絶望が、我々の絶望の穴を塞いでくれるのだからな……」

「う……うっ……」

「さあ、再び1つとなろう。念には念を――さらなる絶望を世界に種として振り撒き、我らが未来の絶望を埋め潰そう……」

 

 キサラの身体が、徐々に龍の身体の中へ沈んでいく。底なし沼に嵌まったように、蟻地獄に嵌まったように――。

 もはや腰のくびれが見えなりつつも、キサラに抵抗するだけの気高さは残っていなかった。

 

(ごめんなさい……セト様……。貴方を救い、貴方の力になる。それが私の望みだったけれど……)

「私は貴方に――罪と絶望を、与えてしまった……! 本当に――ごめんなさい……!」

 

 自らの罪に苛まれながら、キサラの身体と魂と涙は、歴史の闇へと消えて――――。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――それは、どうかな……」

「――――――――な、に…………!?」

 

 粉塵の向こうに立つ人影。腕を庇いながら、傷つきながら、それは確かに両の足で立っていた。

 気高く闘いを続ける、彼の者の名は――。

 

「セト様!?」

「勘違いするなよ、キサラ……。お前とブルーアイズが与えたのは、罪と絶望などではない! 夢と希望だった! その想いと真実は、誰にも覆させはしない!

 そしてパラドックス!! 俺とキサラの絶望で、貴様の絶望の埋め合わせをするだと!? ふざけるな!! 絶望には絶望、罪には罪、憎しみには憎しみ――そんな方法では何も救えないことは、俺たち3人の罪が物語っているだろうが!!」

 

 パラドックスは何も言い返せなかった。だから代わりに、額から血を流す瀬人に問う。

 

「何故……? なぜ生きている!? 確実に、2000ポイントのダメージを食らわせたはずが……!」

「ああ、確かに。並みの決闘者なら、ダメージによって心身がお陀仏だったろうな。だが俺は耐えた! そしてライフポイントは、この2枚のカードによって回復していたのだ!」

 

 瀬人の場でリバースしていたのは、チェーン1に『ゴブリンのやりくり上手』とチェーン2にて『非常食』だった。

 

「『やりくり上手』を先に発動し、『非常食』をチェーン発動! 逆順処理で、ライフを1000回復後、墓地に眠る『やりくり上手』の枚数――つまり2枚に1枚上乗せした、3枚をドローし、1枚はデッキボトムへ返す!」

 

 墓地に眠る『やりくり上手』が2枚なのは、1枚目が『手札抹殺』で、2枚目が『非常食』で墓地へ送られたからだ。

 

瀬人手札3枚→6枚→5枚

瀬人LP1100→2100→100

 

「だが! 今更どれだけドローしようが、どれだけ口上を並べようが、遅い!! 『Sinトゥルース・ドラゴン』の効果発動! 戦闘破壊成功時に、相手フィールド上のモンスターを、全て破壊する!!

 断罪する千棘の紅!!

(スカーレット・パニッシュ・サウザンド)』!!」

 

 幾千の紅い針が豪雨となって降り注ぐ。その裁きにより、瀬人が従える裏守備モンスターは破壊。完全に守り手を失った瀬人の場を狙うのは――よりによって攻撃力5000。

 

???/裏側守備(効果破壊)

パラドックスLP3600→4100

 

「これで今度こそトドメだ!! 『F・G・D』で、瀬人にダイレクトアタック!!」

 

 五砲五色の破壊光線が鋭く瀬人に迫る。今度こそ打つ手はない。

――パラドックスだけが、そう思っていた。

 

「セト様! どうか……生きて! 勝って!!」

「言わずもがな! ペーテンよ、我が身を守る盾となれ!!」

 

 デッキから飛び出した道化師が素早く身構え、光線を小さな身体で一身に受けた。当然跡形もなく破壊され尽くしたが、これで瀬人にダメージはない。

 

F・G・D/攻5000《VS》闇・道化師のペーテン/守1200(戦闘破壊)

 

「な、なに!? なぜ、まだ守備モンスターが残っているのだ……!?」

「ふぅん、気づかなかったか? お前のライフが500回復していたことに……。

 貴様は『Sinトゥルース・ドラゴン』の効果で、1体目の裏守備のペーテンを破壊していたのだ! だから俺は、1体目を墓地から除外して2体目のペーテンを呼び出し、盾に使ったまでのこと」

 

 『闇・道化師のペーテン』には、墓地へ送られた時に、自身を除外することで後続のペーテンをデッキから特殊召喚できる効果がある。パラドックスのライフ回復は、除外された1体目のペーテンが『魂吸収』のトリガーになったことによるものだ。もちろん、デッキに3枚入っていれば3体目を呼ぶことも可能だが……。

 

「そして俺は――3体目のペーテンを特殊召喚しない!」

「なに!? これほどの攻撃をかわした上に、壁も生贄も敢えて残さずに、自分のターンに繋げるだと……!?」

「もう俺には青写真が出来ている! 俺が死ぬでもない、キサラが死ぬでもない――共に歩む希望の未来が!」

 

 だが、それには手札5枚では足りなかった。ただ勝つだけなら5枚もあれば可能だということは、瀬人もパラドックスも承知している。

 たった1枚、キーカードが足りていない。次のドローで引けなければ、キサラと共に歩む未来など到底得られないし、更に後のターンまで瀬人が耐えることも不可能。だから瀬人は宣言する!

 

「いくぞ! これが、俺の! ファイナルターーーーン!!」

 

 瀬人のデッキが出した答えは――――。

 

瀬人LP100/手札5枚→6枚/伏せ1枚

モンスターなし

 

パラドックスLP4100/手札なし/伏せなし

Sinトゥルース・ドラゴン/攻6500(ハムド状態)

F・G・D/攻5000

魂吸収

SinWorld

 

 


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