グリザイアの教室 作:光と闇の竜
~春寺優斗~
春。ちょっとした騒ぎのあったバスから降りた俺は、仰々しい校門の前に立っていた
「まさか本当に高校生になってしまうとは……」
個人的に高校へ通う必要性は感じていなかった。温い環境で3年間鈍らないように鍛えながら退屈な授業を受けるよりも、最近物騒になってきたせいで忙しくなってきたバイトに専念した方がいいと思っていたからだ。ただこんな俺を引き取ってくれた家族に『高校は卒業しておいてほしい』と頼まれてしまっては断ることもできない。……いや、1名ほど俺が高校に入ることに反対し続けていたモッサリ金髪女がいたな。1カ月も好きに甘えさせた上に毎晩ベッドで慰めてやったら渋々納得したようだが。
……正直、家族と離れるのは辛い。3年も会えないとか気が狂いそうだ。でももう決まってしまったからにはこの高校で3年過ごすしかない。そして無事に卒業して少しでも立派になった俺を見せることが、あの人たちにできる恩返しだ。それに、麻子の言葉が本当かどうかを確かめられるだろうしな。
『いいか、雄二に優斗。女にモテたければ覚えておけ。小学生は足の速い奴がモテる。中学生は喧嘩の強い奴がモテる。高校生は頭の良い奴がモテる。だから、お前たちが女にモテまくってウハウハの日々を送りたかったら今のうちにしっかり鍛えておくことだ』
小中学校には通っていないから真偽のほどはわからない。だが麻子の言葉が正しいのであればばっちり鍛えてきた俺はこの学校でウハウハの日々を送れるということだ。そう考えると少し楽しみになってきたな。
「雄二は美浜学園だったっけか。まさか2人揃って高校生になるなんて、思いもしなかったな」
離れた場所で自分と同じく一歩を踏み出そうとしている兄のような男へと思いを馳せ、俺は3年間通うことになる日本最先端の教育機関、高度育成高等学校へと足を踏み入れた。
「えーっと、俺の名前は……」
春寺優斗の名前を探してクラスを確認する。あまり時間もないので早く教室に行きたいところだが……お、あった。俺の教室はDクラスだ。
~綾小路清隆~
入学式というの1つの試練だ。ここでスタートダッシュに成功するかどうかが今後の学校生活を満喫できるかに大きく影響してくる。ここで友達を作れるかが分水嶺ということだ。事なかれ主義を掲げるオレとしては親友とまではいかなくともそれなりの友好関係を築けたらと思っている。
思っているのだが──
「……」
現在オレは一人寂しく自分の席に佇んでいた。おかしいな、不慣れなりにこうイイ感じのきっかけづくりをシミュレートしてきたんだが。にも拘わらず周りで徐々に出来上がっていく人間関係を眺めているのが今のオレだ。金髪ポニーテールのいかにもと言ったギャルを中心としたグループ、ガラの悪そうな男子グループ、群がる女子生徒一人一人に朗らかな笑顔を浮かべているイケメン、我関せずといった態度をとっている個人。すでにこのクラスにおける人間関係が構築されようとしていた。
だがこれも必然。オレにとってこの教室は今までとは大きく環境が異なっている。孤立無援の戦場と言ってもいい。結果、誰にも話しかけられず話しかけることもできない負のスパイラルに陥っていた。だがいつまでもこうしているわけにもいかない。オレは普通の高校生活ってやつを経験してみたくてここに来たんだ。一人、まずは一人でいいから友達を作ろう。オレが当たって砕けろの精神で誰かに話しかけてみようと重い腰を上げようとしたところで、一人の男子生徒が教室に入ってきた。
──瞬間、オレの本能が警戒を促した。あの場所で大勢の大人を相手にした時と比べ物にならないほどの危機。あいつから発されている殺気が全身に突き刺さっている。高校一年生がこれほどの殺気を放てるものなのか。だがここで反応してしまえば、周りから急になんだコイツと白い目で見られてしまう。そうなればオレの友達作りは失敗だ。それだけは避けないといけない。だが今教室に入ってきたあの男に注意を向けないのも危険であることは間違いない。オレは外の景色を眺めているフリを装いながら、窓の反射を利用してそいつの方へと目を向けた。
身長は175cm程、体格はいい。無駄な脂肪もなく、筋肉質なのが制服の上からでもよくわかる。顔も整っており、男らしいというよりもイケメン俳優と呼ばれる類の顔つきで女にはモテそうだ。だがその男に見向く女子はいない。いや、まだ誰もその男が教室に入ってきたことに気づいていないのだ。気配を消し、足音を立てずに入ってきたその男を認識しているのはオレの他にはバスで騒ぎが起きた原因であるあの金髪の男だけだ。
「……へぇ」
「っ!」
オレが男の観察を続けていると、不意に目が合った。窓ガラス越しにだ。すぐに視線を外すがもう遅い。オレがあの男を観察していたことは間違いなくバレている。まさか、ホワイトルームからの刺客か?いや、いくらなんでも手が回るのが早すぎる。あの男といえどもこの学校に手を伸ばすのはそう簡単ではないはずだ。だが可能性としてはありえる。そう結論を下したオレは、こちらに近づいてくる男の方を見てしまいそうになるのを抑えつつもすぐに反応できるように椅子を少しばかり引いた。そしてオレの前の机に荷物を下ろしたその男は、席に座るとゆっくりとオレの方に向き直った。
「初めまして、春寺優斗だ」
「……綾小路清隆だ」
「そうか、これからよろしくな綾小路。仲良くしてくれると嬉しいよ」
……これが、オレの親友にしてライバルとなる春寺優斗とのファーストコンタクトだった。
氏名 春寺優斗
部活 無所属
誕生日 7月20日
評価
学力 A
知性 A
判断力 B+
身体能力 A+
協調性 C
面接官のコメント
試験においては文武ともに優秀な成績を収めているが、面接での受け答えに問題あり。総合的な能力だけで判断するならばAクラス配属が妥当と思われるが、前述の面接結果から人間関係における懸念が見受けられる。よってDクラスへと配属し様子を見ることを決定。集団生活を経験することで適切な言動を身に着けることを期待する。