グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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10話 釘差し確認、ヨシッ!

 「なあ春寺」

 「なんだ」

 「どうしてお前は俺にスペシャル定食を奢ってくれたんだ?」

 

 櫛田にお前がMだと思わせてしまったからだよ。もちろんそんなことは言わない。真実というのは時には伝えない方がいいこともある。

 

 「気分だ」

 「そうか。ところで今朝櫛田にな、『綾小路くん、人の好みはそれぞれだと思うけどあんまり特殊だと女の子が引いちゃうからほどほどにねっ』って言われたんだ。お前昨日あの後オレもいたこと話したのか?」

 「話すわけないだろ。友達であるお前を売るような真似するか」

 

 嘘は言っていない。櫛田に綾小路の存在は話してないからな。

 

 「そうだよな。疑って悪かった。オレが逃げた後何があったんだ?」

 「綾小路、スペシャル定食の味はどうだ?」

 「おい」

 「綾小路、コレ意外と美味いぞ。お前も食べるか?」

 「いらん。で昨日何があったんだ?」

 「……」

 「おい、本当に何があったんだ?なんで櫛田が生暖かい目を向けてきたんだ。今あいつの中でオレはどうなってるんだ」

 

 堀北に冷たくされて喜ぶドM、かな……。

 

 「綾小路、もういいじゃないか。終わったことだ」

 「よくねえよ。こええよ。昨日のアレ見てたんだぞ?あそこからなにがどうなったらオレがなんか特殊な性癖持ってるみたいに思われるんだよ!?」

 「うるせえな!だったら昨日逃げなきゃよかっただろうが!秒で見捨てやがって!」

 「お前がミスったんだろ!」

 「友達なら一緒に地獄に落ちろや!大体こうしてスペシャル定食奢ってやったんだからごちゃごちゃ言うんじゃねえ!」

 

 

 

 昼休みにそんな一幕を挟みつつ、ようやくDクラスに訪れた普通の授業を受けた放課後。

俺は部屋に綾小路と櫛田、3バカを招き入れていた。

 

 「それでは早速お前たちを赤点退学の危機から救うべく勉強会を始めようと思う。まずは数学と英語の基礎。それ以外は基本暗記だけで赤点回避レベルなら余裕だから今は考えなくていい。まあ当時よりも今の方が理解はしやすいだろうから基礎はさくさくやっていくぞ」

 「私もいるから頑張ろうねっ。まだ皆とお別れなんてしたくないな」

 「く、櫛田ちゃあん……」

 「俺、櫛田ちゃんのために頑張るぜっ!」

 

 綾小路は成績的に教える側に回ると違和感を持たれるとか言っていたが、基礎を教える分には違和感も持たれないだろと説得した。櫛田はお色気要因だ。一問解くごとに褒めてやればチョロい池と山内はアホみたいにやる気出すから頼む、と言ったところローキック一発で引き受けてくれた。案の定池と山内はやる気出したし山内なんか露骨に胸と太ももに視線がいってやがる。これをなんでもない顔して受け流すんだから櫛田のプロ根性も大したもんだと思う。

 

 「まずは昨日躓いてた連立方程式からだな。3人ともいいか?まず全員が持っている金額が2150円だ。式に表すとA+B+C=2150。これが①だ」

 「おう」「ふむ」「ふむふむ」

 「で、AはBより120円多く持ってるからこれを式に表すとA=B+120。これが②。まだわかるか?」

 「「「ああ」」」

 「そしてCの5分の2をBに渡すとAより220円多くなる。これを式に表したのがB+2/5C=A+220。これが③」

 「……」「まあなんとか」「お、おう?」

 「なるほどな。たぶん分数が入ってくるとややこしく感じるんだろう。じゃあまずは分数を使わないパターンからやってみよう。池はまだついていけそうだがここは須藤達に合わせてやってくれ。それじゃあまずは数字を簡単にしたこの問題からやっていくぞ。まずはわかってることを全部式に書き出すんだ。自分たちでやってみて、わからないところがあったら聞いてくれ」

 

 そんな感じでまずは基礎を綾小路に教えてもらう。俺は横でその様子を見ながら須藤達の理解度に合わせた問題作成。流石に教えながら問題を作るのは難しいから綾小路がいて助かった。櫛田は今のところ何もしていないがいるだけで仕事をしているので問題ない。自分のテスト勉強をしつつ時折池と山内に構ってくれたらそれでいい。

 

 

 

 そんな感じで勉強を教え始めてからテスト前1週間を迎えた。基礎はほぼバッチリ仕込めたので今日から漸く試験対策と暗記科目だ。1週間前からだと平均点は難しいだろうが赤点ラインを超えるようなことはないはず。暗記科目はコツさえ覚えればほぼカモなのでそっちも問題ない。

 

 俺達は気分転換も兼ねて図書室にやってきていた。俺達と同じように図書室にいる堀北と沖谷からは反対側の席に陣取り、暗記のコツとともに試験範囲から予想したここを覚えておけという部分をまとめたノートを写させる。コピーを渡さないのは書いて覚えるという行為が案外馬鹿にできないからだ。そして英語と数学よりは基本的に覚えるだけですむということもあり、これなら赤点回避できそうだという実感が湧いてきた須藤達の話し声は少々騒がしくなってしまった。当然隣の生徒からしてみれば煩わしく、周りを怒らせる前に注意しようと思ったところで後ろから声を掛けられた。

 

 「ちょっとそこの君達、周りの迷惑になっちゃうからもう少し静かにしてくれないかな。って、あれ?やっほ、春寺くんに綾小路くん。あ、桔梗ちゃんもいる~♪」

 「一之瀬」

 「帆波ちゃん、こんにちはっ」

 

 声を掛けてきたのはDクラスに絶望していた時に俺達を救ってくれた女神一之瀬だった。先日の櫛田の発言から知り合いだろうとは思ってたが名前で呼び合う仲だったのか。光と闇が合わさり最強に見えるな……。そういえば櫛田は一之瀬のことをどう思っているのだろうか。自分を偽ることなく誰からも慕われる心優しい一之瀬を疎ましく思っているのか、あるいは言動を疑うことなく付き合える貴重な友人だと思っているのか。両方の友人である身としてはちょっと気になるな。裏では一之瀬さんと呼んでたがそこまで悪い印象は抱いていないように思えるが。

 

 「悪い、騒がしかったな。赤点回避が見えてきて少しはしゃぎ過ぎてしまった。周りの方たちもすみません。ほら池に山内、お前たちも謝っとけ。……おい、どうした?」

 

 グループの一員として迷惑をかけてしまった周囲に謝罪し、池達にも促したのだが反応がない。どうかしたのかと振り向けば池と山内は揃って同じ箇所を見ており、その視線を辿ると──

 

 

 一之瀬の大いなるお山がそびえ立っていた。

 

 

 「で、でけぇ……」

 「富士山、いやエベレストだと……」

 

 こいつら……。一之瀬を汚らわしい目で見るんじゃない。ちゃんと周りに謝ってる須藤を見習え。勉強を教える関係で共に過ごすことが増え須藤達とも随分打ち解けた。その中で須藤に「プロのバスケットボール選手を目指すんならその短気と乱暴な振る舞いは不利に働くんじゃないか?」とおせっかいなアドバイスをした結果須藤は数日前から自分の振る舞いに気を付け始めたのだ。入学当初からは考えられない変化である。たぶん堀北みたいに馬鹿にせずに勉強に付き合ったのが効いてるな。

 

 

 「あはは、そこまでジっと見られると流石に恥ずかしいかなぁ」

 「ごめん、一之瀬本当にごめん」

 「オレからも謝罪しておく、エロバカ2人がすまん」

 

 女神一之瀬は謝罪どころか不躾な視線を向けられたにも関わらずそれだけで許してくれた。すまん、こんなこと言っているが俺も綾小路もついつい目で追ってしまう時があるんだ。

 

 「それより春寺くん達も勉強会してたんだね。やっぱり考えることはどこも同じなのかな?ちなみに私達は英語をやってたんだけど春寺くん達は……ん?んんん?」

 

 そう言って俺達が広げていたノートを眺める一之瀬だがなぜか怪訝な表情を浮かべていた。

 

 「何かおかしいところでもあったか?一応俺なりにわかりやすくまとめたつもりなんだが」

 「いや、えっと、これテスト対策なんだよね?」

 「この時期なんだから当然そうだな」

 「あの、言い難いんだけど春寺くんのこのテスト対策ノート、試験の範囲と違うよ?」

 「は?」

 

 続けられた一之瀬の言葉は、俺達に衝撃を与えるものだった。

 

 「一之瀬、それ本当か?」

 「うん、先週の金曜日に試験範囲が変わったって担任の先生が言ってたもん。もしかして伝えられてないの?」

 「私、ちょっとAクラスとCクラスの友達にも聞いてみるね」

 

 櫛田がその交友関係の深さを活用してすぐに他クラスの試験範囲についても確認してくれたが、やはり先週の金曜日に担任から試験範囲の変更を通達されていた。そして俺達Dクラスだけがそれを伝えられていなかったということになる。

 

 「悪い、一之瀬。ちょっと担任に確認してくる。教えてくれて助かった」

 「う、うん。それはいいんだけど、テスト大丈夫?もう一週間前だよ?もし赤点取っちゃったら……」

 

 退学だ。ただ俺と綾小路に限っては心配はいらない。元々学校の授業なんてお遊びみたいなもんだ。ただ問題はクラスメイト達だ。試験範囲が大きく違っているとすれば、成績優秀組はともかく普段は赤点を取らないような生徒まで退学の危機に晒されているということになる。ともかく、一刻も早く担任の茶柱先生に確認する必要があるな。

 

 

 

 「ああ、そういえば先週の金曜日に中間テストの範囲が変わったんだったな。私としたことがお前たちに伝えることを失念していたようだ。これが変更後の試験範囲だ」

 

 職員室を訪れ試験範囲について尋ねた俺達に対する茶柱先生の反応は淡々としたものだった。全く悪びれる様子もなく、要件が終わったのだからさっさと職員室から出て行けとでも言いたげだ。

 

 「そりゃないぜ佐枝ちゃん先生!いくらなんでも遅すぎるだろ!」 

 「そんなことはない。まだ一週間もあるんだ、今から勉強すれば余裕だろう?」

 

 ……これが教師のすることなのか?どう考えてもおかしいだろう。生徒の退学がかかっているのにも関わらずこんな重要なことを伝え忘れておいてこの態度か?それに、どうして周りの教師も反応しない?まさかDクラスの生徒にだけ試験範囲の変更を伝えないのは毎年の恒例行事なのか?いや、それはない。あまりにも不公平だ。それでも周りの教師が何も言わないのは”試験範囲変更の意図的な伝達ミスは茶柱の独断だが、その上で赤点を回避する方法は必ず存在する”ということか?そしてそれは今からでも実行可能なもの。思いつくのは過去問とポイントによる買収ぐらいだが、それだけでは必ず赤点を回避する方法はあると断言するには不足だ。……ひょっとして問題を使いまわしてるのか?この辺は後で綾小路にも聞いてみよう。今は茶柱先生の真意を確認する方が先だ。

 

 「……茶柱先生、もう一度だけ聞きます。生徒の退学がかかっている中間テストで、試験範囲の変更を伝え忘れていたという事実に対してどうお考えですか?それも、俺達に指摘されるまですっかり忘れていたようですが」

 

 返答によっては容赦しない。クラスメイトのためじゃない、今後もこんなことがあるようじゃ俺と綾小路の「普通の学生生活を送る」という目標に差支える。この学校の制度が特殊であることは受け入れたが、担任の教師が意図的に邪魔してくるというのであれば話は別だ。もしそうなら、きっと茶柱先生は担任を続けるのが難しいぐらいの怪我を負う不慮の事故に見舞われるだろう。

 

 「くどいな。ミスをしたことは悪いと思っているし今後は気を付ける。これ以上に何を求めるんだ?」

 「そうですか」

 

 理解した。茶柱先生は、いやこいつは邪魔だ。今後3年間こいつが担任というのは俺達にとってもクラスにとってもデメリットでしかない。綾小路を呼び出した時のことから考えるにこれもAクラスを目指させるための策略の1つなのかもしれないが、実力を隠したい綾小路にとってこいつの存在はあまりにも不都合だ。それもこれも全教科50点取るとかいうアホみたいな調整するからバレてるんだが……。

 

 「皆、行くぞ。これ以上この教師もどきと話したところで時間の無駄だ」

 「聞き捨てならんな、春寺。ポイントを減らされたいのか?」

 「重要な連絡1つもまともにできないやつが教師もどきじゃないなら何なんだ?」

 

 こんなことをしておいて担任のままでいられるとでも思っているのか?初日にも確認したがこの学校においてポイントで買えないものは存在しない、だったよな?

 

 「櫛田、悪いがクラスの奴らに試験範囲のこと教えてやってくれ。もちろん堀北と沖谷にもな。須藤達には俺の授業ノートを貸しておくから今日はひとまずそれで復習しておいてくれ。明日までに改めてテスト対策のノートを作っておく。綾小路は須藤達のサポートを頼む」

 「うん、わかった!」

 「俺もテストまで部活休むわ。ここまできたら四の五の言ってらんねえ」

 「それはいいが春寺、お前はどうするつもりだ?」

 「俺か?ちょっと理事長室に行くだけだ。いなかったらアポを取る」

 「こんな時に理事長に何の話があんだよ?」

 「大した事じゃない。ちょっと質問するだけだ。担任を変えるにはプライベートポイントをどれだけ支払えばいいですか?ってな。あとついでにこれも聞いてもらう」

 

 そう言って俺はこっそり録音していた先ほどのやり取りを流す。そこには茶柱の悪びれない態度と物言いがばっちりと録音されていた。

 

 「待て春寺」

 

 無視。

 

 「待てと言っているだろう」

 

 無視。

 

 「頼むから、待ってくれ。この通りだ」

 

 そこで漸く足を止める。やはり独断か。そして俺を止めるということは、プライベートポイントの支払いによって担任を変えるというのは教師の目から見ても不可能ではないということだ。もちろんそれなりどころか多額のプライベートポイントが必要だろうが、どういうわけかAクラスに上がることを目指している茶柱は俺が口にしたことでこのリスクを無視できない。たとえこの先DクラスがAクラスに上がったとしても、その時茶柱自身が担任でなければ何の意味もないからだ。

 

 「何の用だ?知っての通りたった今試験範囲の変更を知ったせいでアンタに構っている時間はないんだが?」

 「そのことについては謝罪する。もちろんDクラス全員の前でだ。だから理事長に話をするのはやめてくれ」

 「別にそう心配する必要もないだろう。仮に担任の変更が可能だとしても、今の俺に支払えるポイントではないはずだ。俺がやろうとしているのは嫌がらせに過ぎない」

 「それは今のポイント所持量の話だろう。お前と綾小路が個人的にポイントを増やしているのは知っている。お前はいずれ私を担任から外すに足るプライベートポイントを稼ぐつもりだ。違うか?」

 

 それなりに頭は回るらしい。まあ必要なポイント量によっては不幸な事故が起きるんだが、死ぬようなことはないので安心して欲しい。というか人のポイント事情を勝手に話すなよ。

 

 「勝手に人の懐事情を人のいる場で口にしないで欲しいもんだな。プライバシーって知ってるか?ああ、簡単な連絡一つもまともにできない教師もどきには難しいか。悪い悪い、無理を言ったな」

 

 軽く煽ってみれば歯嚙みするような態度を見せるがこれでも優しく言っているつもりだ。教師の茶柱からしてみれば一生徒の退学なんてどうでもいいかもしれないが本人からしてみればあまりにも重い出来事だ。こんな教師がいる学校に莫大な金額を使っているのか?予備役とはいえ一応内閣直属の組織に所属する人間として真面目に進言するべきかもしれん。この学校にお金を使うのはいいけど一度調査した方がいいですよって。

 

 「まあいい、それで?理事長に話を持っていかない代わりにアンタは何をしてくれるんだ?まさか大の大人が子どもみたいに駄々をこねているわけじゃないよな?」

 「……詫びとしてプライベートポイントを支払おう」

 「一応聞いておくが俺個人にだけ支払うつもりじゃないよな?今回のことで迷惑を被ったのは俺だけじゃない。Dクラス全員だ」

 「だがそれでは支払うポイント量があまりにも……いやわかった。クラス全員に今回の詫びとしてプライベートポイントを支払う。だが流石に私の財布にも限界がある、あまり多くのポイントを渡せるわけではないことは理解して欲しい」

 

 まあ1万ポイントも貰えれば十分だ。ポイント不足の今、俺が先生の不備を指摘してクラスの皆にポイントを持ち帰ったという成果があれば、クラス内での発言力が増す。今後間違いなくポイントが変動するようなイベントがあるだろうし、その時に向けて多少の影響力は持っておきたい。

 

 「そこまで無茶を言うつもりはない。あんたのできる範囲で誠意を見せてくれればな。もっとも誠意が感じられないようならどうなるかは保証しないが。ああ、それと……」

 

 茶柱へと近寄り本人にだけ聞こえるように耳元で俺は囁く。

 

 「アンタがAクラスを目指すのも堀北を煽るのも勝手だが、俺と綾小路には干渉するな。何もしなくともそれなりには協力してやる。間違っても何か弱みを握って脅そうなんて考えるなよ?この学校で不幸な事故が起きることになる。俺の過去を探らないよう言われたんじゃないか?()()()()()()()()()()()()

 

 これだけ言っておけば釘差しとしては十分だろう。俺は俺と綾小路の青春を邪魔するものには容赦するつもりはない。Aクラスを目指すのはあくまで青春の一環に過ぎない。俺達はこの学校を楽しく卒業できればそれでいいんだ。余計なことに巻き込まないでくれ。

 

 「それでは、午後の授業が始まるので俺達はこのまま教室に戻りますね。できれば今後は大事な情報は忘れずに連絡して欲しいですね」

 

 

 




ちょっと無理矢理ですがこのタイミングで茶柱先生どうにかしないと綾小路くんが原作ルート入っちゃうので許して。
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