グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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11話 中間テストの結果

 約束通り、放課後のHRで茶柱は試験範囲変更の連絡ミスをクラス全員の前で謝罪した。昼休みに櫛田から知らされていたこともあって騒ぐ生徒はいなかったが茶柱に向けられる視線は冷たかった。ただそれも茶柱から詫びとして5万ポイントが配られるとすぐに落ち着いた。一部の生徒は退学が掛かっていたということもあって納得いかない表情を浮かべていたがこういうのは多数派が正義だ。クラス全体として今回は水に流すという結果に落ち着いた。……思ったよりもポイント貰えたな。もしかして高給なのか?

 

 

 その夜、俺は綾小路の部屋を訪れて過去問について尋ねていた。

 

 「過去問に関してはオレも考えていた。やはりお前も気が付いていたか」

 「まあ赤点を必ず回避する方法はあるなんて匂わせぶりなこと言われたらな。もしかしたら赤点にならない絶対のライン、50点分は問題を使い回している可能性があるんじゃないかと考えているんだが綾小路の考えはどうだ?」

 「ほぼ同じだな。オレは全問使い回していると考えている」

 「全部か?」

 「ああ。その方がコストも手間も掛からないし、その分の労力をこれから先間違いなく起こるだろうクラスポイントをめぐってのクラス間競争に割けるからな。オレは一学期の終わりごろに何かあるんじゃないかと睨んでいる」

 

 まあ学校に慣れてきたその辺りがちょうどいい時期だろう。綾小路の意見に俺も頷く。クラス間の争いが本格的に始まるというわけだ。

 

 「まあその辺は追い追いでいい。今は中間テストの話に戻ろう、過去問の入手はどっちがやる?俺は須藤達の勉強を見ないといけないからできればお前に任せたいんだが」

 「引き受けよう。多少目立つかもしれないが仕方がない。まだ問題を使い回しているという確証もないしな」

 「ああ、だったら櫛田を連れて行ったらどうだ?交友関係の広い櫛田が情報を入手して綾小路が手伝いを頼まれた形にすればいい。あいつも皆から感謝されるぞと言えば乗ってくるだろう。ちょっと電話してみる、静かにしておけよ」

 

 連絡先から櫛田の名前を引っ張り出し、電話をかける。数回のコール音の後、櫛田の声が端末から聞こえた。

 

 『はいはーい、何かな春寺くん。ごめんね、ちょっとお風呂上がりだったから時間かかっちゃった』

 「いや、こっちこそ夜に電話して悪いな。周りに誰もいないから演じなくていいぞ。ちなみに今全裸か?」

 『スケベ。池や山内じゃないんだからアホなこと言わないでよね。ちゃんとバスタオル巻いてるに決まってんでしょ』

 「ほう」

 『妄想すんな。で、何の用?スキンケアとかあるから手短にお願い』

 

 これ以上の軽口は怒られそうだ。俺は櫛田に過去問を上級生から手に入れてほしいと頼んだ。櫛田にとってのメリットも一緒に説明したし、承認欲求モンスターの櫛田なら乗ってくるはず。

 

 『……それっていいの?ルール的に』

 「問題ない。ポイントを使っての取引はこの学校では日常的に行われている。現に俺と綾小路は上級生とポイントの賭博をしてるし、学校側もそれを知っているのに咎めてこない。どう考えても過去問買うより賭博の方が問題だろう。ポイントとは言うが実質的には金なんだぞ。あくまで推測に過ぎないが、この学校はそういうグレーな行為に気付けるかも含めて実力と考えているんだろうな』

 『そういえば茶柱もそんなこと言ってたね。余裕あるんなら今度何か奢ってよ、可愛い女の子とお茶できるんだから悪くない話でしょ?』

 「過去問を入手できたらケーキバイキングだろうがなんだろうが奢ってやろう」

 『やった。言質取ったからね』

 「ああ。その代わり過去問をちゃんと手に入れてからだ。綾小路に話は通しておくから手伝いに使うといい。過去問分のポイントも渡しておく。まだ過去問が有効と決まったわけじゃないから俺は須藤達の勉強を見る。ちなみに費用が浮いた分だけ報酬が豪華になるぞ、猫の被りどころだな」

 『うっさい』

 

 あ、電話切られた。まあ細かい部分はメッセージでいいか。

 

 「というわけだから頼んだぞ」

 「……櫛田だけでいいんじゃないか?あの女優っぷりなら一人でも上手くやるだろう」

 「それだと櫛田が仕事を押し付けられたって思うかもしれないからな。ああいうタイプの女はストレスを溜めさせると厄介だ。昨日の櫛田見たろ?陰口言われたくなければ頑張れ」

 

 JBなんか物凄いぞ、上司への悪口のオンパレードだ。買い物に付き合わされるわ、マッサージはさせられるわ、とにかく一日中ご機嫌伺いをする羽目になるからな。

 

 「あ、言わなくてもわかってるとは思うができれば2年と3年の両方から過去問をゲットしておいてくれ」

 「勿論そのつもりだ」

 

 

 翌日の夜、俺は再び櫛田と通話していた。目的はもちろん成果の確認だ。俺の端末には櫛田から送られてきた過去問のデータが入っており、見事に二学年分の過去問を入手していた。綾小路はポイントに困ってそうで、なおかつ櫛田に弱そうな生徒を見分けるのに役立ったらしい。明日陰口言われてなかったぞって教えてやろう。……暗くて地味って言われてたことは黙っておこう。

 

 『どう、これで文句ないでしょ?』 

 「ああ、流石はDクラスのアイドル様だ。最低でも30000ポイントは覚悟していたんだが」

 『男って本当バカだよね。ちょっと手を握って上目遣いで見つめてやっただけなのにさ』

 

 櫛田は使ったのはたったの20000ポイント。単純に考えて1つ10000ポイントで手に入れたということになる。俺と綾小路じゃ絶対にもっとポイントを要求されただろう。

 

 「それは仕方がない。櫛田は可愛いからな。男が可愛い女の子に弱いのは神話の時代から決まってるんだ」

 『はいはい、見え透いたおべっかどーも。それより、約束忘れてないよね?』

 「ああ、中間テストが終わったら好きなところに連れて行ってやるよ。それより、本当に俺も一緒でいいのか?別にポイントだけ渡す形でもいいんだぞ?」

 『ストレス発散に付き合うって言ったのはあんたでしょ。なんか上手い言い訳考えておきなさいよ』

 

 櫛田が言っているのは2人で出かけているところを見られた場合のことだろう。当然の配慮だな。櫛田が男と2人で遊んでたなんて広まったら一大事だし俺も面倒な事態に見舞われる。あらかじめ言い訳を考えて共有しておいた方が色々と楽だ。

 

 「まあその辺は任せてくれ。櫛田とのデートのためならお安い御用だ。それより、過去問なんだがBクラスに教えてやっても構わないか?試験範囲の変更に気付けたのは一之瀬のおかげだしお礼として。実際に尽力したのは櫛田だから無理にとは言わない。俺個人でプライベートポイントを渡せば済む話だしな」

 『んー、別にいいんじゃない?一之瀬さんなら恩を感じてくれるだろうし、今後の貸しと考えれば悪くない』

 「助かる。そういえば、櫛田は一之瀬のことどう思ってるんだ?こう言うと気を悪くすると思うが、裏のない櫛田みたいなもんだろう?堀北みたいにムカつくとかは思ってないのか?」 

 『一言余計なんだけど。まあ普通に友達だと思ってるよ。素の私は見せられないけど、他の人よりかは気楽に話せるしね。そういう意味でも、過去問を教えるのに反対はしないよ』

 「わかった。教えるのは俺からで構わないのか?」

 『うん。思いついたのはあんただし、今回はクラスの皆から感謝されれば満足。ていうか軽井沢のやつ、50000ポイントも臨時収入あったのに貸したポイント返してこないのはどういうわけ?あいつ脳味噌に蛆虫湧いてんじゃない?そもそも──』

 

 それから櫛田の愚痴をたっぷり30分ほど聞いた後、次の日の勉強会の準備をしてから俺はベッドに入った。電話を切る間際の櫛田はどこかスッキリしていたような気がする。普段ストレスを溜めている女には定期的に好き放題話させて発散させた方がいいのだ。ソースはJB。

 

 

 

 そんなこんなで勉強会は続きとうとうテスト前日だ。

 

 「皆、ちょっといいかな?大事な話があるからちょっと聞いて欲しいの。それと端に座っている人たちはカーテンと鍵を閉めてくれるかな?」

 

 櫛田がそう言えばクラスメイト達は皆大人しく席に着く。櫛田のクラス内での影響力あっての光景だな。櫛田の言葉であれば疑問に思いながらもとりあえず実行してくれる。堀北は無視して教室を出ようとしていたが俺が引き留めた。今後も何かあったらまず櫛田に頼ろう。今の堀北じゃこれはできない、Aクラスを目指す上で櫛田の力は絶対に必要だ。

 

 「実はね、なんとか皆が良い点数を取る方法がないかなってずっと考えてたんだ。それでも中々いい方法が思いつかなかったんだけど、昨日親切な先輩からとっておきの情報を教えてもらったんだ。実はね、この学校の最初の中間テストって毎年同じ問題が出されてるらしいの」

 

 櫛田の言葉にクラスの面々が驚いた反応を見せる。そして当然「じゃあ過去問あれば楽勝じゃん」という言葉があちらこちらで上がる。ただテスト直前の今それを知ったところでどうやって過去問を手に入れるかという話になる。

 

 「皆落ち着いて。過去問ならもう先輩から譲ってもらったから。今から配るね」

 

 櫛田から過去問を受け取った生徒の反応は様々だ。なおコンビニでせっせかコピーしたのは綾小路だ。目立ちたくない分こういう裏での作業を率先して引き受けてくれる辺りなんというか律儀だ。

 

 「うおおおおお!櫛田ちゃんサンキュー!」

 「よかった~。私実は不安だったんだよね、櫛田さんのおかげで退学せずに済みそう。ありがとね」

 「なんだよ、これなら毎日馬鹿みたいに勉強しなくてもよかったなぁ」

 

 あ、今の山内の言葉でイラついたな。櫛田の裏の顔を知っているとこういうの気付けてちょっと面白い。毎日勉強を教えていた俺もちょっとイラついた。お前次の期末テストで勉強見てやらないからな。

 

 「綾小路くん。これ、あなたと春寺くんの仕業よね?問題が使い回されているというのは本当?」

 「ん、まあな。2年と3年の両方から過去問を買って、両方全く同じ問題だったから信憑性はかなり高い。今年から急に使い回しを止めることになっていない限りこれを丸暗記すれば全員赤点を取らずに済むだろう。俺達より櫛田に頼んだ方が話が早そうだから協力をお願いしたんだ」

 「そう。それなら問題はなさそうね」 

 

 後ろでは小声でそんな会話が交わされていた。堀北の中では櫛田が過去問を思いついたという可能性は存在していないことがよくわかる断言っぷりだ。事実その通りなのだが櫛田がこの会話を聞いていたら間違いなくまた屋上で堀北への怨嗟を吐き出していたことだろう。

 

 「それと、このことはBクラス以外には内緒にしてね。テスト範囲が違うことを教えてくれたBクラスの人にはお礼として教えたけど、せっかく他のクラスとの差を詰めるチャンスなんだもん。皆で高得点取って驚かせちゃおう♪私の話はこれでお終い、皆今日は寝落ちとかしないように気を付けてね!」

 

 

 

 「欠席者はなし、寝坊した生徒はいないみたいだな。関心関心」

 

 次の日の朝。なんか偉そうなことを口にするが試験範囲の変更を伝え忘れるポンコツ教師だと思われている茶柱がやってきた。50000ポイント払ってなかったら針の筵だということを理解しているのだろうか。

 

 「改めてになるが、先日は私のミスでお前たちには迷惑をかけてしまったな。本当に済まない」

 

 ジトっとした目を向けてやれば取り繕ったように謝罪を口にした。

 

 「もう済んだことだし気にしてねーよ佐枝ちゃん先生」

 「そーそー。むしろポイントもらえてラッキーて感じ?」

 「ねー。むしろクールだと思ってた茶柱先生がドジっ子とかちょっと萌えるよね」

 「は、はは……」 

 

 過去問のおかげで余裕があるせいか茶柱を責める生徒はいない。職員室でのやり取りを知っている須藤達は微妙な表情をしているが、それ以外の生徒からは生暖かい目を向けられている。

 

 「こほん。さてテストが始まる前に朗報だ。今回の中間テストと7月の期末テスト、無事に乗りきれた生徒は夏休みにバカンスをプレゼントしてやろう」

 「バカンス!?つまり照りつける太陽に青い海、白い砂浜、そしてぇ!?」

 「女の子の水着!!」

 「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」

 

 綾小路、お前もどさくさに紛れて盛大に叫んでるがこれ絶対クラス間競争のイベントだぞ。自分でこの時期にやるって予測してただろうが。俺はもうこの学校の言うことは基本的に信じないことに決めたので浮かれることはない。

 

 

 ……バカンスか。一之瀬の水着とか凄そうだな……。こう、ばるん!ゆさっ!てしそう。何がとは言わないけど。櫛田もビキニが映える体型をしているのでちょっと楽しみだな。見せてくれるかはわからないけど妄想だけなら自由だ。

 

 

 女子の冷ややかな視線を受けながらも気合十分となった男子一同は全力をもって中間テストに臨んだ。試験は予想通り過去問がそのまま出され、俺達Dクラスは全員会心の出来で中間テストを終えることができた。後は結果を待つだけだ。

 

 

 

 「かんぱーい!」

 

 まあ全く同じ過去問があればよほどのことがない限り赤点なんて取らない。須藤達には暗記のコツを教えていたこともあって軒並み70点以上を取っていた。まあよくやった方だろう。俺や櫛田は満点、綾小路はここでも微妙に抑えて9割前後に抑えていた。流石に過去問があるんだから100点取っても目立たないと思うんだが。

 

 無事に中間テストを乗り越えた俺達は綾小路の部屋で祝勝会を開いていた。

 

 「……ところで、なんで祝勝会の開催場所がオレの部屋なんだ?」

 

 納得がいかないといった顔の綾小路。その答えはシンプルだ。須藤達の部屋は散らかってる。櫛田の部屋でやるわけない。俺の部屋は勉強会で見飽きた。消去法というわけだ。

 

 「お披露目。お前の味気ない部屋がどんな風になったのかと思って。正直驚いている。お前にこんなセンスがあるとは思わなかった」

 「そうだね。綾小路君ってこういうのに興味ないタイプだと思ってたけど、シンプルながらも纏まっててスタイリッシュって感じ。自分で選んだの?」

 「あー……。いや、そのだな」

 「……女子か?」

 

 言い淀む綾小路に池が素早く近寄りヘッドロックを決める。中々の手並みだ。綾小路も腕を挟み込んでいるから極まっていないしお遊びの範疇だろう。

 

 「ではこれより尋問を始める。綾小路、素直に吐いた方が楽になれるぞ」

 「まさかとは思うが俺達を裏切ったりしていないだろうなぁ?」

 「裏切るも何もそんな話はしていなかったと思うんだが……」

 「黙れ、俺達はな!非モテの絆で結ばれた同士なんだ!それをお前!抜け駆けとか許されないぞ!さあ吐け!誰ときゃっきゃうふふしながらこの部屋を作ったんだ!」

 「も、黙秘する……」

 

 池と山内が綾小路にウザ絡みし、それを窘める櫛田を眺めながら缶ジュースを呷る。爽やかな甘味が喉を通り過ぎる。ちなみにインテリア選びに一役買ったのは椎名だ。モールで偶然会って流れでそういうことになったらしい。見返りにたっぷり本談義に付き合わされたとか言ってたがその頬は緩んでいた。

 

 「お前はどうなんだ?池はあんなこと言ってるが」

 「興味ねえ。バスケでそんな暇ねえし」

 「ほーん」

 

 強がりなどではなく、須藤にとっての青春はバスケなのだろう。

 

 「おい春寺!お前も関係ないふりしてるけどな、疑いはお前にもかかってるんだぜ!」

 「はあ?」

 「お前、あの図書室で会ったおっぱいちゃんと仲良さげじゃないか。何度か2人で話してるところ見かけたことがあるぞ」

 「一之瀬のことか?友達だしな、会えば話ぐらいはするだろ」

 「本当か?本当にただの友達なのか?実は隠れて付き合ってるとかじゃないよな?吐くなら今のうちだぞ」

 

 う、うぜえ……。モテない男子の僻みとはここまで面倒なのか。けどこれが俺達の求めていた普通の学生が送る青春ってやつなのかもしれない。だったら付き合うのも悪くない。

 

 実力至上主義のこの学校で最初の山場を乗り越えた俺達は門限ギリギリまで楽しく騒いだ。

 




や、やっと1巻が終わった……。拙い文ですが読んでいただいてありがとうございます。これからものんびり続けていこうと思うのでよろしくお願いします。
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