グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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15話 拠点決めと探索

 クラスポイントをめぐってのクラス闘争──特別試験の内容を真嶋先生が淡々と説明していく。当然楽しいバカンスが待っていると思い込んでいた生徒からは非難の声が上がり、池が真嶋先生に食って掛かる。

 

 池はこのバカンスで女の子とお近づきになろうと考えていたのでまあ当然だな。試験勉強だって真面目に取り組んできた。今の池は4月にクラスポイントを0にまでした馬鹿どもとは違うのだ。だからこそまあ、この状況に納得がいかないのだろう。だまし討ちされたようなものだからな。ただ、池の批判は真嶋先生と茶柱にばっさりと切り捨てられた。

 

 これは大企業で実際に行われている、現時点で何者でもない俺達が社会で成功を収めている企業のやり方を否定できる根拠はない。現実と非現実の区別がついていないのは俺達の方だと。そう諭されて消沈する池とはまた別の生徒が非難の声を上げる。現状の不満を訴えた池とは違い、ここに連れてこられるまでの過程に対するもので、それについては一理あると教師側も認めた。そして、それに対する教師側の答えは企業の研修とは違って過酷な生活を強いるものではないから特別試験といってもいそれほど深く考える必要はないというものだ。

 

 今回の特別試験のテーマは『自由』。そう説明した真嶋先生が他の教師から厚みのある冊子を受け取って俺達にも見えるように掲げた。

 

 

 

 それからも説明は長々と続いたが、要は与えられた300ポイントの中で自由にやりくりして一週間過ごせということだ。一週間不自由なく過ごせるだけのポイントであることはリストを見る限り間違いない。ただし、この300ポイントで残った分は夏休みが終わった後にそのままクラスポイントになるのでクラスポイントが欲しければ節約する必要がある。

 

 一見すると協調性と我慢が重要な試験に思われるが、スポットという要素がこの試験を特別試験たらしめている。各地に設置されたスポットを、クラスのリーダーが専用のキーカードを用いることで占有が可能となり、8時間で占有が切れる。占有するとボーナスポイントが1加算され、試験終了時に加算される。ただし試験終了直前に存在する各クラスのリーダー当てで自分のクラスが当てられればボーナスポイントは消失する上にマイナス50ポイント。逆に当てた場合は1クラスにつき50ポイントを得る。外せばマイナス50だ。

 

 まああまり難しく考える必要はない。可能な範囲で節約して、リーダーを当てられないように動きつつスポットを占有、運よく他クラスのリーダーを知ることができれば指名してさらなるポイントを狙う。それだけの話だ。そのはずなんだが──

 

 

 

 「ふざけるな!クラスポイントの差を埋めるチャンスなんだぞ!トイレぐらい我慢しろ!」

 「そっちこそふざけないで!女子があんなのでトイレできるわけないでしょ!」

 「ふ、二人とも落ち着いて」

 

 俺の前では激しい舌戦が繰り広げられていた。なんでだろうなぁ(遠い目)。

 

 

 「今回の試験、思ったよりも厳しいものになりそうね。ただでさえまとまりのない上に平和主義の平田くんが間に入ったところでそう簡単に決着がつくとは思えないわ。下手をすればこの試験中ずっとこの状態が続くわ」

 

 綾小路と須藤、池と山内といったいつメンで小テストでも上位に名前があった幸村と気の強い篠原という女子生徒の舌戦を眺めていると、堀北が話しかけてきた。須藤達は勉強会の件が後を引いているのかそそくさと離れていった。残ったのは清隆だけだ。堀北は暑い日差しでやられ気味なのかどことなく顔色が悪い。

 

 「まあクラスの方針も決めてないんじゃこうなるだろ」

 

 ポイントを節約する。ある程度までは妥協する。いっそ使い切って試験を放棄する。それすらも決まっていないのだからトイレ1つにもこの有様だ。 

 

 「そのうち落ち着くだろ、20時までには拠点とリーダーを決める必要があるからな。それで堀北、お前は今回の試験でも上位を目指すのか?」

 「当然よ。勉強会の時はあんな形になったけれど、今回は協力してくれるわよね?」

 

 前も協力したというのになんとも酷い言い草である。

 

 「できる範囲でな。なんでもかんでもお前の言う通りに動くわけじゃない。俺達は学生生活を楽しめればそれでいい。Aクラスを目指すのもその一環に過ぎない」

 

 賭け試合だけでプライベートポイントは確保できそうだしな。

 

 「そう。ひとまずはこの言い争いを何とかして欲しいのだけれど、どうかしら?」

 「それぐらいならお安い御用だ。いい加減耳障りだしな」

 

 俺は言い争いを続ける幸村と篠原、その間に立つ平田の下へと歩み寄り声をかける。

 

 「幸村に篠原、ちょっといいか?一応クラスに5万プライベートポイントを持ち帰った功績者として、少し俺の話を聞いてほしい。クラスの皆もだ」

 

 こう言えば多少は俺の話を聞かざるを得ない。0ポイント生活をしていた時に5万という臨時収入を確保した俺の言葉はある程度の影響力がある。櫛田が証言してくれたこともあって俺が茶柱と交渉した結果のものだということは周知されている。

 

 「トイレだが、篠原に味方するわけではないが1つでは現実的に考えて厳しい。少なくとも仮設トイレ1つは設置するべきだと思う」

 「流石春寺くん!」

 「なっ!」

 「幸村、トイレというのは案外馬鹿にできないぞ。絶対にストレスが溜まり、そのうち爆発する。極限のサバイバルに置かれているならともかく、俺達には仮設トイレという選択肢があるんだからな」

 「だが、20ポイントの差は大きいぞ。我慢するだけでいいのなら我慢するべきだ」

 「いいや無理だな。絶対に我慢できなくなる。幸村、女子がトイレにどれだけの時間を必要とするのか知っているか?女性特有の体調不良のことだってある。個人差も大きい。それでトイレを長く占領されても文句を言わないんだな?他の生徒から苦情ができた時に対応できるのか?もしトラブルが起きた時にお前は責任を取れるのか?幸村の意見を通すということはそういうことだぞ」

 「うっ……」

 

 責任という言葉を聞いて幸村は少し及び腰になった。まあそうだろうな。何が起こるかわからない状況で大人だって責任を取る立場を嫌がることは少なくない。そして生理に関して俺が濁して言及すると女子から幸村に向けられる視線が一層鋭くなった。

 

 「篠原、すまない。僕の考えが足りなかったようだ」

 「別に、わかってくれるんならそれでいいわよ」

 「そして篠原も。ただ無理と言うんじゃなくてちゃんとその辺のことを言葉で伝えるべきだ。いくら言い難くてもな。幸村だってちゃんとした理由があるのなら聞いてくれるはずだ。そうだな?」

 「ああ。僕も視野が狭くなっていたようだ。春寺ほど深く考えられていなかった。ポイントを節約したいという考えに変わりはないが、僕の理解が不足していると思ったのなら言ってくれ。必ず話を聞くと約束しよう」

 「……私も、ごめん。ちょっと感情的になってた」

 

 よし、ひとまずは落ち着いたな。平田の方に視線を向ければ、頷きが返ってくる。

 

 「皆、聞いて欲しい。春寺くんが説明してくれた通り、トイレはとりあえず最低1つは設置したいと思う。これに反対の人はいるかな?」

 

 まあいたとしてもこの空気で言い出せるはずがないがな。全員から白い目を向けられるに決まってる。

 

 「よし。じゃあまずはベースキャンプの探索に出るべきだと思うんだけど、この中にそういうのに適した場所に詳しい人とかいるかな?」

 「俺、キャンプ経験あるぜ」

 「俺も似たような経験がある」

 

 手を挙げたのは俺と池の2人だ。ちなみに俺は獣もいるジャングルで5日間ほど過ごしたことがある。

 

 「じゃあ池くんと春寺くんを中心に4人ぐらいのグループを2つ作ろうか?それとももう少し人数を増やした方がいいかな」

 「そうだな、最低限水場が近くにあることが望ましい。俺と池が見つけられるかも不明だし、数は多いほうがいい。ただし、森を歩くのは考えているよりも危険だし体力もいる。それを踏まえた上でグループを作る必要があるぞ。もちろん学校の手が入っている以上最低限の安全は確保されているだろうがな」

 「ありがとう。皆、聞いた通りだ。まずは志願者を募ろうと思う。探索に乗り出してくれる人はいるかな?」

 

 平田の呼びかけにちらほらと手が上がる。その結果、15人で4グループが結成され経験者の俺が入るグループが3人になった。池のグループには4人いる女子のうち2人を配置している。やはり男女の体力差はあるので森歩きに多少慣れている池にその辺のフォローをしてもらう。

 

 そして俺のグループは俺と清隆、そして──

 

 「ふっ、実に清々しい太陽だ。君もそう思わないかい?優斗」

 

 高円寺六助。この自由人だ。六助が探索組に名乗り出たからこそ俺のグループが3人になったとも言える。クラスでは敬遠されがちな六助と名前で呼び合っているのは知られているからな。

 

 

 

 

 

 そして探索を始めて3分後。

 

 

 「ハッハァ!やはり君は私が見込んだ通りの男だよ、優斗!」

 「ふっ!六助こそ、俺のスピードについてくるとは流石だ!」

 

 俺と六助は森の中を縦横無尽に走り回っていた。パルクールさながらに生い茂る森をノンストップで突き進む。清隆は置いてきた。この戦いについてこれそうも……ついてこれそうだが実力を隠しているあいつは俺達についてくることを早々に諦め平田達の所に戻った。六助がいきなり走り出した時はどうしたもんかと思ったけど、久しぶりに身体を思いきり動かしていることもあって正直楽しい。毎日ランニングはしているがそれだけではどうにも物足りなかったからな。先頭を奪い合いながら競うようにして俺と六助は全身を使って躍動する。

 

 

 「ふっ、互いにいい汗をかけたようだね。大自然の中、爽やかな汗を輝かせながら佇む私……実にビューティフルだ。この場に画家がいないのが残念でならないよ」

 

 少し開けたところに出たところで六助が止まったので小休止を挟む。上半身裸になってポージングを取る姿は様になっているのだがどことなく腹が立つのはなんでだろうな。

 

 「時に優斗。君にはこの森がどう見える?」

 

 意味深な目でこちらを向けながら六助がそんなことを聞いてくる。何らかの確信を持った問いかけだ。恐らくは俺と同じ結論に達しているのだろう。

 

 「まあ、森というか公園みたいなもんだろ。昼間はかなり自由に動いても問題なさそうだ」

 

 生徒に一週間も過ごさせる以上は当たり前なのだが、この森というか島全体に管理が行き届いている。なんならここまでの道中あからさまに不自然な場所に生えた野菜や果物をいくつか見かけた。

 

 「オーケイ。その様子だと十分に観察はできたようだね。拠点になるような場所は見つけていないが、成果としては問題ないだろう。どうだい?これで君の不興を買わないぐらいの成果にはなったかな?」

 「なんだ、珍しくクラスに協力的だと思ったらそんなこと考えてたのか。こう言っては何だが意外だな」

 「他の凡人ならともかく、君との関係は友好的に保っておいた方がよさそうだからね。いかに私といえど、君とやりあって無事で済むかは断言できない。無論、勝つのは私だがね。入学式の日に受けた心地よい殺気、実にスイートだったよ。いったいどんな人生を送ってくれば君の年齢であんな殺気を放てるのやら、非常に興味深い」

 

 やはりというべきか、六助は俺の手がすでに赤く染まっていることには気付いているようだ。その上でこの態度なのだとしたらかなりの大物か特大の阿保だ。六助の場合は前者なのだろうが。

 

 「その節は失礼したな、あの日までは学校生活に大した期待をしていなかったもんでな。殺気に関してはまあ、ここに来るまでは清掃のバイトをしてたからな。とはいえ俺は中学生だったからボランティアで参加した日に豪華なお菓子をご馳走になるだけだったがな」

 

 公的にはそうなっている。有限会社アサヒクリーン。それが表におけるCIRSの名前だ。

調べたところで何も出てこないが。有限会社アサヒクリーンは極めて健全な企業です。

 

 「……ハッ。ハッハッハ!なるほどなるほど、つまり君はゴミ掃除の経験が豊富にあると」

 「まあな。市ヶ谷。ここを卒業したら父親に尋ねてみるといい。高円寺コンツェルンとの繋がりはこちらとしても持っていて損はない」

 

 コネ作りは一応この学校に入る前にJBからも頼まれているし、これぐらいなら情報漏洩には当たらない範疇だ。伝手がないと調べたところで何もわからないし、辿り着けるのなら手を組めるか交渉する余地はあるということだ。最悪日本を売るような真似をしないと確約できればそれでいい。

 

 「貴重な情報提供、感謝するよ。私が継いだ暁には君との友情の証として君がバイトしていたという会社に出資するのも悪くなさそうだ」

 「そりゃ助かる。人員不足でな、給料が上がるのならその辺も解決できそうだ」

 

 こんな高校につぎ込むぐらいならもっと予算増やしてくれ。

 

 「中々世知辛いようだねぇ。いっそそんなところは辞めて高円寺コンツェルンに来ないかい?君なら好待遇で迎え入れようじゃないか」

 

 ちょっと心揺れ動くから止めろ。……雄二とJBも一緒ならいいかもしれない。

 

 「そろそろ戻った方がいい頃合いだろう、私はこのまま船に向かうとするよ」

 「ん?リタイアするのか?」

 「こんな場所で一週間も夜を明かすなど、この私には相応しくないからねぇ」

 「だったらリタイアする前にスポットの場所探しておいてくれないか?20時までにリタイアすれば点呼のマイナスもないし、それぐらいは頼むよ」

 「ふっ、まあ君に免じてそのぐらいは引き受けよう。それではアデュー!」 

 

 高円寺はそう言って木の上に飛び移り、颯爽と去っていった。忍者かおのれは。

 

 

 

 俺がクラスの下に戻ると、随分と興奮した様子の池が平田になにやらまくし立てていた。

 

 「おかえり、優斗くん!綾小路くんから話は聞いたよ、大変だったみたいだね」

 

 俺が戻ったことに真っ先に気付いた櫛田が駆け寄って素敵な笑顔で出迎えてくれた。

 

 「ああ。なんとか六助についていこうとしたんだが結局はぐれてしまった。拠点になるような場所は見つけられなかったが、一応それなりの収穫はあったぞ。それよりも今、優斗って……」

 「あ、うん。駄目、だったかな……?船の上で帆波ちゃんがそう呼んでるの見て、私もそうしたいなって思ったんだけど……」

 

 駄目じゃないです。狙ってではあるが、一之瀬と同じように上目遣いで頼まれてしまっては断ることなどできるはずもない。

 

 「ありがとう!私のことも名前で呼んでくれると嬉しいな」

 「わかった。遠慮なく桔梗と呼ばせてもらおう」

 「うん!えへへ、男の子に名前で呼ばれるの、ちょっと照れるね」

 

 ホントにぃ?船の上で池と山内に呼ばれた時はそんな素振り欠片もなかったぞ。

 

 「あ、おい春寺!こっち来てくれよ、綺麗な川見つけたんだよ!スポットらしき装置もあった!今健達が見張ってる!お前も一度見てくれよ!」

 「へえ、それは大手柄じゃないか。どこだ?」

 

 池に呼ばれたのでそちらに向かう。水源を確保できるのならかなりのポイント節約になるだろうな。

 

 「あっちの方向だ!10分ぐらいで行けるしすぐ動こうぜ!」

 「待ってくれ池君。まだ残りの2チームが戻ってない」

 「あ、そうか……。でも早く占有しとかないと健達も待ちくたびれちまうぜ」

 「うん。だからここには僕が残るよ。拠点に適した場所かどうかは春寺くんの方が判断できるだろう?そこを集合場所にしよう。僕も他のチームが戻り次第向かうよ。君なら皆も不満はないはずだ」

 「お前がそう言うなら俺は構わんが……」

 

 見回してみるが特に不満の声は上がらなかった。どうやら暫定的に俺がサブリーダーみたいなものをやることになりそうだ。

 

 「わかった。平田が戻るまでは俺がクラスを纏めよう。ただ平田一人は流石に危険だぞ」

 「あ、だったら私も残るよ。彼女だしさ」

 

 俺がそう言うと迷惑ポニーテール1号の軽井沢が名乗りを上げた。言うまでもなく2号は茶柱だ。言っていることはそこまでおかしくもないのでそのまま平田と軽井沢をその場に残し、俺達は池の先導に従い移動を開始した。

 

 

 

 「堀北、どうする?何か考えがあるなら一応聞いておくが」

 「いえ、ここはあなたに任せるわ。経験もあるのでしょう?私が口を出すよりはその方がいいはずよ。最も、ポイントをできるだけ残してほしくはあるのだけれど」

 「わかった。ただ俺達がするのは40人での集団生活だ。ある程度のポイント消費は必要経費だと考えておいてくれ。それとこれはおせっかいだが、この機会にクラスと交流を持った方がいい。薄々気づいてるんだろう?このまま1人でAクラスを目指すなんて無理だってことは」

 「それは……。そうね、私が切り捨てた池君にキャンプ経験があって、それがこの試験で有利に働くのは事実。癪だけどあなたの言う通りみたい。ただ、私はクラスの皆と仲良くできる気がしないわ」

 「仲良くしろって言ってるんじゃない。パーソナリティを把握しろって言ってるんだ。Aクラスを目指すのならお前がクラスを引っ張らなきゃならない。クラスの人間関係、個々人の趣味趣向。そういったものさえ知っていれば十分だ。まあ最低限友好的な関係は必要だけどな。お前が嫌いってだけで協力しない理由になるんだからな」

 「そんなことをしても何の得にもならないどころかポイントが減るだけだと思うのだけど」

 

 その通りだが人間には感情がある。ならば感情を計算に入れないのは愚か者のすることだ。そして、感情も含めてコントロールしないとこの学校では勝ちあがることはできない。そう言うと堀北は少し考えこむ様子を見せたので俺は先頭を歩く池の下へと向かう。清隆と山内もいた。

 

 「おー春寺。もうすぐ着くぜ、まじで綺麗な川なんだ。あの感じだと飲み水にも使えそうだぜ、ポイント節約にもなる」

 「まあスポットになってるんなら学校側が管理してそうだからな。ただ川の水を飲むのには抵抗を覚える人間も多い。池が初めてキャンプした時はどうだった?」

 「あー確かに。なんか怖くて結局ペットボトルの水飲んでた気もするわ」

 「だろ?だから飲み水に使うことを提案するときはその辺のこともちゃんと考えないとな。気遣いのできる男はモテるぞ」

 「女子なら尚更だよなあ。うっし、ここらでイイところ見せて好感度ばっちり稼いでやるぜ」

 

 

 

 「いい場所じゃないか。日陰もあるし地面も均されている」

 

 スポットにもなっているということはここは学校が意図的に作った場所なのだろう。似たような場所が複数あると考えられる。池が発見したこの場所はその1つということだ。

 

 「だろ!だろ!」

 

 池が笑顔を浮かべて手柄を主張してくるので頷いておく。

 

 「拠点はここでいいだろう。平田が戻ってきたらまだ探索に出ているやつらも含めてリーダーを決めよう。じゃあ早速だがポイントの使い道について話そうか。全員、手ごろな場所に腰を下ろしてくれ!さっきみたいな揉め事はなしだ、あくまで案だから冷静に話し合うぞ。聞く方は意見をちゃんと聞く、話す方は意図と実現性をちゃんと説明する。クラスが割れたら学校の狙い通りだぞ、これはそういう試験だ」

 

 学校側を悪者ポジションにおいておけば統率も取りやすい。今回はクソを煮詰めたようなDクラスでも比較的落ち着いて話し合えた。平田たちが戻ってきたところで改めて案を煮詰めて150ポイントまでは遠慮なく使うことが決まった。リーダーは櫛田のイチオシもあってまさかの堀北に決まった。他クラスから当てられにくい生徒、その中でも責任があるからとか言ってたがどう考えても裏があるだろ。そう思うのは俺の考えすぎだろうか。

 

 

 

 テントの設営が終わったところで俺と清隆は平田に頼まれて焚火に使う枝を探しに出ていた。池や須藤達も同様だ。ちなみにテントは支給された2つを女子が、ポイントで買えるものを1つだけ購入し男子が日替わりで使うことになった。女子が2つとも使うのは仕方がない。男子が1つなのは折衷案だ。ポイントを抑えたいという意見と1週間土のベッドは流石に勘弁だという意見がぶつかった結果そうなった。テント1つは10ポイントなので、まあ節約したいって意見もわからなくはない。俺個人で言えば一週間野宿でも全然構わないし。けどそれは俺が慣れているからであって他のやつらは違う。いつもと違う環境だと気付かないうちに疲れが溜まるので、やはり2日に1回でもマシな環境で体を休めた方がいいことに間違いはない。大体今回の試験は揉めて試験後にも後を引くようなことがなければ極論0ポイントでもいいのだ。この1回で逆転ができなくなるってことはまずないはずだ。

 

 「優斗、堀北のことなんだがもしかしたら体調を崩しているかもしれない」

 「やはりか。俺もそんな感じはしていたが、清隆も同じ意見なら間違いないな。まあいいだろ、それならそれで使い様はある。堀北と仲のいい清隆にとっては不本意かもしれないがな」

 「いや待て。俺は別に堀北と仲がいいわけじゃないぞ。友好度で言えば一之瀬……帆波や椎名の方が圧倒的に上だ」

 「そうなのか?」

 

 それにしてはよく会話しているのを見かけるが。

 

 「そりゃ隣の席だから多少話したりするぐらいはするだろ。それに堀北はどうもオレのことを探っているフシがあるからな。話してて楽しいわけじゃない。だからお前が考えているアイデアを実行することに反対はしないぞ。むしろ賛成側だと言ってもいい」 

 

 そんなもんか。じゃああの時櫛田に清隆がMかもしれないって言ったのは間違いだったかもしれないな。

 

 「そうか、それは悪かったな。帰ったらもう一度スペシャル定食を奢ろう」

 「どういう意味だ?……いや待て、わかった。やはり櫛田の一件はお前のせいなんだな?そうなんだろ?オレの目を見て話してみろ優斗。おい!」

 「まあまあもう済んだことだ、気にするな。……ん?おい清隆、あれ見てみろ」

 「誤魔化すな。いい加減吐いてもらうぞ」

 「いや本当に、見てみろって」

 「ったく。あれは、うちの女子……じゃないよな」

 「ああ、見覚えはない」

 

 俺達の視線の先には、頬を赤く腫らして木に背中を預ける女子生徒がいた。

 

 「一応話を聞いてみるか。Bクラスだったら帆波達が必死になって探してるかもしれない」

 「そうだな」

 

 俺達は女子生徒に近づき話しかける。

 

 「どうしたんだ?迷ってるなら道まで案内するぞ」

 「……ほっといてよ。何でもないから」

 

 返ってきたのはそんなぶっきらぼうな答えだった。

 

 「そういうわけにもいかない。見かけてしまった以上放置はできない。どこのクラスだ?」

 「……Cクラスだけど」

 「なんだ。行こうか清隆」

 「そうだな」

 

 Bクラスじゃないならいい。ましてやCクラス。俺と清隆は踵を返した。それを見て焦ったように女子生徒が声をかけてきた。

 

 「え。ちょ、ちょっと待って!」

 「なんだ。何でもないんだろ?」

 

 そう返すと今度は無言になった。何も言う気配がないので、そのまま俺達は拠点とは違う方向にしばらく歩いてから帰った。

 

 「どう考えてもスパイだよな」

 「Cクラスだしな。見え見え過ぎる。あれで俺達が仏心出して一緒に来いよなんて言うと思われていたんだったら龍園のおつむも知れてるな。あれに引っかかるのはお人好しか考えなしの間抜けだ。帆波や平田だったら連れ帰りはするんだろうがこの状況なら警戒もするだろうしな」

 

 まあ直接的な妨害じゃないあたり龍園も口約束のことは忘れていないらしい。この程度なら俺が禁止したちょっかいじゃなくて正攻法ではない策のうちだろう。残念がら通じなかったが。

 

 

 

 「帰ったぜ~。あ、おい春寺、綾小路!お前ら何酷いことしてんだよ、こんな状況で女の子見捨てて帰るとかそれでも男かよ?まあでも感謝しろよな、こうやって俺がお前らのミスをカバーしといてやったからよ」

 

 だが俺達は忘れていた。Dクラスには考えなしの間抜けがいることを。俺達よりも遅く帰ってきた山内の後ろには、俺達が見捨ててきたはずの女子生徒が気まずそうに佇んでいた。

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