グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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2話 初めての親友

 中々どうして面白そうな学校だ。先ほど入ってきたDクラスの担任だというスーツを決めたポニテおっぱい女教師、茶柱佐枝による学校に関しての説明を聞きながら先ほどのことを思い出す。

 

 気配と足音を消して教室に入った俺は、殺気を放った。興味本位でやってみたほんの戯れだったが、まさか二人も気付くとは。後ろの席に座っている綾小路と、前の方に座っている金髪の男。どちらもかなりの実力者であることは間違いない。ただ綾小路は俺の殺気に気付きながらも惚けたふりをした辺り、何らかの理由で平凡を装っているようだ。金髪の男に関してはまだ会話してないから何とも言えない。一瞬興味深そうに視線を送ってきたから近いうちに接触があるかもしれない。……大切な友達候補だ、仲良くできたらいいのだが。市ヶ谷でも上手くやっていけそうだし、仲良くなれたら進路として誘ってみようかな。友達だと紹介すればJBも喜んでくれそうだ。

 

 「今から配る学生証カード。これを使うことで敷地内の施設を利用したり、売店で商品を購入することができる。クレジットカードのようなものだ。ただし、支払いに用いるのはポイントなので注意しろ。学校内においてこのポイントで変えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、なんでも購入可能だ」

 

 ……しかし、監視カメラが多いな。防犯目的にしてはいささか大仰だ。四方どころじゃないぞ。この教室で隠れて何かをするのは不可能に近い。となると、目的は俺たち生徒の監視か?茶柱先生の話は聞きながら、俺は思考を切り替える。並列思考は俺たちにとって基礎の基礎だ。これができないようでは市ヶ谷でやっていけない。

 

 1ポイントには1円の価値があり、毎月1日に支給される。そして今の俺達には平等に10万ポイントが振り込まれている。この10万円は今現在の俺たちの価値と可能性に対する評価。この学校は実力で生徒を測る。なるほどな、なんとなく学校の思惑が見えてきたな。そう考えるとこの監視カメラの目的も自ずとわかる。

 

 俺からすれば大した金額ではないが、10万円というのは高校生にとってはかなりの大金だ。それを生徒1人1人に配る。学校の気前がいいという話では済まないだろう。1クラス40人が4クラス。それが3学年分となれば、この学校は年間に5億7600万円も生徒に配布している計算になる。率直に言ってあり得ない。ある程度の裁量はあるだろうが、国営の学校でそんな無駄遣いはありえない。この学校の会計報告は恐らく一般の国民では閲覧することができないようになっているだろうが、政府の人間からしても無能な人間に血税を投入するという判断は下せない。

 

 つまり、先ほど茶柱先生が言っていた「この学校は実力で生徒を測る」という言葉と合わせて考えると、「支給されるポイントは生徒の実力によって増減する」という推測が成り立つ。将来有望な生徒に多くポイントを支給するというのであれば、政府の上層部もまだ納得ができるだろう。学生で言う実力……まあ簡単に考えればテストの点数や日頃の授業態度だろう。それさえ気を付けていれば大きく減額されることはないはずだ。それにしても一教育機関にかける金額としてはかなりのものだが、この学校の生徒にはそれほどの価値があるということだろうか。

 

 「質問はないようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 おっと、思考に耽るあまり質問する機会を逃してしまったか。まあいい、後で個人的に聞けば済む話だ。今は教室の様子を伺うとしよう。

 

 「思っていたほど堅苦しい学校ではないみたいね」

 「確かに、何というか物凄く緩いな」

 

 後ろの席では綾小路が隣の女生徒とそんな会話を交わしていた。流石にこれだけの会話では綾小路がこのポイントの仕組みに気付いているかどうかわからない。平凡を装っているのであれば気付いていないふりをするだろうしな。そもそもまだ俺の推測に過ぎない段階なのではっきりとしたことは言えないか。

 

 他のクラスメイトたちは降って湧いた10万円という大金に浮足立っているようだ。早くも10万円の使い道を周りと話し合っている。そんな中で1人のイケメンが立ち上がり、自己紹介してはどうかと提案した。パッと見て判断する限りは人当たりのいい高青年といった感じか。演技のような雰囲気も感じさせず、根が優等生なのだろう。提案者でもある自分から自己紹介をし、早速女子の目を集めている。おい。

 

 おいおいおい。

 

 ふざけるな、高校生は頭の良い奴がモテるんじゃなかったのか麻子。あいつ顔だけでモテてるじゃないか。俺たちに嘘を吐いたのか麻子。決めた。絶対にあいつとは仲良くしない。俺と同じ判断をした男子生徒もちらほらといるようだ。恨むなら自分の顔面を恨むんだな平田。

 

 そんなことを考えている間にも自己紹介は続こうとしていた。っと、自己紹介もいいが今はさっきの推測の裏付けの方が大切だ。俺は茶柱先生を追いかけるために席を立った。だがそのせいで自己紹介する流れになっていた教室の中で浮いてしまったようだ。クラスメイトの視線が俺に集まる。

 

 「えっと、自己紹介は端からしてもらうつもりだったんだけど君からやるかい?」

 「悪いが用事があってな。自己紹介は省かせてもらう、とはいってもこれだと感じが悪いな。名前だけ名乗っておこう、春寺優斗だ」

 

 これ以上のロスは時間がもったいない。そう判断した俺は誰かが声を上げる前に荷物を掴み、颯爽とと教室から出て茶柱先生の後を追った。

 

 

 

 職員室に入る直前だった茶柱先生を捕まえ、いくつかの質問をした後偉い人のありがたいお言葉を頂戴するだけの入学式を終えた俺は、敷地内を見て回り小腹が空いたところで目についたコンビニに入った。するとそこにいたのは、俺の親友候補である綾小路清隆と、その隣の席である女子生徒だった。

 

 「よう、綾小路。お前も買い物か?」

 「ああ」

 「そっちは……ええと悪い、名前教えてもらえるか?確か同じクラスだったよな」

 

 声しか聞いてなかったけど、綾小路の隣の女子生徒はとんでもない美少女だった。黒髪ロングのストレート、スラっとしながらも程よい肉付き、これほどの美少女にはなかなかお目にかかれない。ぜひとも仲良くしてほしい、そう考えた俺は極めて友好的に会話を試みた。

 「その必要性を感じないわね。同じクラスとはいえ、特にこれといった関わりがあるわけでもないのだし、気安く話しかけるのは止めてもらえるかしら」

 

 きっつ。山なりにボール投げたらえげつないスピードで返ってきたんだけど。デッドボールだよこれ。初対面への対応か?お堅い軍人だってもう少し柔らかい態度だぞ。いや、向こうはお国柄かウィットに富んだジョークを交えるやつとかいたし普通に初対面でも仲良くなれたな。誰とでもある程度は仲良くしとかないと死に直結するからな。特に同じ部隊の人間なんて家族のようなものだ。元気にしてるかなあいつら。

 

 「そ、そうか。それは悪いことをしたな」

 「ええ。今後は気を付けて頂戴。それじゃ私は失礼するわね」

 

 名前も知らない女子生徒はそう言うと俺たちから離れ買い物に戻っていった。これ以上話しかけるなというオーラを全身から立ち上らせている。

 

 「すまん、せっかくの買い物に水を差してしまったな」

 「いや、堀北とは偶然会ったに過ぎない。お前が気にする必要はない」

 

 おかしいな、心なしか綾小路とも距離がないか?というか気のせいでもなんでもなく警戒されてるな。なんで?(心からの疑問)それとあの子の名前は堀北ね、教えてくれてありがとう。

 

 だがこれしきのことで俺はくじけない。楽しい高校生活を送るためにもこいつの心を開いて見せる。ここは市ヶ谷仕込みの話術を見せるところだ。まずは何気ない会話から仲良くなるきっかけとなる共通点を探り出すとしよう。

 

 「綾小路は何を買いに来たんだ?」

 「特にこれと決めたものはないな。何があるのかと気になって立ち寄っただけだ」

 「奇遇だな、俺もなんだ。せっかくだし少し話しながら見て回らないか?」

 「……ああ、いいぞ」

 

 よしよし、いい感じだ。まだ警戒はしているようだが俺と綾小路はコンビニを徘徊しながら商品についての感想を語り合う。そこで気付いたのが、こいつコンビニ初心者ではないか?ということだ。無表情を装っているが、商品を手に取るたびにわくわくしているのを隠しきれていない。家が厳しかったのかもしれない。カップ麺を手に取って嬉しそうにしている綾小路を見て俺はそんなことを考えた。

 

 「こんなに種類があるんだな」

 「料理する時間のないあらゆる人間のお伴だからな。飽きが来ないように色んなバリエーションがあるんだ。その口ぶりだと食べたことがないのか?」

 「家がとんでもなく厳しくてな、実を言うとコンビニに来たのも初めてなんだ」

 「それはまた珍しいご家庭もあったもんだ。それなら何もかもが新鮮だろう」

 「ああ、正直心踊っている」

 

 これだな。家が厳しくて世俗に疎いであろう綾小路に色々と教える。この線で仲良くなろう。任せてくれ親友、俺がお前にあらゆる娯楽を叩きこんでみせる。伊達にJBにあちこち連れまわされてないんだ。

 

 「これ、凄いサイズだよな。Gカップって」

 「そうだな、胸躍るサイズだ」

 

 綾小路が陳列棚でひときわ目立っていたカップ麺を手に取った。俺と綾小路は目を合わせると全く同じタイミングで少し離れたところで日用品を手に取っている堀北へと目を向けた。貧乳ではないがGカップには遠く及ばない。そんな絶妙なサイズだ。

 

 「不愉快な視線を感じたのだけど」

 「何のことだ?俺たちはあそこに掛けてある時計を見ていただけだ、なあ綾小路?」

 「そうだ、やましいことなんて何もないぞ堀北」

 「本当かしら……。まあいいわ。それより、そのカップ麺を買うつもり?学校には健康管理に気を遣った食事を出す施設もあるだろうし、身体に悪いんじゃない?」

 「それはそうだが……」

 

 綾小路は堀北の言葉を受けて少し悩む素振りを見せたが、結局興味は抑えきれなかったのだろう。いくつかのインスタント食品をカゴに入れた。堀北は忠告を無視された形になるが、何かを言うこともなく俺たちから離れていった。

 

 

 

 「こんなもんか」

 「ああ。色々教えてくれて助かった。ありがとな、春寺」

 「なんの。助けになれたのならそれでいい。クラスメイトなんだし堅苦しいことは言いっこなしだ」

 

 先に出た堀北に続き、俺たちは買い物を終えてコンビニから出た。レジ袋の中身はそれほど重くない。コンビニは色んなものが揃っていてどこにでもあると便利な分少し割高になるということを教え、買う商品については吟味を重ねたからだ。

 

 「それにしても無料商品か……。どう思う、春寺?」

 

 綾小路が手に取ったのは、コンビニ内で無料と書かれたワゴンに詰められていた日用品だ。1か月3点までという但し書きも添えられており、一般的なコンビニとは明らかに違った。間違いなくこの学校内独特のものだ。

 

 「そうだな、普通に考えればポイントを使いすぎた生徒への救済措置じゃないか?あるいは、ポイントを得られなかった生徒が生活に窮しないようにという配慮。うちの子が酷い生活を送ったなんて苦情が卒業後に寄せられたら学校も困るだろうし」

 「どういうことだ?俺達には毎月ポイントが振り込まれるだろう?」

 「場所を移そうか。あまり他の人に聞かれたくない」

 

 教室で見た記憶のある、粗暴な雰囲気を持った男とすれ違いながら俺たちはコンビニを後にした。

 

 

 

 「それで、わざわざ部屋に招き入れたのはどういうつもりだ?話なら歩きながらでよかったんじゃないか?」

 

 俺に襲われるかもしれないと考えているのだろう、俺とある程度の距離をとった綾小路。彼我の距離は3メートルもない。だが一瞬で詰めて殺しあえる距離だ。俺にとっても、綾小路にとっても。

 

 「まあそう警戒するな。言っただろう?あまり他に聞かれたくないって」

 

 とはいえ俺に綾小路へ危害を加える意図は全くない。友達になりたいだけなのだから。

 

 「いいか?俺たちには毎月初めにポイントが振り込まれる。これは間違いない」

 「ああ、そう説明されたからな」

 「ただし、毎月10万ポイントが振り込まれるわけじゃない。茶柱先生の説明をよく思い出してみろ」

 「……確かに、ポイントの支給額に関しては言及していないな」

 「そう、そしてこの学校は実力で生徒を測る。そうも言っていた」

 「なるほど、つまりお前は毎月に振り込まれるポイントは生徒の実力によって増減すると言いたいわけだ。凄いな、全然気づかなかった」

 

 棒読みなんだよなあ……。俺と同じく確信はないながらも頭の片隅にはその可能性を置いていたはずだが、お前の実力には気づいていると匂わせた俺の前でも平凡を装うのはいっそ清々しいまであるな。

 

 「ああ、茶柱先生にも言質はとってある。といっても言質がないという言質だが。ポイントに関して質問したらはぐらかされたからな。たぶんこの1か月は俺たちを測る様子見の期間だ。そして来月の頭にこのポイントの増減に関する説明をするんだろう。それまでは上級生も教職員も口をつぐんでいる、そういう決まりになっているんじゃないか?で、ここからがお前を部屋に入れた目的なんだが」

 

 さも重要な秘密かのようにしてここまで連れてきたが、こんなものはある程度の知恵が回る人間ながら誰でも気付くはずだ。本題はここからだ。俺の空気が変わったことに気付いたのだろう、綾小路も即応できる体勢を取った。……自業自得とはいえここまで警戒されるのはなかなか辛いものがあるな。今度から友達探しに殺気をふりまくのは止めよう。

 

 「綾小路。お前、なんで実力を隠しているんだ?」

 「……言っている意味が分からないな」

 「惚けるのはよせ。教室でも俺の殺気に反応したし、窓ガラス越しに目が合っただろう。あれに気付ける高校生なんてどう考えても普通じゃない」

 「……」

 「信用できないだろうが、誓おう。お前の実力に関して俺が他者に話すことはない。殺気を出したのもほんの戯れだったんだ。どうせ友達を作るならこれに気付けるような奴の方が学校生活が面白くなりそうだからな」

 「……つまり、何か?春寺、お前はオレと友達になりたいということか?」

 「そう言ってる。……そうだな、信用してもらうためにもある程度俺の身の上でも話すか。察しているだろうが、俺も結構な訳アリでな。お前の身に危険が及ばない範囲で情報を開示しよう」

 

 

 

 「……これが、ざっくりとした俺の過去だ。俺がここに来たのは、世間で言う青春を送るためだ。俺と同年代の人間が送る一般的な学生生活、そいつを体験したい。その上で、どうせならこの学校を楽しんで卒業したい。お前が拒むのであれば俺はこれ以上お前に干渉しない。お前との関係はあくまで同じクラスに所属する人間だ、約束する」

 

 さて、綾小路は俺と友達になってくれるかな。もし駄目なら潔く諦めてあの金髪男と友達になろう。そっちも断られたらどうしよう。……退学届け出してJBに慰めてもらおうかな。

 

 「そうか。お前も……」

 

 綾小路は目を閉じて何かを考えている。彼が初めて俺の前で晒した明確な隙に、少々の戸惑いを覚える。今なら容易く綾小路を仕留められるだろう。しないが。

 

 「春寺、辛いはずの過去を話してまでオレと友達になろうとしてくれてありがとう。お前の誠実さに応えるためにも、オレの話を聞いてほしい。そして、その前にこれだけは伝えておこうと思う。オレも、お前と友達になりたい」

 

 それから、俺は綾小路のこれまで辿ってきた人生を聞いた。

 

 この日、俺と綾小路は親友になった。




綾小路を救うチャンスは茶柱先生が接触してくるまでのほんのわずかな期間にしかないのほんと可哀そう。

綾小路がそう簡単にホワイトルームのことを話すはずがないという当然のツッコミはあると思いますが、お互い肝心の部分はボカしつつまともではない環境で育ったということを語り合っただけです。そんな肩肘張って読む作品でもないのではいはいご都合主義と流してください。

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