グリザイアの教室 作:光と闇の竜
Dクラスの授業態度は最悪だ。寝てるやつもいればサボるやつもいる。それはまだいいのだが、問題は私語をするやつらだ。池や山内といったお調子者もそうだが、特に軽井沢とかいうギャル女。クラスの中心である平田の彼女というポジションを手に入れていい気になっているのか、教師の解説が聞こえないほどの大声で話しやがる。俺がすでに高校の範囲を終えている優等生でよかったな、そうでなければその目障りなポニーテールを引っこ抜いていたところだ。
だがそれも1月の辛抱だ。これだけ騒いでいれば実力で生徒を測るこの学校のシステムに照らし合わせれば来月お前に入るポイントはおそらく0だ、もちろん他の騒いでいる奴も含めてな。そうなれば真面目に授業を受けるようになるだろう。現状で何の立場にもない俺が声を上げたところで意味はない。彼氏である平田の言葉も聞かないんだからな。俺と綾小路が楽しみにしていた高校生活のスタートを台無しにしてくれた恨みは、来月お前たちが0ポイントに阿鼻叫喚する様で晴らしてやるからな。
とはいえこのままでは俺と綾小路の学校生活はまったく楽しくない。授業中にバカ騒ぎするような奴らと交流を深めたくもない。ではどうすればいいのか、簡単だことだ。他のクラスに混じればいい。
「……というわけなんだ。俺たちもBクラスがよかった」
「にゃはは。相変わらずそっちのクラスは大変みたいだね」
昼休み、俺と綾小路は食堂にてBクラスの面々と昼食を食べていた。俺の向かいに座り朗らかな笑みを浮かべている女子生徒の名前は一之瀬帆波。今どき珍しい根っからの善人だ。期待していた高校生活を裏切られた俺と綾小路が暗い表情で無料の山菜定食を食べていたところにわざわざ声を掛けてきたあたりそれは間違いない。だって俺たちのネガティブっぷりに引いた生徒たちは5メートルほどの距離を取っていたからな。そして俺たちがDクラスの授業崩壊レベルの惨状を悲壮感たっぷりに語ると、「だったらお昼は私たちBクラスと一緒に食べない?」と提案してくれたのだ。Bクラスの男子も連れてきてくれて俺と綾小路は無事に友達を増やすことができた。天使か?
そしておっぱいがデカい。おっぱいがデカい。二回言ったのは重要なことだからだ。天は二物を与えないはずじゃなかったのか。顔がよくて性格もよくておっぱいもデカい。二物どころじゃないぞ。一之瀬帆波、貴様は一体何を持ちえないのだ。正直に言うと俺の好みど真ん中ストライクだ。俺は包容力のあるおっぱいに弱い。それもこれもJBのせいだが。遅い思春期を迎えた青少年の傍にあんな顔が良くて性格もよくておっぱいがデカくてその上ドイツとイタリアのハーフなパツ金ねーちゃんがいたら性癖が固定されてしまうに決まってる。
「しかし、授業中に私語とはな……。高校生にもなって恥ずかしいものだな」
神崎、お前の言葉には同意しかないよ。やっぱりDクラスが特別酷いだけで、他のクラスでは普通に授業が行われているようだ。Cクラスはちょっと荒れてるみたいだけどそれでもDクラスよりはマシ。それがBクラスとの交流で得られた情報だ。ああ、やっぱりBクラスがよかった。Aクラスはなんか派閥闘争が起きてるらしい。
なんで?(純粋な疑問)
俺たちは青春を満喫する高校生のはずだ。それなのにどうしてクラスのリーダーの座をめぐる派閥闘争なんてものが起きてしまうのか。JB、俺入る学校間違えたかもしれない。今のとこ綾小路と一之瀬に出会えた事以外に入学してよかったと思えることがないよ……。
さて、Bクラスとの交流で癒されたおかげで午後の授業()を乗り切った俺は一人図書館を訪れていた。本当なら綾小路と来る予定だったんだがなんか呼び出し食らってたので、綾小路を待って無為に時間を過ごすぐらいなら先に足を運んで読書でもしておこうというわけだ。先に行くと伝えた時のあの子犬のような目が忘れられない。友達に飢えすぎだろう。大丈夫だ綾小路、俺がいるからな……(泣)。
それはさておき、俺の師匠に当たる日下部麻子の『小学生は足の速い奴がモテる。中学生は喧嘩の強い奴がモテる。高校生は頭の良い奴がモテる。』という教えに従い、毎朝12kmのランニングに加え読書も欠かさない俺にとってはここはお誂え向きの場所ということだ。なんでもここの図書館には何十万冊もの蔵書が置かれており、ごくわずかしか出版されていな幻の名著も存在するらしい。あくまで噂だが。綾小路も一応は読書を趣味に掲げているらしいからここを見たら感動するかもしれない。でもまあ友達が少ない奴の言う読書が趣味ってのは基本的に……ね?大丈夫だ綾小路、Bクラスの連中もいるからな……(泣)。
しかしここの図書館、本当に凄まじい蔵書の数だ。大衆向けの小説から学術書まで満遍なく取り揃えてある。どこを向いても本の海が広がっている中で借りる本を探すべく歩き回っていると、一人の女子生徒が必死に手を伸ばして本を取ろうとしていた。もう少しで届きそうだが絶妙に届かない高さらしく、背伸びしては届かない、そんな光景が繰り広げられていた。ぴょんぴょんとジャンプする度に銀の髪がサラサラと揺れておりしばらく眺めていたい景色だった。
「っと、いかんいかん。これじゃまるで変質者だ」
そう独り言ちた俺は少女の下へと足を運び、驚かせないように横から声を掛けた。
「どの本だ?迷惑じゃなければ俺が取ろうか?」
「……?これはご親切にどうも。お言葉に甘えてお願いしてもよろしいですか?コナン・ドイルの『緋色の研究』です」
「ホームズシリーズの最初の作品か。いいチョイスだな、ってこれだとなんか上から目線だな。ほら」
「ご存知なのですかっ?」
俺の言葉が琴線に触れたのか、銀髪の女子生徒は俺が差し出した『緋色の研究』を受け取ろうともせずにぐいとこちらへ身を寄せてきた。距離感バグってないか?こんな可愛い子に上目遣いで見つめられたら大概の男はコロっと堕とされてしまうだろう。
「名作ですよね。あまりにも有名すぎておすすめに上げればにわか扱いされがちですが、名作というのは名作たる理由があるからこそそう呼ばれるのです。ホームズとワトソンの出会い、それを描いたこの書はホームズを語る上で外せませんから」
「あの……」
「はっ、すみません。同士に出会えるとは思っておらずつい興奮してしまいました。私は椎名ひより、一年Cクラスです。親切なあなたのお名前は?」
どうやら俺が声を掛けたこの少女は本の虫のようだ。早く互いに名乗りあって『緋色の研究』について語ろうときらきら輝いた瞳が物語っている。何の裏もない純粋な眼差しだ。少し天然っぽい雰囲気は感じるがそれすらも魅力に感じられる。やっぱり美少女ってお得だよな。これが不細工だったらさっき近寄られた時に絶対反射で殴ってた自信がある。
「一年Dクラス、春寺優斗だ」
簡潔すぎる自己紹介を終えた俺たちは話し声が邪魔にならないよう周りに生徒たちがいないスペースへと移り、小声で同好の士として語り合った。途中で合流してきた綾小路も読書が趣味なことを知ると話はさらに盛り上がった。別れ際、椎名はさらに目を輝かせ「まさか二人もお友達ができるなんて、今日は本当に素敵な日でした」と顔を綻ばせていた。どうやら椎名もぼっちさんらしい。まあCクラスってなんか乱暴なクラスらしいし、椎名のようなタイプでは馴染めないのだろう。俺たちは連絡先を交換し、友達が増えたことを互いに喜ぶのだった。
連絡先が増えただけで喜ぶ綾小路を見て、俺はなぜか親のような心境になった。よかったねえ……。