グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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5話 リカバーできればガバはガバではない

 あと10日もせずに5月になろうかというこのタイミングで、俺は最悪の情報を手に入れてしまった。それはこの学校ではクラスポイントという、クラスごとの評価が存在するということだ。最初に支給された10万ポイントの方はプライベートポイントというらしく、完全に別物だ。だがこの二つは密接な関係にあり、毎月初めに振り込まれるプライベートポイントはこのクラスポイントによって決まるのだ。

 

 この情報を手に入れたのは完全に偶然で、いつものように食堂で一之瀬達Bクラスと昼食を食べていた時に離れたテーブルで俺たちと同じように昼食を食べていた上級生がポロっと会話の中で口に出したのを耳にした。

 

 初めて聞く言葉にひっかかりを覚えた俺は、歓談していた綾小路とBクラスに静かにするよう告げ上級生の会話を盗み聞くことに集中した。本当にうっかり話してしまったと言う感じで友達に厳しく注意されており、周りに一年生がいないことを確認した後かなり安堵していたので俺達に聞かれていたら不都合なことがあるとすぐにわかった。

 

 そして綾小路と手分けして休み時間に上級生フロアのトイレに籠ってクラスポイントに関する情報収集を行った結果、先ほどの情報にたどり着いたということだ。どうやら5月までは情報統制が行われているようで、食堂で話題に出してしまったあの上級生は本当にうっかりしてしまったのだろう。もし一年生に聞かれてしまっていたらかなり重いペナルティを下されていた可能性がある。まあばっちり聞いていたのだが。騒がしい昼飯時の食堂で20メートルは離れていた俺に聞かれることと、上級生フロアのトイレに一年生が張りこむことまでは流石に予想できなかったようだ。小便するときには口が緩んでぽろっと話してしまうもんだ。

 

 クラスポイントによるクラス変動など他にいくつか入手した情報も含めて、すでにBクラスの一之瀬とCクラスの椎名には共有済みだ。特に2年フロアで多くの生徒が話していた南雲という生徒会副会長は過激な顔を隠し持っているようで、一之瀬からは随分と感謝された。どうやら生徒会に入ろうと考えていたらしく、これに関しては本当に伝えられてよかったと思う。2年生の言葉を信じるなら女子生徒を「私物」扱いするようなクソ野郎だ。美人な上スタイルもいい一之瀬が生徒会に入れば絶対に目を付けられてしまうだろう。

 

 それは置いておいて問題はDクラスのクラスポイントだ。トイレで得た情報から考えるに、授業が崩壊しているDクラスのクラスポイントはすでに底をついていると思われる。もしかしたらマイナスまでいっているかもしれない。今から授業態度を良くしたところでこれは覆らない。そしてクラスポイントがないということは来月振り込まれるプライベートポイントも存在しないということだ。

 

 連帯責任、嫌な言葉だ。ただこれに関しては完全に俺の見通しが甘かった。少し考えればポイントの支給額は個人よりもクラス単位で管理した方が楽なことなど誰にでもわかる。綾小路や一之瀬、椎名といった友達ができて浮かれていたことを今更ながらに自覚する。認めよう。高校に行く意味などないと考えていた俺は、今確かに学生生活を楽しんでいる。家族とも戦友とも同僚とも違う、”友達”と過ごす毎日は思っていた以上に楽しい。俺のような人でなしがこんな幸せを享受していいのかという戸惑いはあるが、3年間ぐらいは幸せな夢に浸っても許されるだろう。

 

 

 

 

 

 「というわけで、来月俺たちに入るポイントはないので今のうちに稼いでおこう」

 「いやどういうわけなんだ、放課後にいきなり有無を言わさず連れ出されてオレは困惑しかないんだが」

 

 放課後、俺は綾小路を連れてボードゲーム部の活動場所を訪れていた。

 

 「言った通りのわけだ。既に散財して来月0ポイントに阿鼻叫喚することが決定している愚かなクラスメイトを尻目に遊ぶべく、手持ちのポイントを増やそうと思ってな」

 「それがなんでボードゲーム部に来ることに繋がるんだ」

 「綾小路も察しはついているんじゃないか?閉鎖的な空間で限られたリソースを多く手に入れようとすれば自ずと手段は限られてくる。脅迫、取引、そして──」

 「賭け、か。つまりお前は、今からボードゲーム部に乗り込んで賭け試合を申し込もうというんだな」

 「ああ。こういうのはどこの誰もが考えるもんだ」

 

 軍学校時代もたまに配られた高級レーションやら酒やらを賭けて的当てなどをしていた。もしこの学校では行われていなくてもこちらから持ち掛ければいい。ちょっと下手に出ながら藁にも縋る思いでポイントを増やしに来たことを演出すれば乗ってくるだろう。

 

 「いいか、綾小路。大切なのは勝ちすぎないことだ。ポイントを稼ぎすぎてしまうと勝負を受け入れてくれなくなるからな。勝ちと負けを程よく繰り返し、トータルで見た時にお小遣いが増えた程度で終わるのがベストだ。それが俺たちの青春を豊かなものにしてくれる。一応聞いておくけどその辺の調整はできるよな?」

 「任せてくれ、自慢じゃないがこういうのは散々仕込まれてる。オレたちの青春のために全力を尽くそう」

 「グッド。頼んだぞ相棒」

 「ああ!」

 

 チョロい友達で本当に助かるよ。でも全ては俺達の青春のためだからよ……。

 

 

 「「頼もうー!」」

 

 

 

 割愛して語ると、俺たちは目論見通りいい感じにポイントを稼ぐことができた。勝率は6割ほどに抑え、最後の試合は上級生に気分よく勝たせることでポイントを奪いにきた憎き後輩というイメージも持たせずに済んだ。ポイントは1.2倍ほどに増え、俺が約9万ポイント、綾小路が約8万ポイントだ。これだけあれば来月もある程度は遊ぶことができるだろう。

 

 この日、俺と綾小路はお菓子とジュースを買って帰り、一之瀬と椎名を誘ってプチパーティーを開いた。2人はすでに面識があったようで一之瀬の顔の広さには驚かされた。食って飲んで遊んで親睦を深める。特別でも何でもない日常の一幕だが、俺と綾小路にとっては何もかもが新鮮で楽しいものだった。

 

 

 

 5月1日。

 

 予想通り、俺と綾小路には1ポイントも振り込まれていなかった。Bクラスの一之瀬やCクラスの椎名にはちゃんと振り込まれていたらしいのでDクラスの残念っぷりが改めて明らかになってしまった。

 

 「おはよう」

 「ああ、おはよう」

 

 綾小路とロビーで合流し学校へと向かう。

 

 「やっぱり0ポイントだったな」

 「あの授業崩壊っぷりでポイントがもらえたら逆にこの学校の判断基準を疑ってしまうぞ」

 「だな。これに懲りたら軽井沢や池たちも真面目に授業を受けるようになるだろう」

 「とはいってもそれでポイントが振り込まれるようになるかは怪しくないか?授業を真面目に受けるなんてのは学生にとって当たり前のことだろう、減点要素ではあっても加点要素ではないはずだ」

 「まあぱっと思いつく限りでは定期テストのクラス平均点とか、体育祭で勝つとかその辺じゃないか?クラス全体の評価をする機会なんてそう多くない」

 「となるとやはりあるんだろうな、クラスポイントをめぐってのクラス対抗形式のイベントが」

 「ああ。その結果としてクラスポイントが逆転してクラスの変動が起こる。プライベートポイントもまた然りだ」

 

 とは言っても俺達にはあまり関係のない話だ。あれから日毎に異なる部を回って賭け試合を挑みプライベートポイントを増やした結果すでに30万近いプライベートポイントが俺達にはある。今すぐポイントに困るような事態には陥らないだろう。別にDクラスが0ポイントのままでも構わないのだ。

 

 「くくく、Dクラスのやつらの驚いた顔が楽しみだぜ」

 「趣味悪いな……仮にもクラスメイトだろう」

 「そのクラスメイトのせいで楽しみにしていた授業をまともに受けられてないんだからいいだろ」

 

 

 

 教室にたどり着いた俺達はまっすぐに窓際にある自分の席へと向かう。教室のそこかしこで聞こえてくるのは、やはりポイントについての話だ。どうやらまだポイントが振り込まれていないと思っているらしく、そこまで深刻な雰囲気は感じられない。

 

 「おめでたい奴らだ。この後に残酷な真実が待ち受けているとも知らずに」

 「上から目線で言ってるがお前だって気付いたのは偶然だろ」

 「そんなことないが?優秀な俺の頭脳なら学校に散りばめられたヒントからその内気付いていたが?」

 「どうだかな」

 

 「?貴方たち、一体何の話をしているの?突然厨二病にでも目覚めたのかしら」

 

 俺達の会話が聞こえたのだろう。綾小路の隣で読書に勤しんでいた堀北が冷たい眼差しで声をかけてきた。

 

 「すぐにわかる。すぐにな」

 

 

 俺がそう告げるとHRの開始を告げる鐘の音が鳴り、Dクラスの担任である茶柱先生が教室へと入ってきた。




茶柱先生の株を売るなら今のうち。今ならまだ谷間見せつけてサービスしてくれるエロ教師として高く売れる。
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