グリザイアの教室 作:光と闇の竜
「せんせーどうしたんすかぁ?ひょっとして生理でも止まりましたぁ?」
いつになく険しい顔をしている茶柱先生に、池がノンデリ発言をかます。当然女子からは汚物よりも汚いものを見る目が向けられている。普段教室でモテたい彼女が欲しいってうるさいのになぜあのようなことを口走るのかが不思議でならない。
「これよりホームルームを始める。何か質問があるなら今のうちに聞いておけ」
池のことなど無視して、茶柱先生が教室を見渡してそう告げる。その口ぶりは質問がないはずがないだろうという確信に満ちたものだった。
本堂という生徒が犠牲者第一号に名乗り出た。ポイントが振り込まれなくてジュースを買えなかったがどうなっているのかという質問だ。だがその質問はあっけなく切り捨てられた、ポイントは既に振り込まれているという無慈悲な答えによって。
「……お前らは本当に愚かな生徒たちだな」
暗い雰囲気を纏わせてそう言った茶柱先生に俺は内心で頷く。ジュースも買えないということはおそらく本堂の残りポイントは三桁を切っているのだろう。ちょっと何にどれだけ使ったのか気になるレベルの散財っぷりだ。念のために少しは残しておこうなど考えもしなかったに違いない。お年玉で不意に大金を手に入れた子どもだってもう少し考えてお金を使うぞ。
「もう一度言うぞ。ポイントは間違いなく振り込まれた。このクラスだけ忘れられているなんていう事実も存在しない」
クラスメイトの間に不穏な空気が広がっていく。茶柱先生が本当のことを言っているということを感じ取ったのだろう。
「ははは、なるほど、そういうことか」
六助が机に足を乗せ非常に不遜な態度でそう言った。
「私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった。そういうことだろうティーチャー」
「態度を改めろと言いたいところだが、高円寺の言う通りだ。ヒントは至る所にあったというのに気付いたのは数人だけか。まあそれでこそDクラスとも言えるが」
「ちょっと、どういうことですか?毎月10万ポイント振り込まれるはずじゃ……」
「私はそう聞いた覚えはないねえ。優斗、君はどうだい?」
顔だけをこちらに向けて六助が話を振ってきた。もう少しこの滑稽な劇を見ていたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。にしてもあいつの態度ムカつくな。何がムカつくってあの偉そうな態度が似合ってるところだ。俺がやってもああはならないだろう。
「六助の言う通りだ。先生は毎月振り込まれるポイントの額については言及していなかった」
俺がそう告げると、教室がざわめき出した。ようやく自分たちがどんな状況にいるのかに気付いたのだ。それを無表情を装いながらも内心ではドヤ顔で腕を組んで眺めているのが俺だ。とはいってもここまでくるとクラスメイトに抱いていたはずの怒りが薄れてきたな。分別のついていない子供が迷惑行為をしたとしても叱りはするが怒りはしないあの感じだ。子どものすることなんだから大目に見てあげよう、そんな境地に俺は達していた。差し詰め今のポイントを散財したクラスメイトたちは大人の反応を見て自分たちがやらかしてしまったことに気付いた子どもといったところか。次から気をつけましょうね。軽井沢のポニーテールめ、命拾いしたな。
「先生、質問よろしいでしょうか?」
そんな中にっくきイケメンの平田が手を挙げた。あいつの性格からして無駄遣いしたってことはないだろう、それでも手を挙げたのは不安に駆られているクラスメイトを思ってのことだろう。
そしてなぜポイントが振り込まれなかったのかという問いに、茶柱先生がつらつらと理由を並びたてる。遅刻と欠席の回数100、授業中の私語に携帯を触った回数402。監視カメラを用いてカウントしたその回数を聞いて該当する生徒の顔色が悪くなる。全て自己責任。何の反論もできないまさに正論だ。
しかしこうして具体的な数字を聞くとちょっと面白いな。真面目に授業を受けていた10数名を除く生徒だけでこんなにやらかしていたのだから。
そしてここでようやくクラスポイントについての情報が開示された。プライベートポイントはクラスポイントの100倍の額が振り込まれるらしい。ということは最初にあったクラスポイントは1000で、俺たちはたった1か月でそれを0にするほどの醜態を披露したというわけだ。他のクラスは1カ月送るにあたっては十分なポイントが残されており、Aクラスにおいては940ポイントも残っている。
……しかしこうして見るとあれだな、この学校のクラス分けの仕方はやっぱりそういうことなのか?その答えはすぐに茶柱先生の口から語られることになる。
この学校では優秀な生徒の順にクラス分けされており、Dクラスは最底辺の生徒が集められた落ちこぼれ集団であると。そしてこの学校が謳っている進学・就職率100%が適用されるのはAクラスだけだと。
「さて気が滅入るような情報ばかりを伝えるのも酷な話だ、いい情報も教えてやろう。お前たちのクラスは固定じゃない。このクラスポイントの順位が変動するのに伴いクラスも変動する。例えばお前たちのポイントが現Cクラスの490を上回った場合、お前たちは晴れてCクラスになれるということだ」
うーん、やっぱりプライベートポイント以外でクラスポイントにこだわる理由が特にないな。進路はとっくに決まってるし。せっかくこの学校に来たんだからAクラスを目指すってのも悪くないけど綾小路が目立つの嫌ってるしなあ……。俺と綾小路が組めば結構いいところまでいける気はするんだけどなー。
「そして最後にもう1つ悪い情報を教えて今日のHRは終わりだ。これは先月の末に行った小テストの結果だ。そして──今引いたこの線より下、35点未満が今回の赤点ラインだ。3週間後の中間テストで赤点を取った生徒は即退学となる」
そして最後に落とされた爆弾情報に教室から驚愕の声が上がる。赤点ラインより下の位置にいる生徒は7人もいるので当然とも言える。赤点からは程遠い位置にいる生徒でさえも退学という取り返しのつかないリスクがあると知って驚きを隠しきれていない。ちなみに綾小路はまたも50点ジャスト、俺は六助と幸村という生徒に並んで90点の同率首位。俺は綾小路と違って実力を隠すつもりはあまりないが、目立ちすぎるのも面倒くさいと思って100点は外しておいた。その気になれば俺と綾小路、あと何の根拠もないけど六助も満点を取れたと思う。いかん、これだと漫画やアニメに出てくるイキりキャラみたいだ。
「何、安心しろ。中間テストまではまだ3週間もあるんだ。
そう告げると、うなだれる赤点組の生徒たちを尻目に茶柱先生はいつもよりちょっと強めに扉を締めて教室を後にした。
一巻読み直してるけど初期のDクラス本当にひどい……。