グリザイアの教室   作:光と闇の竜

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7話 協力関係

さて、茶柱先生が出て行った後の教室だが、まあ多少揉め事は起きたが我らがDクラスのアイドル櫛田が仲裁してくれたのでクラス崩壊というような事態にはなっていない。ボディタッチと顔の良さを活かしてDクラスに配属されたことに憤っていた幸村を見事に大人しくさせてくれた。偏見だがたとえAクラスで卒業できなくとも銀座に行けば将来に困ることはないだろう。夜の女王としてあの街に君臨するに違いない。

 

 「まあ、大体予想通りって感じだったな」

 「そうだな。これで平和な授業が返ってくるといいんだが……」

 「そう願いたいが現状0ポイントだからな。どうせ0ポイントなら何をしても変わらないって考える奴もいるだろう。ほら、今須藤が出ていった。あれは駄目だな」

 「平田が気に食わないのは分かるが、0ポイントで困るのは変わらないだろうに」

 

 「あなた達。その言いぶりだともしかして知っていたの?」

 

 綾小路と話していると堀北が棘のある目で会話に混ざってきた。

 

 「偶然だけどな」

 「どうして黙っていたの?」

 「知ったのが10日ほど前だったからな。それから情報の裏取りに2,3日かかった。その時点でもう手遅れだと思って放置していた。それに、どうせ言ったところで聞き入れたりしないだろう?物的証拠がない状態でポイントが減るから遅刻欠席、私語などを止めようと言って素直に聞くような奴はそもそもそんなことしないんだよ」

 「だとしても、平田くんや櫛田さんから伝えてもらうようにすればある程度は……いいえ。そもそも気付けなかった私が文句を言える立場ではないわね」

 

 正直に言うと、わざわざ時間と労力を割いてまでクラスのやつらを説得してどれだけ残っているかもわからないクラスポイントのマイナスを防ぐよりも、賭け試合でプライベートポイントを増やしておきたかったからだが、それをわざわざ堀北に教える必要もない。他の生徒が賭けでポイントを増やすことを思いつかないとも限らないのだ。

 

 「春寺くん。それに綾小路くんと堀北さんも。ちょっといいかな?放課後、ポイントを増やす方法についてクラスの皆で話し合いたいんだ。君たちにも参加して欲しいんだけど……」

 

 教壇を降りて俺たちの近くまでやってきた平田がそんなことを言ってきた。さて、どう返答するべきか──

 

 「悪いけどお断りするわ。他を当たってちょうだい」

 「その場にいてくれるだけでもいいんだ」

 「なおさらお断りよ。無駄なことに時間を使いたくないの」

 

 俺の思考を遮るように平田の誘いを断った堀北はそれだけ言うと平田の存在などなかったかのように読書に戻った。相変わらずきつい女である。ここまで無下にされる様子を見るといかにイケメンであっても多少の同情が湧いてくる。だがそれとこれとは話が別だ。俺も話し合いに参加するつもりはない。

 

 「春寺くんと綾小路くんはどうかな?」

 「悪いが今日は買い物に行く用事があるからパスだ。綾小路の部屋マジでなんもないんだよ。あれじゃ客も招けないぞ」

 「そうか?座れる場所もあるしむしろスッキリしていていいと思うんだが」

 「本気で言ってるのか?……いや言わなくていい。その目を見ればわかる。断言するが、あの部屋に一之瀬や椎名を招けばいかに優しい彼女たちといえどお前の評価は落ちるぞ」

 

 あの2人ならそんなことは絶対にないと思うが、友達に飢えている綾小路のことだ。こう言えば絶対に──

 

 「よし。放課後になったらすぐケヤキモールに行こう」

 

 ほらな。絶対そう言うと思ったよ。

 

 「というわけで悪いな平田。今日はパスだ」

 「……いや、こちらこそ急に誘って悪かったね。でも次の話し合いにはできれば参加して欲しい。もちろん無理にとは言わないけど」

 「そうだな。前向きに考えておく」

 

 俺の言葉に何かを感じ取ったのか、平田は一瞬眉を寄せるもそれ以上何も言わずに離れていった。

 

 

 「……よかったのか?別に買い物なんていつでも行けるだろう」

 「今のDクラスで建設的な話し合いができるとは思えないからな。堀北じゃないが無駄なことに時間を使うよりかは買い物に行ったほうが有意義だ。お前の部屋が寂しいのも事実だしな」

 「賢い判断ね。……春寺君、綾小路君も。近いうちに時間を取ってほしいのだけれどいいかしら?」

 「ん?まあ話を聞くだけならな。コーヒー一杯で手を打とう」

 「オレもそれで」

 「……まあそのぐらいならいいでしょう。こちらから頼んでいる以上対価は必要だものね」

 

 

 

 さて放課後だ。教室では平田主導の対策会議の準備が行われていた。平田の求心力もあってか、かなりの数の生徒が参加を表明したようだ。

 

 「始まる前にとっとと出るか」

 「そうだな」

 

 足早に教室を出た俺たちだったが、下駄箱で靴を履き替えようというタイミングで放送がかかり、綾小路が茶柱先生に呼び出されてしまった。

 

 「なんかしたのか?」

 「そんなはずはないんだが……」

 「にしてもタイミングが悪いな。聞かなかったことにするか?」

 「いや、後が怖いから大人しく行くことにする。どれだけ時間がかかるかわからないし、今日はここで別れよう。どうせ買い物なんて口実だろ?」

 「まあな。でもお前の部屋が寂しいのは本当だぞ。あれじゃ女子どころか友達も呼べないから近いうちに何とかした方がいいぞ」

 「そうなのか……」

 

 心なしか傷ついたような顔をした綾小路と別れ、この日は適当にモールをぶらついて帰った。

 

 

 

 翌日。俺と綾小路はカフェで堀北と向かい合っていた。

 

 「近いうちとは聞いたが、まさか次の日に呼び出されるとはな」

 「予定があったわけではないのでしょう?」

 「まあ、こうしてコーヒーをご馳走になっている以上約束通り話は聞くさ。望みに応えられるかまでは保証しないが」

 「……その様子だと、私の要件に察しはついているようね」

 「昨日綾小路から大まかな顛末は聞いた。Aクラスに上がるために協力しろって話だろう?」

 

 昨日呼び出された要件は実にくだらない要件だったらしい。あくまで推測に過ぎないが、綾小路は堀北を焚きつけるための餌に使われたのだ。理由は不明だが茶柱先生はAクラスを目指しており、クラスの先導者として堀北、その協力者として綾小路に目を付けた。もしかしたら教師の間でもA~Dクラスの格差があるのかもしれない。茶柱先生には文句を言ってやりたいが、そもそも目を付けられた理由が綾小路の全教科50点とか言う目立ちたくないと言う割には雑すぎる調整の入試結果なのだから言わんこっちゃない。ただそれでも、教師が退学を匂わせて生徒を脅してんじゃねーよとは言いたい。ポニーテール引っこ抜くぞ。

 

 「ええ。私はどうしてもAクラスにならなきゃいけないの。クラスポイントの存在にいち早く気づいていたというあなた達なら協力者として申し分ないわ。あなた達もいつまでも0ポイントでは困るでしょう?お互いにとって利益のある話だと思うのだけれど?」

 「まず認識の違いを正しておこうか。俺も綾小路もポイントに困ってはいない。もちろん貰えるに越したことはないが、別に現状のままでも半年は生活に困らないぐらいのポイントは持っているし、クラスポイントとは関係なく増やす算段もある」

 「なっ……!いったいどうやって……」

 「それに答えるつもりはない。さあどうする?俺たちが堀北に協力する理由は特にないわけだが」

 「綾小路くん。あなたも同じ考えというわけ?」

 「ああ。そもそも昨日嫌だと言わなかったか?もっとも、春寺が協力するのなら吝かではないがな」

 「それは、春寺くんだけが私に協力したら綾小路くんに構ってくれる時間が減るから?」

 「その通りだ」 

 「堂々と言うなよ……」

 

 最近は俺以外にも友達増えてきただろ。それはさておき、別に協力しない理由もないんだよな。言った通りポイントは貰えるに越したことはないし、いつまで賭けで増やせるかも不明だからな。ただ堀北はポイントよりもAクラスに上がることに執着しているように感じられる。それは昨日綾小路が呼び出された要件からも察しがつくし、今こうしている間にも伝わってくる。ここで簡単に頷くと駒みたいに扱われそうだし少し焦らすか。綾小路に目くばせをし、しばらく黙っているように伝える。

 

 ポイントの話をすればすんなり乗ってくると思ったのだろう、堀北は焦った様子を隠すこともせずどうすれば俺と綾小路を引き込めるのかを考えている。俺と綾小路は何を言うでもなく偉そうにコーヒーを飲みながら堀北が考えを纏め終わるのを待つ。余裕があることのアピールだ。しばらく無言の時が流れ、やがて堀北が何か決意したような顔で俺たちに向き直った。

 

 「……今の私に、あなた達を納得させられる材料はないわ。でも私だけじゃ、今のDクラスをAクラスに引き上げることはどう考えてもできない。それでも、私はどうしてもAクラスに上がらないといけないの。だから……お願い。私に力を貸してほしい。私に要求があるなら可能な範囲で応えることを誓うわ、なんなら得られるようになったポイントの何割かを渡してもいい」

 

 そう言うと、堀北はなんと俺たちに向かって深く頭を下げた。……これは予想外だな、いかにもプライド高そうなのにポイントを渡そうとまでするとは。よく毒舌を吐かれている綾小路なんか驚きすぎて目が点になってるぞ。そうまでしてAクラスにこだわるという理由があるということか。協力するのはいいがそれに固執するあまり無茶をやらされるのは困るな。

 

 「堀北のような美少女にそこまで頼まれてしまっては無下にできないな。わかった、協力しよう。ポイントもいらない。綾小路もそれでいいか?」

 「ああ」

 「……ありがとう」

 「ただ、いくつか条件がある。俺たちは基本的に堀北の望みを叶えるために動くが、もちろん場合によっては断らせてもらう。ないとは思うが他クラスの主要な生徒を闇討ちしてこいとか言われても困るからな。それと、これからはクラス間での争いが活発になると思うが、俺たちはBクラスとCクラスに友達がいる。彼らとの交流に関しては口を挟まないこと、もちろんDクラスの情報を流したりはしない」

 

 一之瀬や椎名との付き合いに口を突っ込んでこないならそれでいい。

 

 「わかったわ、その条件を呑む。……そのような理不尽な要求をすると思われるのは遺憾だけれど」

 「物の例えだ。とりあえず連絡先は交換しておくか。それで、まずは3週間後の中間テストの対策だろうがどうするつもりなんだ?考えてはいるんだろ?」

 「そうね。ひとまずは赤点候補の生徒の中でも須藤くん、池くん、山内くんあたりを対象に勉強会を開こうと思っているわ。たぶん平田くんあたりも勉強会を開くのだろうけど、彼らは平田くんを嫌っているからそっちには参加しないでしょう。あなた達には彼らを勉強会に参加するよう説得して欲しいの。私が誘うよりは効果があると思う」

 「そうだな。綾小路もいるし勝算はあるな。方法は任せてもらってもいいんだよな?」

 「ええ。とにかく参加してもらわないと話にならないから」

 

 俺と綾小路は別に四六時中一緒にいるわけではない。綾小路は俺といない時は3バカと呼ばれている須藤達といることが多い。エロ話で盛り上がって仲良くなったらしいが、せっかく稼いだ女子からの好感度が犠牲になっていないか心配だ。

 

 そんなわけで、俺と綾小路は堀北に協力することを決めた。もちろんポイント目当てじゃないしAクラス云々もどうでもいい。薄々気付いちゃいたんだが、この学校では俺たちの想像している「普通の学生生活」は送れそうにない。だったらせめてこの学校の流儀に合わせて楽しませてもらおう。そうすれば俺も綾小路も少しは普通の学生に近づけるんじゃなかろうか。できればそうであって欲しい。

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