ガールズ&パンツァー これが三代目の戦車道です(女神達のメッセージ改) 作:熊さん
一応、これで主要なメンバーが揃います。
ちょっとだけですが、原作キャラを一人登場させました。
それでは、続きをどうぞ
遠藤祐子の朝は、午前五時半にスタートする。
女子寮、といっても1Kの賃貸マンションのようなところだが、その205号室が祐子の部屋になる。
その部屋は、三年前、西住みほが住んでいた部屋であるが、当然本人は知らなかった。
「ふわぁ、よく寝たぁ! さて、今日の天気はどうかなぁ」
一人用ベッドから半身を起こすと、祐子は大きく背伸びをする。そして、ベッドから降りると、彼女は、ベッドのそばにあるピンクのカーテンを開けて、外の天気を見た。
春の朝日が学園艦を照らし、街全体を包んでいる。
「うん。いい天気。今日は二年生になった最初の日、今日も頑張ろう!」
天気が良い事を確認した彼女は、ベッドに戻ると掛け布団を綺麗に直し、着ていた上下共にブルーのパジャマを脱いで掛け布団の上に畳んで置いた。下着姿の祐子はベッドの隣りに設置している洋服ダンスの下の引きタンスから、上下グレーのスウェットに着替える。そして、玄関近くにある小さなキッチンに向かい、ご飯ジャーの炊飯スイッチを入れると、そのままランニングシューズを履いて玄関から外に出た。
玄関ドアの鍵を閉めると、ポケットに鍵を押し込み一階に降りて行く。そして、彼女は軽く身体を体操でほぐすと、左舷デッキ公園に向かって走り始めた……。
土砂降りの日以外必ず行う、彼女の朝の日課であるこのジョギングの目的地である左舷デッキ公園で、祐子はいつも出会うジョギング仲間がいる。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
自分より年上のはずだが、いつも祐子が挨拶する前に、丁寧に挨拶してくる女性。
挨拶を交わすと二人並んで、朝日が照らす散歩道を艦首方向へと走り始める。
「遠藤殿、今日から新学期でありますね」
「はい。明日が入学式です。今日の午後は入学式の最後の準備をするんです」
「そうでありますか。どんな後輩が来るのか楽しみでありますね」
祐子は自分の右隣りを走る、癖っ毛の強い髪をした、変わった言葉使いをする女性を見ながら答える。
戦車長にコンバートされた後、自分を鍛える為にジョギングの日課を始めた祐子。
体力に自信がなかった彼女は、この散歩道をゆっくりとジョギングしていたのだが、いつも陸上競技の選手みたいな速度で走る女性と出会ったのである。
最初は挨拶を交わす程度だったが、少しずつ会話が増え、今では共にジョギングしながら会話をするほどになっていた。
「あっ、秋山さん、実はもうすぐ戦車隊に『M4シャーマン』が、二両も入って来るんですよ。もう嬉しくて!」
「おおっ! それは良かったですね。ちなみに……、遠藤殿、その『M4』はどの型式でありますか?」
「はい。『A6型』です」
祐子が答えると、秋山と呼ばれた女性は、驚いて走る事を止め、目をランランと輝かせる。
「そ、それは……、ぎょ、僥倖であります。遂に、大洗に長距離砲が誕生するやも知れません」
「えっ?」
祐子も走るのを止めると、嬉しさの余り、癖毛の髪をワシャワシャかき回す秋山を見つめる。
「秋山さん? A6型ですよ。長距離砲の戦車じゃありませんけど」
「それでは遠藤殿、あそこのベンチで少しお話をしませんか?」
「あっ、はい。分かりました」
ちょうど目の前に設置されている木製ベンチを指差し、秋山は祐子を誘う。
承諾した祐子と共に並んでベンチに座ると、秋山は祐子を見て「それでは説明しますね」と言って、少し早口ぎみに、そして楽しそうに話し始めた。
「遠藤殿……、実はアメリカ軍の戦車の開発はですね、ヨーロッパ諸国のそれにくらべて、大変遅れていたのでありますよ。フランスは1935年頃には『ルノーB1重戦車』と『ソミュアS35中戦車』を配備して戦車開発競争をリードしておりました。イギリスも『マチルダⅡ』や『クルセイダー巡航戦車』、ドイツも『50㎜砲装備のⅢ号戦車』『75㎜短砲身砲装備のⅣ号戦車D型』を開戦直前に装備していたのに対して、当のアメリカ軍は『37㎜砲装備の軽装甲の戦車』しか持っていなかったのであります。……ですので、残念ながら、この時点でアメリカ軍は、もう周回遅れだったんですね」
祐子に語る秋山は、楽しくて仕方がないといった表情である。
その祐子の目には、少しずつ渦巻きが現れ始めるが、秋山はお構いなく話を続ける。
「そして、いよいよ第二次世界大戦が始まりました。ドイツの電撃戦を見たアメリカは、大慌てで75㎜砲を装備した戦車を開発したのでありますが、短い期間で作り上げた、大洗にもあります『M3Lee中戦車』では、75㎜砲を車体につけるのがやっとでありました。全周砲塔に75㎜主砲を装備した戦車として1942年に満を持してデビューしたのが『M4中戦車シャーマン』だったんですね」
ここで、ようやく一息をつき、何故か空を見上げる秋山。
秋山を見ている祐子の目の渦巻きが、段々大きくなっていく。
一息をついた秋山は、パッと祐子の方を見て、話す速度を上げて、さらに語る。
「しかし、なんということでしょうか! 戦争の激化による技術革新は、せっかく75㎜砲を装備できたシャーマンをも、あっさりと二線級にしてしまったのですよ! アフリカ戦線、西部戦線においてシャーマンは『ティーガーⅠ』『Ⅱ』『パンター戦車』などのはるかに強力な戦車に対してですね、圧倒的な数で立ち向かう戦いを強いられてしまって、多くの犠牲を出してしまったのです。ですが、生産性が良く、扱いやすい『M4シャーマン』は、アメリカ軍だけでなくレンドリースとして連合国各国に多くのシャーマンが生産され供与されたのでありますよ!」
秋山の語りは、ヒートアップが止まらない。
祐子の目の渦巻きは最大になり、今度は少しずつ頭も回り始める……。
「シャーマンは『M4』『M4A1』『M4A2』『M4A3』などのマイナーチェンジを経て大きな更新をされることなく、終戦まで戦い続けることになるのですが、そのなかで砲力だけでもドイツ戦車に並ぼうと、イギリスで新機軸の対戦車砲「17ポンド砲」を搭載した駆逐戦車仕様のものを造ったのです。これが『シャーマン・ファイアフライ』です。これは生産された車体のほぼすべてがイギリス向けに供与された『シャーマンM4A4型』を苦心して改造したもので、戦車部隊の列の後ろからドイツ戦車を狙い撃つという使われ方がされました。この砲撃力だけは互角の『ファイアフライ』という戦車は、ドイツ戦車隊に目の敵にされて、優先的に狙われる事になりました。ですので、わざと砲身の前半分を白く塗ったりして短砲身のシャーマンに見せかけるなどしまして、涙ぐましい対策を施して戦っていたのであります」
ここまで話した秋山は、祐子の両肩をガシッと両手で掴む。
目を回していた祐子は、ハッとなり秋山の顔を見つめ直した。
秋山は、祐子に強い口調になり、説明をする。
「遠藤殿! 形式的には一番最後になるM4A6ですが、これはシャーマンの最終型ではなく、前述のM4A4の30気筒ガソリンエンジンをディーゼルエンジンに変更したものでしたが、陸軍の方針により生産モデルをM4A1からA3に絞ることとなったため、75台しか生産されなかったモデルなのです。国内の訓練だけに使用されました。なお、私がサンダース付属に潜入して情報収集したときに学園艦内で8両ほどの実車を発見し、おおいに興奮したのであります。今度やってくる『A6型』に17ポンド砲を搭載させたら『シャーマン・ファイアフライ』の完成です。まあ、単純に砲身を17ポンド砲を取り変えるだけでOKなんて事ではなくて、砲塔の改造や副操縦席を潰して弾薬庫にする大幅な改造が必要になるのですが、それでも戦術の幅を広げる為にも一考の価値はあると思いますよ!」
秋山の語りは、ようやく終わった……。
「は……、はい。皆と相談して考えてみます」
祐子はそう返事するので精一杯だった。
再びジョギングを始めた二人。
祐子は満足気に隣を軽快に走る秋山を見ながら尋ねる。
「秋山さんって、戦車にとても詳しいんですね。もしかしたら、戦車道の先輩ですか?」
「はいっ、そうですよ。でも小さい頃から戦車が大好きなだけの、ただの戦車オタクですけどね」
ニッコリと笑う秋山を見て、祐子は別の事を思った。
(……秋山さんとお兄ちゃん、同じ戦車オタクなんだ。話が合いそう)
一時間後の午前六時三十分。
秋山と別れ、ジョギングを終えて部屋に戻って来た祐子は、直ぐにバスルームに入り、軽くシャワーを浴びる。
シャワーを終え、バスルームから出てくると、清潔な白の下着を着け、祐子は制服に着替える。
ちょうどその時、ご飯ジャーの炊飯アラームがなった。
祐子はキッチンに向かうと、キッチンの壁に掛けてあったエプロンを制服の上から身に着け、炊飯ジャーの下に設置している冷蔵庫から、半分の玉ねぎと油揚げ二枚、卵四個と冷蔵ウインナーを四本、出し入り合せ味噌を取り出しキッチンの上に並べる。そして、手際よく『油揚げと玉ねぎの味噌汁』と『目玉焼き』『焼きウインナー』を作り始めた。
女の子一人の量としては、明らかに量が多いのだがそれもそのはずで、彼女は二人前の朝食を作っていたのだ。
出来上がった目玉焼きと焼きウインナーを白い八寸皿二枚に盛り付け、部屋の真ん中に置いている小さな卓上テーブルに並べると、祐子はテーブルの上にあった携帯電話を手にして、どこかへ電話を掛けた。
呼び出し音が、受話器口から何回か聞こえた後……。
「……もしもし、翔子ちゃん、おはよう。起きた? うん、朝ご飯できたからね。うん、十分後ね」
祐子は、翔子にモーニングコールをしたらしい。
電話を切った祐子は、調理器具を洗おうとキッチンに向かう。
すると、玄関のチャイムが鳴った。時間は、まだ六時四十五分である。
「あれ? こんな時間に誰だろう?」
「おはようございます。隊長」
玄関の外から、亜希子の声が聞こえた。
外に来ているのが亜希子だと分かり、祐子は「はぁい」と返事をして、急いで玄関を開けた。
ドアを開けると、そこには制服を着て登校準備万端の亜希子が立っている。
「隊長、おはようございます」
長い綺麗な黒髪をシュシュで後ろでまとめ、銀縁眼鏡の奥に見える大きな瞳をキラキラさせながら、亜希子は丁寧に頭を下げた。
祐子はドギマギしながら、慌てて同じ様に頭を下げる。
「お、おはようございます」
「クラスも一緒になりましたので、学校までご一緒できたらと思いまして、お誘いに来ました。時間が分からなかったので、こんな朝早い時間に来て申し訳ありません」
亜希子の思いもかけない同伴の誘いに、祐子の顔が破顔する。
「うわぁ、亜希子さん、嬉しい。誘ってくれてありがとう。もうちょっと掛かるから、上がって待ってて!」
「それでは、失礼します」
亜希子は祐子に導かれるまま、部屋に入る。
すると、最初に彼女の目に飛び込んで来たのが、食卓にある二人分の朝食セットだった。
「隊長? この二人前の朝食は?」
亜希子が祐子に尋ねたと同時に、玄関がガチャリと音を立てて開いた。……と同時に「ウィース」と間の抜けた挨拶で、オレンジのホットパンツに黑のタンクトップ姿の翔子がやって来た。
靴を脱いで、ズカズカと部屋に入って来た彼女は、自分を見ている祐子と亜希子を見つけると(おやっ?)といった表情になった。
「亜希子じゃないか? どうしたんだよ。こんな朝早く?」
「隊長……。この朝食の一つは、もしかして翔子さんの分なのですか?」
祐子に尋ねる亜希子の声のトーンが……、とても低い。
しかし、祐子は気付かずに愉しげである。
「うん、そうだよ、翔子ちゃん、おはよう!」
「おっ、目玉焼きとウインナーか! 美味そうだな。祐子、味噌汁を頼む」
「はぁい、待っててね」
翔子は食卓の前に胡座をかいて座る。そして、祐子はキッチンの方へ向かった。
テーブルの傍に立ち、二人のやり取りを見ていた亜希子の手がプルプルと震えだした。
そして、翔子に向かって、少しドスの効いた声で話す。
「翔子さん……。あなた、隊長に朝食を作らせているんですか?」
「それは違うぞ。作ってもらっているんだ。あっ、それと祐子! お茶もお願い!」
「はぁい!」
亜希子の質問に軽く答える翔子。
その翔子の追加の注文に返事をする祐子。
それを見ていた亜希子は、手のプルプルの震えに、ワナワナの怒りが加わる。
「翔子さん、あなた、この前『隊長の一番のパートナーは俺だ』とドヤ顔で言ってましたよね」
「そうだぞ。一番のパートナーは俺だぞ」
「あなた、傍で見ていると、ただのヒモにしか見えないわよ。朝食ぐらい自分で作りなさい!」
「いや、それは無理だな。祐子の味噌汁は美味すぎるから」
あっさりと否定した翔子に、亜希子の髪が怒髪天をついた。
「翔子さん……。あなた、本当に女の子なの? 本当は男性何じゃないの? しかも、隊長を食い物にする、性悪男子でしょ!」
すると、胡座で座っていた翔子がすくっと立ち上がり、亜希子の方を向く。
「正真正銘、花の女子高生だよ。ほら、胸だって亜希子よりあるし、腰のくびれだって亜希子よりあるぞ。どうだぁ、俺と比べてみるかぁ?」
翔子の煽りを聞いた亜希子の顔が、ついに般若になった。
「良し、その舐めたセリフは、うちに対する宣戦布告やろ! よかばい。その戦争受けて立っちゃるけん。今直ぐオモテに出んしゃい!」
一触即発の場面で祐子の「はいはい、ストップ、ストップ」と言う声が二人に聞こえた。
二人は、同時に声のした方を向く。
そこには、味噌汁椀二つとお湯呑三個、急須をお盆に載せ仁王立ちしている、プンプン顔の祐子がいた。
「はい、二人とも、そこに正座!」
「えっ!?」
「疑問符はいいから。早く正座してください!」
祐子の有無を言わせぬ命令に、二人はおとなしく正座で座る。
祐子はお盆をテーブルに乗せ、自分も正座で、二人に対面するように座った。
「朝から二人とも何をやっているのですか。まだ寝てる人もいるんだよ。少しは時間を考えて下さい」
「「……はい。ごめんなさい」」
「……という事で、喧嘩をしようとした二人には反省してもらう為に、今から罰を与えます」
「「えっ!?」」
祐子の言葉に驚く二人。
祐子は翔子の方を見て言う。
「翔子ちゃんは、今日の朝ご飯のおかわりはありません!」
「う、嘘だろ!?」
「嘘ではありません。反省してください」
「……はい。反省します」
次に祐子は、神妙な表情で俯いている亜希子を見る。
「亜希子さんは、訓練以外での私を隊長呼びする事を禁止します」
「えっと、それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味です。訓練以外は私の事は、祐子と呼んで下さい」
「そっ、それは無理です。せめて、祐子さんにしてください」
「……いいでしょう。それで結構です」
すると、正座を続ける翔子が、恐る恐るといった感じで右手を上げながら、祐子に声を掛ける。
「あのぅ……。祐子さん……」
「はい、何でしょうか」
「亜希子さんの罰と私の罰では、差があるように思えるのですが……」
祐子は翔子の方を見て、冷たく答える。
「当然です。女の子の体型の比較は、やってはいけないタブーです。そして、ここは私の部屋です。ここで起きた事の解決方法は、私が決める権利があります。違いますか?」
「はい、その通りです」
「では、そう言う事です」
祐子はそう言った後、ニコッと笑った。
そして、祐子は続けて言う。
「さあ、翔子ちゃん、少し冷めちゃったけどご飯食べよう。あっ、亜希子さんは朝ごはん食べた?」
「はい、牛乳を一杯飲んで来ました」
亜希子の返事を聞いた祐子は、顔をしかめて言った。
「それは、朝食と言わないよ。そうだ! ちょうど、翔子ちゃんのおかわり分があるから、それ食べてって」
祐子はそう言って、お盆を持ち立ち上がると、キッチンに向う。
ちょうど、味噌汁を飲んでいた翔子は、手にしていたお椀をテーブルに置くと「あぁ……、俺のおかわりぃ」と悲しく呟いた。
祐子がご飯とお味噌汁、小皿に御新香、小袋のたまごふりかけを、お盆に乗せて戻ってきた。
「亜希子さん、ごめんね。おかずがこんなものしか無くて」
「いえ、ありがとうございます」
「うん、じゃ、私も食べようっと、いただきます」
ドタバタはあったが、三人は美味しく朝食をいただいた。
朝食を終えると、翔子は制服に着替える為、自分の部屋に戻った。祐子と亜希子は、二人で食べ終えた食器類を洗い、片付ける。そして、翔子の準備が終わり、彼女が部屋に来るまでの間、テーブルを挟んで、おしゃべりをしていた。
「亜希子さん、いよいよ明日、入学式だね。何人、戦車道履修してくれるかな。それと『M4シャーマン』がやってくるの、本当に楽しみだね」
「はい。『M4シャーマン』が入ってくるのは、本当に良いことです。高校から戦車に乗る一年生もいるでしょうから『シャーマン』ほど扱いやすい戦車はありません」
「うん。しかも二両だよ。二両! これに『ティーガーⅡ』も加わるんだよ」
「はい。我が戦車隊も大きく戦力が補強されましたよね」
祐子と亜希子が楽しそうに話をしている所に、制服に着替えた翔子がやって来て三人揃って祐子の部屋を出た。
時間は七時半を少し過ぎている。
登校途中で恵とかなえの二人と合流し、学校に到着すると2―Bへ向かう。
教室には知っている顔や新しくクラスメイトになった友人がグループを思い思いに作り、始業前の雑談に華を咲かせていた。
席に着いた祐子に、先に登校していた絵里が近寄って来る。
「隊長、明日『シャーマン』が学園に納品されるそうです」
「えっ? 入学式の日に来るの?」
「はい、学園に来るのは朝みんなの登校前らしいので、どうします? 戦車倉庫開けておきますか?」
絵里の問いに祐子は「うーん」と言って考えた。しかし、目の光は消えない。深くは考えていないようである。
「ううん、戦車倉庫前に置いてもらおうよ。そうやって新入生達に見てもらうのはどうかな?」
「ええ、それも良いかもしれませんね」
「じゃあ、そうしてもらおうね。あっ、翔子ちゃん達にも知らせなきゃ!」
「それでは、生徒会にそうしてもらうよう伝えておきます」
「えっ? 絵里さんが伝えるの?」
「はい、生徒会長に無理やり隊長との連絡係を押し付けられましたので」
そう言って絵里は溜息をつくと、携帯を取り出し、五秒でメール本文を打ち込み送信する。相手はおそらく生徒会長、佐々木レイナであろう。
「会長への連絡は終わりました。あと、今日から隊長やリーダー達と話す時は標準語に統一しますので」
「はい。了解しました」
絵里はそう言って軽く手を振ると自分の席に戻る。祐子は立ち上がると翔子達の席に向かい、今決めたシャーマンの納品後の置き場所を説明しに移動した。
午前中の授業は普通に四時間目まで受け、学食にて昼食を取り午後に入る。
午後は翌日の入学式の準備に二年生、三年生が役割分担に沿って準備していく。
2-Bは、一年生の教室の準備担当だった。
翌日、入学式の日。
父兄と共に真新しい学園の制服を着た新一年生達が、続々と登校して来る。
新入生は校内掲示板に貼り出されているクラス名簿を見て自分のクラスへと入り、出席番号が張られた席に着いた。
同伴してきた父兄達は、入学式会場である大講堂へと向かう。
午前九時になり、各クラスの担任と副担任の先生がそれぞれのクラスに入り、自己紹介と今日のスケジュールを伝えた。
その後、新入生は自分のクラスの担任に案内されて大講堂へと向かい、正面扉から中へ入る。そこには二年生、三年生が待つ入学式会場があり、上級生に見守られながら演壇前に並べられた椅子に座り、入学式が始まった。
入学式が終ると一年生は自分の教室に戻り、上級生は手分けして後片付けを行う。
そして、教室に戻った一年生達はオリエンテーリングがあり、希望する必修選択科目を決める。そして、放課後となった。
戦車倉庫内の更衣室
祐子や翔子達、戦車道履修者の先輩となるメンバーはパンツァージャケットに着替え終ると倉庫から出て来た。
倉庫前に並べてある二両の『M4シャーマンA6型』を見上げながら全員が笑顔でワイワイと会話をしている。
そこへ校舎から戦車道履修希望の一年生が歩いてきた。
上級生となった祐子達は、シャーマンの前にいつものように部門毎に二列縦帯に並ぶと歩いて来る一年生を待つ。
全体の先頭に立つ祐子が一年生を横一列に並ばせると、自己紹介を始めた。
「大洗女子学園戦車隊へようこそ! 隊長の遠藤祐子です。私達全員、みんなの入隊を歓迎します」
祐子がそう言って拍手をすると、後ろに並んでいる亜希子達も同じ様に拍手をする。
一年生達は拍手を受けると戸惑いながら、バラバラだが頭を下げる。
そこで祐子は一年生に自分のクラスと自己紹介、希望する担当を右から順に発表させた。
一年生は全部で十六名。
指示された通り右から順に、自己紹介を行う一年生は希望する担当を言うと、祐子が担当リーダーである亜希子達の前へ連れて行く。
そこでまた、各部門のメンバー達の歓迎を受けた。
ただ、戦車長を希望する一年生がまだ一人もいないので、亜希子をリーダーとする戦車長部門は少し寂しそうだった。
そして、一番最後になった元気いっぱいという感じの新入生の番になる。
彼女の姿は背が高くなり、スタイルも良く、スカートの中にスパッツを履いていない、元アヒルさんチームの戦車長、磯辺典子のようである。
しかし、当然今のメンバー全員は彼女の事は知らないが……。
「普通科1年B組、佐々木ルナです! 戦車道が大好きで、高校でも戦車道を続けたかったので戦車道を希望しました。担当は戦車長を希望します!」
戦車長部門のメンバー達の表情が一気に明るくなった。
特にリーダーである亜希子は嬉しさの余り小さな声で「やった」と呟いた。
自分達の部門に、可愛い後輩が誕生したからだろう。
祐子はニッコリと微笑みながら、ルナに近づくと「おやっ?」という表情に変わった。
「佐々木さん。あなた、お姉さんが学校にいる?」
「はい! 一人、三年生にいます!」
「もしかして、お姉さんはレイナさんじゃない?」
「はい! 佐々木レイナは私の姉です!」
ハキハキと元気よく答えるルナを見ながら祐子は何かを思い出したのか、彼女に質問する。
「レイナ会長が、昔、あなたと一緒に戦車道の道場に通っていたと聞いたんだけど?」
「はい! 姉も私も中学卒業まで通ってました」
「その道場は西住流なの?」
「いえ、違います!」
元気な返事をするルナに、祐子はさらに尋ねた。
「じゃあ、通っていた道場の流派はどこかな?」
祐子の質問に答えたルナに上級生達全員が驚いた。
「はい! 島田流です!」
ルナの答えに、翔子が思わず声を出す。
「げっ。まさかの大洗のラスボスが乗り込んで来やがった」
「ちょっと、翔子さん! 私達の大事な後輩にそんな酷い事を言うなんて許さないわよ」
彼女の隣りにいた亜希子が直ぐに反応し、翔子に注意した。各戦車長達も同時に翔子を睨む。
翔子は直ぐに自分の失言を謝った。
「す、すまん。俺が悪かった。佐々木さん、気を悪くしないでくれ」
「いえ、先輩大丈夫です。気にしていません」
ルナは気にする様子もなく、相変わらず元気一杯にハキハキと話す。
祐子はルナを亜希子の前に連れて行った。
戦車長部門のメンバーに囲まれ、歓待されているルナを見て、亜希子は呟いた。
「島田流の経験者かぁ。腕がなるわね。私が料理して西住流と島田流を融合させてみせるわ」
「けっ、普通の料理もできない奴が、どう料理しようって言うんだぁ」
翔子の本当に小声の呟きだったが、通信手となった亜希子の耳から逃げられない。
般若になった亜希子が、翔子を睨みつけ言った。
「うん、分かったばい。翔子さんとはどぎゃんしても決着ばつけんばいかんね。昨日の朝の続きばしゅうで。さあ、かかって来んしゃい!」
パンツァージャケットの袖をまくりながら翔子に迫る亜希子。
それを見た祐子が、全員に号令を掛けた。
「全員整列! 今から訓練を始めます」
バタバタと整列し直したメンバーを見て、祐子は新メンバーの一年生が沢山履修してくれた嬉しさとこれから湧いてくるだろうトラブルを思って、複雑な溜息を付いた……。
今回で、ようやくプロローグ的な物が終わりになります。
次話から本編に入りますが、書き溜めが無くなりました。orz
申し訳ありませんが、時間をもらって書き溜めします。
その間、元になっている『女神達』の方を再投稿していますので、そちらを暇つぶしにしてください。
誤字、脱字の報告を宜しくお願いします。