ガールズ&パンツァー  これが三代目の戦車道です(女神達のメッセージ改)   作:熊さん

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今回は人物紹介が含まれます。
その為、地の文がやや多めになりました。
その点ご了承下さい。
地名が出てきます。実際とは違うと思いますが、そこは大目に見て下さい。
それでは、続きをどうぞ。


三代目チームの初試合です。

 梓達が卒業して一週間が過ぎた、三月中旬。

 大洗女子学園の学園艦は、巨大な港の埠頭に停泊していた。しかし、母港である大洗町の埠頭ではない。

 今、学園艦は、鳥取県、境港市にある昭和南岸壁にある五番埠頭に二日前に到着し、接岸していた。停泊している場所の桟橋を挟んで反対側、六番埠頭にも一隻の学園艦が停泊している。この学園艦は、大洗女子学園の艦よりも一回り小さい。

 そして、今日は日曜日の午前六時過ぎ。

 大洗側の学園艦から四十人乗りの新型大型バスが、もう一方の方からは、中古の二十人乗りバスがそれぞれ五両ずつの戦車を載せた『M25戦車運搬車』通称ドラゴンワゴンを引き連れて学園艦に住む人が乗る乗用車やらバス等に混じって下船してきた。

 

「うわぁ! 戦車がいっぱい、いる! お父さん、見てみて!」

「おっ、本当だな。そういえば今日、試合するんだったな」

「お母さん、試合勝てそうなの?」

「どうかしらね、勝てたらいいわね」

 

 ドラゴンワゴンの隣りで停車して、下船の順番待ちをしていたステーションワゴンの中の親子が、戦車を見て楽しそうに会話をしている。

 

 両学園艦から下船した、そのバス達と二台のドラゴンワゴンは、境港市の中の県道431号線を南下しして、一路、国道9号線へと向かう。

 鳥取県を東西に繋ぐ9号線バイパスに上がると、今度は東に向かいだした。そして、鳥取県の中央部付近になる青谷ICで分岐して旧国道9号線に入り、そのまま東へと向かっていく。

 福部町まできた二台のワゴンは9号線に別れを告げ、県道265号線に入る。その後、しばらく走った先にある『砂丘センター見晴らしが丘』の広い駐車場にお互いの距離が100mほど開く位置に別れて停車した。

 

 ワゴンの前に止まったそれぞれのバスから、揃いのタンクジャケットを着た女子高生達が降りてくる。しかし、その様子は対照的だった。

 大洗側のバスからは、修学旅行の生徒かと間違えるほどの楽しそうな会話をしながら彼女達は降りてくるが、一方の方は静かに黙って、整然と降りてきた。

 降りてきた双方の生徒達はそれぞれのワゴンの方に向かうと、積んであった戦車達に分かれて乗り込み、戦車のエンジンをかけるとゆっくりとワゴンから降ろし始めた。

 五両の戦車を降ろし終えたワゴンはそのまま駐車場を離れると、指定されている場所があるのだろう、二台が前後に並んで県道265号線へと出て行った。

 

 ドラゴンワゴンから降ろされた戦車達は、それぞれ向きを変えて前方に見える学校に対してお互い向かい合うように並べ直され、それが完了すると乗っていた生徒達が揃って、それぞれの戦車から降りてきた。

 降りてきた双方の女子高生達はそれぞれの戦車達の前に整列し、時が来るのをまっていた……。

 

 しばらくして駐車場に一台のワゴン車が現れると、両校の中間地点で停車して中から三人の審判用制服を着た女性達が降りてきた。

 女性達を降ろしたワゴン車は、そこから少し離れた場所に移動して再び停車した。

 審判団の女性達は横一列に並ぶと、中央にいた女性が右手を挙げる。それを見ていた双方の学校の中から一名ずつが前に歩み出て、そのまま女性達の方へ歩いて行った。

 大洗側の方からは少し緊張しているのか、俯向きながら歩く何も持たない女子学生が来ているが、一方の女子生徒は遠目で何やら丸っこいものを抱きかかえている。

 そして両名は、審判団の女性達の前で相対峙した。

 

「大洗女子学園の皆さん、今回、我々のお願いを受諾して頂き、はるばるこの地まで遠征して来て頂き、本当にありがとうございます。私は『コアラの森学園』戦車隊の亜彫(アボリ)と言います」

 

 深緑の開襟軍用シャツに、上と同色のキュロットスカート。これまた深緑のカウボーイハットでまとめられたパンツァージャケットに身を包んだ背の高い、肩までの金髪で一見するとちょっと気の強そうな切れ長の目をした亜彫が、そう言って対面する生徒に挨拶と自己紹介をした。そして、彼女が抱えていた遠目に見ると丸っこいものとは……。

 亜彫の左腹部にしがみつき彼女が優しく抱っこしている、体長が50cmほどの一匹のコアラだった。

 自分の前にいる大洗女子の生徒の顔をクリクリしたまん丸の目でじっと見ている、コアラの方へ、亜彫は視線を向けると、にこりと微笑み抱いているコアラの紹介を始めた。

 

「こちらは、戦車隊全員でお世話をさせて頂いております『コアラ』殿でございます。皆さんにもご挨拶をと思い、同伴させていただきました」

 

 亜彫が紹介したコアラは、騒ぎもせず自分達の前に立つ女子生徒の目をただじっと見つめている……。

 

 

 大洗女子学園側から挨拶に来た、大きな白い襟が目立つ、全体が青色のパンツァージャケットを羽織り、白いミニスカートを着た女子生徒。

 

 彼女の名前は『遠藤祐子』

 梓が指名した、三代目の戦車隊の隊長である。

 身長は163cmで、少し明るめのグレーの髪をワンカールの内巻にしたボブの長さに切っている。

 顔立ちは、女子高生と言われても首をかしげるくらいの幼い顔立ちをしていた。

 しかし、彼女の一番の特徴は大きな目である。見つめられると、吸い込まれそうな情熱的な目をしている。

 彼女はよく考え込む癖があり、その癖が出ている時は周りの人間が心配する程の表情になる。だが、本人曰く小さい時からの癖でどうして治らないそうで、同じクラスの人も知っており、この癖が出ている時は放おっておく事になっていた。

 そして、彼女には戦車チーム全員が知っている特別な特技がある。梓も、この特技を知ったからこそ彼女を隊長に指名したのだが、祐子本人はその特技を持っている事自体を知らない。

 

 

 祐子は挨拶する一匹と一人を交互に見ると、笑顔で挨拶を返した。

 

 「こちらこそ、練習試合に誘っていただき、ありがとうございます。この度隊長になりました『遠藤祐子』と言います。お互いにとって有意義な試合にしたいと思っています。全力を尽くしますので、よろしくお願いします」

 

 そう言って彼女は、ペコリと頭を下げた。そして、顔を上げると正面にいるコアラと亜彫に微笑みを送ったのである。

 

 試合前の両校の挨拶が終ると、その様子を見ていた審判団はそれぞれちらりと腕時計を見て試合開始時刻になった事を確認する。

 そうして、中央にいる審判長が大きく右手を挙げて、足元に置いていた拡声マイクを左手に持って口元に近づけると試合開始の宣言をした。

 

「それでは、これより『大洗女子学園』対『コアラの森学園』の練習試合を行います。開始宣言の後、三十分後に合図の花火を打ち上げますので、それまでに所定のスタート地点へ移動しておくこと。花火の合図で試合を開始してください。お互い実力を十分に出し切るよう頑張るように。それでは一同、礼!」

「「よろしくお願いします!!」」

 

 左右に分かれお互いに対面している両戦車隊のメンバー一同は、審判の号令で一斉に頭を下げた。

 こうして初対戦となる両戦車隊の練習試合が、鳥取砂丘を含んだ日本海を望む鳥取県福部町をメインにした臨時試合場で始まろうとしていた……。

 

 

 時刻は、午前八時三十分を少し過ぎた。

 試合フィールドとなるここ福部町の一部とについて、少し紹介する。

 発砲許可エリアは『鳥取砂丘砂の美術館』を中心にした、80km×80kmの正方形の距離内である。

『見晴らしが丘』から、西側にある『砂丘子供の国』駐車場に『コアラの森』が陣取り、東側になる所『福部インターチェンジ』の近くの一般駐車場に『大洗女子』が陣取る。

 お互いの中間ぐらいの所に『多鯰が池』があり、その池の北側にある県道265号線を挟み、そのさらに北側に『鳥取砂丘』が広がっている。

 その砂丘には砂丘と陸地を分ける堤防が東西に延びており、砂丘の先には日本海が見えていた。海の上では遠目にも白波がたっているのがわかるほど強い風が吹いている。その風は南側に向かって容赦なく吹き付けていた。砂丘には、吹き付ける風による風紋が、絶えず砂の上に描かれ続けている。

 そして、フィールドのはるか南側には中国地方を北と南に分ける『中国山脈』が見えていた……。

 それぞれの高校は、去る三月上旬に三年生の卒業式を終え、先代チームのメンバー達が引退した。

 新しいチームとなった両校は、自分達の現状の実力を確認する為と戦車隊同志の親睦を目的として『コアラの森学園』側から『大洗女子』側へと依頼があり、それを受諾した事によりこの練習試合が組まれ、今から試合が始まるのだ。

 この練習試合のレギュレーションは以下の通り。

 

1 試合は、フラッグ戦形式で行う。

2 戦車数は五両ずつの、両軍合わせて十両で行う

3 各戦車五両の合計総トン数を、百十トン未満とする。

4 試合エリアは鳥取県鳥取市福部町の発砲許可エリア内とする。

5 試合時間は五時間とし、時間内に決着がつかない場合は引き分けとする。

6 その他のルールは、日本戦車道連盟公認ルールに準ずる

 

 試合を行うにあたり、両高校の生徒会による事前の打ち合わせで各レギュレーションが決められ、その詳しい準備手順と各種書類を日本戦車道連盟内にある高校戦車道連盟に提出、認可を得て本日の試合に至ったのである。

 

 

 挨拶を終えた祐子は、その場で回れ右をすると自軍の方へと歩き出す。

 しかし、彼女は少しうつむいて、ずっと考えこみながら歩いていた。

 

(確か、あのコアラさんって、学校のマスコットじゃなかったかな……。亜彫さんは、あのコアラさんを紹介する時、敬語を使っていたけど、どうしてだろう? 何より、なぜ、亜彫さんは試合前の挨拶にコアラさんを連れてきたのかなぁ……?)

 

 そうして、しばらく考えながら歩いていたが、自軍に近づくと視線を上げ、正面を見据える。

 その視線の先には、チームメイトと五両の戦車達が見えていた。彼女自身も着ている青を基調色としたパンツァージャケットに白のミニスカートを着た計二十名の遠征選抜メンバーとその背後に居並ぶ戦車達が、横一列に並んでいた。

 一番左から順に『Ⅲ号突撃砲』『38t軽戦車改ヘッツァー仕様』『M3中戦車Lee』『ルノーb1bis』『89式中戦車甲型』の五両が並んでいる。

 フラッグ車の目印である青い旗は『ルノー』に掲げられていた。

 祐子がメンバー達の前に戻ってくると、整然と並んでいた彼女達は戻ってくる祐子に我先にと近寄り、口々に祐子に質問してきた。

 

 「ねえねえ、祐子、コアラさん可愛かった?」

 「コアラちゃんさぁ、抱っこさせてもらえないかなぁ。試合終ったら頼んでみてもいいのぉ?」

 「試合が終わった後の交流会の時に頼めるんじゃない?」

 

 メンバー達は、祐子を取り囲むようにして試合前の緊張感はまるで皆無の話をしている。

 その時『M3』の前に一人になっていた女子生徒が、祐子を囲んでいる仲間達に向かって、大声で怒鳴った。

 

 「お前ら、ちょっとは試合に集中しろよ! ここはアウェーだし、もし負けでもしたら先輩に、顔向けができないぞ!」

 

 彼女の名前は『大森翔子』という。

 卒業式の日に阪口桂里奈が「翔ちゃん、泣かない」と言って頭を撫でていたあの一年生である。

 172cmで、少しがっちりとした肉付きの、それでいて女性らしい膨らみが目立つ。

 栗色の自分の髪をショートヘアーにしている。

 祐子とは同じ中学の出身で、祐子の一番の親友である。性格はサバサバした男性みたいな所があり、男言葉で話す。

 担当は『操縦手』であり、操縦手部門のリーダーである。

 

 

「翔子ちゃんはぁ、慎重になりすぎなんだよぉ。相手は『コアラの森』なんだよぉ。どの大会でも一回戦を突破できるかどうかの弱小校じゃないのぉ。去年の全国大会では、まぐれで一回戦は突破したみたいだけどさぁ、次の二回戦では負けちゃっているしぃ……。それに比べたらぁ、私達は去年、夏の全国大会準優勝したチームなんだよぉ。負けることなんてありえないよぉ」

 

 大声で「コアラを抱っこしたい」と真っ先に祐子に詰めよっていた女子生徒が、翔子に対して意見をする。

 

 彼女の名前は『浦田恵』

 身長は150cmと小さな体が目立つし、女性としての発達も、まだまだこれからという印象を受ける。

 自分の黒髪をツインのシニヨン(お団子)にまとめ、右のお団子を赤いリボンで止めていた。

 ふわふわとしたしゃべり方が特徴で、砲手になった理由が「砲弾が相手戦車に当たった時の感触が気持ちいい」という何とも単純な理由から砲手になった。

 しかし、大洗の中では一番の射撃精度を持っている、大洗のスナイパーだった。

 大野あやの愛弟子で『砲手』を担当しており、砲手部門のリーダーをしている。

 

「そう。……お姉ちゃんの言う事は、いつも正しい……」

 

 恵の隣に立っている、彼女と同じ顔をして同じ髪形ではあるがツインお団子の左側に白のリボンをつけている女子生徒が、恵の左腕に右腕を絡ませ彼女の後に続いて翔子に言う。

 

 彼女の名前は『浦田かなえ』

 口数の少ない丸山紗季が、一番目をかけていた装填手部門のリーダーである。

 砲手の浦田恵とは一卵性の双子で、髪型の形まで同じにすると両親でも見分けがつかない。

 ちなみに、恵の方が「姉」になり、「かなえ」の方が「妹」になる。

 極度のシスコンで、装填手になった理由も「砲手のお姉ちゃんの隣に居たい」という単純な理由であった。

 装填の速度は大洗一だが、体力がないのが弱点の装填手である。

 

 宇津木優季が担当していた通信手部門のリーダーは学業の成績が思わしくなく、今日は学校で補習授業を受けているので練習試合には参加していない。

 学業の成績が悪いのは彼女の目的の為なのだが、通信手部門のメンバー以外、戦車道履修者はこの時点では誰も知らなかった。

 

 

 恵とかなえの姉妹は、そっくりの垂れ目を翔子に向けている。

 隣のかなえを含む祐子と翔子以外のメンバーの半数も彼女の意見に同意なのか、小さくその場で頷いていた。

 

 「私も恵さん達と同じ考えよ。慎重になる必要はないから。相手は見立て通りに、フラッグ車が『マチルダⅡ』で『センチネル巡航戦車』『M3軽戦車』の二両ずつで脇を固める布陣だし……。戦力の差が開かないように戦車重量総トン数を百十トン未満数量を五両までと決められたから、実際のところ戦車の質ではなく搭乗員の練度が重要よ……。それを考えたら全国大会で五回も試合をする事のできた私達と、一回戦をギリギリ勝てた向こうとは経験に大きな差があるのよ。力押しでも問題はないと思うよ」

「亜希子さんも、やっぱりそう思うのねえ。冷静分析だと思うなあ。さすが西住流を五年も学んだ人ねぇ」

 

 そう言いながら『ルノー』の砲塔後部ハッチから車内にいた女子高生が外に出て来ると、恵が感心したように言って彼女を見た。

 

 ルノーから降りて来た彼女は『北川亜希子』という。

 おしゃれな銀縁眼鏡をかけ、少し赤みがかった栗毛色の髪を首までかかるほどの長さにし、それを黒のシュシュで一本にまとめた見るからに優等生委員長風の彼女であった。

 現在、彼女は戦車長部門のリーダーを務め、チームの副隊長を兼任している。

 大洗の中で一番戦車道に詳しく、特に西住流戦車道に関しては他の追随を許さない程の知識がある。

 越境入学しており、冷静沈着であるが冷静さを失うと言葉使いが大きく変わる。

 

『ルノー』を降りて、右側面から正面に出てきた彼女は「とんでもありません」と言わんばかりに小さく首を横に交互に振りながら、祐子の方に近づいてきた。

 自分に近づいてくる亜希子を正面に見ながら、彼女は黙っている。

 祐子の前で止まった亜希子は、貫禄といい、落ち着き具合といい、自分に自信がある人物特有のオーラを出していた。

 

「祐子さんは隊長としてチームを指揮する、初めての試合になります。しっかりと指示をお願いしますね。副隊長として、私もちゃんとサポートをします」

 

 亜希子の激励を聞いた祐子は、小さく頷いて、それを自分の返事とした。

 

 祐子はメンバー達の前から一歩出ると、担当戦車への搭乗とパンツァーカイルでの試合開始地点まで移動を指示する。指示された全員の「はい」という返事の後、それぞれが担当する戦車へと搭乗していった。

 フラッグ車の『ルノー』には。副隊長兼戦車長の亜希子、砲手の恵、装填手のかなえの姉妹と操縦手の計四名が乗り込む。

 そして、隊長車の『M3』には、選抜された砲手二名と装填手、通信手の各一名の計四名が、隊長兼戦車長の祐子と操縦手の翔子より、先に乗り込んだ。

『M3』以外の各車のエンジンが動き出し、それぞれが待機している。

 それを確認した祐子は、最後に自分が乗る隊長車『M3中戦車Lee』の正面で待っていた翔子に向かって近づいていく。

 自分の目の前で立ち止まった祐子に対して、翔子は優しく声を掛けた。

 

「祐子、何も心配することはないさ。ちゃんとやれるはずだよ……。隊長になってから祐子がどれだけ頑張っているか、俺は知っているからさ。澤前隊長が次の隊長にお前を選んだ理由も、多分だけど、なんとなく分かるから。お前の指揮も信用しているよ。頑張ろうな。隊長!」

「うん、ありがとう。私も翔子ちゃんの操縦テクを信頼しているからね」

 

 そう言って二人並んで『M3』の正面を見る。

 そこには、前ウサギチームがパーソナルマークとしていた『キラーうさぎ』のペイントではなく、ピンク色で描かれた、大洗女子学園戦車隊の隊長車である事を示すデフォルメされた『あんこう』のパーソナルマークが描かれていた。

 

「んっ……どうしたんだ。祐子? 早く乗り込もうぜ」

 

『M3』を見ながら何かを考えている様子の祐子を不思議に思い、翔子は彼女に近づく。

 祐子は、彼女を見て言った。

 

「翔子ちゃん。……私ね、この試合ね……。 ううん、ごめん、気にしないで」

「どうしたんだ? 何か心配事でもあるのか?」

 

 翔子の問いに、祐子は小さく首を振る。

 

「ううん。そうじゃ無いんだけど……。でもね、何というか解らない。何かこう……。ごめん、もしかして、緊張しているから気になっているのかもしれない。ほら、私ってば、臆病だし……」

「お前の性格知っているから、わかるけどさ。大胆に行けよ。作戦通りに……な!」

 

 翔子は祐子の肩に腕を回すと、彼女の肩をポンと叩く。

 祐子は背の高い翔子の顔を見上げると嬉しそうに言った。

 

「うん、ありがとう。翔子ちゃんが一緒に大洗に来てくれて、私、本当によかった」

「よせよ、照れるじゃないか。……さあ、行こうぜ」

「うん!!」

 

 祐子はそう言って笑顔を作ると、翔子とともに隊長車『M3Lee』に乗り込んだ。そして、待機している場所から全車両が動き出す。

『M3』を先頭に『ルノー』『Ⅲ突』『38t』『89式』の順に、駐車場を一列で移動すると坂になっている駐車場へのスロープを下り、県道265号線に出る。

 そして、全車両は一列縦隊を維持したままで、試合開始時点のスタート地点となる、福部IC近くの一般駐車場へ向かっていった。

 

 

 祐子が気にしているものは「自分が観察されているという視線の圧」だった。

 その圧を発している者に気付くことは彼女だけではなく、恐らく、今のどこのチームの隊長でも絶対にありえない。

 それは『コアラの森学園』戦車隊が、ずっと隠し続けているものだった……。

 

 




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