ガールズ&パンツァー これが三代目の戦車道です(女神達のメッセージ改) 作:熊さん
祐子の特技が明かされる話です。
実際、この特技は熊も欲しいです。
それでは、続きをどうぞ
亜希子が、左舷デッキ公園のベンチに座った頃……。
祐子は翔子達三人に戦車倉庫に引っ張り込まれ、問い詰められていた。
「祐子、亜希子が泣くなんて、よっぽどの事だぞ。本当に何があったんだよ?」
「祐子ちゃん、教えてよぉ。他の人には、絶対に言わないよぉ」
「……お姉ちゃんが言わないから、私も言わない……」
翔子と恵、かなえは、祐子の悲しそうな顔を見ながらも理由を聞き出そうと躍起になっている。
祐子は、三人の問いに答えるかどうか散々躊躇して迷っていたのだが、決心すると彼女達に生徒会室での出来事を言葉を選び、亜希子のプライドが傷つかないように慎重に話した。
話を聞いた三人は驚いた表情になる。そして、瞬時に翔子が激昂した。
「『戦車道を辞めた方がいい』って、勝手なことを言うなよ。亜希子ほどチームの事を考えている奴はいないんだぞ」
「うんうん、そうだよぉ。二度負けたからって『辞めろ』はないよぉ」
「……お姉ちゃんの言う通りだと思う……」
恵とかなえも同じ意見らしい。
すると、翔子がさらに祐子に詰め寄る。
「祐子! 生徒会室に乗り込むぞ! 会長に一言文句を言ってやる」
「ううん、それは違うよ! 今は亜希子さんを探す方が先だよ。翔子ちゃん、恵さん、かなえさん、手伝って!」
祐子が三人を見て言うと、彼女達は同時に頷く。そして、四人は戦車倉庫を飛び出すと、星空がよく見える夜の中、正門へと駆け出した。
学園正門前は街灯が設置されていて、そこは三叉路の交差点になっている。
三叉路の右側の道は艦尾方向になり、そこは学園艦内にある山や渓谷がある自然が豊かな地区に続いている。ちなみに、戦車の野外訓練場もここに在る。
正面の道は、生徒会会長が住む部屋や艦を動かす指令所がある艦橋へと続いている。
左手は一般住宅街に向かう一般生活道路になっている。
正門を出た四人は交差点の前で立ち止まるが、翔子が祐子に即座に聞く。
「祐子……。亜希子は右の道に行ったと思うか?」
「……ううん、そっちには行っていないと思う」
翔子の問いにちょっと考え、祐子は右手の道を見ながら答える。
すると、今度は恵が祐子に尋ねた。
「祐子ちゃん、艦橋の方かなぁ? それとも、左の方かなぁ?」
「うん、こっちだと思う」
祐子は一般住宅街に向かう左手の道を指さす。
それを聞いた翔子が「よし、行くぞ」と言い、走り出した。
翔子の後を追って、それに続く三人。
四人が二百メートルほど走ると、今度は艦首に向かう今走っている直線道路と住宅街の中に入る左に曲がる道に分かれる分岐交差点が迫ってきた。
分岐点手前まで来た先頭を走る翔子が、また祐子に聞いてきた。
「祐子! 真っすぐか? 左か?」
「うーん。……左!」
翔子のすぐ後ろを走っている祐子がまたちょっと考え、向う道を指示する。
祐子の指示に従い四人は左へと曲がり、街灯が照らしている住宅街の路地を走って行く……。
ちなみに、艦の進行方向に対して学園全体を東西南北の中心に置いた時、正門は東の位置になり、その東側を真っすぐに行くと艦橋へと続く右舷デッキになる。北側が艦首になり一般住宅が多い地区になる。南側が艦尾方面で山や湖がある自然豊かな地区で、西側には学園に隣接する女子寮があり、その先に左舷デッキがある。
現在、四人は学園を東から出発して、しばらく北上し、西に向かって走っている所である。
路地を走る四人の前にまた三叉路が出てきた。
三叉路で立ち止まった四人は、右の艦首方向、正面の左舷デッキ方向、左の女子寮に続く道をキョロキョロと見渡している。
どの方向も亜希子がいる可能性があるが、恵が祐子に尋ねる。
「祐子ちゃん。どっちかなぁ?」
「違う、恵。祐子! 亜希子は、女子寮にいるのか?」
「うーん。……いないかなぁ」
翔子が、恵の問いに被せるように質問を言い直す。
その問いに祐子は、またちょっと考えて答えた。それを聞いた翔子は、前方を見て再び聞いてくる。
「だったら、亜希子は左舷デッキの方に行ったのか?」
「……うん、そっちだと思う」
「よし! じゃあ亜希子は『左舷デッキ公園』にいるのか?」
「うん。そうだよ! 亜希子さんは、きっとそこにいると思う」
祐子の返事を聞いた三人は同時に頷くと、左舷デッキにある公園へと走り出した。
学園艦の一番左になる左舷デッキ公園の中央部分になる所に着いた四人は、そこで二手に分かれた。
浦田姉妹が艦首方向へ向かい、祐子と翔子が艦尾の方へ向かう。そして、亜希子の名前を呼びながら歩いていた所、ベンチに座っていた亜希子を見つけたのである。
亜希子を見つけた二人は、翔子がすぐさま携帯を取り出し恵達に連絡を入れる。連絡を入れている暇に祐子が小走りに亜希子へ近づいた。
近づいて来る祐子を見た亜希子は、スッとベンチから立ち上がり祐子が目の前に来るのを待つ。
「ハアハア……。亜希子さん、大丈夫? 心配したんだよ」
「ごめんなさい。心配かけちゃって、でも、もう大丈夫だから……」
亜希子は息を整え心配そうな表情の祐子を見て、素直に謝った。そこへ、翔子が歩いてやって来た。
「恵とかなえも、ここにすぐにくるってさ」
「翔子さん達も、探しに来てくれたの?」
「当たり前だろ。何言ってんだよ。心配させやがって」
翔子は、亜希子の頭に軽く空手チョップを入れる。
亜希子は普通ならそんな事は絶対にさせないが、今だけは甘んじてそのチョップを受ける。彼女は、翔子にも「ごめんなさい」と謝った。
そして、ホッとして並んで自分を見ている二人を見て、亜希子は話す。
「でも、私がここにいるってよく分かったわね」
「ああ、祐子の特技を使って探して来たからな」
「そうなの。祐子ちゃん、ありがとう」
「ええっと、二人は何の話してるの?」
二人の会話をキョトンとして聞く祐子。
すると、翔子と亜希子は、祐子の問いに同時に答えた。
「「祐子(ちゃん)は、知らなくていい(の)」」
二人の返事を聞いた祐子は「ええっ! 教えてよ」と、二人の顔を交互に見ながら食い下がるが、二人は笑って「ダメ(よ)」と、また同時に言った。
むくれる祐子の顔を見て、翔子と亜希子が笑っていると、艦首方向から恵とかなえがやってきた。
「亜希子ちゃん、大丈夫なのぉ。元気でたぁ?」
「……、大丈夫?……」
恵とかなえも心配そうに尋ねてくる。
亜希子は二人にも「ごめんなさい」と謝罪した。
すると、かなえが、祐子を見ながらボソリと呟く。
「……やっぱり、祐子ちゃんの特技はすごいと思う。ねえ、お姉ちゃん……」
「ホントだよねぇ。私も、今日の事でやっぱり祐子ちゃんの方が隊長に向いてると思ったよぉ」
恵は何度も頷きながら、かなえの話に続いた。
しかし、二人の話の渦中の人は、小首を傾げている。
「あのう、恵さんもかなえさんも、何を言っているのかな?」
「あっ、祐子ちゃんは知らなくていいんだよぉ」
「……うん、お姉ちゃんの言う通りだと思う……」
祐子はさっき翔子達に聞いた事を恵達にも聞いたが、返事は同じだった。
祐子は,さらにむくれながら、周りにいる四人に言った。
「本人が知らない特技って、それって特技って言わないと思うんだけど?」
すると、翔子が言う。
「これはな、祐子は絶対に知っちゃいけないと思うんだよ」
「そうよ、他の皆も知っているけど、祐子ちゃんには絶対に話さないって密約があるくらいだから」
翔子と亜希子が言うと、恵とかなえは同時に頷いた。
四人に拒否された祐子は、みるみるほっぺたを膨らませ、口を尖らせた。
「みんなの意地悪! もう知らない!」
祐子はついに怒ると、四人から目をそらし、そっぽを向いた。
四人はそんな祐子の拗ねた態度に笑いながら、同じ事を同時に思っていた。
(……か、可愛い)
祐子以外の戦車道メンバー全員が知っている、祐子の特技。
本人には絶対教えないという密約があるのは、祐子自身が知ってしまったらこの特技が消えてしまうかもしれないという恐れがあったからである。
祐子の特技というよりも、これは才能と言ってもいいかもしれない。梓が祐子を隊長にした決定的な理由が、この才能にあったからである。
祐子の才能というのは『戦車道の試合やチームメイトに対して、二者択一の場面になった時、少々考える事になったとしても祐子は絶対に正解の方を選び100%間違わない』という、隊長を務めている者なら、誰もが喉から手が出るほど欲しい才能だった。
戦車道の試合において、二者択一の場面はよく出てくる。
『前進か、停止か』『右か、左か』『攻撃か、撤退か』様々な場面でどちらが正解なのか決断する時、祐子は絶対に間違わない。
これが三択になった時は、強引に二択にするのだ。一つの設問を〇×として考え、その選択が×の時、残りの二択から選ぶ。
こうして祐子の才能が発揮できる状況を、周りが作ってやるのである。
本人にはこの才能を絶対に教えないというのは、祐子本人が意識してしまうと判断に邪念が起こり最悪の場合、この才能が無くなってしまうとメンバー全員が思っているからである。
ちなみに、この才能は戦車に乗っている時や戦車道のメンバー達に対してだけに発揮される、とても限定な才能で、試験の時など自分自身には発揮されないという事を翔子達は知っている。
だから、祐子自身は知らないし、訓練や試合の時は自分は運がいいぐらいにしか思っていない。
「遠藤隊長。私、北川亜希子は隊長にお願いがあります!」
そっぽを向いている祐子に向かって、突然亜希子は姿勢を正して言った。
それを見た翔子と恵、かなえは、びっくりして亜希子を見た。
呼びかけられた祐子は思わず「ふえっ」っと言う変な声を上げて、即座に亜希子の方を振り向く。
そして、直立不動になっている亜希子を見て思わず自身も直立不動となった。
亜希子はさっき自身が決めた事を口にして、目の前で戸惑っている祐子に頭を下げた。
「遠藤隊長のチームの通信手として、私を入れてもらえないでしょうか。必ずお役に立ちます。どうかお願いします!」
「ふぇえっ」
祐子はさらに変な声を出した。
亜希子は頭をさげたまま微動だにしない。
輪になって立っている五人の内、一人が頭を下げたまま残りの四人がその様子を見つめていて、遠くで車のクラクションが二回聞こえた……。
亜希子以外の四人は、亜希子の行動が分からずポカンとしている。
翔子はチラッと祐子の方を見ると瞳の輝きが消えかけ、空中を彷徨っていた。
それを見た翔子は、亜希子の傍に立ち強引に頭を上げさせる。
「おい、亜希子! お前が変なこと言うから祐子が困っているじゃないか」
「困っているって、どうしてなの?」
「お前、副隊長じゃないか。そのお前が通信手やりたいとか言ったら、祐子が困るだろうが!」
「あっ、それね。私、副隊長辞めるから問題ないわよ!」
亜希子の返事に祐子の目の光が完全に消えてしまい、白目を剥いているように見える。視線は空中を漂い、どこか危ない人のようだ。
翔子達他の三人は、亜希子を見てそれぞれが同じ事を思った。
(……何を言ってるんだ? 亜希子の奴)
(……亜希子ちゃんがぁ、おかしくなっちゃったぁ)
(……、亜希子ちゃん、頭大丈夫なの……)
だが、当の亜希子の顔はニコニコとしていて、もう悩みなんてなくなったと言わんばかりの顔になっていた。
「亜希子ちゃん、ここで何かあったのぉ? 突然すぎて私、分かんなぁい」
恵がたまらず聞くと、亜希子は瞳を輝かせて言った。
「うん、とっても素敵な人に出会ったのよ。私、その人に『隊長チームの通信手になるように』って勧められたのよ」
先ほどまでの亜希子ではない、というか、自分達が知っている冷静沈着で知的な亜希子ではない、まるで人が変わったような亜希子に対して翔子と恵、かなえは少し引き気味になる。
翔子はまた祐子の方をチラ見して、祐子の瞳に光が戻ってきたのを確認してホッとした顔になる。
祐子は、おっかなびっくりに亜希子に声をかけた。
「あ、亜希子さん、あ、あのね……」
「はい!」
「あの、私考えたんだけど、まず落ち着こうよ、ねっ!」
「私、落ち着いていますけど……」
「えっと……、この事はチーム全体の問題になるし、通信手リーダーの絵里さんにも相談しないとね、いけないから。だから、明日! 明日また相談しよ、ねっ!」
「隊長がそう言われるのなら、私は異論ありません」
亜希子の口調を聞いた祐子は……
「あ、亜希子さん……。私、あゆみ先輩じゃないから、先輩に使っていたみたいなしゃべり方やめてほしいんだけど……」
「分かりました。話し方を改めます!」
亜希子の返事に祐子はほっとした表情になる。
すると、恵が二人のやり取りを聞いて言ってきた。
「じゃあ、明日、放課後、絵里ちゃんも誘って六人でスイーツを食べにいこうよぉ」
翔子がすぐに反応する。
「おい、恵、なんでスイーツを食べに行くんだ? 倉庫でもできるだろう?」
「だってぇ、女の子の相談は、スイーツを食べながらだよぉ。これ、常識だよぉ」
「……お姉ちゃんの言う通りだと思う『大切な話し合いはスイーツを食べながらする』は常識……」
祐子は二人の提案を聞いて「じゃあ、明日、六人でアイスクリーム屋で話し合いをする?」と、四人に聞くと四人の同意を得たので、翌日の放課後に問題が先送りとなった
少しずつ距離を縮め、信頼し合う事を表現するのは難しいと試行錯誤の熊です。
誤字、脱字チェックを、すみませんが宜しくお願いします。
次回は仮題「三代目のあんこうチームです」です。