ガールズ&パンツァー  これが三代目の戦車道です(女神達のメッセージ改)   作:熊さん

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思いの外、長くなったので二話に分けました。
起承転結の起承に当たるお話です。

それでは、続きをどうぞ。


三代目あんこうチームの誕生です(前編)

 

 翌日の午前10時。

 春という季節に降るシトシトとした雨が降り出した。

 

 雨粒が小さく跳ねている有明の海に向かって、大洗の学園艦が別れの汽笛を響かせて停泊していた熊本港から静かに出港した。

 学園艦は進路を南へ取る。鹿児島の最南端、佐多岬を左手に見ながら今度は北東へ進路を変える。

 目的地は、母港の大洗港。

 帰港の目的は、一週間後に行われる入学式に出席する新一年生を迎えるためであった。

 

 今、祐子は普通科1ーAの教室で英語の授業を受けている。

 祐子の席はほぼ教室の真ん中になり、クラスメイトの翔子は校庭が見える窓側の真ん中にあった。

 英語教師の滑らかな発音による教科書の音読が続く中、黒板を見つめる祐子の目が……、死んでいた。

 完全に自分の世界に入り込み、考え事の真っ最中である。

 翔子は教科書を見ているフリをして、横目で、机三つ隣になる祐子の様子を心配そうに見ていた。

 授業開始と終了のチャイムが鳴ると一度こっちの世界に戻っては来るが、次の授業の準備が終わるとまた自分の世界へ行ってしまう。

 午前中、ずっとこの調子で席から立とうとしない。

 翔子やクラスメイト達は内心では心配なのだが、祐子が死んだ目をしている時はあっちの世界の住人になっていて、呼び掛けても返事をしない事を知っているので只ひたすら瞳に光が戻ってくる時を待っていた。

 そして、昼休みを告げるチャイムが鳴った。

 チャイムと同時に委員長の「起立」の号令がかかり、一斉に立ち上がるクラスメイト達の中、瞳に光が戻った祐子が「礼」の合図に頭を下げると、背伸びをしながら叫んだ。

 

「あぁ、お腹、空いたぁ!」

「「何じゃそりゃ!!」」

 

 心配していたクラスメイト全員が、祐子に突っ込んだ。

 散々心配させてと祐子に詰め寄るクラスメイト達。

 ポカンとしている祐子に、翔子が周囲をなだめながら近寄って来た。

 

「まあまあ皆、なあ、祐子……、朝からずっと何を考えていたんだ? まあ、亜希子絡みなんだろうけど……」

「うん、そうなんだけど、結局、亜希子さんに、公園で何があったのか詳しく聞かないと分かんないという事が分かったよ」

「祐子お前……。朝から考え込んで、出た答えがそれかよ」

 

 翔子は祐子の両肩に両手を乗せると、ガックリと頭を垂れた……。

 

 放課後になった。

 雨は止んでいるが、またいつ降り始めるかわからない黒く低い雨雲が学園艦の空に拡がったままである。

 昨日の定期戦で大洗の全車両が整備倉庫行きになってしまったので、戦車に乗っての訓練は一時中止となり自主練習となった。

 

「皆さんは、各リーダーに自主練で何をするか報告して練習に入って下さい。各リーダーは確認したら、私に報告をお願いします」

 

 戦車倉庫前で整列しているメンバーに祐子は指示を出す。各部門のメンバーは翔子達各リーダーに自分の自主練内容を伝えると、各人が自主練に入った。

 通信手部門のメンバーは一斉に携帯電話を取り出し、メールを打ち出す。

 なぜなら、今日もリーダーである絵里が補習の為、訓練不参加なのである。

 祐子は通信手のメンバーの一人に、絵里の様子を尋ねた。

 

「絵里さん、勉強の方は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫よ。リーダーは勉強以外に大切なお仕事をやっているから。隊長は心配しなくていいのよ」

「お仕事?」

「そう。隊長、私達は全員でミーティングしますので。場所は1ーCにいますから」

「分かりました」

 

 通信手部門のメンバー達は祐子にそう伝えると、揃って校舎に歩いて行った。

 各リーダー以外のメンバーはそれぞれ自主練に入り、この場にリーダー達が残った。

 

「祐子、俺と一緒に基礎トレやんねえか?」

「うん。じゃあ後でジャージに着替えよっか」

 

 祐子と翔子が話しているところへ、恵とかなえがやって来た。

 

「祐子ちゃん、私ね、戦車道ショップで砲撃シュミレーションしてくるねぇ」

「……お姉ちゃんのお手伝いは、私だから……」

 

 二人の自主練の行き先を聞いた祐子は、頷いて言った。

 

「うん、分かった。じゃあ、アイス屋さんに六時半集合でお願いね」

「了解でぇす」

「……了解……」

 

 二人は祐子に敬礼しながら返事をすると、更衣室に入り制服に着替えに行く。

 最後に、亜希子が祐子の側に来た。

 

「隊長、私は図書館に行って戦術と通信手の勉強をしたいのですが、宜しいでしょうか?」

「了解しました。あっ、亜希子さん。途中で絵里さんに会って、今日の話し合いの事伝えてくれませんか?」

「了解です」

 

 亜希子も敬礼しながら返事をすると、更衣室に向かった。

 その後、それぞれリーダー達も自主練に入った。

 

 午後六時半まで十分前になった。

 雨雲はすっかり消えて、雲に隠れていた夕日が学園艦の建物を紅く照らしている。

 祐子と翔子は、すでにアイス屋に来ていて屋外テラス席の丸テーブルを確保していた。そのテーブルに椅子を三つ足して五人テーブルにして後の三人の到着を待っていた。

 テーブルの上には、コーラとオレンジジュースが置いてある。

 ちょっとして恵とかなえが現れて、すぐ後に亜希子もやって来た。しかし、一緒に来るはずの絵里の姿がない。

 翔子が亜希子を見て尋ねた。

 

「おい、亜希子。絵里の奴はどうしたんだ?」

「うん、絵里ちゃんに今日の話し合いの目的を説明したら『隊長が決めた事には従うから、私の事は気にしないで』って言われたの。絵里ちゃん、メンバーとミーティングしてるよ」

「絵里さん、補習はよかったのかな?」

 

 祐子が聞くと、亜希子は答える。

 

「今日はプリントだけだそうで『直ぐに終わるから』って言ってました」

「本当かぁ? あの絵里だぞ。赤点収集家の」

「大丈夫なんじゃないの? 分からないけど」

 

 亜希子は翔子に返事しながら、最後の椅子に座った。

 

「じゃあ、皆揃ったしぃ、アイス買いに行こうよぉ」

 

 恵がそう言って立ち上がると、四人も同じ様に椅子を立った。

 五人は店内に入りそれぞれ好みのアイスをオーダーして、それを受け取る。そしてテラス席に戻り、さっきまで座っていた席に着いた。

 席順は祐子から右回りに翔子、亜希子、かなえ、恵の順である。

 そして、アイスとジュースを前にして、自然な感じで祐子の発言を待っていた。

 四人の視線を感じた祐子は、一度「ゴホン」と咳をして間を取ると、亜希子を見て尋ねた。

 

「えっと、亜希子さん。昨日公園で何があったのか、私達に教えて下さい」

「はい! 只今、隊長からの指名を受けましたので……」

 

 話し始めようとした亜希子に、四人が同時に答えた。

 

「「ストッープ!!」」

 

 すると、亜希子は昨日の祐子の発言を思い出したのか、口調を変えた。

 

「そ、そうだったわね……。えっとね、昨日の事を話す前に皆に私の病気の事を聞いて欲しいの」

 

 四人は亜希子の爆弾発言にビックリして、思わず席を立ち上がる。

 四人は恐らく「副隊長を辞める=大きな病気」と早合点したのだろう、四人は上へ下への大騒ぎになった。

 

「びょ、病気って、何の病気なんです。まさか白血病とかじゃ無いんでしょう?」

 

 祐子が慌てる。

 

「おい、亜希子! こんな所にいていいのか? 寮に戻った方が良くないのか?」

 

 翔子が騒ぐ。

 

「大丈夫なんだよねぇ? 病気って言っても酷くないんだよねぇ?」

 

 恵が、涙を流す。

 

「……、……」

 

 かなえは黙って心配そうな顔をしている。

 

 亜希子は四人の反応が思っていたものと違ったのだろう、直ぐに訂正する。

 

「違う、違うのよ。話を聞いて!お願い、落ち着いて」

 

 亜希子は身振り手振りを使って必死になって否定するが、それが却って四人を安心させようと無理していると勘違いをさせ、火に油を注ぐ結果になっていた。

 亜希子の心配をするのは良いが、全く話を聞こうとしない四人にしばらく弁明していたが、ついに亜希子の頭のネジが飛んだ。

 

「あぁ、もう、せからしかぁ! あんた達、さっきから違うて言いようろうがぁ! うちの話ば最後まで聞きんしゃい!」

「「あっ、は、はい……(……キレちゃった)」」

 

 亜希子に大声で怒鳴られ、四人はようやく冷静になる。

 ここまで五分以上かかり、昨日の事を話したり聞く前に五人は力尽きそうになっていた。

 

 ひとまず落ち着いた五人はまずはアイスを食べ始める。そして、亜希子は沙織に話した『戦車に砲弾が当たったりして起こる大きな音と振動で頭のネジが飛んでしまって、報復しなきゃと思い込んでしまう』という自分の病気(?)を説明する。

 亜希子の話を黙って聞いている四人の内、説明が終わると翔子が亜希子に尋ねる。

 

「亜希子……。お前、そんな病気……、病気と言っていいのか分からないけどさ、澤隊長達がいた頃は全然出なかったじゃないか?」

「うん、そうなの。全然出なかったから、治ったというか忘れていたの。でも、副隊長になって戦車隊の指揮を取れる立場になったのね。そうしたら練習試合と交流試合で、大事な所で出ちゃったのよ」

「厄介な病気なんだなぁ」

「そうなのよ」

 

 翔子と亜希子の会話を聞く祐子と恵、かなえも複雑な表情である。

 

 「でもね……」

 

 話を繋げようとする亜希子の表情は、とんでもなく明るく、四人に自慢話を始める感じだった。

 

「昨日、今の話を沙織先輩に相談したの。そうしたら凄いの! 一発で病気の原因と解決方法を教えてくれてね、それがあんこうチームの通信手をやる事だったの」

 

 ニコニコと話す亜希子を、恵が止めて聞き返す。

 

「亜希子ちゃん、その沙織先輩って、誰ぇ?」

「『戦車道の先輩』って言ってたよ」

 

 すると、翔子が亜希子の返事を聞いて考え込む。

 

「俺達の知っている先輩は、澤隊長達だけだろう。そうしたら、亜希子が出会った先輩って、もう一個上の先輩ってことか?」

「……だと思う。ジャケットを見て、懐かしそうだったから」

 

 翔子の疑問に答えた亜希子は、祐子の方を見て話を続ける。

 

「それでね、この病気があるから指揮権がある副隊長ができないのよ」

「うん、それは分かりました。でも、そうしたら、副隊長は誰がいいのかな?」

「これはね、私の提案だけど……」

 

 祐子の質問に、亜希子は四人を見渡して答える。

 

「しばらくは不在という事にして、今度、入ってくる一年生から副隊長を選ぶのはどうでしょうか?」

 

 亜希子の提案がとんでもなかったので、横から翔子が、直ぐに祐子も意見する。

 

「一年生から選ぶのか? それって責任が重すぎないか?」

「私も翔子ちゃんの意見と一緒だけど、亜希子さん、理由があるんでしょ?」

 

 亜希子は「もちろん!」と答えると、自分の考えを四人に伝える。

 そして、彼女は真剣な表情になり祐子に確認する。

 

「隊長に聞きたいんですけど、コアラの森との試合前日、隊長は眠れましたか?」

 

 亜希子の問いに、祐子は首を横に振りながら答えた。

 

「ううん、実はほとんど眠れませんでした。作戦を上手く実行できるか、私の指示で他のメンバー達に怪我させて仕舞わないかと考えたら、全然眠くならなかったんです」

「やっぱりそうですか。実は、私もそうなんです」

「えっ、亜希子さんも?」

「はい」

 

 祐子は、亜希子の言葉に驚く。そして亜希子は話を続けた。

 

「黒高との試合で隊長代理を申し出たのは、寝不足から失敗してコアラの森に負けたのだと思ったからなんです。実際は違いましたけど」

 

 四人は黙ったまま、亜希子の話を聞いている。

 

「それで、昨日考えたんですけど、辞めた後の副隊長はどうしようかと考えてたら『そもそも副隊長って何するの』という考えになっちゃったんです」

「そりゃ、隊長がやられた時の隊長代理だろう?」

「それが一番なんだろうけど、隊長が最後まで撃破されなかったら、何するのって話」

 

 翔子が至極当たり前の事を言うが、亜希子の答えは全く違っていた。そして、そこまで聞いた祐子がハッとした顔になった。

 

「だから、一年生を副隊長にという提案なんですね!」

「はい」

 

 亜希子は、我が意を得たりという表情で返事をする。

 

「翔子ちゃんも恵さん、かなえさんも聞いてほしいの。私、本当は隊長なんてしたくなかったの。だって、そうでしょ。自分の戦車を動かすだけでも精一杯だったのに、いきなり『隊長になってチームの指揮を取りなさい』って言われてみてよ。そして、相談しようにも先輩達は卒業してもういないんだよ。私、どうしたらいいのか不安で不安でたまらなかった……」

 

 普段の祐子ではない、自分の気持ちを吐き出す祐子がいた。

 

「それって、指揮を取るという経験がなかったという事なのか?」

「違うよ。自分が将来チームの指揮を取るという自覚がなかったという事なの。その自覚があれば、毎日の訓練や試合の取り組み方も違っていたと思うの」

「そう言う事か……」

 

 翔子が聞くと、祐子はチームを指揮する為には自覚と準備が必要と言いたかったのだ。

 それを理解した翔子達四人だった。

 

「……という事はだな。一年生の中から将来の隊長候補を探して、祐子が育てるって事なんだな」

「いいえ、副隊長を育てるのは私がやりますよ」

 

 翔子の質問に亜希子が答えた。

 

「『育てる』って、亜希子。どうやるつもりだ?」

 

 翔子の問いは亜希子以外の三人も同じ意見のようで、亜希子の回答を待っている。

 亜希子は、少し得意げな表情で、ゆっくりと答えた。

 

「大洗の中では私が一番戦車道に詳しいし、特に西住流戦車道は一番理解しているつもりよ。だから西住流を中心に戦法や戦術を教えるつもり。それはきっとチームの為にもなると思うの。それに、勝手に副隊長を辞める私のチームに対してのせめてもの罪滅ぼしなの」

 

 亜希子の話を聞いた四人は、納得したのか一斉に頷いた。

 そして、祐子は言う

 

「分かりました。亜希子さん、負担掛けちゃいますけどよろしくお願いします」

「はい、隊長、頑張ります」

 

 祐子が頭を下げながら言うと、亜希子も同じように頭を下げた。

 すると、ここで翔子は右隣に座る祐子をチラリと見た。祐子も視線に気づいたのか翔子の方を見て小さく頷きアイコンタクトで「私が話す」と翔子に伝える。

 翔子も「宜しく」と目で返事をすると、亜希子の方を向いた。

 

「亜希子さん、その教える方法というのは勉強会みたいな形でやるのかな?」

「ええ、最初はそのつもりですけど……」

「その勉強会に、私と翔子ちゃんも参加していいかな?」

「えっ、それは構いませんけど……。でも、どうしてです?」

 

 亜希子の問いに祐子と翔子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 そして、翔子が答える。

 

「亜希子……。実はな、俺と祐子は西住流とか戦車道の戦術とか全然知らないんだよ。だから、亜希子に教えてもらおうと祐子と相談していたんだよ」

「戦車道を知らないって……。ちょっと言ってる意味が分からないんだけど……」

 

 亜希子は、頭にはてなマーク浮かんでいるような顔をする。

 すると、今度は祐子が亜希子に話しかける。

 

「私と翔子ちゃんはね、戦車道の道場で戦車に乗っていた訳じゃなくて『タンカスロン』で戦車に乗っていたの。つまり、戦車の格闘戦しかやったことなかったの。だから、チームで戦う戦車道は私達知らないの」

 

 祐子が打ち明けると、翔子も亜希子を見ながら彼女の隣りで頷いていた。

 亜希子と恵、かなえは祐子の話を聞いて少し驚いた表情になる。

 

「あっ。だから隊長は二度の試合の作戦を全部私に任せていたのですね」

「うん、ごめんなさい。今になってこんな事打ち明けちゃって。でも、私と翔子ちゃんは本気で勉強するから亜希子さん、宜しくお願いします」

「分かりました。でも隊長、『タンカスロン』って、全部自分達で準備するのでしょう。戦車はどうしたんですか?」

「それはね……」

 

 祐子は翔子の方を見て、質問に答える。

 





読んでいただき、ありがとうございます。
毎度申し訳ありませんが、誤字、脱字チェックを宜しくお願いします。

次回は仮題「三代目あんこうチームの誕生です(後編)」です
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