タルティーン平原会戦   作:dwwyakata@2024

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支配神と軍神。
因縁の戦いが、因縁の地で行われます。

どちらにも言い分があり、戦国乱世であり。
腐敗と陰謀が横行している以上、誰かが何かしらの形で大掃除をしなければなりません。

かくして大地は血に染まります。
しかしそれは永遠に続くものではないのです。


序、別たれた地

この大地フォドラには三つの勢力が存在している。一つはフォドラ南部を支配し。今、新しい皇帝エーデルガルト=フォン=フレスベルグの手によって圧倒的攻勢を掛けているアドラステア帝国。

 

信仰の中心であり、フォドラの中心にある巨大な要塞、ガルグ=マク大修道院を根拠地として、各地を宗教的に支配してきたセイロス教団。

 

そして、未だに苛烈な抵抗を続けているファーガス神聖王国の三つである。

 

実はもう一つ。フォドラ北東部にレスター諸侯同盟というものが存在していたのだが。帝国に飲み込まれ併呑されたため、既に存在していない。

 

エーデルガルトが突如大修道院への攻撃を開始したことで始まったこの戦いだが。

 

五年間膠着状態が続いた後。

 

突如全てが動き出した。

 

五年前の大修道院への攻撃時。

 

行方不明になっていた、エーデルガルトの師。各地の戦場で凄まじい暴れぶりを見せた元傭兵。

 

通称灰色の悪魔。軍神ベレスが姿を見せたのである。

 

五年間で、まったく年をとっておらず。

 

それに違和感を感じる者もいた。

 

だが、ともかく戦闘力は健在。

 

帝国は単独で一軍に匹敵すると言われるベレスを加えたことで一転攻勢に出。一気に同盟を陥落させ。各地における抵抗を粉砕しながら進軍。

 

今はこうして、王国の中枢部へと、その主力部隊を進めていた。

 

この先にはタルティーン平原がある。

 

帝国にとっては忌まわしい土地だ。

 

元々、ファーガス神聖王国は、アドラステア帝国の北部が離反して出現した国家である。その決定打になったのが、タルティーン平原での戦いだ。

 

歴史上何度か大きな戦が起きてきたこの平原だが。

 

此処でルーグ王によって時の皇帝が討ち取られたことにより。

 

王国の設立が決定的になった。

 

王国軍は一時期は帝国を圧倒するほどであったが。

 

ルーグ王が崩御した結果、息子達による跡目争いが始まり。結果として、同盟とに分裂。

 

その結果、フォドラは再び安定を取り戻す事になった。

 

この過程があまりにも作為的であると唱えていた学者もいたらしいのだが。

 

現時点では、その数は少ない。

 

理由は、既に分かっている。

 

進軍する部隊を、一度停止させるエーデルガルト。雨が強くなってきたからだ。目を細めると、側にいる最も信頼出来る者。

 

このフォドラにおける最強の「個」であり。

 

単独で一軍に匹敵する猛者。

 

師であるベレスに意見を聞いた。

 

「師(せんせい)、この状況、どう思うかしら」

 

「タルティーン平原の図は頭に入っている。 私だったら、縦深陣を敷いて此方を引きずり込み、別働隊で背後を襲う」

 

「そうなるでしょうね」

 

エーデルガルトも同意見だ。

 

五年前の戦いで。

 

大司教レアをはじめとするセイロス教団の主力は、殆どが即座に撤退。王国に逃げ込んだ。

 

その結果、帝国で根回ししていた王国の崩壊は上手く行かなかった。

 

政治家としては、恐らくフォドラ随一の手腕を持つレアが、一気に豪腕で王国をまとめ上げ。

 

そして多数潜んでいた帝国の間諜をあぶり出して処刑。

 

更には、親帝国派の貴族達を掣肘し。

 

軍の再編成を進めたからである。

 

このため、王国西部では攻勢に出ている帝国軍も。王国東部では一進一退の戦いを繰り広げざるを得ず。

 

結果として、戦いは長引きに長引いた。

 

流石にフォドラ最強を謳われるだけあり、セイロス教団の抱えるセイロス騎士団の精強さは流石で。

 

少し前にも、電撃的な反撃作戦を仕掛けて来て、帝国は不意を打たれ、多くの将を失った。

 

そのセイロス騎士団が、レアもろとも戦場に出てくることは確実。

 

そしてそのレアは、武人としても政治家としても超一流の実力者である事を、エーデルガルトは知っていた。

 

何しろ、人ではないのだから。

 

雨は激しくなるばかり。

 

輜重部隊への注意を促しつつも進む。大軍を高速で展開するのは難しい。騎馬隊で編成するにしても同じ。ましてや騎馬隊だけの大軍など、フォドラでは編成することが出来ない。

 

どうしても主力は歩兵になる。それが例え大国アドラステア帝国であっても、である。

 

そして大軍は全体に命令が行き届くのが遅れがちで。

 

数を増やすとどうしても細部にほころびが出る。

 

勿論大軍を少数で撃破する事は極めて難しい。数を揃えると言うだけで、大いに意味がある。

 

だが少数の軍勢が、あり得ない大軍を撃破した例はある。まずあり得ない事だが、実際に存在している。

 

そういった場合。少数側の戦力編成が特殊だったり、司令官が数に驕って油断していたり、補給がいい加減だったりと、要因が幾つもあるのだが。

 

共通しているのは、負けた大軍側に何かしらの要因があった、ということである。不測の事態は、多くの場合人災で。

 

今回は、その不足の事態を招きかねないなと、エーデルガルトは天候を見ながら考えていた。

 

この先のタルティーン平原は、今やぬかるんだ沼沢地帯と化しているはず。

 

戦場そのものは広いが。

 

攻め落とすのは、容易で無い事が分かりきっていた。

 

多数斥候を放っているが。

 

一体何処まで敵を把握できるか。

 

それは分からない。

 

斥候の一人が戻ってくる。

 

「伝令!」

 

「うむ」

 

「タルティーン平原にて、王国軍の姿を確認! 数はおよそ八千から九千と思われます!」

 

「予想の通りね」

 

補給路を断たれた状況での籠城戦など勝ち目がない。

 

更に王国軍は少し前の戦いで、その守りの要でもあったアリアンロッド要塞を失ってもいる。

 

王国の王都も、相応の要塞であり。一応それなりの食糧も蓄えているはずだが、民も多数避難してきている。

 

王都だけでの籠城戦など、愚策でしかない。

 

恐らくは、王国軍は平原での逆転勝利を狙って出撃してくる。その予測は、当たった事になる。

 

問題は、セイロス騎士団の姿が見えない事だ。

 

「セイロス騎士団は」

 

「やはり確認できません」

 

「分かったわ。 引き続き敵の監視を」

 

斥候が再び雨の中に消えていく。曇天は何処までも拡がっており、今後雨が更に激しくなるのは確実である。

 

そして此方ももたついてはいられない。

 

戦いは五年も続いている。

 

あまり長引くと、ダグザやパルミラに介入の好機を与えるだけだ。

 

どちらの国家も、フォドラ全域で対処しなければならない程の強国。いずれにしても、もたついている時間など一秒だってない。

 

ほどなく、丘が見えてくる。

 

雨の中、その広い広い平原が、姿を見せた。半ば水没している、因縁の地が。

 

この平原で行われた大きな戦いは過去に二度。

 

もっとも有名なのは、およそ千年前。

 

その名声を恣にしながら突如として暴君と化し。フォドラ全土に殺戮をばらまく恐怖の権化となった邪王ネメシスを、聖者セイロスが撃ち倒した会戦。

 

この時セイロスとともに戦った英雄達を、通称「四聖人」と呼ぶ。

 

この戦いでネメシスが討ち取られたことにより、帝国は安定し。以降数百年、英雄王ルーグが出現するまで帝国は安寧の時代を過ごすことになる。

 

そしてそのルーグが、当時の帝国皇帝を討ち取った戦いも、タルティーンにて行われ。

 

その結果帝国は敗れに敗れ、領土の北半分を失う大損害を被った。

 

一時期王国は帝国を圧倒する勢力を見せたが、その要因である。

 

ルーグがあまり長生きせず。

 

その息子達がボンクラ揃いだった上に、領土を巡って争い。王国の東半分がレスター諸侯同盟として独立しなかったら、フォドラはファーガス神聖王国によって新しい時代を迎えていたかも知れない。

 

だが、そうはならなかった。

 

結局セイロス教団も含めると四つの勢力が複雑に関係しながら、フォドラを動かし続けて来て。

 

既にその膠着は千年続いている。

 

弊害は大きい。

 

エーデルガルトが憎む紋章第一主義の定着。様々な技術の進歩否定。紋章を持っているというだけで、無能な貴族が幅を利かせる世。紋章を持っていなければ、どれだけ才覚があってもやっていけない状況。

 

その全てを打開しなければならない。

 

皇帝が。

 

この腐って停滞した世を。

 

自らの手で改革しなければならないのである。

 

一旦進軍を停止させる。

 

じっと戦場を見るが。ぬかるんだ地面に川。そして重厚な布陣。

 

本来なら、数に任せて蹂躙するだけ。王国軍は、セイロス騎士団を含めても、此方の半数に達しない。兵の質は此方が上。指揮官も此方が質でも量でも勝っている。補給は充分。その上、切り札になる師が此方にいる。

 

師が育てた同級生達も、いずれもが優れた戦士だ。王国を離反した者も少なくないのだが。いずれもが。この腐敗した世の中を変えたいと願った故に。

 

ファーガス神聖王国は、帝国、同盟も含めた三国の中でもっとも紋章絶対主義の弊害が酷く。

 

紋章絶対主義に苦しめられ、多くの苦難を味わって来た者は珍しく無い。

 

そう言った者の大半は師についた。

 

エーデルガルトについた訳では無い。

 

師の影響力はそれだけ絶大で。師が選んだエーデルガルトについてきてくれた、というのが正しい所だ。

 

実の所、腹心のヒューベルトからは、師に対する暗殺の案が何度か出された。

 

だが、今はヒューベルトもその案を口にはしない。

 

師を暗殺などしたら、帝国軍が崩壊することを知っているからである。

 

そして師は義理堅い人物で、一見すると何を考えているか分からないが。それでも一度決めるとそれをやり通す。

 

恐らくだが。

 

傭兵として幼い頃から各地を渡り歩き。

 

血の雨を浴びながら育って来た師は。

 

このフォドラの地獄絵図を、誰よりも見て育ってきているのだろう。

 

灰色の悪魔とまで呼ばれ怖れられて来た師だが。

 

特に父である元セイロス騎士団長ジェラルトを失ってからは、感情が少しずつわかり安くなってきている。

 

昔は無表情で怖いと言う者もいた。

 

事実灰色の悪魔と呼ばれるだけの事はあり。にこりともしないことも多かった。

 

だが今は違う。

 

こう言うときは、大変に頼りになる。

 

進軍を止めたところで、軍議を開く。

 

まずヒューベルトが提案した。

 

「セイロス騎士団の姿が見えない事が気になりますな。 斥候を広域に展開しているものの、あのタルティーンの状況を見る限り、王国軍を一蹴とはいかないでしょう。 此方の戦力もアリアンロッド攻略で少なからず消耗しております。 更に敵には王都があり、其方の要塞としての機能も侮れません。 勿論長期戦に持ち込めば確実に勝つことができますが、戦いが長引けば長引くほど後ろが危うくなりましょう」

 

「問題はセイロス騎士団だ」

 

師がすっと、戦場の地図に指を走らせる。

 

雨の中だが。

 

此処は天幕の内部だから、流石に今雨を浴びている訳では無い。

 

師がなぞったのは。

 

これから戦闘が行われた場合。

 

側面、後背になる位置である。そしてそれらの場所は沼沢地になっており、無理に突破することは決して簡単では無い。

 

だが精鋭として知られるセイロス騎士団を、大陸最強の武人の一人であるレアが率いてくることは間違いなく。

 

想像を絶する速度で、出現次第突入してくる可能性もある。

 

「王国軍の守りは堅固で、しかも魔獣を多数従えているという報告もある。 どうやっているのかは分からないが、この縦深陣を攻略するのは簡単ではないぞ。 如何する」

 

「師ならば、一気に突っ切ってディミトリを討ち取れるかしら」

 

「不可能だ」

 

即答してくる師。

 

それはそうだろう。

 

そもそも、この縦深陣。敵の中枢が何処にあるかも分からない有様だ。乱戦をかき分けて、敵を締め上げながら、中枢を探していくしかない。

 

そしてディミトリが出てくれば、師かエーデルガルトくらいにしか手に負えないだろう。

 

師は、すっと指を動かす。

 

タルティーンの真ん中辺りで、その指は止まった。

 

「此処に、王国の魔道士部隊がいる。 恐らくは此処を起点に、戦場全域に睨みを利かせている筈だ」

 

「川によって阻まれていますな」

 

「そうだ。 だが、それ故に此処を一気に突破出来れば、敵陣攻略に弾みがつく」

 

「恐らくそれは敵も承知の上でしょうね」

 

エーデルガルトの応えに、師は頷くと。そのまま地図上で指を動かした。

 

驚くべき提案がなされ。

 

思わずエーデルガルトは息を呑む。

 

なるほど、そんな発想もあるのか。確かに理にかなってはいる。ただし、前衛に出る兵士達の負担は大きくなる。

 

エーデルガルト自身が指揮を執るか。

 

ヒューベルトは、くつくつと笑った。

 

「流石に面白い発想をする。 確かにそれであれば、どこからセイロス騎士団が現れても、対応は可能でありますな」

 

「ただし、タルティーンでの損害を抑えなければならない。 皆に奮戦してもらいたい」

 

「分かったわ」

 

エーデルガルトは、自ら率いている遊撃部隊に、黒鷲遊撃隊と名付けている。各地の戦線で、無理ともいえた作戦を遂行し、成功させてきたフォドラ最強の部隊だ。今回も、この部隊で最前線に立つ。

 

作戦会議が終わると、外に出た。

 

雨は更に激しくなり、また地図の更新が必要に思えた。

 

普段は川では無い場所が川になり。

 

沼では無い場所が沼になっている。

 

今でも、タルティーンは多数の屍が埋まっているとされるほど、過去二回の大規模戦闘での死者は多かったのだ。

 

兵士達は青ざめているが。

 

それを責めることは出来ないだろう。

 

帝国にとっては、此処は正に因縁の地。

 

一勝一敗で。

 

それぞれの結果で、フォドラ全土の情勢が大きく動いたのだ。

 

そして今回大敗することがあれば。恐らく統一まで、数年はまた遅れる事になる。エーデルガルトがもし戦死するような事になれば、フォドラに未来は無くなるだろう。後はダグザに食い荒らされるか、パルミラに食い千切られるか。

 

いずれにしても、フォドラは終わりだ。

 

ディミトリは、絶対に抵抗を止めない。

 

それを知っているから、エーデルガルトはやりきれない。

 

ディミトリが心を病んでいることは、エーデルガルトも知っている。その原因も。そしてその原因をエーデルガルトが引き起こしたと思い込んでいることも。

 

だが、ディミトリは心を保つためにそうせざるを得ないし。

 

何よりも、今更血に塗れた手である事を、偽るつもりは一切無かった。

 

タルティーン平原を埋め尽くし、兵が動き出す。

 

帝国軍は現在機動軍の大半を此処とアリアンロッド経由の北路に投入している。エーデルガルトが率いる本隊の、つまりこの会戦の参戦兵力はおよそ二万五千。王国軍を最大に見積もってもおよそ九千。これにセイロス騎士団の精鋭二千五百が加わる。

 

合計して四万弱の大軍がぶつかり合うこの戦いは。

 

過去二回。

 

此処で行われた大会戦と、規模的にもそう変わるものではない。

 

ただ、ひとつ良くないジンクスがある。

 

いずれの戦いでも、数が多い方が負けているのである。

 

今回こそ、そのジンクスをひっくり返す。

 

そう、エーデルガルトは、身を以て示さなければならない。

 

そして、此処で王国軍の主力部隊を粉砕する。ディミトリも討ち取る。そうなれば、もはや王国は崩壊。

 

出来ればレアも討ち取りたいが。

 

流石に其所まで上手くはいかないだろう。

 

ともかく、王国さえ崩壊させれば、後は帝国内部に巣くう鼠共を始末して終わりだ。この鼠共に関しては、既に巣穴も突き止めている。

 

どうやら自分達がこの戦乱をコントロールしていると思い込んでいるようだが。

 

王国を屠り次第、すぐに根こそぎ駆除してくれる。

 

そもこんな鼠共、アガルタの民をのさばらせたのも、フォドラ全土に行き渡った腐敗と紋章至上主義が原因。

 

その根本原因となったセイロス教団の支配と、紋章絶対主義は、此処にて根を断たなければならないのだ。

 

師が動き始める。

 

それと同時に。

 

戦場全体で、小競り合いが始まった。

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