アナザーゴーストを倒してから一週間後、士は魂が肉体へ戻り意識を取り戻したタケルと共に病院の屋上に居た
「そうですか、そろそろ次の世界に」
「あぁ、船に出てたこの世界のエラー表記がなくなったからな……まだまだ向かわないといけない世界もいっぱいある」
そう言うと士は懐からブランク状態になっているライダーカードを取り出してタケルへと見せる
「士さん達の旅は、まだまだ続いていくんですね」
「まだまだ始まったばっかりだからな」
「……そう言えば、今日イオナさんとユウスケさんは?」
「二人で出発前の買い出し。今までよりも時間がかかるから多めに買いだしておくんだとさ」
「別の世界に移動するって、そんな感じなんですね」
「らしい、俺もまだまだ驚くことばっかりだ」
二人で顔を合わせた士とタケルは軽く笑いあってから空を見上げる
「そういえば、あのアナザーゴーストは一体何だったんだろうな」
「多分ですけど、この世界を漂ってた未練……みたいなものだと思います」
「未練?」
「はい、世界のどこにでもあって……誰でも持ってる小さな未練、それがあのアナザーゴーストを作るのに利用されたんだと思います」
「……なるほどな」
タケルの言った、世界のどこにでもあって誰でも持っている小さな未練……にわかには信じることのできない言葉だが、今自分が置かれている状況を考えそう言うのがあるのかもなと納得した後、アナザーゴーストの最後の言葉を思い出す
「じゃあ、俺たちは最終的にアナザーゴーストを……アイツらを救えたって事、なんだよな」
「はい……きっと」
「……だよな。それじゃ、俺はそろそろ行く」
「わかりました。イオナさんとユウスケさんにもよろしくお願いします」
「あぁ、伝えとく……それじゃ、またいつかな」
「はい、また会いましょう」
その言葉を最後に士はタケルに背を向けて屋上の入口まで歩いて向かう。彼がちょうど出ていくのと行き違う形で、個性豊かな数名がタケルの名前を呼びながら彼の元へ向かっている音が聞こえてくる……だが、士は振り返ることはせず、その場を後にした
タケルの元を後にした士が船の前まで戻ると、同じタイミングで両腕にビニール袋を持ったイオナとユウスケの姿が目に入る。彼が二人の姿に気づくのと同じタイミングで二人も士に気づいたようで少しだけ歩く速度を上げて士の元に近寄ってくる
「士、ナイスタイミング。そんじゃこれよろしく」
「えっ、おい」
「あっ、士くん。これもお願いね」
「イオナまで……たく」
二人に渡されたビニール袋を手に持った士は、一足先に船の入口へ向けて歩いていた二人の後を追う
「お前ら、流れるように人に押し付けたな」
「いいじゃねぇか、すぐそこなんだから」
「そうだよ……そういえば、タケルくんはどうだった?」
「元気だったよ、そろそろ退院らしい」
「そっか、よかった……って、あれ?」
そんな話をしながらイオナは入口の鍵を開けようとしたところで、ピタリと手を止める
「どうかしたか」
「何かあったの?」
「……船の鍵、開いてる」
「「はぁ!?」」
「えっ、なんで? 私出るときに閉めたよね?」
「と、とにかく入るぞ。荷物どうする?」
「あぁ、えっと……と、とりあえず持って入る……しかなくないか?」
「……だよな」
士たちは三人で顔を見合わせてから、ゆっくりと入口を開けて船の中に入る。できる限り通路に音がならないようにゆっくりと歩いた三人はそのままブリッジの入り口前まで辿り着くと、内側から人の気配を感じ、士とユウスケは荷物をゆっくりと地面に置き各々のベルトを腰に装着する
二人がいつでも戦闘に入れる状態になったのを確認したイオナはアイコンタクトをとった後、指でスリーカウントを取り……勢いよく扉を開ける
「はえ?」
「……は?」
「えっ?」
勢いよく中に侵入した士とユウスケが見たのはブリッジの中央に鎮座したテーブルに置かれていた大量の食事と、それを頬張っているイオナより少し上くらいの年齢の少女
無我夢中に食べていたらしい彼女は突然入ってきて戦闘態勢になっていた二人の姿を見てあ呆気にとられ、士とユウスケもまた自身の目の前にある気の抜ける光景を見て呆気にとられる
「……アリス?」
「ん? あぁイオナ、おひさー」
唯一目の前の少女の事を知っていたらしいイオナが彼女の名前を口に出すと、アリスと呼ばれた少女は長年の友人に会ったくらいの気安さで返事をする
「ど、どうしてアリスがここにいるの?」
「んー……簡単に言うと、イオナと同じ」
「私と、同じ?」
「うん」
「……二人で話を進めてるところ悪いんだが、これは一体どういう状況だ?」
「えっ、んーとね────って、嘘」
自分たちを置いてきぼりで話が進んでいくのはさすがにまずいと思った士が、目の前の彼女────アリスに声をかけると、彼女は士の方を見て言葉を発しようとして……信じられないものを見るようなものに変わった
「なんだ?」
「あっ、ううん……なんでもない。それで、どういう状況かだったよね」
手に持っていた食べ物を机の上に置いたアリスは軽い動作で立ち上がると士の前までやってきて……どこからか取り出した拳銃の銃口を彼へと向ける
「強盗ってやつ……かな」
「……冗談が過ぎるんじゃないか?」
「へぇ、どうしてそう思うの?」
「マジで強盗……というか脅す気なら、引き金に手ぐらいかけるだろ」
「……あっはははは、それもそうだね」
ぴょんぴょんと小動物のような動きで士から離れたアリスは三人の姿がしっかりと映る場所まで移動する、改めてペコリと頭を下げる
「イオナは久しぶり、それでそっちの二人は初めまして……アタシはアリス。君たちと同じ、世界を渡る旅人だよ」
「……俺たち以外にも居たんだな、世界を渡る旅人って」
「みたい……だな」
信じられないものを見たといった様子の士とユウスケとは裏腹に、イオナだけは複雑そうな表情で彼女の事を見つめていた
「アリス、一体どうやって世界を渡ってるの?」
「うーんと……言葉で説明するより見てもらった方が早いか」
そう言ったアリスはその場で軽く手を振ると、シンゲツの使っていたのと同質のオーロラカーテンが出現する
「こんな感じで……ちょろっと盗んだ技術を使わせてもらって? まっ、アタシのこれはそろそろ使えなくなっちゃうけどね」
すっとカーテンを消したアリスはやれやれと言ったジェスチャーをする……が、この世界で戦った敵と同じ力を使うという状況を見て士もユウスケもわずかに警戒心を高めるが、イオナが二人に視線を送り首を横に振った
「二人とも大丈夫、アリスは敵じゃないよ」
「……信用して大丈夫なのか?」
「うん、アリスは大丈夫……それで、アリスはどうしてここに?」
「えーっとね、少し前に
「こいつ、ごく自然にヤバい事言ってないか?」
「しれっと盗んだって言ってたな」
突拍子もないことをあっけらかんと言うアリスに対して士とユウスケは引き気味の言葉を口にするが、イオナは慣れているようで彼女に対する質問を続ける
「追われるってことは相手にとって重要なものだよね? いったい何を盗んできたの?」
「……これだよ」
山積みになっていた食べ物を少しだけどかしたアリスはカーテンの向こうからアタッシュケースを取り出すと、それを開いた
「これは、銃?」
「それに……これって、士が使ってるのと同じカードか?」
「……ディエンドライバー」
アタッシュケースの中に入っていた銃────ディエンドライバーを見たイオナは驚きの表情を浮かべ、アリスのことを見る
「どうして、これが……これは────」
「それ以上は言わなくていいわ……そこの二人の様子を見るに、まだ話してないんでしょ?」
「……うん」
「その様子を見るに、お前の盗ってきたその……ディエンドライバー? はイオナの世界関係の品物ってことでいいのか?」
「えぇ、概ねその認識で問題ないわ。最もイオナが話していないんならアタシも説明する気はないけどね」
そう言ったアリスがイオナの方を見ると彼女は少しだけビクッといった様子を見せた後、肩をわずかに委縮させる。部屋の中が何とも言えない空気で満ちそうになったところで、ユウスケがパンと手を叩く
「とりあえず……散らかってる食い物片さないか?」
「……そうだな」
「あっ、ちょっと待って! 最近まともに食べられてなかったからもう少しだけ食べさせて!」
「なら休憩室持ってくからそっちで食べな。士、運ぶぞ」
「了解」
「あー待って! せめてハンバーガーだけはすぐ食べさせて!」
散らかっていたブリッジを片付けるために士とユウスケの二人は食べ物を休憩室まで運び、それの後を追うようにアリスが付いていく。そんな騒がしい光景を横目に見ながらイオナは何とも言えない表情を浮かべていた
ブリッジでの騒動から数時間後、ようやく一段落ついた船内の休憩室に改めて四人は集まっていた
「さてと、それじゃ改めて自己紹介をさせて貰おうかな。アタシはアリス、イオナと同じ世界の出身で……今は宛てもなく世界を放浪する旅人かな。そちらのお二人さんは?」
「写野士だ、いろいろあって今はイオナと一緒に世界の異常を修正する旅をしてる」
「俺は代永ユウスケ。二人とは俺の世界で知り合って、そんで今は二人と一緒に旅をしてる」
「士にユウスケね、オッケー覚えた……にしても、二人ともなんか訳アリって感じ?」
アリスがそう聞くと先にユウスケが答える
「俺はただ二人の旅に付いてってるだけ、それが今の俺がやりたいことだし」
「ふーん、じゃあ士は?」
「……異変で世界同士の均衡が崩れた所為で俺の世界がヤバくてな、どうしようもない時にイオナからディケイドの力を渡されてって感じだ」
「なるほどなるほど……士はその力、使いこなせてるんだ」
「別に使いこなせてる訳じゃない、実際にカードのほとんどはこんな風に白くなったままだしな」
士はブランクになったライダーカードをアリスへと見せる。受け取った彼女はしばし何かを考え込んだ後でカードを士へと返し、イオナに質問をした
「ねぇ、イオナはどうして士にディケイドの力を渡したの?」
「あの力……ディケイドの力は、士くんのモノだから」
「やっぱそうだよねー……うん、じゃあやっぱり間違ってなかったんだ」
「どういう意味だ?」
「あぁ、こっちの話だから気にしないで」
アリスの言葉を聞いた士は諦めたように息を吐き、話題を切り替えることにした
「とりあえず自己紹介も終わったし、そろそろ次に向かう世界について話さないか?」
「あっ、そうだな。イオナちゃんは今までより少し時間かかるって言ってたけど……どんな世界なの?」
「あっ、うん。えっとね……」
二人の言葉を聞いたイオナは気を取り直したように手に持っていたタブレット端末を操作すると、全員が見えるようテーブルの真ん中に置く
「次に私たちが向かうのは、キバの世界だよ」
「「キバの世界?」」
「仮面ライダーキバの世界だね。士、ちょっとカード貸して?」
「ん? あぁ」
士はアリスにカードを貸すと、彼女はカードの束をシャッフルすると慣れた手つきでカードを扇状に広げその中から一枚のカードを手に取った
「このライダーだよ」
「ぼやけてて見えずらいな」
「……というか、さっきのシャッフル必要あったか?」
「あるに決まってんじゃん」
「……んんっ!」
イオナの咳払いを聞き、三人は彼女の方を向いてから姿勢を正す
「士、カードありがと」
「おう」
「それじゃ、話を続けるね」
「「「はい」」」
「キバの世界は、ゴーストの世界とは少しだけ離れた場所にあるんだ」
「なるほど……でも俺の世界からエイトたち────ギーツの世界までもそこそこ距離あったよな?」
「ユウスケの言う通り……だからかかる時間はあの時より短いけど、今回の世界は少しだけ事情が違うんだ」
そう言ったイオナがタブレットの画面をスライドすると、これから向かうキバの世界がどんな世界の写真が表示される
「あー……キバの世界ってこんな感じなんだ」
「……これは、随分と中世風だな」
「あぁ、なんかファンタジーみたいだ」
「それ、ユウスケ当たり」
「へっ?」
「今までの世界は基本的に私たちの知ってる世界とほとんど変わらなかった、そうだよね?」
「そうだな」
「確かに、少しギーツの世界は少し近未来感あったけど……それ以外は俺の世界とも変わんなかったな」
二人は自分の世界と今までに回ったギーツの世界、そして現在自分たちのいるゴーストの世界の事を思い浮かべてみるがどこの世界も共通して自分たちの知ってる世界との差はなかったことに気づく
「けど、次に行くキバの世界は違う……ってわけか」
「うん、だから今まで使ってなかった船の機能をアクティブにする為に今までよりもゆっくり向かうことにしたんだ」
「それって、この世界に留まってやるんじゃダメなのか?」
「それでも一応できなくはないけど、世界から世界へ渡る間の空間……私たちは次元海って呼んでるけど、そこでやるのが一番いいかな。世界の狭間だからその世界に引っ張られないフラットな状態で作業できるの」
「……成る程」
そもそも自分たちが世界を渡るときに次元海なる空間を通っていた事を知らなかった二人は、これ以上の質問を辞めてそこら辺の事は全部イオナに任せておこうと心に誓う
「よし、そんじゃ早速キバの世界に向かうか」
「だな。イオナちゃん、もう準備は出来てるんでしょ?」
「出来てるよ、あとはいつも通りジャンプをするだけ」
「それじゃ、早速向かいましょ?」
「「…………」」
「えっ? なに?」
「薄々そんな気はしてたけど……やっぱお前も一緒に来るのな」
「馴染んでるからまぁいいかで流してたけど……やっぱそうなるのな」
「ちょっと、何よその言い方!? アタシが一緒なのは不満なわけ!?」
「不満じゃないけど……なぁ?」
「だな」
「ムキー! なにその感じ!? 上等よ! 表出なさい男ども! 力の差をわからせてやるわ!」
「三人とも? いい加減怒るよ?」
「「「ごめんなさい」」」
何度かのやり取りで大丈夫かと油断していた三人は、思わぬ圧を感じて席に座りなおすとイオナに謝罪をした
「……まったく。それじゃあ、そろそろ準備しよっか」
「だな、そういやユウスケ、あの感じ慣れたか?」
「いいや、正直未だに酔いそうになる」
「なに? 何の話?」
「世界から世界にジャンプする時の話、振動凄すぎて初見だと絶対に酔う」
「へぇー」
会話もそこそこに四人でブリッジへ移動しようとしたところで、一つ忘れていた事を思い出した士は一度足を止めた
「士くん?」
「どうかしたか?」
「いや、一つ確認を忘れてた事思い出した」
「忘れてたこと?」
「あぁ。一応聞くがアリスはこれから俺らの旅に付いてくる気なんだよな?」
「へ? うん、衣食住揃ってるし……そのつもりだったけど」
「そうか……それなら、これは言っとかないとな」
そう言った士はゆっくりとアリスの前まで向かい、彼女に手を差し出した
「これからよろしくな、アリス」
「────っ! うん! これからよろしくね、士」
「よろしく、アリスちゃん」
「ユウスケも! よろしくね」
一瞬だけ驚きの表情を浮かべたアリスは、その後満面の笑みを浮かべて士の手を握り返す……こうして、思わぬ形で士たちの三人旅は、四人旅へと変わった