キバの世界に存在する白亜の城────ヴァイスファング城。士たちはその城の中の客室で王子と向かい合っていた
「改めて、先ほどは我が国の民を助けてくれてありがとう」
「気にしないでください。えっと……」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はタイガ、この国の第一王子だ」
「えっと、イオナです。ほら、みんなも自己紹介しないと」
「あぁ、えっと、代永ユウスケです」
「写野士だ」
「アリスよ、よろしくね」
自己紹介を終えた士たちの顔を1人ずつ確認していったタイガは、少しするとうんと首を縦に振る
「よし、全員の名前は把握した……それで、君たちはどの程度この国に滞在する予定かな?」
「具体的にどの位かまでは……事情が事情なので」
「ふむ……よろしければ、その事情を聞いても構わないかな」
タイガの言葉を聞いたイオナは少し考えたような表情を浮かべている横で、アリスは特に隠すようなものでもないだろうと言った表情を浮かべ、口を開く
「アタシたちがここに来たのは、ここで起こる異変をどうにかするためよ」
「ア、アリスっ」
「イオナはいちいち考えすぎなのよ。別に隠すようなもんでもないでしょ」
「でも────」
「いや、イオナさんの懸念は正しい。君たちにとっては未知の場所だ、信用をおける相手もいない……警戒することに越したことはないさ」
「ふーん……王子様は随分と聞き分けがいいのね?」
「聞き分けがよくなければ、第一王子などやってられないよ……まぁ、自分でもいい王子が出来ているとは思っていないけどね」
少しだけ自嘲気味な表情を浮かべたタイガを見た士たちがなんと声をかければいいのかわからずにいると、それを察したらしい彼は先ほどとは違う柔和な笑みを浮かべながら改めて口を開く
「すまない、少々自分語りが過ぎたね……それで、先ほど君はここで起こる異変と言っていたが……それはどういう意味か聞いても?」
「……はい。私たちはこことは違う、別の世界から別の世界を巡って、その世界の異変をどうにかして回ってるんです」
「別の世界か……にわかには信じられないな」
「信じられなくて当たり前だと思います……けど、本当の事なんです」
イオナの言葉を聞いたタイガは、再び考えるような表情で手を顎に当て少しだけ目を瞑る。時間にして1分弱ほどの思考の後、彼はゆっくりと目を開いた
「ひとまず、別の世界云々の事は置いておくことにするよ……それで、君たちの言う異変とは具体的にはどんなものなんだい?」
「わかりません。どんな異変が起こるのかはその世界によって違います。その世界とは違う世界の怪物が現れたり、存在しないライダーが現れたり」
「……成る程」
世界で起こる異変を軽く説明されると、タイガは再び手を顎に当てて少し思考した後で三人の方へ視線を向けなおす
「わかった、ひとまず君たち用の滞在許可証を発行しよう。期間は一カ月、もしも延長が必要な場合は事前に申請してくれ」
「ありがとうございます!」
「それと、一つ君たちに耳に入れておかなければならないことがある」
そういったタイガは先ほどよりも表情を引き締めてから話を始める
「最近、純血派と呼ばれているファンガイアが各地で無辜の民を襲う事件が多発しているんだ」
「純血派?」
「血が混ざることを嫌い、自身の中に流れている種族として混ざっていない血こそが至高であると考えている派閥の事だ」
「王子様はその純血派ってやつじゃないの?」
「あぁ。そもそも、私自身が人間とファンガイアの混血だからね」
人間とファンガイアの混血、四人はその言葉を聞き目を見開く
「それ、俺たちが聞いても大丈夫なのか?」
「問題ない、この国の人達はほとんどが知っていることだからね」
「……そうか」
「それで、その純血派って人たちが人を襲ってるって言ってましたけど……もしかしてさっきの事件みたいなことが?」
「あぁ、この国で発生している……それに君たちは先の事件で目をつけられている可能性もあるからね、気を付けて欲しい」
「……わかりました」
「ま、アタシたちなら問題はないだろうけどね」
アリスはあっけらかんと言った様子でそういうと真面目だったタイガの表情が幾分か和らいだ
それから少し後、ヴァイスファング城から出てタイガと別れた士たちはに賑わってる城下町を歩きながらさっきの事を振り返っていた
「それにしても、ここの世界の王子様が案外話わかる人でよかったわね」
「だな、正直な所もう少しこじれるかと思ってた」
士とアリスの二人がそう言いながら歩いていると、彼らの少し後ろを歩いていたイオナが二人へと声をかける
「けど、それ以上に調べないといけないことは多そうなのに……二人とも気づいてる?」
「もっちろん」
「あぁ、この世界のライダーも探さないといけないしな」
「えっと、確かこの世界のライダーは……キバ、だったよな?」
「だったはずだ」
ユウスケの言葉に短い返事をした士はポケットの中に入っていたキバのカードを取り出した
「とはいえ……探すにしても一切手がかりはないんだけどな」
「確かに、折角ならキバの手がかりもあの王子様に聞いといた方がよかったかもな」
ユウスケの言葉に全員は軽く頷いた
「と、とりあえず……一旦帰ってご飯にしよっか」
「そうだな、腹の空き具合的にそろそろ昼頃だし」
「それじゃ、さっさと帰りましょっか」
イオナたち三人がそう言ったが、士だけは反応を示さない。それに気づいたユウスケは彼に不思議そうな表情を見せる
「士、どうかしたのか?」
「ん、あぁ……いや、なんか聞こえないか?」
「えっ、いや……なんも聞こえないけど、二人は?」
「うーん、私も周りの人たちの話声くらいしか聞こえないかな」
「アタシもそんな感じ。なに、幽霊の声でも聞こえてきてるの?」
「そういう訳じゃないと思うんだが……少し気になるからお前らは先戻っててくれ」
「えっ、あっおい士! 飯どうすんだよ!」
「適当にそこら辺で済ませる」
そう言って三人と別れてどこかへ歩いて行ってしまう士を追うかどうか迷っているユウスケに対してアリスはイオナの手を引いて拠点の方へと歩き出す
「ちょ、アリス!」
「えっ、士を追いかけなくていいのかよ!?」
「別に問題ないでしょ、迷子になる子供でもあるまいし。何かあったら連絡してくるでしょ」
「いや、それはそうかも知れないけど……ってちょっと待ってくれよ! 二人とも!」
三人と別れた士は一人で市場から離れた場所にある住宅街へと歩みを進めていた
「多分、音が聞こえてくるのはここら辺……だよな」
四人で一緒に居る時、ある瞬間を境に士の耳に聞こえてきたのは少し不格好なバイオリンの旋律だった
不格好だがどこか心の惹かれる不思議な感覚に襲われた士は、その旋律に導かれるよう歩みを進め気が付けた一軒の家の前までやってきていた
「ここ、だよな」
家の中からわずかに聞こえてくる旋律を耳に受けながら、士は家の扉をノックすると旋律は止み。トテトテと家の中から足音が聞こえてきた
「はい、どちら様ですか?」
小鳥のような声と共に少し小柄な少女が姿を見せる。扉の向こう側にいた自分よりも大きい異性の姿を見た少女に怯えた表情を向けられ、士は少しテンパった頭を回転させながら言葉を絞り出す
「あ、いや、えーっと……ここから、バイオリンの音が聞こえて、それが少し気になってな」
「バイオリン……ですか?」
「あぁ、もしかして間違いだったか」
「い、いえ……確かにバイオリンの練習はしてました、でも……迷惑にならないように地下室で練習してたので、少しびっくりしちゃって」
「そうだったのか、ビックリさせて悪かったな」
「い、いえ」
そこから士と目の前の少女との間に沈黙が訪れた
気になって勢いで来たもののこれからどうすればいいのかを士が考えていると彼の耳にくぅとかわいらしい音が聞こえてくる。彼が音のした方へ視線を向けると恥ずかし気に顔を赤らめた少女の姿が映る
「……す、すみません」
「い、いや、別に謝られる事じゃ……と言うか、もしかし────なくても腹減ってるよな」
「は、はい……朝から練習してたので、何も食べてなくて……」
「家に、なんか食べ物はないのか?」
「今日買いに行こうと思ってて……すっかり忘れてて……」
抜けているのか、趣味か好きな事にないする情熱が強いのか、何とも言えない表情を浮かべた士だが少しおかしな気分になり目の前の少女へと声をかける
「君がよかったらなんだが、なんか食べに行くか?」
「えっ、で、でも……」
「勝手にバイオリンを聞いたお詫びだよ……一応聞きたいんだが、このお金ってこの世界────いや、この街でも使えるか?」
「と、東洋のお金……なら、一度換金所で変えて貰えば使えると……思います」
「なら、一旦そこで変えて貰ってからになっちまうけど……どうだ?」
「……そ、それじゃあ。お願い、します」
少女はそういうと、自身の目の前にいる士に頭をペコリと下げた
換金所で所持していた金銭をこの世界で使えるものへと変えた士は少女と共に市場を歩く
「何か食べたいものとかあるか?」
「え、えっと……特には、でも、騒がしい所はちょっと……」
「それじゃ、屋台で適当に何か買って食べるか」
そういった士はその場を軽く周囲を見渡していると肉を焼く音が聞こえてくる、それを聞いた士が音のする方へ視線を向けると肉串を焼いている屋台を見つけた
「肉の串焼きか、あれでも良いか?」
「は、はい。大丈夫です」
「そうか、それなら買ってくるから少し待っててくれ」
そう言うと士は早足でや屋台まで向かい自分と少女の分の串焼きを買って彼女の元へと戻る
「お待たせ。ほら、どうぞ」
「あ、ありがとう……ございます」
「ここで食べるか?」
「い、いえ、静かな所を知っているので……そこで」
「わかった」
そういった少女の言葉に従い、士は彼女と二人で彼女が静かな場所だと言った所へと向かう。串焼き以外にも士は目に入ったサンドイッチなどを買い足していく
そうして軽い買い出しくらいの量になった荷物を両手に持った士が少女の案内で辿り着いたのは市場から少し離れた所にある静かな公園。少女はその公園の入り口で足を止めると、おずおずと士の方へと視線を向けた
「こ、ここです」
「公園か?」
「は、はい。小さい頃に、お母さんと一緒によく来た場所で……家以外で、一番静かな場所だから」
「そうなのか……まぁあれだ、詳しいことは一旦置いといて、食べようぜ。俺も良い感じに腹が減ってきた」
家族関係の出来事は比較的デリケートな話になることが多い、詳しい事を聞くのはアレだとも考えた士はこれ以上の事は聞かず近くの芝生へと座り、少女へ向けて自分の横をポンポンと叩く
それを動作を見た少女は小動物のような動きで彼へとやってきて、腰を下ろす。それを見た士は手に持っていた袋の中から料理を取り出して一つを少女へと手渡す
「ありがとうございます……いただきます」
「いただきます……美味いな、コレ」
「はい、美味しいです」
そうして料理を食べ始め、二人の間に穏やかな時間が流れた所で士は、そう言えばと言った様子で少女へと話かけた
「そう言えば、自己紹介をしてなかったな」
「あっ……そ、そうですね」
「そんじゃ俺から……俺は写野士、今は事情があって色んな所を旅してまわってる」
「旅人さん、なんですね」
「あぁ、それで君は?」
「わ、私は……ルチア、と言います」
「ルチアか、よろしくな」
「はい、士さん」
自己紹介を終えたことで、士は少しだけ彼女との距離が縮まったように感じながら袋からサンドイッチを取り出して、一つを彼女へと渡す
「ほれ」
「ありがとう、ございます……あの、士さんって、今までどんなところを旅してきたんですか?」
「気になるのか」
「はい、旅人さんに会うのって初めてで……もしかして、聞いちゃダメ、でしたか?」
「いや、別にダメじゃないよ……けどそうだな、俺も旅を始めたばっかりで具体的に何処って話は出来ないんだ」
「そうなんですね」
「あぁ、申し訳ないけどな……最初に行った場所も、その次の場所もその次も俺が元々居た場所とそんなに変わらなかった」
自分でそういったものの、一つ前の世界で出会ったタケルの事を思い出してアレは今までとは違うちょっとしたファンタジーだったなと思い、言葉を紡ぐ
「けど、一つ前の場所だと少しだけ話のタネになりそうな事があったな」
「何ですか?」
「実はな、幽霊と友達になったんだ」
「ゆ、幽霊……!?」
「あぁ、と言っても実際に死んでる訳じゃなくて事情があって身体に戻れなくなってただけだったんだがな、そんでソイツに身体を貸したり、また身体に戻れるように色々やった」
「身体を貸したりって……大丈夫、だったんですか?」
「あぁ、特に問題はなかったな」
士の言葉を聞いたルチアははえーと言った表情を見せる、それを見た士は今までのおどおどしたもの以外の表情を見たこともあり、少しだけ頬が緩む
「? どうかしました」
「いや、何でもない……そう言えばルチアはバイオリンの練習をしてるって言ってたけど、趣味とかか?」
「……いえ、実は私、将来はバイオリニストになりたいんです。それで毎日ちょっとずつ練習して、少しでも上手くなれたらって」
「成る程な」
「士さんは、聞こえたって言ってましたよね? どうでしたか?」
その問いを聞いた士はなんと答えるかを少し迷ったものの、バイオリニストを目指しているならと正直に答える事にした
「そうだな……少し不格好だった」
「うぅ、やっぱり……」
「けど、不思議と心が惹かれた……なんと言うか、楽しく弾いてるってのは伝わってきたからな」
「良いですよ、慰めなくても……技術が足りないのは自覚してますから」
「慰めなんかじゃねぇよ、実際生まれてこの方バイオリンとかクラシックとか、そういう音楽に興味なかった俺が不思議と引き寄せられたんだからな」
「そ、そうでしょうか?」
「あぁ、不格好だったけど下手だなって感じはしなかったし、伸びしろはあるって事だろ」
自分には技術云々はよくわからなかったが直感的に出てきた言葉をルチアに返すと、それを聞いた彼女は少しだけ安堵したような表情を浮かべる
それを見た士は、袋の中に手を伸ばした所で色々買ったはずの料理がすでになくなっている事に気づいた
「あれ、もう食いきっちまったか」
「みたい、ですね……確かにおなかいっぱいです」
「言われてみれば、確かにな」
良い感じに空腹が紛れている事に気づいた士はその場で休もうかとも考えただったが、流石にこれ以上はイオナたちが心配するかもと考えてその場から立ち上がる
「よっと、そんじゃそろそろ戻るか。これ以上は流石に仲間が心配しそうだ」
「仲間……ですか?」
「あぁ、一緒に旅してる仲間。一人は最近ふらっと顔を出した新顔だけど、残りの二人には何だかんだ助けられてる」
「……そうなんですね」
「あぁ」
そんな話をしつつ先に立ち上がった士はルチアの方へ手を伸ばすと、その手を取った彼女も立ち上がる
「送っていくよ、そろそろ日も────ッ!」
落ち始めそうだと続けようとしたタイミングで、士は背後に嫌な気配を感じてルチアを庇うようにしながら振り返ると、ゴーストの世界で出会ったシンゲツと同じ雰囲気を持つ黒い道化のような装いをした青年が、不気味な笑みを浮かべて士へと視線を向けていた