士とルチアの目の前に現れた不気味な笑み浮かべる黒衣の道化はゆったりとしたステップを踏み、一歩、二歩と彼らに近づいた
「初めまして写野士さん、この世界に来て早々に女の子をナンパとは。中々にやり手みたいだな」
「勘違いするな……それと、これ以上俺たちの方に近づくな」
「……つ、士さん?」
挨拶とは裏腹にあたかも旧知の仲であるかのように話しかけてくる青年に対して、士はルチアを庇うように前へ出て警戒心を露わにする
「あまり冷たい事を言わないでよ、ワタクシ悲しくて泣いちゃいますよ?」
「それならまずは表情と言葉を合わせてから言え……お前、あのシンゲツとか言う奴の仲間だな。何の用だ」
「少々ご挨拶に伺っただけだ……それとシンゲツの仲間と言うのは違うわ。ワタクシと彼は確かに同じ組織、同じ派閥に所属しているけど仲間じゃなくあくまでも協力関係ってワケ」
目の前にいる存在と会話をしなが士は得体の知らぬ不快感を感じていた、目の前にいるのは一人である筈なのにまるで複数の人間と話しているのではないかと思ってしまう明確なズレ、その感情を知ってか知らずか、目の前の男はさらに言葉を続けた
「そうね、ここら辺でワタクシと彼の目的は明かしちゃおうかしら、別に知られて困るようなもんでもないからなァ」
「……そいつは有難いな」
「だろ? それじゃ早速語らせてもらいますが、第一の前提としてワタクシと彼は世界の侵略とか支配なんざどうでもいいんだよね。まぁウチの組織の大多数はそういう訳でもないから、その部分だとワタクシ達は異端って事になるのかな……それで、本命の話ですが彼────シンゲツはただ自分の求める最高の存在を追い求めているだけ、まぁその過程で生まれる損害なんざ気にしねぇけどな。そしてワタクシはシンゲツの生み出す混沌を眺め、あわよくば混沌の中で悲劇的な物語を生み出したい……そ・れ・だ・け」
その言葉を聞き、士は目の前の存在に対する警戒心を数段階引き上げる、自身の最初に遭遇した敵であるシンゲツの目的は自分たちやその世界にとって害になるものではあるが人間として自分の求めるものを生み出したいという気持ちは最低限理解は出来た
しかし目の前の存在の目的は悲劇的な物語を生み出す事。それは士にとって理解しがたい目的であり、悲劇を生み出すためならば人を人とも思わず、利用する事だろうという確信があったからだ
「そうか、教えてくれてありがとよ……その礼に、ここでお前を倒す」
ディケイドライバーを腰に装着した士がライドブッカーからカードを取り出すと、目の前の存在はおどけたような表情を浮かべて両腕を上げて降参のポーズをとる
「おっと、ワタクシに戦闘の意思はないよ? 今日は挨拶をしに来ただけなので。だから君もその物騒なベルトとカードを仕舞っておくれよ」
「断る。昔から直感を信じるようにしててな。悪いが問答無用だ」
「そっかぁ、ワタクシは戦いってものが特に苦手だから会話で済むならそれで良かったんだが……こうなっちゃうなら仕方ねぇか」
そう言葉が紡がれた瞬間、目の前の存在は上げていた両腕を思い切り下げると士とルチアを遮るように灰色のオーロラが出現する
「えっ────」
「なっ────」
目の前の脅威に対して冷静でなくなっていた事を自覚した瞬間、士の腹部に強烈な衝撃を受けその場から吹き飛ばされる。一瞬の浮遊の後サッカーボールのようにバウンドする
「がはっ! ごほっ、ごほっ……」
せき込みながらもなんとか呼吸を整えてさっきまで自分の居た場所へ視線を向けると展開されたカーテンの中から悠然と現れた青年と、彼の部下であろう怪人────ムースファンガイアに捉えられたルチアの姿があった
「てめぇ……」
「そう怖い顔をしないでくれよ、ほらほら、スマーイル、ですよ?」
今すぐにでも向かっていきたい士だが目の前の青年は、彼が向かってきた瞬間にためらいもなく部下にルチアを殺させるだろうという思考が足をその場に固定していた
「そう怖い顔をしなねぇでも、この世界に居るうちにはまた会えますよ……じゃあね」
そう言ってカーテンの中に半分ほど身体を沈めた時にふと、思い出したかのように士の方へと振り返る
「そうだ、大事な事を伝えてなかったな。ワタクシの名前はロウゲツ……以後お見知りおきを、ばいばい」
その言葉を最後にロウゲツはカーテンの中へと姿を消し、ルチアの事を拘束していたムースファンガイアも彼女の拘束を解き、彼の後を追う形でカーテンの中へと身体を沈め、その場から消失した
「士さんっ! 大丈夫ですか!?」
二つの存在がその場から消えた後、ルチアは地面に膝をついた士の方へ駆けよってくる
「ルチア、大丈夫か?」
「は、はい。私は大丈夫、です……そ、それより士さんの方が大丈夫ですかっ、凄い吹き飛ばされてて……」
「大丈夫だ……それより、悪い。頭に血が上ってお前の事が疎かになった」
「き、気にしないでください……立てますか?」
ルチアの言葉に頷いた士は、彼女の小柄な身体に支えて貰いながらなんとかその場に立ち上がる
「お医者さんに、行きましょう。怪我を見て貰わないと……」
「この位大したことない、それより────」
士が言葉を続けようとしたタイミングで、二人の耳に複数の足音が聞こえてきた、誰かが来たのかと士が公園の入り口へ目を向けると、青と白の隊服に身を包んだ複数の人物が公園へと入ってくる
公園を見回した隊服の中で、隊長格であろう人物がルチアに支えられて立っている士の存在に気づくと、周囲に居た数人に何か指示を出すと二人の元へと近づいてきた
「君たち、大丈夫か!?」
「は、はい……私は、大丈夫です、けど」
「いや、俺もこの程度の怪我大したことは────ッ」
ない、と言葉を続ける前に腹部に激痛が走り士はその場に膝をつきそうになる
「その様子だと、そちらの彼は大丈夫ではなさそうだな。ここからならば診療所よりも隊舎の方が近い、そこに運ぶから君も協力してくれるか?」
「は、はい……っ」
隊舎へと運ばれた士はそのまま医務室まで連れていかれ、治療を受けていた
「なんか、不思議な感じだ」
「もしかして、魔素治療を受けるのは初めて?」
「えぇ、まぁ」
不思議そうに自分の事を見つめた医者に対して士はあいまいな表情を浮かべたまま言葉を返すと。その様子をルチアと共に眺めていたもう一人の男が口を開く
「その服装から薄々そうじゃないかと思っていたが、やはり旅人か」
「あぁ、まぁ……そんな感じだ」
「はい、これで良し」
「どうも」
短い言葉と共に頭を下げた士はさっきから黙りっぱなしのルチアと、二人に付き添っていた男と共に医務室を出た
「さて、それじゃあ少し話を聞きたいんだが……大丈夫かな?」
「俺は大丈夫……です。ルチアはどうだ?」
「わ、私も……大丈夫です」
「そうか、それなら少し場所を移そう。ついてきてくれ」
男の後に続く形で士とルチアも歩き始めながら、さっき医者の言っていた魔素治療と言う聞き覚えのない言葉についてを士は尋ねる
「なぁ、魔素治療って……なんだ?」
「魔素を知らないのか?」
「まぁ……そういうのと縁のないところから来たんで」
「士さん、事情があって色々と旅をしている……って言ってましたもんね」
「成る程。それなら俺の知ってる範囲になるが、教えられる範囲で教えよう」
「助かる」
目の前を歩く男に対して士が感謝の言葉を述べてから程なく、見えてきた小綺麗な木の扉を男は開け、二人に中へ入るようジェスチャーをする
それに頷く形で士とルチアが部屋の中に入ると清掃の行き届いた内装が目に入る。二人の後から部屋の中に入ってきた男は士とルチアに着席を促してから自分も席に座った
「さて、それじゃあ改めて自己紹介を────俺はクルス、
「空天守備隊?」
「こ、この街の自警団……のような組織、でしたよね?」
「自警団……」
「一応、王国公認の組織なんだけどね……まぁ、そこはいいか」
クルスと名乗った男は自警団と言う言葉に苦笑いに似た表情を浮かべていたが、コホンと気を取り直して姿勢を整える
「それで、君たちは?」
「写野士、旅人。助けてくれてありがとう」
「ル、ルチア……です」
「士くんとルチアさんか……それじゃあ、色々説明する────前に君たちの身に何があったのか聞かせて貰ってもいいかな?」
「あ、あの……えっと……」
「それじゃ、俺から」
戸惑ってしまった様子のルチアに変わって士が先ほどのナニカ────ロウゲツと出会ってからクルスたちがやってくるまでの一連の出来事を説明する
一通りの話を聞いたクルスは難しい表情をしてからふむ、と一言だけ小さく呟いた
「……にわかには信じられないし突拍子もない出来事だね。士くんとルチアさんの痴情のもつれと言われた方が納得できる」
「まぁ、そうだ……ですよね」
「かしこまる必要はないよ……それにしてもロウゲツに、ハンドレッドか」
士から聞いたロウゲツと彼の所属している組織”ハンドレッド”に関する情報を聞き、クルスはしばらくの間考え込んだ表情を浮かべてから改めて言葉を紡ぐ
「わかった。ひとまずロウゲツとハンドレッドに関しては俺も警戒をしておこう。それじゃあ、今度はこちらが君たちに……いや、士くん。君の聞きたいことに答える番だね」
士がクルスから話を聞いていたのと同時刻。イオナ、ユウスケと一緒に帰宅したはずのアリスは単独でにぎわっている町の中を抜けて薄暗い雰囲気の裏路地の中へ歩いていく
「成る程……この道はこんな感じか」
カツカツと音を響かせながら裏路地を一人歩いていると、彼女の行く手を遮るように複数の人影が姿を現す
「あれ? もしかしてナンパ? 悪いけどそれはお断りかな」
おどけた様子でそういうアリスに対して、行く手を阻んでいた人影は身体にステンドグラスのような意匠を出現させファンガイアの姿へと変化する
「ふーん……」
アリスの周囲を囲うようにじりじりと四体のラットファンガイアが距離を詰め、彼らのボスであろうゼブラファンガイアが一歩前に出る
『大人しく俺たちにご同行してもらおうか、人間』
「どうして?」
『理由なんざ知らねぇよ、ただお前を連れてけば俺らが儲けられるんだ。だから大人しくしな』
威圧的にそう告げるゼブラファンガイアに対して、アリスはその表情を悪戯交じりのものから相手を挑発するような笑みへと変化させる
「そっか、じゃあ君たちは三下さんな訳か」
『なんだと?』
「聞こえなかったかな? 君たちは下っ端さんかぁって言ったんだけど」
『……予定変更だ、生き死にの指定はされてないからな。殺して連れてく』
「……そう」
ゼブラファンガイアが合図を出すと同時に襲い掛かるラットファンガイア達の攻撃をアリスはひらりとした動作で躱し、ディエンドライバーを取り出しその引き金を引く。銃口から放たれた青白い光弾は真っすぐラットファンガイアたちへと命中し、ダメージを与える
『お前ら!? テメェ……』
部下が攻撃を受け、忌々しげな声を出すゼブラファンガイアに対してアリスは気にした様子もなく正常に作動したディエンドライバーを眺める
「さてと、試運転もしたかったし……せっかくだから付き合ってもらおうかな」
ディエンドライバーをクルリと回したアリスはショートパンツのベルト部分に装備していたカードホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填、銃身をスライドする
〚 KAMEN RIDE 〛
ディケイドライバーと酷似した電子音が薄暗い路地裏へと鳴り響く中、アリスはファンガイア達へと銃口を向け────
「変身」
────引き金を引く
〚 DIEND 〛
瞬間、三色の残像が周囲を縦横無尽に動き回りアリスを中心に一つに纏まる。灰色の姿へとその姿を変えたアリスの仮面に複数枚の板が装填されると同時に灰色の姿がシアン色へと色付き、ディエンドへの変身が完了した
「へぇ、これが変身するって感覚なんだ」
『お、お前……お前は、なんだ?』
「アタシ? アタシはどこにでもいる普通の女の子だけど?」
『そういう事じゃねぇ! その姿はなんだっ! なんなんだテメェはッ!』
「あぁ、この姿か……これは、ディエンド」
『ディエンド……?』
「そっ、だから今の私は名乗るなら────仮面ライダーディエンド、かな」
ディエンドへと変身したアリスは、その言葉と共にゼブラファンガイアへ向けて引き金を引いた