続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第11話:サイゴク山脈の血戦

 ※※※

 

 

 

 ──サイゴク山脈の頂には紫色の光が立ち上る。

 メグルとアルカがアヤシシに乗って切り立った崖を駆け上がった先には──見知った人影が立っていた。

 背を向けて立つその小さな背姿に、メグルは言い知れぬ緊張感を隠せない。

 アヤシシから降り、その名を呼ぶ──

 

 

 

「リュウグウさん」

 

 

 

 ──人影はゆっくりと振り返った。

 かつての生前と全く変わらぬ顔、恰好。  

 だが──白い眉から覗く目は鋭く──メグルを強く睨んでいた。

 

「……来ると思っておったぞ」

「待ち伏せ!? じゃあ、すいしょうのおやしろは……ッ!?」

「もぬけの殻か……!!」

 

 メグルの言葉にリュウグウは頷いた。

 

「オヌシ達ならば、必ず此処に辿り着く。ワシは確信しておったからの」

「なら話が速いぜ。……オトロシアスを、霊脈を止めるんだ、リュウグウさんッ!!」

「不可能だ。ワシにも止められぬよ。霊脈は古来よりサイゴクの地下を流れるエネルギー、今更それを止めればサイゴクの生態系は崩壊する」

「じゃあせめて教えてくれよ!! オトロシアスって──何なんだよッ!! 何で──リュウグウさんと、こんな形で会わなきゃいけねーんだよッ!!」

 

 痛いくらいに握り締められた拳。

 別れの言葉すらかけることが出来なかった恩人。

 それが今、敵として目の前に立っている。胸が締め付けられ、砕けてしまいそうだった。

 

「……リュウグウさん。ボクからもお願いします。これ以上皆を……メグルを悲しませるのはやめてくださいッ!!」

「メグル君。アルカ君。……すまない、ワシにもどうにもならんことなのだ」

 

 リュウグウは首を横に振った。

 

「……オトロシアス……それは、サイゴクの霊脈そのもの。オトロシアスを敵に回すということは”サイゴクという地”そのものを敵に回すということ。此度の現象はサイゴクそのものの生理現象……人間が息をし、水を飲み、飯を喰らうのと何ら変わりない」

「バカな事あるもんか!! そんなの……もうポケモンじゃねえ……!!」

「そうだ。オトロシアスはポケモンではない。”現象”、ひいては……このサイゴクの霊脈そのものの名称なのだ。仮にワシらを倒したところで、オトロシアスは止まらん」

「……止めてみせるよ」

 

 アルカは言った。

 何故ならば、これまで彼らは何度も危機を乗り越えてきたのだから。

 

「ああそうだ。リュウグウさんは知らねえだけだ。俺達なら……やってみせる。勝手に止められないだなんて決めつけるなッ!!」

 

 これまでの戦いを思い返す。

 赫陽に輝く月も、全てを灰燼に滅する日輪も、水墨に染まった悪意の根源も、覆滅の龍神も、空より来たりし星狩の王も──今まで倒してきた。

 その確かな自負がメグルを奮い立たせる。

 

「サイゴクが何だッ!! 上等だッ!! 俺達なら……やれるッ!! やってやれねえ事なんてねぇんだッ!!」

「……聞き分けのない坊主だ」

 

 カツーン──硬い杖の音が山頂に寂しく木霊した。

 その音に呼び寄せられるようにして──水の塊がどこからともなく現れ──獣の形を成す。

 おやしろに居るものだと思っていたそれを見てメグルは目を見開く。

 

「……シャワーズッ!!」

「リュウグウさんと一緒に居たんだ……!」

「……シャワーズよ。今一度、見せてやるとしようぞ。我らがサイゴクの至上に立つ者である所以を」

「ぷるるるるるるー」

 

 歴代最強にして、サイゴク最強の男──リュウグウ。

 その彼が手塩にかけて育て上げたヌシポケモン・シャワーズ。

 もう二度と相まみえることはないと思われていた組み合わせが、今メグルの前に立つ。

 だが、怖気づくことはない。メグルもまた、最も信頼する相棒の入ったモンスターボールを握り締め──投げた。

 

「……やる気みてーだな……行くぞ、ニンフィアッ!!」

「に”ーッ!!」

 

 妹分であるアブソルの仇討ちだ、とニンフィアもやる気は万全だ。

 かつては圧倒的な格上であったシャワーズだが、ニンフィアもまた歴戦のポケモンだ。

 勝ち目がないわけではない──

 

「……アルカ君」

「は、はいっ!?」

 

 ──そんな中。リュウグウは静かにアルカに言った。

 

「……審判を頼む。これは──神聖なサイゴク山脈の頂上で執り行う神前試合だからな」

「ッ……」

 

 有無を言わせぬ頼み。

 メグルもまた頷く。

 誰にも邪魔はされない。させはしない。

 メグルとリュウグウ、最初にして最後の一騎打ちが始まろうとしている。

 張り詰めた空気の中、アルカは──二人の間に立ち──右の手を突き出した。

 

「それではこれより──キャプテン・リュウグウと、キャプテン代理・メグルによる──試合を執り行います」

「……」

「ッ……」

 

 睨み合う両者。

 そして、相対する二匹。

 アルカは──意を決し、叫ぶ。

 これから始まるのは試合などという生温いものではない。

 互いの死力を尽くした死闘だということは分かっていたのに──

 

 

 

「始めッ!!」

 

 

 

【キャプテンのリュウグウが 勝負を仕掛けてきた!!】

 

 

 

 

 ニンフィアとシャワーズが動き出したのは、ほぼ同時だった。

 辺りが一気に低温に包まれる。

 

「シャワーズ。”フリーズドライ”」

「ぷるるるるるるー」

 

 地面が凍り付き、氷柱が次々に突き出した。

 ニンフィアは瞬時にそれを察し、ひらりと空中に浮かび上がる。

 今着地すれば、足は地面に縫い付けられてしまうのは確実だ。

 

「──ニンフィアッ!! 地面に向けて”ハイパーボイス”ッ!!」

「ふぃるふぃーッ!!」

 

 ほぼノーチャージでニンフィアは地面目掛けて特大の音波砲を放つ。

 氷は一気に罅割れて砕け散った。露出した地面に降り立ったニンフィアだったが、そこに今度は体を巨大なスライム状に変えたシャワーズが襲い掛かる。

 

「ふぃっ!?」

「ぷるるるるるるー」

 

 ニンフィアの身体は液体化したシャワーズに取り込まれる。

 辛うじて首だけは出したニンフィアだったが──すぐ傍に、シャワーズの頭部がスライムから生えるようにして現れた。

 

「ふぃッ!?」

「”ハイドロスチーム”ッ!!」

 

 ほぼ真直線の強烈な煮え滾る熱湯のブレス。

 首を反らして躱したが──代わりに熱湯ブレスが直撃した岩は粉々に砕け散るのだった。

 想像を絶する威力を前にニンフィアの顔が真っ青になる。あれが自分の頭蓋だったかもしれないと思うと身の毛が文字通りよだつ。

 

「ふぃ、ふぃー……」

「ニンフィア、抜け出すんだッ!! ”ハイパーボイス”!!」

 

 範囲内ならばほぼ確実に相手にダメージを与えられる”ハイパーボイス”。

 しかし、次の瞬間にはシャワーズの身体は消え失せてニンフィアの身体は空中に放り出されるのだった。

 

「ま、まさか──今度は”気体”に姿を変えたのか!?」

「ふぃーッ!?」

 

 白い煙のようなものがニンフィアの頭上に湧き上がっている。そしてそれは間もなく、元のシャワーズの姿へと戻っていく。

 これこそがまさに、ヌシのシャワーズが得意とする”さんたいへんか”。

 水の三つの姿、”液体”、”固体”、”気体”に自在に形を変え、相手を翻弄する。

 通常のサイゴクシャワーズでは此処まで華麗に姿を変える事は出来ない。

 ヌシの血筋、そして何よりリュウグウのトレーニングが合わさって成し得る神業──

 

「”ハイドロスチーム”ッ!!」

 

 蒸気音が鳴り響き、宙に浮かぶシャワーズの身体が赤く染まる。

 そして薙ぎ払うようにして熱湯のブレスが次々にニンフィア目掛けて浴びせられる。

 ひらり、ひらりと紙一重で躱すニンフィアだが、熱湯が薙ぎ払われた地面はくっきりと切り裂いたかのような痕が残っているのだった。

 当たれば只では済まない──

 

「ぷるるるるるるーッ!!」

「ちょこまかとすばしっこいのう……だが、追いかけっこはもう終わりじゃ」

「──来るッ」

 

 ──熱湯の連打が終わり、辺りに湯気が立ち込めた──かと思えば、今度は一気に辺りの気温が引き下げられる。

 辺りには泡が浮かび上がり、周囲の霧と相まって幻想的な空気を醸し出す。

 標的を夢幻諸共に打ち砕く終の技。

 その名は──

 

 

 

「──”むげんほうよう”」

 

【シャワーズの むげんほうよう】

 

 

 

 

 すぐさまニンフィアの身体を無数の泡が取り囲み、包み込んだ。

 抜け出そうにも抜け出す事が出来ない。”ハイパーボイス”を放っても尚、泡が消える事は無い。

 

「ふぃっ!? フィーッ!! ふぃーっ!!」

「無駄じゃ。山頂の環境はシャワーズの泡を発達させるのに丁度良い。今日は陽も照っておらん。……終いじゃよ」

「ッ……!!」

「プルルルル──キュィオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 シャワーズの目が青白く輝く。

 その口には強烈な水ブレスが溜め込まれていく。

 その様を見てアルカは──両の手の指を絡ませ、祈る。祈るしかない。

 

(大丈夫……メグルとニンフィアならきっと……ッ!!)

 

「久々の”むげんほうよう”……!!」

 

 相手を泡で拘束し、動けなくなったところに特大の水ブレスを浴びせてノックアウトする、文字通りシャワーズの必殺技。

 初めてそれを受けた時、当時この世界に来たばかりのメグルと、当時イーブイだったニンフィアは──為す術もなく倒された。

 ユイの助けが無ければ、あのまま死んでいたかもしれない、と何度思っただろうか。

 オオワザが規格外の技であることを、この地方のヌシがどれほど強大な存在であるかを、メグルはあの事件で思い知らされたのだ。

 

 

 

「発射ッ!!」

 

 

 

 特大の水ブレスがニンフィア目掛けて放たれる。

 泡は全て掻き消え、炸裂音と共に巻き上げられた石が飛び散った。

 

「……他愛もない」

 

 リュウグウは言い放つ。

 最高威力の”むげんほうよう”。 

 その力はオトロシアスの加護を受けて通常よりも跳ね上がっている。

 岩すらも蒸発させるその一撃を前に──ニンフィアが立っていられるはずがない。

 そう確信し、帽子の鍔を握り締めたその時。

 

 

 

「……ぷるッ!?」

 

 

 

 霧から何かが飛び出し、シャワーズ目掛けて強襲する。

 

「”シャドーボール”ッ!!」

 

 影の弾幕が四方八方から現れ、シャワーズを打ちのめす。想定外の事態に目を白黒させたシャワーズは──反撃と言わんばかりに辺りに水ブレスを撃ち放った。

 しかし、それを縫うようにして──ひらりひらりと舞いながら、それは降り立ったのだ。

 

 

 

「ふぃるふぃーあ!!」

「……何が他愛もねぇって? バトルはこっからだ、リュウグウさん!! シャワーズッ!!」

 

 

 

 リュウグウは言葉を失った。

 彼の知らぬニンフィアの姿。

 体から生えるリボンは大きな羽根のようになっており、身体には鎧のようなものが纏わりついている。

 

「バカな。どうやって耐えたッ!?」

「こっちもオオワザを使った!! ”しんぴのめぶき”……受けた特大ダメージを、特大の回復量で相殺したッ!!」

 

 メグルのもう見えない右目からは──黒い稲光が迸る。そしてニンフィアも、とびっきり悪い笑みを浮かべて目から黒い稲光を迸らせる。

 

 

 

「……見せてやるよリュウグウさん。俺達の……これまでの軌跡を。そして、俺達のこれからの未来をッ!!」

「ふぃーッ!!」

 

 

 

 ──ギガオーライズ・フェーズ2。

 到達し、磨き上げた彼らの「最強」を以て、かつての「最強」に挑む。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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