続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「ギガオーライズフェーズ2……か」
白い眉から覗く目が、妖精の風を纏うニンフィアを睨めた。
ヌシポケモンとメガシンカすら無い一般ポケモン、埋めがたい両者の圧倒的な差。
それを埋め得る唯一の手段──それがギガオーライズ。
加えて、メグルとニンフィアは長年の戦いと経験により、完全なる同調を可能としていた。
メグルとニンフィア、両者の五感は常にリンクしており、ニンフィアの考えていることとメグルの考えていることはほぼ同じに重なる。
包囲する泡をリボンで叩き割り、ひらりと跳んで躱す。
地面が凍り付けば、舞い降りたニンフィアが足元から妖精のオーラを放って氷を砕く。
しかし──
「──それが何だと言うのかね?」
──恐るるに足らない、とばかりにリュウグウが杖を地面に打った。
シャワーズの動きが一気に変わる。
ニンフィア目掛けて放った巨大な水の弾。
それは爆弾のように大きく爆ぜる。飛び退いて躱したニンフィアだったが、感じたのは──強烈な熱源。
(熱──そう言えば、さっきから”ハイドロスチーム”を使ってんなコイツ……! 俺の前では使ってなかったのに……!?)
冷気と熱。
一見相反する要素ではあるものの──その本質は実は同じ。
「……冷気を操る力とは突き詰めれば熱を操る力。シャワーズは熱という概念を操作することで、三つの姿を操るッ!!」
「熱という概念──!?」
「然り。周囲の物から熱を奪い取ることでシャワーズは冷却を行う。そして奪った熱を放出するのではなく溜め込み爆発させることで──」
【シャワーズは不気味な力を解き放つッ!!】
「ヴルルルルウウウウウウウーッッッ!!」
シャワーズの身体が一気に赤く染まっていく。
その細胞は水と同質。
周囲の熱全てを吸収し溜め込んだ今の彼女は──全身が沸き立つ熱湯と化していた。
辺りは陽炎で揺らめき、彼女の目からは赤い炎が揺らめいていた。
【シャワーズ(サイゴクのすがた・ばくねつけいたい) ひょうすいポケモン タイプ:水/炎】
「……奥の手中の奥の手、じゃよ。もうフェアリー技は通さん」
「ヴルルルルルゥ……ッ!!」
メグルは息を呑む。
キャプテン代理として、そこそこ長い間シャワーズと一緒にいたつもりだった。
しかし、甘かった。
シャワーズは結局、本当の意味でメグルに心を許した事などただの一度も無かったのである。
その証左が──この姿。
冷気と熱。
相反するものを併せ持つ真のヌシ。
「……ニンフィア、気ィ引き締めろッ!!」
「ふぃッ!!」
「……シャワーズ、冷却──からの”ばくねつだん”ッ!!」
「ヴルルルルル!!」
シャワーズが地面を踏み鳴らせば、一気に周囲が凍てつく。
だが、それはシャワーズの身体に更に熱が循環し溜め込まれていくことを意味していた。
圧縮された熱はエネルギー弾と化し、ニンフィア目掛けて吐き出される。
「ニンフィア下がれ──ッ!!」
「ふぃッ──!!」
すぐさま距離を取るニンフィア。
だが、着弾したエネルギー弾はすぐさま爆弾の如く爆ぜ──ニンフィアは風圧だけで吹き飛ばされる。
そうして空中に投げ出されたニンフィア目掛けて、シャワーズは自らの身体を熱エネルギーで爆発させ跳びあがり追撃を図る──
「”ハイドロスチーム”ッ!!」
「ッ……!」
絶対に避けられない縦一文字の薙ぎ払いブレスが、ニンフィアの脳天を叩き切る。
地面に落とされたニンフィアは大火傷を負いながらも起き上がろうとするが、そこに更にシャワーズは口を大きく開けて”ばくねつだん”の構えを取る。
その射程にはニンフィアは勿論、メグルも入っている──
「……纏めて消えい」
「──消えねえよッ!!」
──しかし。
それで引き下がるふたりではない。
ニンフィアはリボンを振り回し、ドーム状の防壁を展開。
放たれた”ばくねつだん”を衝撃諸共受け流す。
「”シャドーボール”ッ!!」
「”ハイドロスチーム”ッ!!」
即座に影の弾を幾つも浮かびあげて連射するニンフィア。
蒸気が噴き上がる程の熱湯の雨を浴びせるシャワーズ。
両者の力は拮抗していた。
フェーズ2にまで到達していたメグルとニンフィアでさえも、霊脈の加護を受けて限界まで強化されたシャワーズを追い越す事は叶わない。
「ヌシの力の根源は霊脈の力……サイゴク山脈という環境そのものがシャワーズにとってはホームグラウンドなのじゃよ……ッ!!」
「だとしても退かねえッ!! 俺は……リュウグウさんにトレーナーとしての心構えを教えて貰った!! シャワーズに、ヌシポケモンの何たるかを教えて貰ったッ!!」
「諦めが肝心じゃよ、メグル君……!!」
「それだけの強い力を持ってんのに……霊脈に抗うのを、諦めてんじゃねーよ、リュウグウさんッ!!」
だとしても、必死でメグルは喰らいつく。必死でニンフィアも拮抗させる。
負けるわけにはいかない。
退くことなど出来る訳がない。
メグルの背中には今、サイゴクに暮らす全ての命が懸かっている。
何より、傍には──勝利を願い続ける愛しい人がいる。
(アルカの前で……カッコ悪い姿は見せられねえよ!!)
「ニンフィア、”しんぴのめぶき”ッ!! バリアを展開してバフを掛けるッ!!」
「ふぃるふぃーッ!!」
「トドメを刺せ、シャワーズ!! オオワザ──”さんぜんせかい”ッ!!」
「ヴルルルルルゥ」
冷気、熱気、相反するエネルギーがシャワーズの体内で混ぜ合わされ、爆発した。
右前脚からは熱気が地面を灼く。
左前脚からは冷気が地面を凍てつかせる。
そしてシャワーズの口が大きく開かれ、熱気と冷気が混ぜ合わさった特大のブレスが解き放たれるのだった。
【シャワーズの さんぜんせかい!!】
一方のニンフィアは”しんぴのめぶき”で癒しのオーラを展開。
更にハート形の障壁を展開して正面からブレスを受け止める。
だが、一瞬で障壁には大きな罅が入る。熱と冷気、相反する二つのエネルギーが矛盾なく混在するそれは、温度差で阻む総てを崩壊させる。
「受け止めようなどと!! 無駄な事をッ!!」
「……受け止めようだなんて思ってねーよッ!!」
案の定、障壁は一瞬で崩される。
ブレスはニンフィア目掛けて飛んで行く。
しかし──
「”はかいこうせん”ッ!!」
──そこで放たれるのは”はかいこうせん”。
妖精の加護を受けた最大出力の原子崩壊ビームだ。
”しんぴのめぶき”は周囲のものを癒し、そして──大きなバフを掛ける。
中央に座すニンフィアもまた例外ではない。
「バカな……オオワザを”はかいこうせん”で押し返そうと言うのか!!」
「只の”はかいこうせん”じゃねーよ。フェアリースキンで1.3倍ッ!! ”しんぴのめぶき”で能力アップ!! そして──俺達の絆で無限大だッ!!」
「青い……青いのうッ!!」
しかし。
徐々に”さんぜんせかい”は押し返されていく。
リュウグウは驚愕した。
何処にそのような力が眠っていたのか、と。
先程までは一方的にシャワーズに翻弄されていたはずだ──と。
そこまで考え、リュウグウは漸く気付いた。
(いや、
見誤っていたのだ。何もかもを。
メグルの実力も、そしてそれに合わせたニンフィアの実力も。
此処までニンフィアは100%の力を出していなかったのだ。
その上で、シャワーズをずっと相手していたのだ。
一方のシャワーズは、自らの身体にも負荷が掛かる熱操作を解禁したことで既に本気で戦わざるを得ない状態に追い込まれていた──此処に両者の差は生まれていたのである。
(最後は絶対にオオワザで来ると思ってたッ!! 手を抜いてたわけじゃねえけど……力を使うならここしかねえッ!!)
「ふぃるふぃーッ!!」
押し戻されていくブレス。
”はかいこうせん”だけではない。
このままでは熱と冷気の混ぜ合わさった、自らの放ったブレスに──シャワーズは押し潰される。
「堪えろシャワーズッ!! 我ら鬼のコンビ、若造に負けはせん……負けはせんぞ!!」
「押し込めーッ!!」
じりっ、と後ろ脚で踏ん張り、シャワーズは押し留まろうとする。
「ワシとてこのサイゴクが大事だッ!! 譲れはせぬのだッ!! 譲れは──ッ!!」
しかし──ちらり、とシャワーズは一度リュウグウを振り向く。
「ヴルルルルゥゥゥゥーッ……!!」
「もう良い、もう良いんだよ」──そう言っているようだった。
リュウグウは──それを見て首を横に振った。
「……そうか。そうか……やはりワシは……オヌシには敵わんのう」
熱が、そして冷気が爆ぜる。
爆風が──山頂に吹き荒れた。
煙が辺りに立ち込める──
「ッ……!」
戦いの行く末を見守っていたアルカは必死に踏ん張り、砂利が跳ぶ中腕で顔を守る。
間もなく、爆炎の中、佇む両者のポケモンが見える──
「……ふぃ、ふぃるふぃーッ!!」
肩で息こそしているものの──しっかりと四本の足で立つニンフィア。
「ヴ、ヴルルルルル……!!」
そして、全身がボロボロになり、綺麗だった体毛が焼け焦げているものの──威嚇する事をやめないシャワーズ。
「……リュウグウさん」
「……うむ」
しかし間もなくシャワーズの身体から紫色の靄が抜け出す。
そして、シャワーズは糸が切れた人形のようにぱたり、と倒れ込むのだった。
「この勝負……勝者、キャプテン代理・メグルと……ニンフィアッ!!」
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