続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「ふぃ、るふぃ……!!」
アヤシシ、サニゴーン、ジャローダが再度展開した”ひかりのかべ”。
だが、それはいとも容易くあっさりと爆風を前に打ち砕かれた。
否、もしも展開されていなければポケモン達は皆、あのオオワザを前に消し飛ばされていた。
だが──
「ふぃー……!」
倒れ伏せる仲間達。
爆風で散り散りになり、何処へ行ったかも分からない仲間達。
ただ一匹、ニンフィアだけが息も絶え絶えに立ち上がろうとしていた。
しかし。
「おとろし」
オオワザの反動など一切感じさせないオトロシアスは──ニンフィアの眼前に迫りくる。
「ふぃー……ッッッ!!」
だが全身の毛を逆立て、決してニンフィアは引かない。
仲間達を守る為に。何より──
「おとろし あな おとろし」
「に”-ッッッ!!」
──愛すべき主人がきっと、この窮地を救ってくれると信じているからだ。
※※※
「今日の佳き日に私共は──めぶきのおやしろの大御前で結婚式を挙げました」
マーニャでの戦いから数年。
サイゴク地方に帰ってきた二人の英雄の間には、穏やかな日々が流れていた。
「今より後は、夫婦として──苦楽を共にすることを誓います」
そして、二人の想いの結実は多くの人々の祝福によって見届けられる。
異界からやってきた青年・メグル。
彼はこの日、黒の着物に身を包んでいた。
隣には──穢れ一つない白無垢に身を包んだ生涯の伴侶・アルカの姿があった。
それを見守るのはサイゴクのキャプテン達。
更に、何故か引き寄せられたかのようにサイゴク中からヌシポケモン達が集ってくるのだった。
「本日は私達の結婚式を、キャプテンとヌシ様に見届けて頂き、光栄です。きっと──今日という日を二度と忘れないと思います」
神前式は滞りなく終わる。花婿と花嫁は手を取り合い──今や家族とも言えるキャプテン達の元へと向かうのだった。
「メグルさんッ、アルカさんッ!! 結婚おめでとうッスーッ!!」
「うっうっうっ、ワタシ……泣いちゃったわ……年を取ると涙脆くなっちゃってネ……」
「ハズシさん泣きすぎッスよ、化粧全部落ちてるッス」
「アルカ様ー。本日はとてもとても綺麗、なのですよー♪」
「そ、そうかな……似合ってるか、少し心配だったんだけど」
「似合ってるに決まってんだろ?」
白無垢を着た自慢の花嫁に──花婿は笑いかけた。
「……アルカ。今まで見てきた中で一番綺麗だぜ」
「ッ……えへへへへへ……そうかな……そうだと、良いな……」
キャプテンにヌシポケモン達を交えた宴会は夜遅くまで続いた。
そして──すっかり彼らが酒に酔って寝静まった頃。
白無垢を脱ぎ、着物姿になったアルカはメグルの隣で月を見上げる。
足元ではニンフィアが丸くなっていた。
「ね、メグル。ボク……こんなに幸せで良いのかな」
「……急にどうした?」
「不安になっちゃうんだ。こんなに、幸せで幸せで……大事な人が、大事なポケモン達が一緒にいて……結ばれて」
「この数年間、本当に何にもなかったからな……」
「うん」
穏やかな日々だった、とメグルは回想する。
サイゴク全土を巻き込んだ水龍との決戦、そして遠い異国・マーニャで起きた激闘の日々。
だが、それが終わってしまえば、本当に何も無かったのだ。
当然のように二人は結ばれた。
分かっていた事だ。今更、互い以外の相手など考えられない。
「帰ってくるなり”結婚しようか”だなんて。もっとロマンチックにプロポーズされると思ってたんだけどね? ボク」
「わりぃ……サイゴクに戻ってきたら安心しちまって」
「……にひひ。でも、分かってた事だもんね?」
オージュエルの破片が埋められた指輪をアルカは見せつける。
メグルも、同じものを月光に翳した。
これこそが──決して離れぬ二人の絆の証だ。
多幸感でどうにかなってしまいそうな中、アルカはメグルに身を預けた。
「……どうした?」
「んー? 此処まで本当に色々あったけど……君にお礼を言わないといけない事があって」
「何だよ、今更……お礼なら俺だって言わなきゃいけないこと、沢山あるっての」
「きっと君が思ってるのとはちょっと違うっていうかさ──」
月に手を翳す。
曇り一つない空。
何もかも満ち足りた中、アルカはふにゃりと笑んで言った。
「あの日。あの時。……ボクを見つけてくれて、ありがとう」
※※※
メグルが目を覚ました時。彼は──空の上に投げ出されていた。
あまりの衝撃で意識が飛んでいたのだ。だが、寝ている場合ではないと気付く。
「アルカ……ッ!!」
「ッ……」
オトシドリもクワガノンも、あの爆風で吹き飛ばされた。遠くを舞っているのが分かる。
メグルは爆風でもみくちゃにされる中、必死に伴侶へ手を伸ばす。
「メグ、ル──ッ!!」
アルカも必死に手を伸ばす。
爆圧で巻き起こった大嵐に身をゆだねる中、ただ二人は──互いに向かって手を伸ばす。
(届かない、届かない!! こんなに近くに見えるのに──ッ!!)
だが、それでもメグルは決して諦めはしない。
アルカへ手を伸ばし──伸ばし、指を何度も掴もうとする。
「メグルッ!! このままじゃ、ボク達真っ逆さまだ!! オトシドリもクワガノンも──ッ!!」
「だとしても──絶対に離れねえッ!!」
メグルは頭上を見上げた。
オトシドリもクワガノンも風の中態勢を立て直すので精一杯。おまけにあまりにも距離が離れすぎている。
「アルカッ!! オマエが何処に行こうが見つけてやるッ!! お前が何処に行こうが、たとえ生まれ変わろうがッ!! 俺がまた見つけ出すッ!!」
「ッ……メグル……!!」
「絶対に見つけ出して、そしてまた──巡り遭ってやるッ!! 絶対に、だッ!!」
メグルはアルカの指を握る。そして、手繰るようにして手を引き寄せた。
その時。
──吹き荒れる。暖かな盛夏の熱風が。
──吹き荒ぶ。激しい厳冬の凍風が。
空で手を繋いだ二人を守るかのように、交じり合う。
「ッ何だ!?」
二人の身体はふわりと浮いた。
そして、彼らを受け止めるようにして突如、それは現れる。
「トブルルルルルルルルルーッッッ!!」
ひんやりとした甲殻の感触。
全身を氷の鎧に包んだ、人二人を乗せても有り余る程に巨大な身体。
そして、天を突き上げるかのような巨大な角。
見間違うはずもない。
「ブリ、ザベオ……!?」
「トブルルルーッ!!」
思わずメグルはその名を呼ぶ。
かつて、南方の地・マーニャで巡り合い、そして別れた伝説の闘神。
それが今、サイゴクの地に現れ、自分を助けた事にメグルは驚きを隠せなかった。
そしてブリザベオが居るということは──
「ガタララララララララッ!!」
──全身を溶岩の鎧に身を包み、二本の巨大な鋏角を持つ甲虫の王。
対を成す盛夏の化身・ヴォルカニド。
「お前ら……ッ!!」
「来て、くれたんだ……!!」
「だけど、何でマーニャの闘神が此処に──!?」
二匹はかつてのように声を発することは無かった。
彼らの人格を成していた伝説の戦士の魂は、既に天に召されているからだ。
今此処にあるのは、マーニャを救った英雄の危機に馳せ参じた闘神。
以前、星狩の王を倒す為に戦ってくれたメグルとアルカへ恩を返すべく、南の地より吹いた救世の風だ。
「ストォォーック!!」
「ッシャーッッッ!!」
そして、オトシドリとクワガノンも闘神たちに追いつくようにして横づけする。
いずれにせよ、オトロシアスの進撃は止まってなどいない。
遠巻きに見える強大な敵を目指すべく、アルカは叫ぶ。
「メグル……皆を助けに行こう!! ポケモン達を!!」
「ああ。反撃開始だッ!!」
※※※
「着いたか」
紫色の結晶が生えた洞穴の前でリュウグウは呟く。
此処まで共に来て野生のポケモンやオトロシアスの召喚した傀儡を追い払ってくれたシャワーズに向き直ると、しゃがみ込み頭を撫でた。
「ぷるる?」
「……オヌシは此処で待ってなさい」
「ぷる! ぷるるー……!」
「此処から先は生者にとっては猛毒じゃ」
また置いていくの?
そう言わんばかりにシャワーズはリュウグウの足を噛んででも引き留めようとする。
だが、その顎は摺り抜けてしまった。
リュウグウはもう、この世の人間ではないからだ。
「ぷるる……」
「シャワーズよ。ワシは嬉しかった。もう一度、オヌシと会えて……もう一度、オヌシと戦えて」
「……ぷるるる」
「誰にも見せた事の無かった奥の手!! メグル君に見せることが出来て良かった……そして正々堂々と打ち破られた。もう悔いなど無い!」
「……ぷる」
「オヌシはメグル君と共に、立派にヌシとしての役目を果たしなさい」
そう言い残し、リュウグウは一人、洞穴へと入っていった。
この先は霊脈から放たれる瘴気が濃い。もしも生者が足を踏み入れれば、それほど長くない時間で亡者となってしまう。
故にリュウグウはメグル達を呼ばなかった。
この先はオトロシアスの力の源たる霊脈の根源へと繋がっている。
そこへと一歩、また一歩と歩を進める。
足が軽い。
生者の頃とは違い、老いも何も感じない。
リュウグウは程なくして──紫色に光り輝く霊脈の根源へとたどり着いた。
本来ならば決して誰も立ち入ることができない場所。
だが、オトロシアスの顕現で地形が変わったからか、その入り口が露わになっていた。
リュウグウは手を伸ばす。そして──オトロシアスへと直接対話を試みる。
「──オトロシアスよ。止まれ。それ以上、生者の領域を侵してはならぬ。オヌシの縄張りを侵すものはもう居らん」
間もなくして返事が返ってくる。
それは言葉ではなく、直接意味を成してリュウグウに響く。
「──それは出来ない。……縄張りを侵す者、神域を侵す者、必ず逃しはしない」
「その為に今生きているサイゴクの命を犠牲にするか」
「知れたこと。全ての魂は我に帰る。ただそれだけのことだ」
「何という勝手な……!!」
「それに、縄張りを侵す者はまだいる。異界から来た、二つの命。決して逃しはしない」
「異界から──まさか、メグル君とアルカ君か!?」
「然り」
オトロシアスの返答にリュウグウは歯がゆくなった。
「あの二人はサイゴクを救った英雄だぞッ!!」
「知れたこと。我はサイゴクのヌシ。異界の異物を全て排除する」
「ッ……出自など関係無い。サイゴクの為に尽くし、戦ってくれた命を……排除するなどと!!」
「問答は無用。所詮、オマエも我の糧。大人しく、再度我の中に帰るが良い」
リュウグウは──掌に紫色のモンスターボールを生成する。
その中から繰り出したのはラグラージだ。
「ならば実力行使!! ラグラージ──ッ!!」
しかし。
現れたラグラージは、リュウグウの指示を聞く前に消え失せてしまうのだった。
(や、やはりだめか……!! 所詮、仮初のポケモン……!! 全てはオトロシアスから借り受けた力、それではオトロシアスを止めることなど出来はせんか……!!)
リュウグウは膝を突く。
死者の力では、死者を全て支配するオトロシアスは止められない。
今の彼はオトロシアスに首輪を付けられた飼い犬も同然だ。
噛みつくことすら出来はしない。
情けなさに打ちひしがれながら、リュウグウは己が消えるのを待つしかない──はずだった。
「ぷるるー!」
「……ッ」
リュウグウは振り向いた。
自分を呼ぶ声。
そこに立っていたのは──シャワーズだった。
「な、何故。何故来たシャワーズ!!」
「ぷる……るるるるー!!」
震える足で、シャワーズは一歩。また一歩とリュウグウに近付く。
瘴気は確実に彼女を蝕んでいた。
あんなに綺麗だった白い鬣は紫に侵され、全身は赤く罅割れている。
だが、それでも。それでも彼女は──リュウグウに寄り添うように歩いていく。
「ダメだ、死んでしまう……死んでしまうぞシャワーズ……」
「ぷるるるるるー」
彼女は首を横に振る。
だがリュウグウの記憶に残るのは、変わり果てた先代のヌシの姿だった。
大嵐の中、タマゴを守り切って命を落とした先代の遺骸。
それはずっと、リュウグウにとって心残りだった。
「悔いなど無い? あんなのは大嘘だッ……!!」
「ぷる?」
「何も残せなかった……ッ!! いや……悔いしか残らぬ生涯だった。若き者に全てを背負わせ、先に逝ってしまった。何より守れなかった!! オヌシの母も、そしてオヌシも……結局ワシは……!!」
「ぷるるるるるー」
「ッ……」
──大丈夫だよ、おじいちゃん。私も一緒にいるからね。
リュウグウは──初めて、彼女の声が聴こえた気がした。
霊脈の根源。生と死が入り混じる場所。
そんな特殊な場所故に、種族の差を超えて──彼女の声をリュウグウは真の意味で理解した。
「……浪の下にも都の候ぞ」
覚悟を決めたようにリュウグウは呟く。
「ならば……地脈の底にも極楽浄土はあるのかのう、シャワーズよ」
「ぷるるるー♪」
「今度は共に行こうぞ──」
シャワーズは最期の力を振り絞る。
リュウグウの声と共に。
「オトロシアスよッ!! これがヌシの生き様と知るがよいッ!!」
「ぷるるるるるーッ!!」
「──”むげんほうよう”ッ!!」
──地脈を一筋の水柱が貫いた。
エネルギーは爆ぜ、決壊する。
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