続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
極光がブリザベオから放たれ、オトロシアスは面食らったようだった。
暗闇の化身たる彼にとって、ギガオーライズの波動はあまりにも眩しすぎる。
「お──お と ろ し」
もう見えない右目から稲光を迸らせるメグル。
そして同じく、右目から稲光を放つニンフィア。
ふたりの意識は最大レベルにまで同調する。
「──オオワザ、”しんぴのめぶき”ッ!!」
「ふぃーッッッ!!」
最後のひと踏ん張り。
ニンフィアの背中から生えたリボンが巨大な羽根のように大きく開く。
そして、癒しの波動が彼女を中心にサイゴク山脈を覆い尽くす勢いで広がっていった。
「グ、グラッシュ……!!」
「コォォォン……!!」
ポケモン達が──息を吹き返す。
体中が活力と生命力に満ち溢れていく。
「皆―ッ!! 一斉攻撃だーッ!!」
次々に立ち上がっていくポケモン達は、再び──オトロシアスに向かっていく。
そして。
彼らは皆同時に、一斉に技を放つ。
それぞれが出せる最大出力を、オトロシアスに見舞っていく。
「ゴギャッ……ゴギャギャギャギャーッッッ」
ただ回復しただけではない。
”しんぴのめぶき”による加護を受けたことで、ポケモン達は皆、自らが出せる限界以上の力を出せるようになっていた。
技の嵐がオトロシアスに襲い掛かった。堪らずオトロシアスは、ヴォルカニドとブリザベオを拘束していた帯を緩めてしまう──
「──っし、今だッ!! ブリザベオ、”アイスエイジブレイク”!!」
「──ヴォルカニド、”プライマルボルケーノ”!!」
”しんぴのめぶき”を受けた事で、再び活力を取り戻した闘神は、オトロシアス目掛けて一気に突っ込む。
太陽の如き火球が、オトロシアスの顔面を直撃し、更に追い打ちをかけるようにして巨大な氷山がオトロシアスの頭上に叩きこまれる。
「カヌヌッ!!」
「アギャァス!!」
そこにさっそうと駆け付けたのは──モトトカゲに跨ったデカヌチャン。
オトロシアスの巨大な腕を駆けのぼり、そしてモトトカゲを踏み台にしたデカヌチャンは思いっきり飛び上がる。
一方、その隣を駆け抜けるのはアブソルだ。
巨大な影の剣を作り上げ、オトロシアス目掛けて撃ち放った。
「ゴギャァッ!?」
眼前に飛んでくる剣。
それをオトロシアスは避けることが出来なかった。
深々と眼球に突き刺さった影の剣を──デカヌチャンが思いっきりハンマーを振り抜いて、更に深々と食い込ませる。
「ゴギャギャギャギャーッッッッ!?」
悲鳴が響き渡ると共に、オトロシアスの眼球を起点にして硝子のような罅が入った。
間もなく眼球は音を立てて砕け散る。
その中に広がっていたのは黒く暗い穴。
その奥に──小さなオトロシアスが、張り付くように鎮座していた。
「お おとろし……ッ!!」
「やっぱりな!! ヨイノマガンと同じ!! 眼球の中に本体が隠れてやがった!!」
創造主と被造物同士、やはり根本的な生態が同じということだろう。
霊脈のエネルギーで作り上げた巨大な身体を、眼球の中に潜む小さな本体が操作していたのである。
しかし、眼球の再生はあまりにも速い。
傷口はどんどん塞がっていく──
「逃がすかよッ!! ニンフィア、これで最後だッ!!」
「ふぃッ!!」
【オトロシアスの じこさいせ──】
「”でんこうせっか”ッ!!」
【──ニンフィアの でんこうせっか!!】
流れ星の如き突貫。
分厚い呪詛の壁が塞がる前に──ニンフィアがオトロシアスの本体に思いっきり頭突きを見舞う。
再生など間に合わせはしない。”でんこうせっか”は相手よりも速く攻撃出来る。
ポケモン廃人の常識だ。
脆弱極まりない本体に攻撃を受けたオトロシアスは──がくり、と倒れ込むのだった。
「お、おとろ し──」
オトロシアスの100メートルを超す巨大な外装が崩れ落ちていく。
それと共に、崩壊していた空の上の空間も元の通りに戻っていく。
「消えていく……オトロシアスが」
「……ああ」
ヴォルカニドとブリザベオは急ぎ、オトロシアスの頭が落ちた場所へと向かう。
「ふぃーッ!!」
「お、おとろし……」
「ッ……流石にもう、暴れる力は残ってねーみたいだな」
そうして後に残るのは──元の姿そのままのオトロシアス。
それでも4メートル程はある巨体ではあるのだが、コアにダメージを受けたからか、黒い靄をずっと吐き出し続けている。
そして靄は空へと昇り、やがて消えていくのだった。
「あいつが溜め込み続けた魂が、吐き出されてるのか」
「お おとろ し──ッ」
ぴくぴくと手足を動かそうとするオトロシアス。
だが、霊脈からの力の供給を絶たれ、更に糧としていた魂を吐き出してしまった今、もう抵抗する事すらままならないようだった。
「……メグル。どうするの?」
アルカがメグルに問うた。
メグルが答える前に──オトロシアスから、ノイズ混じりの人の声が聞こえてくる。
「ナ ナゼダ……? アレダケ、タメコミツヅケタ、我ノチカラガ……!! ドウシテ……ッ!!」
老若男女、ありとあらゆる人の声を混ぜ合わせたような歪なものだった。
その言葉も声も、どのようにして手に入れたか、メグルはすぐに分かってしまった。
「あの強大な力も、人の言葉も……全部蓄えた魂から手に入れたんだな」
「ヤメロ ヤメロ ヤメロ……コレハ、我ノモノダ!! 絶対ニ、絶対ニ渡サン……ア、アアアア……!!」
「そうやって、何千年もの間……一人で頑張ってきたんだ。ずっと誰かから奪って、同族からも奪い尽くして、溜め込み切れなくなって……こうなっちまったんだな」
メグルは腰を落とし、オトロシアスに目を合わせる。
サイゴクに住まう命を踏み荒らし、多くの魂を啜ってきた強大な怪異。
だが、結局の所、その正体は──この世界では然程珍しくはない、何処にでも居るゴーストポケモン。
オトロシアスもまた、元は只のポケモンだったのだ、とメグルは思わせる。
ただ──誰もオトロシアスを止めようとしなかった。止められなかった。それだけの話なのだ。
「……でも、それじゃあいつか皆居なくなっちゃうよ。奪ってるだけじゃ、いつか破綻しちゃうよ」
「間違ッテイタノカ、我ガ……!! 奪ワネバ生キテイケヌ我ラノ在リ方ガ!! ドウシテ……!! オマエ達、異界ノ民ナゾニ……!!」
「奪わないと生きていけないのは誰だって同じだ」
その在り方を──メグルは決して否定など出来はしない。
今までいろんなポケモンと、いろんな人と出会い、時に戦ってきたメグルには、オトロシアスを否定する事が出来ない。
「人もポケモンも、常に誰かから何かを奪って、貰って生きてる。他の命を殺して食わなきゃ生きていけねえし、誰かに助けられなきゃ生きていけない。でも、その分だけ、また他の誰かに与えて、託して──そうやって世界は回ってるんだ」
メグルは、そっとオトロシアスの頭に手をやった。
「どんなに強いヤツだって、どんなに大事な人だって……死ぬときは死ぬ。でも、必ず──何かを残していく。生態系も……人と人も、人とポケモンも──そうやって後に残されて、託された奴らで回ってる」
それはきっと、オトロシアスも例外ではない──とメグルは考える。
「お前は魂を喰らい、同族も喰らい尽くして──でも、その先に霊脈って形で色んなものを残した。霊脈の所為で死んだ命もある。だけど──霊脈があったから、今生きてる命もある」
「ブルトゥ!!」
傍に寄ってきたアヤシシが誇らしげに吼えた。
そして──メグルとアルカの後ろには──これまで仲間にしてきたポケモン達が立っていた。
「俺も、お前も、皆同じなんだ。時にはこうやってぶつかり合う時もある。やり過ぎちまう事もある。そんな時は……また俺達がオマエを止めてやる」
「ギ、ギィ……ッ」
「だから……オマエも一緒に、この世界で皆と生きていく方法を、これから探していこう」
メグルは──モンスターボールをオトロシアスの頭に翳す。
間もなく、霊脈の根源は大人しくボールへ吸い込まれていくのだった。
いつの間にか空は、青く晴れ渡っていた。
ボールを握り締めるメグルに──アルカが話しかける。
「……捕まえたんだね。オトロシアスを」
「ああ。霊脈がこれでどうなるのかは分からない。だけど──先ずは様子見だ」
メグルは振り返った。
ポケモン達が──彼を祝うように、一斉に騒ぎ出す。
こんなに手持ちを出すことなど今まであっただろうか、と思い返しながら──彼は今までの旅路を懐古した。
長く、険しく、だが──どれほど素晴らしい旅だっただろうか、と。
「メグル。見てよ──ボク達、こんなに沢山の仲間と旅してたんだね」
アルカの言葉に、メグルは肯首する。
「……ああ。やっぱりポケモンって……最高だな」
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