続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
──あれから、数か月が経った。
紫色の結晶はすっかりサイゴクから消え去り、関係各所は復旧に勤しんでいた。
町も、自然も、元の形を取り戻す。
唯一懸念されていたサイゴク山脈を中心とした生態系への影響だが──霊脈の力が弱まったものの、直ちに認められるような悪い兆候は確認されていない。
しかし今後も継続的に監視を行い、協議を行う必要がある──
「──というのが、キャプテン達の見解であり総意よ。良いかしら? ……調査局・局長サマ?」
「その局長サマってのはやめてくれ……むず痒いからさ」
この生態系の調査を行う事になったのが──サイゴク地方が新たに設立した専門委員会”調査局”。
そこに就任する事になったのがメグルであった。
というのも、多忙なキャプテンとは別の立場からサイゴクの自然を監視したり、ポケモンに関する事件を解決する機関が必要だ、と提言したのは他でもないメグルであり、彼がサイゴクに帰ってきた直後から推し進めてきた仕事だったのである。
実質的な組織の設立者であり、オトロシアスの件は勿論、テング団やホウオウにルギア、マイミュ、そしてマーニャの闘神と様々なポケモンに関わってきたメグルが局長に就任するのは誰も異論が無かった。
(ガラじゃねーんだよな、組織の長とか……言い出しっぺは俺だけどさ)
とはいえ、まだまだ人員も足りず──というより殆ど居らず、局長であるメグル自らが現場に足を運ぶことが多い。
つまるところ、今までと何も変わらないということである。強いて言うならばサイゴクの公式機関の為、公費で活動の経費が落ちる点くらいだ。
「それと、オトロシアスの様子はどうだ? ヒメノ、ノオト」
「はいー♪ おやしろで祀っているのですよ。今の所、大人しくしているのですよー♪」
「うちのヌシ様から霊魂のエネルギーを必要なだけ貰って、それで満足してるみてーッス。自分が脅かされる環境じゃねーから、すっかり安心して居ついちまったッス」
肝心のオトロシアスだが、専用のおやしろを新たにイッコンに作り、そこに居座らせている。
すっかり毒気が抜けたように大人しくなってしまっており、今回の事件の真相を知らぬ町の住民からは「霊脈に居たありがたいゴーストポケモン」くらいに思われているらしい。
それこそがメグルの狙いだ。オトロシアスは不滅のゴーストポケモン。今後も共存していくしかない。ならば──出来るだけ無害化した上で人やポケモンに受け入れられる道を探すしかない。
荒ぶる神は丁重に奉ることで鎮めることが出来る──という認識は、メグルの居た日本でも、このサイゴクでも変わらないのだ。
「……なら良かった。俺も今度そっちに行くよ」
「ダメッスよ。今は、奥さんの方が大事っしょ?」
「でも、俺が捕まえたポケモンだし」
「はいはい、今は一秒でも長く居てあげるべきなんだから、メグル君」
ユイの声に押し切られるように──メグルは苦笑いした。
「……分かった。オトロシアスはそっちに任せるよ」
「ハイっす!」
キャプテン達の報告を聞いたメグルは、パソコンの画面を閉じる。
調査局の場所は──かつて、リュウグウがキャプテンとして活動していた頃の拠点を、地元の人の厚意で譲り受けた。自宅のすぐ近くだ。
今日の仕事を終えたメグルは、愛する人が待つ家へと帰るのだった。
「ただいま」
「おかえりーっ!」
扉が開くと、中から出てきたのは、すっかりお腹が大きくなったアルカだった。夕食の匂いを嗅いでか、ニンフィアが勝手にボールから出てくる。
「ふぃーっ!」
「ニンフィア! 元気いっぱいだね」
「ふぃーるふぃっ」
「……おい、無理して飯作らなくて良いって言ったじゃねーか」
「どうせしんどくなるなら作れるうちに作っておきたいんだ」
「俺にやらせろよ。今日はどっちかってーと暇だったんだぜ」
「でもまた、調査でしょ?」
「まーな。でも、予定日近くなったら無理してでも仕事減らすわ」
「心配症ー」
「心配するに決まってんだろ」
むくれるアルカをわしゃわしゃと撫でる。
そしてメグルは──オトロシアスの事件があった当時の事を思い出す。
「今思うと、オマエ……妊娠隠して、あの山登ってただろ」
「ギクッ……もしオトロシアスが大暴れしたら、赤ちゃんどころじゃなかったでしょ!? 仕方なかったんだよ!!」
「ったく……知ってたら絶対行かさなかったのに」
「そうなるから言わなかったの。母子ともに、今の所健康ですからっ」
「よく言うぜ……こないだは悪阻でゲロゲロ吐いてたのに」
「今日は調子が良いから良いんだよっ。あ、てか、それくらいボクがやるよ」
「やーだね、妊婦さんは大人しくしてろ」
「……仕事で疲れてるんじゃないの?」
「暇だったって言っただろー」
大ウソだ。
キャプテンへの報告は勿論だが、各地のフィールドワーク、そしてオトロシアスが消えた事による影響の調査。
更に活性化し始めた野生ポケモンへの対処、および対抗策の構築。
メグルのやるべき事は山のように積もっている。
だが、それでも──それが自分のやるべき事だとメグルは自身に言い聞かせる。
「セイランにはキャプテンも──ヌシポケモンも居ねーんだ。俺がやるっきゃねーだろ」
あの戦いの後、元に戻らなかったものが1つだけある。
それは、シャワーズだ。
結局、メグル達がどんなに探してもシャワーズは見つからなかった。
そして彼女が帰ってくることも無かったのだ。
リュウグウが彼女を「連れて行く」はずがないと信じつつも、何かあった事は確実だった。
「ふぃー」
「悪い、俺達が……だったな、ニンフィア」
「ねえ、メグル。やっぱりシャワーズは……」
「……帰ってくるよ。いつか」
それでもメグルは信じる。信じるしかなかった。
生存が絶望視される中でも、いつかヌシは帰ってくる──と信じた。
「……おやしろに行ってくる」
だからメグルは、度々おやしろに足を運んだ。
彼女が帰ってきたときの為に綺麗なまま出迎える為、綺麗にしていた。
「ボクも行く」
「ダメだ、大人しくしてろ」
「たまには運動しなきゃ。足がむくれちゃう」
「……激しく動くのは厳禁な」
「はーいっ」
おやしろまでは険しい石段で繋がっている。
妊婦さんには厳しいのでは、とメグルは思っていたが──アルカにとってはそうでもなかったらしい。
二人、そしてニンフィアは──夕陽が差すおやしろへと登っていく。
間もなく彼らをスイクンの像が出迎える。新しく再建された小さなおやしろが二人の前に立っていた。
メグルは振り返った。海岸線に、黄昏の残光が反射していた。
「ウソみたいだよな。あんなことがあったなんてな」
「社会も、自然も、ボク達が思ってる以上にずっと強いんだよ。生きる力ってのは、それだけ凄いんだ」
お腹の中に宿る新しい命を感じながら──アルカが言った。
「……そうだな」
メグルは頷く。
いつかここにヌシが帰ってくる。
そんな日を夢見て──おやしろを水拭きし、お供え物を交換する。
そんな時、ニンフィアが甲高く鳴いた。
「どうした?」
「ふぃー!」
くいくい、とアルカが扉で閉じたおやしろをリボンで叩く。
「……おやしろの中に何か居るのか?」
「ふぃっ!!」
「……ねえ、野生ポケモン?」
「……アルカ、下がってろ。俺達でやる」
「待って。──カブトプス!」
「キュルルルルゥ!」
ボールを投げるアルカ。飛び出したカブトプスも主を守るべく臨戦態勢だ。
「……メグルだけにやらせないよ。二人で行くよ」
「ったく、お転婆すぎるだろ……カブトプス、頼むぞ」
「キュルッ」
意を決し、メグルは鍵を開け──おやしろの扉を開く。
その中にあったのは──
「タマゴ……?」
──当たり前のようにそこに鎮座していたポケモンのタマゴだった。
メグルは脱力してしまった。
ニンフィアが騒ぐので凶暴な野生ポケモンかと思ったのだ。しかし、そうなると別の疑問が出てくる。
そもそもこのタマゴは何なのか、だ。
「んだよ、ビックリさせやがって」
「ふぃー……」
「だけど、誰だ? 誰のタマゴなんだ? おやしろはカギを閉めてたはずなのに」
タマゴを取って抱きかかえるメグルを見て──アルカが思い出したように言った。
「ポケモンのタマゴって……ある日突然、そこにポンと置かれてる時があるんだって。そのタマゴが何処から来たのか……誰も生物学的に説明できないんだ」
「産んだってわけじゃねえのに、だろ?」
「うん……」
「ふぃ!? ふぃ!? ふぃーッ!?」
その時だった。
ニンフィアが毛を逆立てた。
「えっ」
「えっ」
二人が目を丸くする間もなく、タマゴにヒビが入る。
そして──眩い光が迸った。
中から飛び出したのは──
「──ぷっきゅるるるるるる!」
──命は巡る。世界もまた、そうして廻る。
だが、一先ずこの物語の幕を閉じるとしよう──知らん地方に転移した、とあるポケモン廃人の物語を。
──「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」(完)
──次の冒険でお会いしましょう
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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