続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第12話:滾る炎

 ※※※

 

 

 

「──助けてくれて、ありがとう、ミア」

「い、いえっ。それより心配したんですよ。部屋に居ないから……」

「でもこれで終わったわけじゃないんだよね。残りのヌシを倒さなきゃ、暴動は収まらないかも──うげ」

 

 ニュースサイトを確認していたアルカが声を上げた。

 

「ねえ、これ……ヤバくない?」

 

 アルカがスマホロトムの画面をメグル達に見せる。

 ライブ中継の映像で、火山の火口から煙が噴き出している。

 

「……何だコレ? 何処だ?」

「アグニード火山……ヴァリカン島の北東部にある大きな活火山です」

「はぁ!? ちょっと待って、じゃあこれって……噴火するってことか!?」

「幸い、此処からアグニード火山は遠く離れてますが……」

 

 アグニード火山はマーニャ地方に多数存在する活火山の一つだ。

 過去に何度も大規模な噴火を起こしており、死者も多数出している。

 最も最近の噴火は7年前で、その際は火山周辺が立ち入り禁止となり、空港は封鎖。住民は避難を強いられることになった。

 間もなく──答え合わせをするかのように、町中にサイレンが鳴り響き、放送が流れる。

 

『現在、野生ポケモンの大規模な暴走が確認されております。皆さまは決して興奮した野生ポケモンに近付かず、ワームホール公団職員が到着するまで待機してください』

 

『また、アグニード火山で活動が確認されております。火山周辺12km圏内を立ち入り禁止区域に指定しております。決して近付かないようにしてください』

 

「……こ、この世の終わりだ……!!」

「悪い事の前触れだ……!! 神様のお怒りだ……!!」

 

 住民たちが不安な声を上げる。

 これだけ災害レベルのトラブルが重なれば無理もない。

 しかし、周囲にはまだ野生ポケモン達が跳梁跋扈しており、パニックになれば彼らに襲われるような状態だ。

 辺りからはメキメキ、と家屋が壊れる音が聞こえてくる。

 人の足音、悲鳴が連続して聞こえてくる。

 

「カイロスだけじゃねえ、他のヌシポケモンを倒さねえと……!!」

「うッ……!!」

「どうした、ミア……?」

 

 ミアが突然、頭を抑えて蹲った。立っていられないのか、膝を突いている。

 メグルが駆け寄るが、とても顔色が悪そうだった。

 

「……い、いえ、何でも、ありません」

「頭痛いの!? 休んでた方が良くない……!?」

「ち、違う……これは……!!」

 

 ミアの目は、何かを確信したかのようだった。

 メグル達には分からないが、彼女には──自身に起きた異変の原因が分かっているようだった。

 

 

 

 バリバリバリバリバリ──!!

 

 

 

 ──大きなプロペラ音が鳴り響いた。

 何事かと空を見上げると、巨大な飛行艇が町の上空をゆっくりと通り過ぎていく。

 機体には”WH”と大きなロゴマークが刻まれていた。

 

「救援の飛行艇か!」

「待って。あのデカいの、火山の方に向かってる……!」

 

 轟々と大きな音を立てながら飛行艇は山岳地帯の方へと通り過ぎていく。

 そして、後から二つ、小さな機体が続いていき、町の何処かに着陸するのが見えた。

 

『ワームホール公団から公式な通達が入りました。現在、マーニャ各地に公団の職員や協力者のトレーナーを派遣しております。皆さま落ち着いて、パニックにならず、命を守る行動をお願いいたします』

 

 メグルは胸をなでおろす。

 流石に自分たちだけでは、この数のヌシポケモンは手に余る。

 

「良かった……! これで、ヌシ退治も何とかなりそうだ」

「……」

「……ミア? どうした?」

 

 火山の方へ飛んで行く大きな機体を──ミアはずっと見つめている。呼吸をすることも忘れているようだった。

 瞳孔は開いており、獲物を──否、不倶戴天の仇を見つけたかのようだった。

 ぽつり、と彼女が口を開く。

 

 

 

「……見つけた」

 

 

 

 メグルすら聞いた事の無いような、恐ろしく低く、そして冷徹な声だった。

 

「ミア?」

「……ごめんなさい、メグルさん。私、少し急用が出来たので」

 

 走り出すミアの腕を──思わずメグルは掴んだ。

 彼女の声には、あまりにも決まりきった覚悟を感じ取ったからである。

 

「待てよミア。お前、どうしたんだよ。いきなり血相変えて。頭痛かったんじゃねえのか!?」

「……ごめんなさい」

「謝るな!! 俺達ゃ、同じ島で戦った戦友だって言ったよな。遠慮は要らねえんだよ」

「ッ……」

「俺に……まだ、言ってねえことがあるんじゃねえか」

「私は」

 

 メグルの手を、彼女は無理矢理解く。

 

「見つけたんです。終わらせなきゃ、いけないものを」

「ッ……!?」

「ね、ねえ、ミアちゃん、それって」

 

 びちゃびちゃびちゃ、と水音が響く。

 彼女の衣服からそれは漏れ出していた。

 街灯に照らされて露になるゲル状の物質。

 明らかに人の体液のそれとは異なる何かは──次第に凝固し、彼女を守るようにしてその姿を現した。

 

 

 

「黒い、リザードン……!?」

「ごめんなさい、メグルさん。私また……ウソを吐きました」

「バギュオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

【タイプ:ゼノ<モデルリザードン> ミッシングポケモン タイプ:炎/ドラゴン】

 

 

 

 思わずメグル達は後ずさる。

 全長3メートルはあろうかという漆黒の火竜が咆哮する。

 その全身は罅割れており、そこからはボコボコとマグマのように体液が沸き立っていた。

 尻尾の先に燃える炎は青白く、振り回すだけで辺りに火の粉を撒き散らす。

 かのミッシング・アイランドで作りだされた人造ポケモン、人の罪の象徴がそこには両足を付けていた。

 

「ゼノは……置いてきたんじゃなかったのか!?」

「セレクト団を滅ぼす為なら……この子も一緒です。私はこの子で、この子は私だから」

「どういうこと……ボク、意味が分からないんだけど……! 何でミアちゃんがそこまでするの!?」

 

 アルカもタイプ:ゼノの恐ろしさは知っていた。

 別の組織が作りだしたコピーですら伝説の三闘獣を足止めする力があったのに、ミッシング・アイランドの個体は更にそれを上回る強さであったことを。

 だが、この場ではアルカだけが知らない。ミアとタイプ:ゼノの間にある強力な繋がりの由縁を。

 

「話が早過ぎるよ、ボクにも分かるように説明してよ!! 何で……!? そのポケモンで、何をするつもりなの!?」

「アルカ、それは──」

「良いんです、メグルさん。どうせ、誰も私達を止められない」

「……!」

「……もちろん、メグルさんでも」

 

 冷淡な口調でミアは言ってのける。

 当然だ、と同意するようにタイプ:ゼノが空中に青い炎を噴き出した。

 この火竜の姿はゼノの3つの姿の中でも、最も危険だ。オーライズやメガシンカ無しで勝てる相手ではない、とメグルは直感していた。

 ニンフィアも威嚇こそしているが、襲い掛かる様子が無いのはその為だ。

 ばさっ、と大きな翼がはためく。ミアが慣れた手つきでその背中に飛び乗った。

 

 

 

「さよなら。メグルさん、アルカさん」

「お、おい、やめろ──!!」

 

 

 

 黒いリザードンはすさまじい勢いで空へ飛び立つ。

 飛ぶ手段が無い二人には、ミアを追いかけることなど叶わなかった。

 

「ねえ、どういうこと!? メグル……ボクに、隠してたことがあるでしょ!? あの島に行ったのはメグルも同じじゃん、何か知ってるの!?」

「……アルカ」

「何さ!?」

「ミアは……クローン人間だ。ある研究員が……亡くなった娘を再現しようとして作ったのがミアなんだ」

「ッ……!!」

 

 耐えかね、メグルは彼女の秘密を口走る。

 ミアは父の死に際の告白により──”どこにでも居る普通の女の子”から”造られたクローン”になった。

 尊敬していた親父は悪魔の科学者で、自分は作品。今まで自分で掴んできたと思われていたものは全て「調整」された産物だったと知った彼女の絶望は、計り知れない。

 

「待ってよ。クローン人間も、クローンポケモンも、倫理的観点から国際的に禁止されてるよね……!? ボク、授業で習ったよ……!?」

「アルカ。倫理もへったくれもねえから、”悪魔の科学者”の集団なんだよ。自分がそんな集団の実験で生まれたって──親父の死に際に知らされたミアが……どれだけ悩んだか俺にも分かんねえけど」

「じゃあ、ミアちゃんがミッシング・アイランドに行ったのって」

「自分のルーツを知るため──そして、島そのものの息の根を止める為だ」

 

 あの島でミアは自分の生まれだけではなく、その過程で犠牲になった無数の命の痕跡を目の当たりにした。

 ポケモンを、科学を愛する彼女だからこそ──許せない、と強く感じたはずだ。

 だがそれでも、セレクト団はとっくに終わったものだと思っていたからこそ、溜飲を下げていたところはあるのだろう。

 事実、ミッシング・アイランドは爆沈し、二度と浮上することはない。

 サーフェスもルンバの中に閉じ込められて二度と悪さをすることはできない。

 それで終わりのはずだったのだ。

 時が経ち、ミアが──セレクト団が潰えてないことを知るまでは。

 

「待ってよ。何でミアちゃんは火山の方に向かったの……!?」

「ミアは同じ万能細胞で作られたクローンの存在が分かっちまうんだよ。タイプ:ゼノとのつながりが深いのもそのためだ」

「じゃあ、ワームホール公団はクローンの研究をしてて、あの飛行艇にはクローンが乗ってるってこと!?」

「そう言う事だ。ミアの感覚を信じるなら、だけどな」

 

 マーニャにセレクト団の残党が居る。

 ワームホール公団の飛行艇からクローンの気配を感じ取る。

 

「それって無謀だよ!! それであの飛行艇を……ワームホール公団を襲ったら、ミアちゃんは只のテロリストじゃん!!」

 

 飛行艇にクローンが居ることなど、ミアにしか知りようがない。他に証明する手段も無い。

 だからミアはメグル達を此処で突き放した。罪を被るなら自分だけで十分。二人を巻き込む必要はない──と。

 

「ミアの……大馬鹿野郎。頼れよって言ったじゃねえかよ!!」

 

 メグルは拳を握り締める。

 ミアは──何もかもが終わっていないことを察してしまったのだ。

 

「本当は何にも終わってなくって……あいつは結局一人でまた抱えて……!! 俺は……!!」

 

 メグルは──ミアに自分の悩みを吐露したことを後悔した。

 彼女はそれで自分を「共犯者」として巻き込むのを避けたのではないか? と過ってしまった。

 

「ビビってる場合じゃなかった……あいつはもっと、デカい悩みを抱えてた……!! 逃げ帰ろうとしてたのは、俺だけだった……!!」

 

 幾らミアでも、セレクト団を潰せるだけの戦力が無い間は下手な事をしないだろう、とメグルはタカをくくっていたのである。

 しかしそれが間違いだった。なぜなら元々、あの年でミッシング・アイランドを再起動しようとしたバイタリティの持ち主だ。

 タイプ:ゼノさえあれば、あの飛行艇を沈めるくらいは容易い。後は持ち込むだけ。

 

(ヒメノちゃんと言い、ミアと言い、何で俺の周りの女の子はこうもガン決まってるヤツばっかなんだよ!!)

 

「怖がってる場合じゃない……止めなきゃ……ミアを……!!」

「ッ……ボクにも協力させてよ」

「アルカ……! でも、これは──」

「だって、まだ終わってないんでしょ? 何にも……!! ワームホール公団だけじゃない。ミアちゃんだって、まだ間違いを犯してないんでしょ!?」

 

 彼女はメグルの腕を掴む。

 離さない。死地に行くならば自分も同じだ、と言える。

 

「クローンとかそんなの関係ない。ミアちゃんはボクの……友達なんだよっ!! 絶対に止めてみせるっ!!」

「ッ……」

「だってボク達、生まれも育ちもバラバラじゃん!! でも、短い間だったけど3人で色々回るの楽しかったじゃん!!」

「……アルカ」

「ミアは……気が済むかもしれない。だけど、ボクはミアが無謀な事をするのを止めたいって思うの……ヘンかなあ……!?」

「ヘンじゃねえよ。俺だって同じだ。でも俺は……」

 

 怖い。

 彼女を喪うのが怖い。

 だが──それでも見過ごせない。

 

 ──怖かったんじゃないのか? アルカを、皆を喪うのが。

 

 ──うるせーうるせー……ッ!!

 

「……そうだ。喪うのが怖いから、戦うんだ。さよならなんて言わせねえよ、ミア!!」

 

 二人は──豆粒のように小さくなった飛行艇を見つめる。

 

「……で、どうする? 俺達空を飛ぶ手段なんてねぇぞ」

「どうしよ、絶対間に合わないよ……!!」

 

 

 

 ロトロトロト……。

 

 

 

 その時だった。

 スマホロトムの着信が鳴り響く。

 相手はタゴ──キティーの自然保護区の管理人だ。

 電話取ってる場合じゃないんだけどな、と思いつつも通話に応えると──慌ただしい声が飛んでくる。

 

『お、おお、メグルさん!! 無事でしたかもじゃ!?』

「タゴ管理人……!」

『こっちの方でも虫ポケモンが大量発生していて大変なことになっているもじゃ……! そちらはどうですかもじゃ!?』

「……いや、こっちは無事だ。だけど、ちょっと困った事があって。仲間が1人、立ち入り禁止の火山の方に行っちまってな。連れ戻したいんだけど……空を飛ぶアテが無くって」

「ねえメグル。流石に無理だよ。ケララッパじゃ、キティーシティからヴァリカン島まで飛ぶのに何時間かかると思ってんの!?」

「あ、あははは、だよな……悪い、そらとぶタクシーの手も借りたくって」

『……』

「あの、タゴ管理人?」

『お二人には、サイドンの群れを鎮め、更に密猟者まで捕まえて貰った恩がありますもじゃ』

 

 尚、密猟者を捕まえたのは忍者なのでメグル達の功績ではないのだが、余計なことは言わない事にするメグルだった。

 

『かつて伝説の”そらとぶタクシー”と呼ばれたワシにお任せするもじゃ!!』

「伝説の……そらとぶタクシー……!?」

「あ、ネットにある」

「検索はっやぁ!! 秒で見つかったな伝説!!」

「かつてMAXパワー! MAXスピード! で知られた伝説のタクシーがあったんだけど、あんまりにも速度とパワー以外を度外視し過ぎて廃止されたって」

「タクシーにパワー必要か!?」

 

 どこぞの赤い巨人みたいなキャッチコピーにメグルは眉を顰めた。廃止されて当然の理由であった。

 

『フフフフ、久々に腕が鳴るもじゃ……10分もあれば、そっちに着くと思いますもじゃ』

「10分ンンン!? マジで心配になってくるんだけど!?」

「本当に大丈夫なのかなあ……」

 

 しばらくしただろうか。

 流星のように空を駆ける一つの影。

 それは、ばっさばっさと大きく羽ばたきながら、風を巻き起こす。

 黄色い鱗に包まれた二足歩行の巨龍が、他のタクシーと比べても頑強そうな籠を抱えていた。

 その運転席から、ひょっこりとタゴが顔を覗かせる。

 

 

 

 

「ぴーりゅう♪」

「カイリューの”そらとぶタクシー”……お待たせしましたもじゃ!!」

 

 

 

【”伝説の運転手”タゴ】

 

【カイリュー ドラゴンポケモン タイプ:ドラゴン/飛行】

 

【16時間で地球を一周する程の速度を誇る。非常に知能が高く、穏やかな性質。】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──まあ、何だ──悪いのは、君を生みだした奴らで──生まれた君じゃねーよ。

 

 ──だから、あんまり気にすんな……って言われても気休めにもなんねーかもだけど。

 

 ──君ならなれると思う。此処の連中とは違う──優しい科学者に。

 

 

 

 夜風が妙に不快だった。

 煮えたぎるような自分の心に吹きすさぶようで、不愉快で仕方なかった。 

 眼前には高速で火山に向かう飛行艇の姿があった。

 

「メグルさん……私は優しくなんて、ないんです。科学者の夢だって……もう……」

「ばぎゅ……」

「……許せない。赦せるわけがない。あれだけ命を弄んでたやつらが、今も平然とした顔で……命をオモチャにしてる──ゼノ、貴方だって許せないでしょう?」

「ばぎゅおおおおおおおおおおおおおおんッ!!」

「終わらせなきゃ……終わらせなきゃ……私が……!!」

 

 飛行艇の高度は徐々に下がっていく。

 既に視界にはぐらぐらと煮立つアグニード火山の姿が見えていた。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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