続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
ガラル地方のサニーゴは更なる進化を遂げると言われるのは知っていた。
しかし、アルカはどうしてもサニーゴを進化させることに対し気が進まなかった。
進化するとサンゴの殻が無くなってしまうからである。化石愛好家としてはあまりにも惜しかった。
だから家にいる時は常に”かわらずのいし”を持たせていたし、バトルの時も”しんかのきせき”を持たせていた。万が一、バトル中に進化しそうになったら必死で止めていた。
メグルも「俺もゲームで進化させて使った事ねえしなあ……輝石強いし」「アイツが良いなら別に良いんじゃないか?」と宣っていたし、それで良いと思っていた。
そして、サニーゴ自身も「それで良い」と思っていた。大好きな主人に可愛がってもらえるこの姿のままで良い、と思っていた。
だが──主人の危機がまた、迫ろうとしている。
気が付けば、自分の意思は体に起こる変化を受け入れていた。
(うん……サニゴーン。そうだよね。君も同じなんだよね……守られるだけじゃ……イヤ、だもんね)
アルカも、目の前のサニーゴに起こった変化を当然のものとして受け入れる。止める理由など、もう無かった。
すぐさま鞄から技マシンのディスクを取り出したアルカは、それをスマホロトムに読み込ませる。
「サニゴーンッ!! 技マシンで技を入れ替えるよ!! 反撃だ!」
「キュゥオオオオオン!!」
「させませんッ!! ”かえんほうしゃ”ですッ!!」
「邪魔させねえよ!! ニンフィア、”でんこうせっか”!!」
僅かでも良い。
時間を稼ぐため、ニンフィアはゼノに肉薄し、思いっきり頭突きする。
そして、リボンをはためかせると、そのまま何度も何度も何度も叩きつけるのだった。
しかしそれでもさしたるダメージになりはしない。鬱陶しそうにゼノは熱線を辺り一面に向けて薙ぎ払い、サニーゴとアルカを狙う。
「迎え撃って!! ”ハイドロポンプ”!!」
強烈な火炎放射を、サニゴーンの放つ高圧水流が迎え撃ち、そして打ち消す。
炎は水に弱い──この世界ではどうあがいても覆しようがない摂理だ。
「へへっ、どうなる事かと思ったけど、より頼もしくなったじゃねえか……!! アルカ、連携で行くぞ!!」
「OK!! サニゴーンッ!! ”パワージェム”スタンバイ!!」
「ニンフィア、サニゴーンのサポートをするんだッ!! ”てだすけ”!!」
「ふぃッ!!」
ニンフィアのリボンがサニゴーンに妖精の加護を与える。
そして、サニゴーンの身体から極光が次々に放たれていき、ゼノを狙い撃つ。
「ゼノの痛みは……私の痛み……ゼノ、”ひかりのかべ”を展開して……守ってッ!!」
「いッ……マジかよ!!」
ドスン、と大きな脚を踏み鳴らせば障壁が展開され、レーザー光を跳ね返す。
姿があまりにも世界一有名な火竜にそっくりなので忘れていたが、目の前に立つのはタイプ:ゼノ。
ありとあらゆる技を覚えるミュウを目指して作られたクローンポケモンだ。
故に、その技のレパートリーも器用さも、オリジナルのポケモンとは比べ物にならない。
むしろ技の多彩さによるカスタマイズ性の高さこそが、このポケモンの真骨頂と言っても良い。
効果バツグンの攻撃を受けきったゼノは、再び羽根を開くと空に舞い上がり、火球を次々に落としてくるのだった。
鈍重極まりないサニゴーンはそれを受け止めるので精一杯、ニンフィアもフィールドを駆けて逃げ回るしかない。
「気持ち悪いッ……!! まとめて真っ黒になれば良い……ッ!!」
「んにゃろう……お構いなしか!! ”ハイパーボイス”!!」
「ッ……!!」
耳を抑えなければ鼓膜が張り裂ける程の爆音が辺りに響く。
それに驚いたゼノは地上に降りてくるが──今度はニンフィア目掛けて、その巨大な爪を振り上げるのだった。
「──”シャドーボール”!!」
だがそこに、サニゴーンが大量の影の弾幕を張り、ゼノ目掛けて爆撃していく。
炎を噴き出すだけでは抑えきれるはずもない。技では相殺できない程の飽和爆撃だ。
ゼノは羽根を広げて盾のように構えるがそれでも受けきることが出来ず、仰け反ってしまうのだった。
「威力が高い……!! ゼノが受け止められていない……!?」
「サニゴーンのCは145、ゴーストタイプでもトップクラスだ!! このまま押しきるぞ!!」
「ッ……!」
更に横ではニンフィアがリボンを振ってサニゴーンを”てだすけ”している。
ただでさえ強いシャドーボールの絨毯爆撃の威力は更に強まっていく。
地面は抉れ、ゼノは上から叩きつけられる弾幕に抑え込まれ、遂に吹き飛ばされてしまうのだった。
「よしっ、押しきった……!!」
「負ける……? 私と、ゼノが……こんなところで……?」
ミアは酷く狼狽した。
あれからずっと、ゼノを鍛えてきた。
ミッシング・アイランドに居た時よりも、ゼノは強くなっているはずだ。
それが、只のポケモン二匹相手に、此処まで押されている。
同時に──彼女の脳裏には、先程のサザンドラとの戦闘が思い起こされた。
自分が通用すると思っていたものが全部、簡単に跳ね除けられてしまった絶望が込み上げてくる。
「嫌だ」
ミアは──メグルの顔を見た後、そして隣に並ぶアルカの顔を眺め見る。
絶対に「勝てない」という絶望が彼女を蝕んでいく。
「負けたくない……私はまだ、負けてない……!!」
「ミア、もう止まってくれ!! 此処にはお前が戦うべき相手はいないんだ!!」
「そうだよ!! ゼノもミアちゃんも苦しいんでしょう!?」
「私は負けてない……止まらない……!! 終わらせるのは、私だッ!!」
「ばぎゅおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!」
一際強く炎が燃え盛る。
ふたりの目からも、赤黒い紫電が迸っていた。
「特訓したオオワザ──これで全部
空中でゼノが思いっきり腹を膨らませる。
これまでの”かえんほうしゃ”とは比べ物にならない程の量の炎を溜め込んでいる。
更に周囲には幾つもの青白い炎の球が浮かび上がっており、それが全て混ざりあって巨大な特大の火球と化す。
【タイプ:ゼノの ミッシングブレスデリート!!】
巨大な火球を全力の龍気ブレスが押し出し、地面へ放たれる。
まさに地獄から這いずり出てきた漆黒の太陽。ゆっくりとだが確実に訪れる死を前に、メグルは──覚悟を決めたように叫ぶ。
「ッ……こんの大ッ馬鹿野郎!! もう手加減なんかしてやらねェ!! 気絶させてでも連れ戻すッ!!」
「……うんっ!! 分かってる。思いっきり、全力で行くよ!!」
アルカが──メグルに手を伸ばす。
「握って」という無言の願いに、彼も強く握り締めて返す。
この掌の温もりが、極限状態に追いやられた彼らを奮い立たせる。
「ふぃるふぃーッ!」
あたしも忘れないでよ、とニンフィアが振り返って嘶いた。
「……信じるぜアルカ!! 信じるぜ、
対するニンフィアも全身に力を漲らせ、最大威力の”はかいこうせん”を放つ。
火球と”はかいこうせん”はせめぎ合う。だが、流石オオワザの威力というだけあってか、徐々に”はかいこうせん”は押し負けていく。
そのまま光の障壁も押しきり──更に”はかいこうせん”も尽き、ニンフィアはその場に蹲るのだった。
「ふぃるふぃ……ッ!」
「あはははっ! 止められない! 誰も私たちを! ゼノと私は……止められないッ!!」
「……そいつはどうかな」
今度は蹲るニンフィアの前にサニゴーンが立つ。
自らが壁となり、迫りくる巨大火球を正面から受け止める。
だが、当然生身だけでは焼き尽くされるだけだ。
故に──更なる障壁を展開する。
「”ひかりのかべ”は壊した!! 今更再展開しても──」
「……強い力は扱い方に気を付けなきゃいけないんだよ」
「ッ……!?」
「使い方を間違えたら、自分に跳ね返ってくるから!! 展開するのは”ミラーコート”だ!!」
霊体の表面に鏡のようなバリアが展開される。
ギリギリのところで完全に火球を受け止め切ったサニゴーンは、苦しそうではあったが──耐え切ってみせる。
そしてサニゴーンを包んだ火炎が、再び火球の形に再構成されていく。
「”ひかりのかべ”、そして”はかいこうせん”で威力をギリギリまで減衰させたんだ。サニゴーンの
「そして──受けたダメージを倍にしてゼノに返すッ!!」
──火の球は今度は倍の大きさとなってゼノに向かって高速で飛んで行く。
オオワザを放ったばかりで消耗したばかりのポケモンでは避けられない。
正面からそれを受け止めたゼノだったが──”ミラーコート”のダメージは固定。
特殊防御力を無視してダメージを与えるのである。
爆発音と共に、黒い火竜が口から炎を漏らしながら崩れ落ちる。
「きゃあああああああああああ!?」
──同時に、絶叫が響き渡った。
ゼノの苦痛は、ミアの苦痛。
灼熱の炎に焼かれる感覚が彼女にも襲い掛かる。
目は血走り、血が流れ出て、全身の神経が焼き切れるかのような痛みに彼女は耐えかね、膝を突いた。
「あっ、ああ、あ……ッ!!」
黒い火竜が力尽きて墜落すると共に、彼女達を蝕んでいた溶岩も消え失せていく。
声が枯れ果て、全身に走る痛みを前に意識を手放しそうになっても尚、彼女は──最後までゼノに呼びかける。
「あっ、ああ……ッ!! ゼ、ノ……!! いけない、私たちは……倒れて……は……」
五感を灼熱に焼かれる痛みがじりじりと潰していく。
空を切るようにして手を伸ばす。だが、何も掴めない。
ぐらり、と身体は揺れ、ミアは荒れ地に倒れ伏すのだった。
最後に見えたのは、立ち並ぶメグルとアルカの姿。
自分がどうやっても手に入らないそれを前に、そしてどんなに望んでも自分には手に入れられないものを前に、彼女は自嘲し笑う。
結局自分はクローンで、繋がれる相手はゼノしか居ない事を思い知らされるのだった。
※※※
子供の頃から、ずっと好きだったのは──科学だった。
父が科学者。カルミアは当然のように、父のような科学者になるのだと思っていた。
「カルミアは偉いな。将来は……立派な科学者になれるぞ」
「えへへへー♪ 私、勉強大好き!」
「ああ、そうだ。それで良いんだ、カルミア……」
ある年の誕生日。
ポケモンを選んでくれ、と言われた。
何匹かいたポケモンの中から、カルミアが選んだのはタマゴから生まれたユニランだった。
「この子が良いっ!」
「ユニランか……良いだろう、大事に育ててあげるんだよ」
「うんっ、ありがとう! ユニラン、大事にするね!」
父は大層カルミアを可愛がり、彼女も生活に不満など何一つなかった。
ただただ、幸せな日々が過ぎていく。
だが──ある年を機に、父は表情が曇るようになった。
「外に……遊びに行かなくて良いのかい? 友達は?」
「良いんです。遺伝学の勉強、これが今一番面白くて。早くお父さんみたいな学者になりたいから」
「……」
そんな時、彼は何処か後悔するような目でカルミアを見るのだった。
彼女はそれが不思議で仕方なかった。
自分は彼にとっての理想の娘であり、彼はカルミアにとって理想の父だったからだ。
何一つ欠けているものなど無い生活なのに、彼は一体何を悔いているのか、カルミアには分からなかった。
「ねえ、お父さん。何故私を見て……そんなに悲しそうな顔をするんですか?」
「……いや、何でもないよ。娘の成長は……早いなあ、と思ってね」
「お母さんを思い出すから、ですか?」
「いいや……もっと大事なもの、かな」
「?」
──ある日。
父は突然、重い病気に罹った。
病状は日に日に酷くなっていく。
カルミアは泣いた。毎日のように泣いた。
そんな彼女に──熱に浮かされた彼は、堰を切るように話すのだった。
家の地下にあった秘密の研究室の事を。
そして、それに繋がる鍵を。
「……クローン……? 私が……?」
「……私は……代わり? 亡くなった”カルミア”の代わり……?」
「私が好きな物も、私の知能も、身体能力も……全部……亡くなった”カルミア”に似るように作られた……?」
父が亡くなった後、形見の鍵を使って立ち入った地下研究室。
父が時折、籠っていた場所であり、決してカルミアを入れなかった場所だ。
そこに広がっていたのは膨大な資料。
彼女にとっては、全てそれが理解出来てしまうものだった。
そして、他でもない自分がクローンであることを示す資料やカルテも揃っていた。
己の業を独白する父の残した手記と共に。
「あ、あははははは……じゃ、じゃあ、私が自分で選んだって思ってたものは……?」
だが、それは──彼女の心を壊すには十二分だった。
自分が選んできたと思ったものは全て、過去に「カルミア」がなぞったもので。
この世に自分ひとつだけだと思っていた顔も、身体も、心も──「カルミア」を模して作られたもので。
父が自分に優しかったのは、自分が優秀なクローン──即ち「カルミアの精巧な模造品」だったからだと思うと、吐き気が込み上げてくるのだった。
そしてその上には、数えきれないほどの”犠牲”があったことも書かれていた。
手記は20年以上も前の日付から始まっていた。
『私には娘が居た。しかし、数年前に病で亡くなってしまった。名前はカルミア。もう一度だけで良い、カルミアに会いたい』
父がミッシング・アイランドなる島で研究を始めたのが15年ほど前であること。
『初の人間全身のクローニング成功例──試作品492号は、私の最高傑作だ。今日から試作品492号の名前はカルミア。新しいカルミア』
そして──試作品492号が生まれた日付は丁度、12年前。ミアの誕生日と全く同じだ。
『新しいカルミアはどんどん育っていく。ミッシング・アイランドは閉鎖されたが、私の研究は間違っていなかった。実験は成功だ』
小さな手記から、今度は大きな研究日誌まで。
研究所にあった全ての日誌にカルミアは目を通した。
過去から、そして最近に至るまで。
ありとあらゆる資料に、日誌に、父の痕跡を読み続けた。
『492号はカルミアそのものだ。胎児に成長した後、肉体的な成長は通常の人間よりも速いが──許容範囲だろう。生殖機能、寿命面の課題は克服しており、経過観察は問題ない』
「寿命の問題って何……? 調整って何……? 私がいつ死ぬかまで、お父さんは分かってたの……?」
『実年齢は12歳。だが肉体と頭脳の年齢は15歳相当にまで成長している。2年後には18歳相当になっているだろう。その後の老化は非常にゆったりとしたものになるように調整済みだ。カルミアには美しいままでいてほしい』
「
『……既に、肉体年齢はオリジナルのそれを超えている。だが、もう少しだけ記憶の中の”カルミア”と同じ姿を見ていたかった』
「良かった、って何……? 記憶の中の”カルミア”って何? カルミアは、私だけでしょ……?」
『この先、カルミアは私の知らない成長をするだろう。その時私は、彼女を今までのように愛せるだろうか?』
「何で……? あ、あははっ、意味が分からない……!! 子供が成長するのは当然のことでしょう!? お父さんは……死んだ”カルミア”のことしか見ていなかったってこと……!?」
数多くの日記や資料からミアは模造品だったことを突きつけられた。
”カルミア”と同じように振る舞い、成長する事こそが自分の存在意義だったことを思い知らされた。
『思考回路、パターンは既にオリジナルのそれと相違ないものになっている。死亡した当人の脳細胞を用いたクローン故だろうか』
「違う、違う違う違う!! こんなの、ウソだ……!!」
『やはり間違いない。492号は私の最高傑作だ。』
「私は作品なんかじゃないッ……!!」
幾つもの「失敗作」の上に積み上げられた「作品」だったことを突きつけられたのである。
「うっ……おぇ……!!」
びちゃっ、びちゃびちゃびちゃ。
吐しゃ物が辺りに散らばる。
全部、全部ウソだった。偽りだった。
自分の身体も、思考も作られたものだった。
悔しくて、悲しくて、憎たらしくて仕方が無かった。
「私は、私で……でも、私はこうなるように、”調整”されて……ッ」
「私は何者……? 私は何なの……?」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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シリアス、曇らせ
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