続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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章始め特有のパロディギャグ回です。


第二章「激突!マニャカ海峡沖夜戦」
第17話:森に行こう


「ぷにぷに」

「アゴジムシちゃーん!! 降りてきてーッ!! 俺が悪かったからーッ!!」

「ぷにぷに」

 

 

 

 ──ある日の一幕。

 クローゼットの上に登り、降りなくなってしまったアゴジムシにメグルが大きな声で呼びかけていた。

 しかし、無表情のままアゴジムシは「ぷにぷに」と鳴き声を発するのみ。

 隣ではアルカが呆れたような顔で見守っている。後から部屋に入って来たミアが──珍妙な光景に問うた。

 

「何やってるんですかアレ」

「餌の味がお気に召さなかったみたいなんだよ。何でだろ?」

「……飼育下のアゴジムシは大抵ハチミツで満足するんですけど、稀に天然樹液じゃないと嫌がる子が居るんですよ」

「グルメだなあ……」

 

 ミアの知識には助けられる事が多い。こと、ポケモンの生態の知識に関しては3人の中では最も豊富と言える。

 現役学生としては、少々複雑な心持のアルカだったが、まだ勉強中なので致し方ないところはあるのだった。

 

「ああ、やっと降りてきた……」

「ぷにぷに」

 

 クローゼットから降りてきたアゴジムシをメグルは抱きかかえる。しかし、メグルの方を向いたアゴジムシはその尖った顎を伸ばし。

 

 

 

 ばちん!!

 

 

 

「ぎゃああああああああ!! 鼻がァァァーッ!! 鼻が千切れるーッ!!」

「ぷにぷに♪」

 

 

 

 思いっきり挟んで彼の腕から脱出するのだった。

 メグルが悶絶する傍ら、カーペットでうにうにとその様を面白がるアゴジムシ。

 あーあ、と女子組は案の定の結果に肩を竦めた。捕まえてから早数日。まだ完全に懐いたとは言えないのかもしれない。

 あるいは気を許しているが故にこのような暴挙に及ぶのか、答えは定かではない。

 

「ふぃっきゅるるるるる♪」

 

 しかし、危ういものに触れたがるのがリボンの暴君というもの。

 転げまわるメグルに向かってほくそ笑みながら、ぷに、ぷにぷに、とニンフィアがアゴジムシの身体を前脚で触る。

 どうやらひんやりスベスベした感触を楽しんでいるようだ。しかし次第にエスカレートしていき、ぷにぷにぷにぷにぷにぷに、と連打を始めたため、流石にアゴジムシも堪忍袋の緒が切れたらしい。

 

「ぷにぷに」

 

 

 

 ばちん!!

 

 

 

 

「フィッキュルルルルルィィィィィ」

 

 この通り、鼻を顎で挟まれて折檻されることになったのだった。

 痛みで悶絶して床を転げまわる凶暴リボン。ストライクの時もそうだったが、やはり虫ポケモンに分からされる運命なのかもしれない。

 問題は相手は非力なはずの幼虫であることであり、ニンフィアのプライドを著しく傷つける結果になった。

 

「なんて命知らずな新入り……!! 大物になれるよ君!!」

「ニンフィアステイ!! 部屋ン中で”はかいこうせん”撃つのはダメ!!」

「フィーッ!! フィーッ!!」

「あーもう何でこんな事にーッ!?」

「ランクルス、ニンフィアを抑えてください、可及的速やかにーッ!?」

「ぷにぷに♪」

 

 その様を見てご満悦のアゴジムシ。お前に怖いという感情は無いのか。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──マーニャ地方西部・サニー半島に、巨大なクワガタムシのポケモンの目撃情報が入ったのは、ヴォルカニドの覚醒から数日経過した後の事だった。

 メグル達はすぐさま飛行機で現地に向かう。

 そして、目撃された情報を元に彼らが訪れたのは──マニャカシティ。

 マーニャ西部・サニー半島の海岸沿いに位置する都市である。

 異文化を感じられるチャイナタウンを擁しており、極東の様式の寺院も多数建築されている。

 だが、彼らの目的は町の観光ではなく、その付近にある大規模な自然保護地区だ。

 SNSではこの場所で、巨大なクワガムシのポケモンを見かけた、という情報があったので彼らは出向いていたのである。

 その名も──”マニャカ・ビビヨン自然公園”だ。

 

「すごーいっ! ビビヨンが沢山っ!」

 

 庭園を訪れたアルカは思わず声を上げる。

 メグルとしても、見惚れざるを得ない。

 ビビヨンは地域によって模様が違う為に度々コレクターによって収集されることがある。

 特定の模様のビビヨンはその地域にしか生息していないため、乱獲や密猟の憂き目に遭うこともあるのだという。

 そしてメグルの居た世界でも、模様違いのビビヨンは非常に稀少な存在であり、レアポケモンのトレードで使われることも多々あった。

 故に此処では、世界中のありとあらゆる模様のビビヨンが保護され、取り揃えられており、観光客としても絶景スポットとして親しまれている。

 まさにビビヨンの楽園だ。

 しかし。

 

「お二人共。今日はビビヨンの為に来たのではないですよ? 巨大クワガタムシの為に来たんじゃないですか」

 

 ミアがずっとビビヨンに見惚れている二人を嗜める。

 

「悪い悪い、つい……」

「ねえ、ビビヨンってすっごく高い値段でオークションにかけられるんだよね? じゃあ此処にいる子達を全部合わせて──」

「此処のビビヨンは捕獲禁止ですよ」

「ゴメンなさい」

「それにしても、あんなにデカいポケモンなのに、どうやって姿を隠してんだろうな……」

「そうですね……しかし、本当に目撃情報のポケモンがヴォルカニドなら、見過ごせません」

「もう大騒ぎになってそうなモンだけど……」

「目撃情報に釣られて、多くのトレーナーがサニー半島を訪れているようです。私たちも先を越されないようにしましょう」

「ねえ、そもそもヴォルカニドって、樹液に寄ってくるの?」

「樹液じゃなくて溶岩啜ってそうだなアイツ。樹に溶岩塗ったくったら寄ってきたりして」

「そんなバカな……」

「すんすんっ……あ! ハチミツのニオイ!」

 

 アルカが鼻をひくつかせる。

 どうやら、もう誰かが保護区の樹にハチミツを塗っているようだった。

 色々アウトな気がしないでもないが、思わずメグル達はその場所に駆け付ける。

 

「おいおい誰だ、マナー違反は──」

 

 

 

「──ああ……全身ハニーの私も美しい……()()()()()()()()()、虫ポケモンも姿を現すはずだ……」

 

 

 

 ──全身にハチミツを塗ったくって直立している奴が何か抜かしていた。

 恐らくアレは妖精である。そういう種類の妖精で、森を守っているのだ、とメグルは言い聞かせる。

 近くには全身にハチミツを塗ったくられた可哀想なブロロロームも止まっていた。きっと主人共々全身にハチミツを塗って森を守っているのだろう。多分。

 あと、一体何を免じるというのだろうか。さっぱり不明である。

 

(どっかの時代劇SF漫画で見た事ある奴だ……マジでやるヤツが居るだなんて……)

 

「……見なかった事にしよう」

「うん……」

「はい……」

「ああ、そこの君達!! 私のライバルを見なかっただろうか!?」

「おい、話しかけられてんぞ俺達……反応するか?」

「嫌だよ、早く先に行こうよ」

「でも連れがどうとか言ってますよ」

 

 正直此処から振り向くのも嫌だったが、頼まれると断れない日本人のサガか、メグルは振り返る。

 相も変わらず全身ハチミツの変態がそこで直立していた。

 

「えーと、何か御用ですか……?」

「私たちは先日から正々堂々と虫捕り対決をしていてね」

「虫捕り対決ならもっと良い場所あるでしょ、此処のビビヨンは捕獲禁止ですよ」

「ノンノンノン、ビビヨンではない、やはりカッコいい虫ポケモンと言えばヘラクロス、カイロス、クワガノンと相場が決まっている! より大きな個体を捕まえた方の勝ちだ」

「そうすか……通報しますね」

「おっと、そんな事をして良いと思っているのかね?」

「良いと思います、子供の教育に悪いんで」

 

 アルカがミアの両目を手で隠している。成程確かに教育には悪い光景だ。

 

「フッ……良い判断力だ、君はきっと大物になれるだろう」

 

 ピッピッピ、とスマホロトムをタップしだす彼に対して「まあ良いだろう」と余裕たっぷりに言ってのけるハチミツ男。

 彼は──ポーズを崩さぬまま、爽やかに名乗ってみせる。

 

 

 

「私の名はシャイン・マスカット……私の美しさに免じて、此処は見逃してくれないだろうか?」

 

【”旅のトレーナー”シャイン・マスカット】

 

 

 

「私のライバル達もこの辺で虫捕りをしていてね。あいつがどのような策を弄しているか知らんが……見かけたら教えてほしい」

「正々堂々って何だったんだよ、他の観光客使ってスパイやらせようとしてんじゃねーか、卑劣の極みじゃねえか」

「そんなもん自分で確かめに行けばいいじゃん」

「い、いや、実はこのハチミツ、結構粘度が高くって……カチカチに固まってしまってだね、かれこれもう丸二日以上このポーズのまま突っ立っているんだが」

 

 取り合えずメグル達は変態をその場に置き、立ち去ることにしたのだった。

 放置されたハチミツ塗れの男は何処か満足したように言った。

 

 

 

「──フッ、今回の所は私の負けということにしておいてあげよう。だが、次はこうはいかない」

 

 

 

 当然、その声は誰にも聞こえてはいない。

 

「ンだよ。折角マーニャに来てからは変人奇人の類に遭わずに済んでたって思ってたのにエラい目に遭っちまった」

「ミアの成長に悪い影響が出たらマズいよ、不良になっちゃうよ」

「いつになったら手をどけてくれるんですか?」

 

 半キレ気味にミアが言った。

 えらいものを見てしまった後なので、ビビヨンでも眺めて心を浄化したい気分の三人組。

 だが、彼らの前にまたしても刺客が現れる。

 

「ねえ、見つけたよ、でっかいクワガタムシ!!」

 

 アルカが思わず声を上げた。

 道のド真ん中に、巨大なクワガタムシ──もといクワガノンが落っこちている。

 メグル達は思わず後ずさった。地面に落ちているとはいえ、このサイズは確実にヌシ個体だ、と。

 

「で、でけぇ……!! まさかこいつが、巨大クワガタムシの正体!?」

「このサイズなら確かにSNSで話題になっててもおかしくないよ!」

「早速近付いてみましょう!!」

 

 そうして調べてみた彼らは、すぐに──クワガノンの様子がおかしい事に気付いた。

 明らかに表面の質感が生き物のそれではない。布だ。布の中に綿が敷き詰められている。

 彼らは微妙な顔をしながらクワガノンをひっくり返すと──男の顔が顕になった。

 

 

 

「た、助けてくれぇぇぇ……」

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 燃えるようなオレンジ色の髪に、真っ黒な肌をした若い男だ。

 言ってしまえば着ぐるみだったのである。

 全てを察したメグル達は、軽蔑を込めた表情で着ぐるみ男を見下ろす。

 

「……虫捕りの為にこの着ぐるみを着ていたんだが腹が減って力尽きちまって……」

「……オイ、アルカ。もしかして目撃情報ってコイツの事じゃねえか」

「ねえ、いつごろから此処に居るの?」

「2日前の晩からずっと……」

「目撃情報の時間と同じだーッ!!」

「オメーが諸悪の根源かーッ!!」

「いてぇ!! いてぇ!! 着ぐるみの上から蹴るんじゃねえ!!」

「じゃあさっきのハチミツ男のライバルって……」

「ハチミツ!? それは間違いねえ、俺のライバルの事だ、虫捕りなんてガキの遊びだし付き合わなきゃよかった……」

 

 悔しそうに男は語る。ハチミツで通じてしまうことに三人は恐ろしさすら覚えるのだった。

 そして──こんな男の為にわざわざ遠いマニャカまで来た事に3人は深い深い徒労感を覚える。

 ヴォルカニドなんて居なかった。巨大クワガタムシの正体は、このクワガノンのパチモンだったのである。

 

「ところでこれは素朴な質問なのですが、何故クワガノンの着ぐるみを……?」

「仲間だと思って寄ってくるかもしれねえじゃねえか!! ”虫ポケモン皆友達作戦”だ!!」

「ダメですこの人……置いていきましょう」

「ああ……」

「おい待ってくれ!! 助けてくれ……着ぐるみが重すぎて動けねえんだ、こんな姿ライバルに見られたら……」

「良かったじゃん、同じ穴のマッスグマ同士仲良くなれるよ」

「今日はヘンなものばっかり見て具合が悪くなりそうです……」

「おい待て! このラズ・クランベリ、こんな所でくたばるわけにはいかねえんだ!!」

「史上最悪にカッコ悪い名乗り来たな……」

「あっ、ちょっと、この流れで放置とかある!? オーイ!! 餓死しちまうから!! オーイ!!」

 

 結局、無駄な疲労と共に彼らは道を進むことになる。

 ヴォルカニドは居ないが、念のため、である。

 そのうち、アルカがまた鼻をひくつかせる。

 

「すんすん……エナドリの匂い!?」

「エナドリィ!? 今度は何だ、どうせ誰かがエナドリ飲んでるだけだろ!!」

「そ、そうだと思うけど、なんか量が尋常じゃないっていうか……」

「もう既に嫌な予感がしてきました……」

 

 彼らはアルカの鼻に従って道を出る。

 思わず足を止めた。

 白いワンピースが似合うお嬢様、といった容貌だった。

 頭には白い鍔付の帽子。黒い髪が風にたなびく。

 

 

 

 ──問題は、そのお嬢様が木の幹にハケでエナドリを塗っているということであった。

 

 

 

「ふんふん、ふふ~ん♪ エナドリは、万薬の長ですわぁ。虫ポケモンさん達、寄ってきてくださるかしら」

 

 

 

 3人は愕然とする。

 ハチミツ男、着ぐるみ男に続いて何が出てくるのかと思っていたが、最後に出てきたのはエナドリ女である。

 タンクに詰めた大量のエナドリにハケを浸して、木の幹に塗ったくっているのである。

 

「あ、あのー、失礼、お嬢さん? 一体何を……?」

「うん? ああ、ご機嫌よう、見知らぬ方」

 

 上機嫌そうに彼女は振り向いた。

 日本人のように見えるが、目元は細く、端正な顔立ちで──思わず見とれてしまった。

 ただし、それは彼女の顔が綺麗だったからというだけではない。

 

 

 

「レモンちゃん……? レモン・シトラスちゃん……?」

「うん?」

 

 

 

 アルカも、その名前を聞いて「あっ」と思い出したように声を漏らす。

 

 

 

「確かに私はレモン・シトラスですが……何故(わたくし)の名前を存じておられるのでしょう?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──レモン・シトラス。

 かつて、時空の裂け目を作り出すポケモン・マイミュが引き起こした一連の事件の際、メグル達と共闘した異世界出身の少女である。

 ポケモンバトルの実力は勿論のこと、本人の戦闘力も非常に高い上に、強いリーダーシップで他のオシアス組を引っ張っていたのがメグルには印象的だ。

 また、アルカからしても記憶を失っている時に何度か交流があり、事件が終わった後も親睦を深めた相手なので記憶に強く残っている。

 だがレモン達は元の世界に戻ったはずであり、彼女が今此処にいるはずがない。

 そして彼女は初対面と言わんばかりの不思議そうな表情でメグルとアルカの顔を交互に見ている。

 此処から導き出される結論は──今目の前にいるレモン・シトラスは、”この世界で生まれて育った”レモン・シトラスということであること。

 何より彼らの記憶に残っているレモン・シトラスという少女は、非常に気が強い所謂女王様気質であり、ゆるふわお嬢様チックな子ではなかったのであるが──

 

(待てよ、そう言えばこんな事を言ってたような)

 

 ──レモンちゃんは強いし皆のまとめ役もできるし……見習いたいくらいだよ。

 

 ──あら。強くなるしかなかったのよ。私だって昔はお淑やかで気が弱くって……でも、風紀委員として学園の騒乱に揉まれてるうちに、すっかり擦れちゃったのよ。

 

 ──擦れちゃったのか……。

 

(もしかして育った環境が違うから、そのままお嬢様になったのか……!?)

 

「わ、悪い、忘れてくれ。多分他人の空似だ」

「そうでしたか。ならばきっと、そうなのでしょう♪」

 

 訳が分からない、という表情のミアに「気にしなくて良いから」と告げると、メグルは言った。

 

「ところでよ、何でエナドリを木の幹に塗ってるんだ?」

「昔からエナドリは万薬の長と言いますわ」

「言わねえよ!? どっからそんなデマ掴まされたんだ!?」

「こんなに甘くておいしいエネルギーの漲るもの、虫ポケモンさん達も寄ってくるに違いありませんわ!」

「アホだったーッ!! アホだったーッ!! 頭のネジゆるっゆるだ!! この子にリーダーも風紀委員も任せられねえ!!」

「……ねえ、レモンちゃん。虫捕りに来たの?」

「……はっ! 私としたことが、大事な事を忘れてましたの!」

 

 大慌てで彼女はスマホロトムを起動する。

 

 

 

「実は私の朋友二名が……此処に虫捕りに来たまま帰ってきてなくって……どこかで見ませんでした?」

 

(絶対さっきのあいつらだ……)

 

(さっきの所に戻らなきゃいけないのか……)

 

(もう帰りたいです……)

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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