続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
アルカとメグルが受付に化石を預けている間、博物館の外にあるカフェでミアはバジルと共に待っていた。
流石に警戒が強まっている館内に手ぶらで入るのはバジルも気がとがめたらしい。
とはいえ存外時間が掛かっており、暑いのでアイスコーヒーとアイスクリームを買い、一緒になって舐めていた。
「ねえ、何故今の仕事を選んだんですか?」
極力外に聞かれても良いようにオブラートに包んでミアはバジルに問う。
怪盗という仕事は表に自分の素性を知られてはならないし、後ろめたい仕事でもあるはずだ。
「他のやり方があったんじゃないか、って……考えたことは無いんですか」
「Why? 何故そんな事を聞くのデス?」
「……私も少し前に、道を外れる選択をしたんです。結局……結局私が弱くて、不完全燃焼に終わっちゃって。メグルさん達に助けられてしまって」
だから──ミアは少し、バジルの事が羨ましかった。
己のやり方で、やりたいことを貫けるだけの力を持っている彼女が。
しかしその一方で、その選択はありとあらゆる繋がりを自分から断ちかねない選択でもあるわけで。
それは辛い道だったのではないか、とも考えた。
有り得たかもしれない自分のもう一つの可能性を、ミアは隣のバジルに感じていた。
「Msミア。今の旅仲間と一緒にいるのは楽しいデスか?」
「……!」
その問いへの答えは、勿論決まっていた。
「はいっ……楽しいです」
「なら、Youはそれで良いヨ。きっと、あの二人は……Youが困ってる時に助けてくれる。それは得難いものだから……大事にしなきゃダメデスよ」
「バジルさんの傍には──」
「居マスよ。ちゃんと助けてくれる人達がネ。私だって1人でやってるわけじゃないからネ」
今は傍に居ないけど、と彼女は付け加える。どうしても矢面に立つのは実行役である彼女になってしまいがちなのだろう。
「……じゃあ、何故。私達に助けを求めたんですか」
「ただの気の迷いデスよ。今回のヤマは──カンだけど、すっごく嫌な予感がしたから」
「……っ」
「お礼、したかったんデスよね。あの二人には前に助けられたから。私の持ってるもの、預けておきたかったんデス」
きっと彼女は、この先に待ち受けている自分の運命を悟っているのだろう、とミアは考える。
だからこそ、わざわざリスクを冒してまでメグルとアルカの二人に会いに来たのだ。
これが最期になるかもしれないから──と。
「……危ないと思うならニセモノなんて放っておけばいいのでは……」
「それはダメ! だって、私の背負ってる名前は一族の背負ってる名前だもの。それで好き勝手されたくないデス」
「……大変なんですね」
「大変デスよ。でも、大変じゃない仕事なんて世の中にないと思いマスけど?」
悪どい仕事かどうかとか、関係なく──ね、と彼女は続ける。
「他にやり方があるのかもしれない。デモ、私は今の仕事に誇りを持ってる。それで良いデショ?」
「……頑固ですね」
「Youも似た所あるデショ?」
「……はい」
そうこうしているうちに、カランカラン、と店の玄関のベルが鳴る。
メグルとアルカが手を振っていた。
「お待たせー! 終わったよーっ!」
「結構中に人がいてな……時間かかっちまった」
全員は外に出て、町に繰り出す。
後はもう緊急の用事は無い。
強いて言うなら、町を回って偽怪盗の手掛かりを探すだけだ。
「何の化石が分かったんですか?」
「それがまだ分かんないんだってさ。鑑定も含めての復元だから、結構時間かかりそう」
「そもそも復元できるかどうかも分かんねえだとよ」
「あのサイズなら確実に何かは復元されると思うけどね」
「……それじゃあ、次はどこに行きマス!?」
「遊ぶ気マンマンじゃねーか。良いのかよ、それで……」
「たまにはリラックスも大事デース!」
談笑する4人。
しかし──日常に潜む危機とは思わぬところに転がっているものなのである。
※※※
──ゼラはスナイパーだ。
どんな遠い場所をも見通す事が出来、どんな遠い場所でも、撃ち貫く事が出来る。
どのような態勢からでも狙撃に移行する事が出来、どのような小さい目標でも狙う事が出来る。
それを可能にしたのは異常に発達した視力だった。
『クローバーの予告の日まで、残り3日だ。ゼラ、道具の手入れは怠るなよ』
「了解」
最低限の口数のみで、受け答えた彼は、町をふと見下ろす。
雑踏の中には観光客の姿。なんてことはない、いつものカテドラルシティだ。
こうして何も無い時間を静かに過ごす事は、張り詰めた神経を安らがせるには良い機会だ。
普段自らに厳しい訓練を課すゼラにとって──数少ない安らぎだ。
「……む」
そんな中、ビル沿いを歩く人影に、ゼラは見覚えのある人物を発見する。
ブロンドの髪、明るい碧眼。その身体付き。全てが記憶の中の、とある人間と合致する。
だが問題は──彼女達が歩く歩道沿いに立つ建物の看板がぐらぐらと揺れ、今にも落ちそうになっていることだった。
気づいてからは早かった。ボールを放り投げ、巨大なライフル型の止まり木を柵に立てかける。
その上にクワガノンが飛び乗った。
「──ロック・オン」
ズドンッ!!
ほぼほぼ予備動作無しで圧縮された電撃の弾が放たれ、落ちた看板を撃ち貫き、吹き飛ばすのだった。
※※※
「きゃぁっ!?」
──メグル達からすれば、突如頭上で何かが弾け飛んだようだった。
炸裂音。思わずメグルはアルカとミアを庇い、バジルもまた、その場から飛び退く。
間もなくパラパラと音を立てて金属音が地面に散らばっていく。
「な、なんだ、なんだ……!?」
ざわつく人々。後には、雑居ビルの古い看板だったものが転がっていた。
「こ、これ、もしかして落ちてきたんデショウか……!?」
「待ってください。この看板、何かに撃ち抜かれたように大きな穴が開いてます……しかも焦げ臭い……!?」
バジルはそれを聞いて、再び砕け散った看板を見やる。
それが空中で爆ぜていなければ、自分達に降りかかっていたところだ。
「でも、こんな事が出来るのって……まさか……」
「──怪我は無いか」
通行人たちが思わず声を上げた。
空の向こうから、虫の羽根が羽ばたく音が聞こえてくる。
ヴァリカン島で見かけたクワガノンが此方に向かって飛んでくるが、あの時の個体との違いは──人をぶら下げている事だ。
ライドギア。クワガノン用に人を運べるようにしたハーネス状の器具である。
それにぶら下がっているのは、褐色に焼けた大柄な男だった。
サングラスを掛けており、表情は伺い知れず、無骨な印象を受けるが──降り立った彼の「無事そうなら良い」という声は何処か穏やかだった。
「……え、えと、貴方は……」
「ゼラ先パイ……?」
「やはりお前だったか──バジル」
「え?」
ぱちぱち、と目を真ん丸にして彼女は──大男の名を呼んだ。
そして、大男の方もバジルの顔を見るなり何処か懐かしそうに表情筋を緩めるのだった。
バジルと見知った仲であることは確かだが。
「バジル……その人と知り合いなのか?」
「ハ、ハイ、実は……昔居た地方の学校で、一緒だったんデスよ」
「……こいつらは」
「私の友達デース!!」
(友達になった覚えはねーよ……)
と言いたかったが、この場で騒いでも仕方がないのでメグルは黙るのだった。
それに、目の前に立つ巨漢の威圧感に、圧倒されてしまっている。
「えーと、この人は……」
「……ゼラだ」
「あ、えーと、先パイ! それだけじゃ、分からないデスよ! 確か今は──ポケモンレンジャー……デスよね?」
(ポケモンレンジャーっつーより、マフィアかゴルゴ13だぜ……)
「いいや──今は
「えっ……」
バジルの表情が凍り付く。
メグル達は身構えた。本来なら警戒する必要は微塵も無いのだが、今回は重要な情報源であるバジルを守らなければならないためである。
「……狙撃の腕を買われ、数年前にスカウトされた」
「そ、そうだったデスか……流石先パイ、デス! カッコいいデスよ!」
「お前は今、何をやっている。相変わらず探偵か」
「Yes! 事件の匂いがある限り、私は何処にでも駆け付けるデス! 特に最近も、怪盗クローバーの予告状が、この町に届いたっていう話デスからね!」
「……クローバーか」
ゼラの顔が一転して険しくなる。
「……怪盗は俺が墜とす。バジル、お前が出るまでも無い」
「ッ……」
「危険な仕事だ。首を突っ込むな」
そう言って、彼は再びクワガノンにぶら下がる。
「久々に会えて良かった」
「い、行っちゃうんデスね、先パイ」
「忙しいからな」
そして、ゼラはもう一度メグル達の顔を見回すと──何処か安心したように言った。
「……バジルを頼む。昔から……危なっかしいヤツだからな」
国際警察故に時間の縛りが厳しいのだろう。
彼は、そのまま何処かへと飛んでいってしまうのだった。
その背中を見送るバジルの顔は、お世辞にも再会をよろこべたと言えるようなものではなく、暗く沈んでいるのだった。
「……今の人って」
「……余計なことは言わなくて良いデスよ。ゼラ先パイ、目も耳もすっごく良いデス」
そう言って、彼から逃げるように、再びバジルは先頭切って歩きだしたのだった。
※※※
「ゼラ先パイは
「スナイパーって言ってたな。銃の扱いが上手いのか?」
「上手いなんてモンじゃないデス。どんなに離れていても、小さな的を狙い撃ち出来る程に目が良いんデス」
「でも、さっきのって銃弾で撃ち抜いたのかな? 違うよね」
「アレは──狙撃銃型の
止まり木には実銃のように遠くのものを見通せる専用のスコープが付いており、ゼラが合図を送ることでクワガノンがゼラの狙った場所に圧縮した電撃弾を飛ばす事が出来るのである。
狙った場所に命中させるには、当然クワガノンの性質や砲角、その他補正などを熟知しておく必要があり、決して素人が真似出来るものではない。
「それなら普通に銃火器を使えば良いと思うが……」
「バカだなあ、銃火器よりもポケモンの方が持ち込むハードルは低いでしょ。火薬類やバッテリーも要らないしね」
「ヤバいなそれ、色んな意味で合理的じゃねえか……」
「でも、あんな滅茶苦茶な運用が出来るのはゼラ先パイだけデスよ。だってどう見たって狙撃しにくいデショ。ライフルの上にクワガノンが乗ってるんデスよ? 見えにくいし、撃ちにくいはずデス」
そう言われてしまうとその状態で確実かつ迅速に狙撃が行えるゼラがどれだけバケモノなのか3人は思い知らされるのだった。
「そんな奴が敵となると、かなりマズいんじゃないか」
「偽怪盗は諦めた方が良いんじゃないの?」
「撃たれるんじゃないですか」
「ぼろくそデスね……」
バジル自身、同じ学校の生徒だっただけあって、ゼラの能力の高さは非常に高く評価している。
むしろ、その実力があったからこそ国際警察に引き抜かれたのだろう、と考える。
落ちてくる看板に遠くから気付き、クワガノンで狙撃してみせる離れ業。ハッキリ言って敵に回したくはない。
「しかも相手は、同じ学校出身の先輩なんだろ。戦いたくないんじゃないか、お前も」
「……私は怪盗稼業を継ぐって決めた時に、昔の人間関係にはもう縛られないって決めたデス。この名前も、沢山ある名前の一つデスよ」
「何でそこまで意固地になるのさ。もう分かってるんじゃないの? 偽怪盗の正体って……やっぱり……」
国際警察が用意した最強の刺客。
そして、唐突に前触れもなく現れた怪盗の偽物。
何より誇りを重んじる怪盗の性質。
それら全てを加味して考えても、この予告状から始まった一連の事態が「罠」であることを示していた。
怪盗クローバーを抹殺するための──国際警察の罠だ。
しかし、そんなことは最初から分かっていた、と言わんばかりにバジルは微笑む。
「私のやり方でしか救えないモノもある……
「ッ……」
「その誇りを穢す相手なら、受けて立ってやる! それだけの話デス」
怪盗という仕事に、彼女なりの譲れない矜持というものがやはりあるのだろう。
「3人には感謝してるデスよ。3人と一緒に居たから、ゼラ先パイに会えたような気がするデスから」
「俺達何にもしてねーよ」
「ちょっとだけ、気が楽になったデス。ただ……それだけで良かったんデスよ!」
「ねえ──無茶しちゃダメだよ!! 君に言うのも、なんか違う気がするけどさ……」
「大丈夫デスよ!
そう言うと、ぱさぱさ、と1匹のマメパトがバジルの手に止まる。
上空から1匹、またもう1匹、と彼女の身体に集まっていき、次第に──彼女の身体にはマメパトが集っていく。
「Good bye! 親愛なる友人たち! ……ごきげんよう!」
ばさばさばさ、とマメパトたちが一斉に飛び去った時には、バジルの姿はもう居なくなっていた。
「……バジルさん」
何処か祈るように、ミアは両の手を握り締める。
彼女はまごう事無き「悪」だが──「悪人」ではない。
無事でいてほしい、と思ってしまうのだった。
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