続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
──マラッカ海峡は、マレーシアと西インドネシアの間を貫く海路だ。
この場所は交通の要所として機能しており、多数の船舶が通過する事でも知られている。
そして、このポケモンの世界に於いて、マラッカ海峡は”マニャカ海峡”と名を変え、やはり海運の要所として古くより船乗りに親しまれてきた。
ワームホール公団は海峡の一地点にブリザベオが封印されていると踏み、船団を出し、取り囲んで捕獲する計画を立てた──
「作戦まで残り僅か、私達に出来る事は限られています」
「後3日、ボク達に出来る事──」
「ンなもん決まってんだろ──海を渡る手段の確保だ」
「……」
「……」
メグルの言葉に二人は無言で首を縦に振るしかなかった。
悲しいかな、マーニャの厳しい入国制限により、メグル達の手持ちは大幅に制限されている。
「見てみろ、今の俺達の手持ちはこのやんちゃな芋虫と」
「ぷにぷに」
バチン!!
「びえええええええええええん!! びえええええええええええん!!」
【セビエ<マーニャのすがた> いわビレポケモン タイプ:岩/ドラゴン】
──そのやんちゃな芋虫に鼻を挟まれて泣かされて鼻水を垂らしている赤ん坊ドラゴンだ。
「あっ、コラ、アゴジムシ!! お友達挟んだらダメでしょうが!! メッ!! ごめんなさいしなさい!! オラッ!! ごめんなさいは!!」
「そうだよ!! セビエに謝って!! ほんっとにもう、やんちゃなんだから!!」
「びえっ、びえええ……びえええええええん!!」
「はいはーい、ママが居ますからね、泣かないでえ」
「すっかり保育士が板についてますね、二人共。でも、アゴジムシに謝罪の概念があるのかどうか……」
「ぷにぷに」
復元の結果、アルカの持っていた化石の正体は、かつてマーニャ地方に生息していた最強のドラゴンポケモン・セグレイブ──の進化前のポケモンであるセビエであることが明らかになったのだ。
歯の化石が発見された際は、かつてマーニャ地方も寒冷期に襲われた時期があったのではないか、と言われていた。
しかし、今回の化石が復元されたことで、熱帯雨林に適応したセグレイブがかつて、このマーニャに生息していたことが明らかになったのである。
(確かマレーシアではスピノサウルスの歯の化石が見つかってるんだっけか。セグレイブはスピノに似てるし、寒冷地じゃなくて熱帯地に居てもおかしくねえな)
セグレイブ自体は非常に強力極まりないドラゴンポケモンであり、メグルもかつてイクサ──同じく異世界から来たポケモン廃人──から種族値などのデータを教えてもらっている。
攻撃の種族値は圧巻の145。更に非常に強力な専用技の”きょけんとつげき”も併せ持つ上に、特性は”ねつこうかん”で火傷しないというもの。
(あっちはドラゴン・氷だが、この個体はドラゴン・岩。ガチゴラスと同じか。原種より弱点は増えてるが耐性も増えてるって感じか。しかし600族のリージョンが化石から復元とはね)
タイプは違うが特性は同じ”ねつこうかん”。ヒレで体内の熱を排出するという生態は同じようだ。
火傷しない上にタイプ相性もあって炎タイプに対してはとにかく強く出る事が出来るポケモンである。しかし──問題は600族の幼体は漏れなく弱いということ。現時点では戦力にならない。
「残りの3日間でマニャカ海峡沖に乗り込むなら、進化しねえポケモンを捕まえるしかねえ」
「即戦力ってことだね」
「空からなら、私のゼノが行けますが……海から攻め込める戦力も必要になります」
「せめてコイツが進化すりゃあな……」
「ぷに?」
メグルは──ゼラのクワガノンを思い出す。
彼はライドギアを使って体を固定し、クワガノンからぶら下がる事で飛行を可能としていた。
もしアゴジムシが最終進化すれば、メグルも空からの攻撃ができるようになる。
だが現状アゴジムシは未だに進化する様子が無い。デンヂムシにさえ進化すればアルカの持っている”かみなりのいし”ですぐにクワガノンまで進化できるのであるが。
「ほらほら、大丈夫だからねー」
「びえ……びえびえ♪」
(四の五の言ってられねえ、使えるモンは何でも使う──折角捕まえたし……あいつの力を借りよう)
「アルカ、ハイビ先生に頼んで、サメハダーをマーニャに転送し直してくれ。俺はあいつで海を渡る」
「よしきた! 前に捕まえたあの子だよね!」
メグルが使うのは──以前、ヴァリカン島の漁港で交戦し、捕獲したサメハダーだ。
調査のため、一度ハイビ先生に預けていたのである。
「俺はあいつにライドギアを付けて乗りこなせばいい。問題はお前だアルカ。ライド出来そうなポケモン持ってねえだろ」
「そうだね……やっぱり新しく捕まえなきゃだよね」
「びえ」
「そうだな、手分けして行動しよう」
「びえびえ♪」
「……」
「どうしたの? メグル」
「いや、何でもねエ」
メグルは──目をじとっ、と細める。セビエが思いっきりアルカのふかふかの胸に顔を埋めている。
彼女の大きな胸はドラゴンも堕としてしまう魅力があるのだろう。
正直メグルは羨ましかった。そう言えば此処最近、あの双丘を堪能していない。それを察知したのか、ミアは彼に呆れたような視線を投げかける。
「……」
「……メグルさん。まさかあんな小さなポケモンにまで嫉妬してるだなんて言いませんよね?」
「してねぇよ」
「絶対してます」
「してねぇよ」
「ぷにぷに」
※※※
「つっても、ぶっつけ本番は正直怖いモンがあるし……練習させて貰うぜ、サメハダー」
「ジョォォォーズ!!」
此処はカテドラルシティ近海の砂浜。
転送してもらったサメハダーを放つと、なんとまあ大きい。
背びれを入れて高さは3メートル。人は簡単に食えてしまうだろう。
とはいえ、巨大な魚ポケモンはヘイラッシャで慣れている。その嵩む餌代についても、だ。
これでも合成飼料で最低限負担を抑えられているのであるが。
(そんでもってサメハダーはヘイラッシャ以上に積極的なプレデター気質。こうやって海で運動させねえと鈍っちまうんだと)
「よろしく頼むぜサメハダー」
「ふぃるふぃー」
「ジョォォォーズ……!!」
警戒するように唸り声を上げるサメハダー。
やはり元々凶暴なポケモンというだけあって、御すのは難しいか、とメグルは考える。
とはいえ、そこはニンフィア、バサギリ、と戦闘狂の凶暴ポケモンを従えてきただけはあり、今更怯えはしない。
傍にはニンフィアも居り、それ以上近付くならば攻撃するぞ、と言わんばかりに威嚇している。
緊張感がその場に漂っていたその時だった。
「ぷにぷに」
うに、うに、とメグルの足元にいつの間にかアゴジムシが這い出していた。
ボールに仕舞っていたはずなのだが、いつの間にか飛び出していたらしい。
そのことに気付いたメグルは「あれ!? お前何で此処に!?」と狼狽える。
ちらり、ちらり、と主人、そしてサメハダーの顔を交互に見たアゴジムシは──
「ぷにぷに」
「ジョォオオオオオーズ!? ジョォォォオオオーズ!!」
──取り合えず目の前のサメハダーに飛びつき、顎で挟むのだった。
「アゴジムシちゃんンンンーッ!?」
「ふぃるきゅーっ!?」
「ジョォオオオオオオオオズ!?」
痛みでばたばた、とのたうち回り、アゴジムシを撥ね飛ばすサメハダー。
くるり、と宙返りしたアゴジムシはそのまま何事も無かったかのように砂浜の上に降り立つ。
「お前ーッ!! お前ーッ!! 辺りのモンに見境なく噛みつくのやめろって言っただろが!! これでアイツが怒ったら──」
「ふぃー!」
「ああ!?」
アゴジムシに怒鳴り飛ばすメグルに、ニンフィアが背中をリボンで叩く。
振り返ると──サメハダーの様子がおかしい。
「ぴぃ、ぴぃぴぃ……」
鰓口から聞こえてくるのだろうか。か弱い鳥ポケモンのような鳴き声が聞こえてくる。
先程までの威圧的な態度とは打って変わって、サメハダーは鰭で己の身を守るようにして後ろを向き、そして震えていた。
メグル達は──あまりの変わりように呆然とする。
【サメハダー きょうぼうポケモン タイプ:水/悪】
【捕食者としての面ばかりが知られ、意外と小心であることは知られていない。長生きの個体ほど臆病者であるとされる。】
メグルは図鑑の説明を見て唸る。
結局の所、さっき威嚇していたのも警戒していた、怯えていたという事だと理解した。
「長生きしたサメハダー程臆病者ってか。そういやこいつピラニアからサメに進化するんだっけかな。ピラニアも小心者なんだっけ」
「ぴぃぃいい……ぴすぴす」
「ほら、アゴジムシは引っ込めたから。もうお前を挟んだりするやつは居ないから」
「ぴすぴす……」
鰓口から、か弱い鳴き声が聞こえてくる。そこには海のギャングとしての原形は無かった。
あまりにも不憫なので、メグルは「分かった分かった」と彼の頭を撫でる。鮫肌で手が逆剥けたが気にしない。
「そうだよな。怖かったよな。俺達戦ったばっかだもんな。俺達もちょっとお前の事を誤解してたよ」
「ぴぃー……」
「一緒に頑張っていこうな」
「ふぃー? ふぃーふぃー」
ニンフィアもリボンから放つ癒しのオーラでサメハダーを落ち着かせてやる。
暴れる新入りを諫めたことはあっても、臆病な新入りを慰めるなど初めてのニンフィアなのだった。
(しっかし参ったな……この性格で果たして実戦で戦えるのかね……?)
【ヒエラルキー:アゴジムシ>ニンフィア>サメハダー】
とはいえ、図らずもアゴジムシのおかげでサメハダーの本来の性格を知ることが出来たため、結果的にはこれで良かったのかもしれない、とメグルは己に言い聞かせる。
もしもバサギリのような性格だと思っていたら、戦闘中にミスマッチが起こり、大事故が起きていた可能性があるからだ。怯えるサメハダーにバサギリのような突撃戦法は出来ない。
結局の所、トレーナーの指示は、そのポケモンの性質を理解していることで最大限効果を発揮するのである。種族単位ではなく、個体単位で、だ。
「取り合えず、このライドギアをお前の背中に嵌めて……」
「ぴぃー……ぴぃー……」
「大丈夫だから。取って食ったりしねえから。これで良し、と。ほら、俺がずっと背中に乗ってやるからな」
「ぴぃー……」
「しっかしお前でかいな、よじ登るだけで一苦労だぜ。しかも鱗がバリバリに逆立ってるし」
既にウェットスーツはサメハダーに擦れて破れてしまった箇所がある。
”さめはだ”は触れた相手を傷つけるサメハダーの特性だ。しかし、サメハダーは紙耐久であるが故に噛み合わせが悪い。
幸い、特性パッチがまだ余っていたので、メグルは此処でサメハダーに使ってしまう事にした。
「これで、海上でも今まで以上に凄いスピードで走れるんじゃねえか」
【特性:さめはだ→かそく】
「ぴぃー……」
「よーし、早速試してみるか……っと!!」
ライドギアの操縦レバーを引くと、サメハダーは海へと飛び込む。
「いっけぇ、サメハダー!! 加速しろっ!!」
「ぴぃっ──ジョォオオオオオオオオズ!!」
白い波が立つ。
ベルトで固定していなければ、メグルは振り落とされるところであった。
想像以上のスピード、レバーを握り締めているだけで精いっぱいだ。
「はっ、速──やっべぇ!! しかも、どんどん速くなるっ!!」
「ジョォオオオオオオオオオオオオズ!!」
「ストップ、サメハダー!! 俺、付いていけねえ!! サメハダー!!」
結局、サメハダーが満足して陸に上がる頃には、その速度に振り回されたメグルはすっかり参ってしまい、口から泡を吹きかけていた。
速度は申し分ない。しかし、メグルの三半規管がそれについていけてないのだ。
(クッソ……こいつぁとんだ暴れサメだ……正直ナメてた……)
「ジョォーズ♪」
「は、ははは、ジョーズに泳げましたってか……ハハハハハ……おえっ……」
【ヒエラルキー:アゴジムシ>ニンフィア>サメハダー>メグル】
久しぶりに思いっきり泳げて満足したのか、サメハダーは上機嫌だ。
しかし、上に乗るメグルはライドギアから降りる気力すら失ってしまっていた。
目が回る。頭が回る。正直酔って吐いてしまいそうだ。
乗れるのは良いが、メグルがサメハダーについていけていないのである。
ヘイラッシャとはあまりにも勝手が違うのだ。
(思い出せ俺……昔、ハズシさんに教わったことを思い出しながら、サメハダーの速度に、俺が慣れるんだ……!!)
ライドギアに於いて重要なのは乗っているポケモンを制御する事ではない。先ずはトレーナー側がライドポケモンの性質に慣れる所から始まる。
乗っただけで振り回されている今のままでは実戦でメグルがサメハダーを乗りこなす事は──出来ない。
「ふぃるきゅー……」
「ぷにぷに……」
あまりにも無様な主人に、ニンフィアとアゴジムシも流石に心配になってくるのだった。
※※※
一方アルカとミアは──新たに海上を泳ぐことができるポケモンを探していた。
防波堤に座り、二人は並んで釣り竿を垂らす。
何やかんや、水タイプのポケモンを手に入れるならばこれが一番確実で一般的な方法と言われるのだ。
「アルカさんって釣りとかされるんですか?」
「全然しないよ。これが初めてかも。形からって思って”すごい釣竿”買ったけどさあ、何も釣れないねえ」
「場所が悪いのかもしれません」
「ミアは釣りしたことあるの?」
「そこそこです。カントーには釣り場もありますし」
「あーあ、釣りたいなぁー、大物。ギャラドスとか来ないのかなあ」
「アルカさん、マーニャにコイキングは居ません……」
「あっ、そうなんだ。あいつ何処にでも居そうなのに……おっ、引いてる引いてる!」
ぐいぐい、と竿が引っ張られ、彼女はリールを思いっきり回す。
竿のしなり方は尋常ではない。少なくとも小型の魚ポケモンの引き方ではない。
額に汗を伝わせながら、アルカはリールを回し続ける。
「これ、相当重いよ!! 大物だ!!」
「本当ですか!? 手伝いますっ!」
「サンキュー、ミア! 支えてて! おらおらおらーっ!!」
ミアがアルカの腰を支え、アルカが釣竿を引っ張り上げる。
ずるずるずる、と音を立てて、岸壁を伝って何かが──引き上げられた。
「また会ったね。この私を釣り上げるとは、どうやら君達は見る目があるようだ」
【”通りすがりの変態”シャイン・マスカット】
「ところで此処は何処だ? ラズと素潜り勝負をしていたんだが随分遠い所に──」
アルカとミアは──引き上げたそれを蹴飛ばし、海の中へと突き落とす。
そのまま、何事も無かったかのように振り返ると、釣り道具を片付けて、その場を後にするのだった。
全身ウェットスーツだ。全身ウェットスーツのダイバーではあったが、確かに見覚えしかない変態であった。ただし──ウェットスーツの色は全部金ぴかだった。見ているだけで、あの全身ハチミツを思い出す。まだ何もやらかしてはいないし、むしろ不憫ではあるのだが、これからやらかすかもしれないので、やっぱり見ない事にしたのだった。
「……場所、変えよっか……」
「そうですね……」
後ろからは「フッ……今日の所は私の敗けということにしておこう、だが次はこのシャイン・マスカットが──」と聞こえてきた気がしたが、二人はスルーした。何も見ていない。聞いていない。
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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