続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「……どうしよう、ドエらいもん見ちゃったよ……」
「釣れなかったの絶対あの人があの格好で泳いでたからでしょう……」
「もう浮かび上がってくれなかったら助かるんだけどね、大いに」
顔を引きつらせながら、アルカは釣竿を引っ張る。
引いているのだ。今度こそ大物と思いたい。
「あっ、きたきた!! 流石すごい釣竿!! お値段以上のスペック!!
「お力添えしますッ! むぎぎぎ! お、重い!!」
「こんなのどかな近海に大物が──こりゃあヌシポケモン引き当てちゃったかもね!!」
ざぱんっ!!
音を立てて、それは海面へと一気に引き上げられ、桟橋に叩きつけられる。
ごろごろ、と転がってきたのは──巨大なコイキング。
大きさは2メートルほど。やたらと大きな図体に加え、ダイビング用のロングフィンらしきものが尾びれにあたる場所から生えている。
ごろん、と転がすと──
「此処は何処だ? シャインと素潜り勝負してたら──」
「チェストォォォーッッッ!!」
今度も二人共判断が早かった。
ほぼ同時に足が出ていた。哀れコイキングの着ぐるみは海へと叩き落とされたのである。
「おいこらテメェらゴボッ何しやがる!! ゴボッゴボボボボ、げぇっ!! 野生のキバニア──ゴボボボボボ」と声が聞こえたが、二人共気にしない。
よくもまあ、あの格好で今の今まで潜ることができていたものである。
だがもう二人はポケモンよりも珍妙なモンスターに出くわすのはゴメンなので、そのままバスに乗って遠く遠くへと向かうのだった。
「最悪だよマジで!!」
バスの中でぐらぐら揺れる中、アルカが憤慨した。横ではミアが眉間を摘んでいる。頭が痛い。激しく。
「何なんだよ今日は!! ポケモンは一匹も釣れない癖に見た事のある変態と馬鹿ばっかり釣れるんだけど!!」
「……そういうツキの日だった、と諦めるしかありません。馬鹿と変態ばっかり釣れる日だった、と」
「嫌だーッ!! 馬鹿と変態にこれ以上出くわすのは嫌だーッ!!」
「あらあら……大変そうですね……私も
二人はぐりん、と首を横に向けた。
席に座っていたのは──見覚えしかない白ワンピースの素敵なお嬢様であった。
(ウボァーッ!! 今度はエナドリ馬鹿だーッ!!)
(何で当然のように隣の席に座ってるんですか貴女はーッ!!)
「ごきげんよう♪ アルカ様とミア様」
「ぴかぴーか!」
その肩には相棒のピカチュウまで乗っている。
変態、馬鹿と来れば、やはりこのモンエナお嬢様が来るのは最早避けられない流れなのかもしれない。
覚悟はしていたが、よりによって逃げ場のないバスで出くわすとは、と二人は頭を抱えるのだった。
「え、えーと、この間ぶりだね……馬鹿と変態……じゃなかったお供達はどうしたのさ?」
「ラズとシャインったら、私をほっぽりだして素潜り対決なんて始めたんですのよ!」
「そうなんだ……酷いね……ほんと色んな意味で……」
「ええ! 全くもう、次に会ったら
レモンは何処からともなく大きなココナッツの実を取り出す。
そして、掛け声も無しに両手で実を抑えつけるとピシッと罅が入る。
「大体あの二人、今回は伝説のポケモンの調査だって言うの、分かっているのかしら?」
そのままストローを裂け目に突き刺すと、優雅にミルクを飲み始めるのだった。
一連の行動に、彼女がお嬢様であるにも関わらず護衛が全く必要ない理由の全てが物語られている。
彼女の表情、態度、そこには本気で怒っている様子は全く見られない。つまり──少し力を入れただけでこれなのである。
(ゴ、ゴリランダーじゃん……何であのバカでかい実を握力だけで割れるのさ……そりゃ付き添いなんて要らないよ。オマケにストローを刺す裂け目を作る程度に加減する精密動作性……技巧派ゴリラだ!!)
(私には理解出来ない領域です……もしもあの力で頭蓋を抑えつけられたら輪ゴムを何重にも巻いたスイカの末路みたいに……)
「と、ところでさ、レモンちゃん」
「何ですの?」
「伝説のポケモンについての調査って、どれくらい進んでるの? ボク達も似たようなもんだから気になっちゃって」
「全く進んでませんわね♪」
(デスヨネー……)
「でも、マーニャにはヴォルカニドやブリザベオのみならず、至るところに色んな伝説がありますの。私達はそれを調査していますのよ」
「伝説って?」
「ああ、これを見て下さいまし。SNS上にアップロードされた正体不明の怪物の数々。ヌシでなくとも滅多に姿を現さない珍しい種類のポケモンと考えられていますわ」
「それは伝説は伝説でも都市伝説の類じゃん」
「胡散臭いですね」
「バッサリ斬られましたの!?」
「また着ぐるみか変態だったらどうしてくれるんですか? 次にアレを見せられたら、私バルジーナみたいな髪になってしまいますよ」
カチカチと爪を噛みながらミアが言った。真面目な彼女にとって、変なものを続け様に見せられていることは相当のストレスであった。
普段は大人びているが、意外と神経質なのである。
「私達は水タイプのポケモンを探しに来たんですよ。胡散臭い伝説なんかに付き合っていられません。そうですよね、アルカさん」
「うーん、話を聞いてみてもいいんじゃないかな? 何か手掛かりになるかもしれないし」
「アルカさん……私もう嫌ですよ、変なものを見せられるのは」
「水タイプっぽいものでしたら、こちらは如何かしら?」
レモンがスマホロトムの画面を二人に見せた。
そこには、沖合にぼんやりとみえる巨大な首長竜のような影が映っていた。
──曰く。
河口に立ち入った観光客たちが、川を沿って進んでいると綺麗な歌声のようなものが聞こえてきたという。
聞き入っていると、眠くなってしまい、辺りの1人が昏倒したように寝てしまったため、全滅する前に急いでその場を脱したというものだ。
「──聞いたものは眠ってしまう恐怖の旋律。現地民からは伝承になぞらえ
「何故、人魚?」
「人魚は昔から歌で船乗りを迷わせ難破させる、という伝承があります。その正体は海域に生息するポケモン。要は歌で人を惑わせる力があるポケモンです。人を眠らせる魅惑の歌を歌う存在を、美しい人魚になぞらえたのでしょう」
人魚と言えば、下半身が魚、上半身が美女の架空の生物だ。
このポケモンの世界でも、ポケモンではない幻の存在として語られることが多い。
それを踏まえると、河口に潜む怪異を現地の人々が人魚と呼んで畏れるのも無理はないのかもしれない。
「しかし、厄介ですね。近付いたら寝てしまう歌を操る
「迂闊に近付けないよ」
「そうですの! そこで私、用意しましたわ! 此方をどうぞ!」
そう言って、レモンが鞄から取り出したのはノイズキャンセリング付きの無線イヤホンのような小型の機械だった。
「こちら、私達”シトラス・トレーナーズ社”が開発した新アイテム! ”こうきゅうみみせん”ですの!」
【こうきゅうみみせん 持ち物 ポケモンに持たせると音技を無効化するようになる。】
「相手が歌うポケモンならば、必須級アイテムですの!」
そう言って彼女はアルカ、そしてミアの二人に耳栓を手渡す。
どうやら通常は人間サイズだが、アタッチメントを付けることで全てのポケモンに対応できる優れものだという。
「ねえねえ、試しに付けてみても良い!?」
「ええ勿論ですわ!」
「わーいわーい、付ける付ける!!」
「子供ですか……」
はしゃぎながら耳栓を付けるアルカ。呆れるミア。
しかし、しばらくして──何が起こったか分からない、と言わんばかりにアルカは静かになってしまう。
「どうですか? アルカさん」
「……?」
「聞こえてますかー? 私の声」
「……?」
「メグルさんがアルカさんの名前が書いたプリン食べて、慌てて代わりのプリン買ってましたよ」
「……?」
完全に無反応。
ミアが何を言っているのか分からない、と言った様子だ。
「ねえミア! 何か言った!? 本当に何も聞こえないんだけど!」
「効果は本物ですね」
「オシアス地方で流通しているバトル用道具は、私の会社が作ったものですわ! 今回は特別にお二人にも貸しますの!」
「周りの音がすん、って消えたみたいで──これ本当スゴいよ!」
耳栓を外したアルカが、感心する。
しかし、それを見てミアの中では1つ、懸念が浮かび上がるのだった。
「……確かに”歌”とやらを遮断は出来るでしょうけど、使いどころは要注意です。互いに意思疎通が出来なくなってしまいます」
結論、そこに行き着いてしまう。
辺りの音全てを遮断するということは、会話によるコミュニケーションも封じられてしまうということだ。
「そうだね。ま、スマホロトムでメッセージ送り合えば良いでしょ。筆談の電子版。それよりも、相手に眠らされる方が厄介だよね」
「ただ……問題はこの耳栓、3つしかありませんの」
「……え? マジ?」
「ええ、量産性がすこぶる悪いんですの」
「こんなに強い道具がそう簡単に作れて堪るかって話ですからね……」
とはいえ、トレーナーである彼女達が寝てしまっては何も意味がない。
彼女達は問題の河口に、この耳栓を持ち込むことにしたのだった。
しかし、この強力すぎる道具は当然のように様々な問題を誘発するわけで──
※※※
──辺りは鬱蒼とした樹木が生い茂っており、薄暗くなっている。問題の河口に訪れた一行は、早速不穏さに息をひそめるのだった。
いつ人魚の歌が聞こえて来ても良いように、既に三人共耳栓を付けている。しかし。
「ところでさぁ、今気づいたんだけど、これ歌が聞こえないなら相手がそろそろ近付いてきたとか分からなくない?」
「辺りが暗いですね。何処に何が居てもおかしくありません、警戒を」
「エナドリが欲しくなってきましたわね……」
※全員、自分の声が相手に聞こえていないことを忘れています。
「あっ、いけない、メッセージ送らないといけないんだった」
『これ歌が聞こえないなら、相手がそろそろ近付いてきたとか分からなくない?』
そうやってスマホロトムに文字を打ち込み──アルカは叫ぶ。
「これテンポ悪いな!! もっと他に何か伝達方法無いの!?」
当然、その声も誰にも聞こえるはずがない。
そうこうしている間に隣を歩くミアから返信が返ってくる。
『確かにそうですね……歌以外に手掛かりがあれば良いのですが。視覚内にポケモンが現れるまで警戒を怠らないように』
『エナドリが飲みたくなってきましたわ……』
「エナドリはいつでも飲めばいいじゃないですか、このカフェイン中毒者ッ!!」
「……?」
「しまった勢い余ってツッコんでしまったけど、今は何も聞こえないんでしたぁ……」
頭を抱え蹲るミア。ツッコミ担当にとって、この状況は激しくもどかしい。
因みに、レモンのエナドリのストックは既に切らしてしまった後である。誠に残念だが。
『……待って。止まって』
『どうされましたか? アルカ様もエナドリ切れですか?』
『いやエナドリ違うから。……変な匂いがする』
『またエナドリの匂いじゃないでしょうね』
『だからエナドリ違うから。……これ腐臭だよ。生き物の肉が腐った匂いだ』
二人は首を傾げる。
鼻をすんすん、として辺りの匂いを嗅ぐが、それらしいものは感じられない。
しかし、常人に比べて五感が鋭敏なアルカは、彼女達よりも早く嗅ぎ取る事が出来たらしい。
『
『グロテスクですわね。あまり近付きたくはないかも』
『でも、おかげで相手の居場所は分かったようです。このまま先に進めばいいかと。アルカさん、腐臭のする方角に案内してください』
此処から先はアルカが先行して進むことになるのだった。
常に川の方向に注視しながら、腐臭のする方角へと上っていく。
しばらくしてレモンとミアも思わず鼻を摘んだ。腐臭が強烈になり、二人にも感知できるようになったのだ。
「これはひどい……!! 何の匂いですの……!?」
「咽てしまいそうです……」
「ッ……なんか、視界も悪くなってきたな……」
辺りには白い霧が立ち込めてくる。
思わずアルカは川の方を見やる。
何か──嫌な気配を感じ取り、二人の前に出てボールを構えた。
「アルカさん……?」
「ッ……」
どうせ二人に聞こえはしない。故にアルカは手を伸ばし、二人を守るようにして制する。
「……居るんでしょ? 来るなら出て来なよ。隠れてないでさ」
そう問いかけると──霧の奥に黒い影が浮かび上がった。
そして、水を掻き分け、それはすっくと現れる。
見上げる程に長い首。
魚のようなヒレに、どんな衝撃や水圧にも耐えうるゴム質の頑強な皮膚の背中。
トラバサミのように尖った歯、そしてカッと開かれた金色の目。
一目で”関わってはいけない”と思わされる形相を表す言葉は──”悪魔”の二文字。
霧を吹き消せば、その全貌が露わになる。
「ぷれしぉおおおおおおおおおおおおおる!!」
耳が聞こえなくとも、全身を揺さぶるような咆哮が彼女達を震わせる。思わず、その姿を見たミアはぱっと頭に浮かんだ名を呟いた。
「ラプラス……!?」
ラプラスは”のりものポケモン”の分類で知られる甲羅を背負った首長竜だ。
海を泳ぐことに長けており、乗り物、あるいは荷役として人間との関りも深く、穏やかな気質で知られている。
しかし、今目の前にいるのは、ミアの知るそれとは大きく異なる姿。
攻撃的な顔立ちに加え、甲羅が退化しており、体色も通常の種類に比べて黒ずんでいる。
即ち、目の前の個体が攻撃的な捕食者として進化したリージョンフォームであることを彼女は直感する。
カントー地方の古い文献にあった”オサ”と呼ばれる漂流した個体に代表される、”暖かい海、あるいは深海に適応したラプラス”だ。
問題は──本来は深い海に住まうような生物が、何をトチ狂ったのか河口付近に居座っていることであるが。
「なーにが
「こんなポケモンが河口に……!! 壮観ですわね……!!」
流石のレモンも口元に余裕の無さが現れている。
声が聞こえなくとも、空気の震えで辺りに”歌”が満ちていることが嫌でも感じ取れる。
ピカチュウを出しても、すぐに眠ってしまうであろうことは確実だ。
(それにしても小さい……小さいけど、威圧感は十分……!)
サイズからして、まだ子供。生息域からはぐれて河口に流れ着いたのではないか、とミアは推測する。
しかし、それでも捕食者であることには変わりないのであるが。
【ラプラス<マーニャのすがた> せんこうポケモン タイプ:水/悪】
【深く潜るために甲羅が退化した。近付いたものに鋭い歯で噛みつき、深海に引きずり込む。】
カチン、カチン、とトラバサミのような歯を噛み合わせながら、ラプラスは此方へ首を近付けてくる。
思わずミアとレモンはボールを構えた。このままでは戦闘になる。しかし──
「待って」
それを阻むように、腕を大きく広げ──アルカが、二人の前に立ち塞がる。
ボールを投げることを制止するように。
「この子……多分、戦う気は無いよ」
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