続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「あー……クソ、エラい目に遭った……」
ぜひゅぜひゅ、と酷い息を切らせながらメグルは陸に上がる。
サメハダーだけは楽しそうに浅瀬をぐるぐると回遊しているが、ずっと付き合っていたトレーナーの方の体力が持たない。
やはり右目の視力を失っているだけあって、高速遊泳の際に平衡感覚を保つのが難しいのではないか、とメグルは考える。
考えた所で右目が見えるようになるわけではないが、それでも──もし両目の視力が健在ならば、と考えずにはいられない。
浜辺の方はだんだん荒れてきており、メグルはこんな中でもう一度チャレンジしようとは思えなかった。
「サ、サメハダー……そろそろ戻ろうぜ。一旦俺は休む……」
「ジョォォォーズ」
ちゃぷちゃぷ、と音を立ててサメハダーは浜辺の方へ乗り上がった。聞き分けは良いのだ。非常に。
つまりすべての問題はサメハダーを乗りこなせていないメグルにあると言ってもいい。
(そういやニンフィアは──)
「ふぃるふぃー」
向こうでは、ビーチパラソルの下でサングラスを掛けたニンフィアが器用に”ミックスジュース”をリボンで巻き取って飲んでいた。お気楽なものである。
(満喫しとる……クソッ、羨ましいヤツ……! 俺も休む……ん?)
サメハダーをボールに戻そうとしたその時だった。
ざっ、ざっ、と浜辺の方から足音が聞こえる。見ると──全身サーフィンウェットスーツに身を包んだ男が波が荒れ始めた海へと入っていく。
そして、荒れ狂う波の中へとボールを投げ入れた。中からは魚雷のように鋭利なフォルムをしたオニカマスのようなポケモンが飛び出す。
背中にはそのサイズに合わせたライドギアらしきものが取り付けられていた。カマスジョーの体長の関係上、ハンドルを握って人間は引っ張って貰う形になる簡易的なものである。
サメハダーのようなサドル型とは違い、手を離せば海の中へ放り投げられるのは確実な代物だ。
「さぁ、愉しもう!! カマスジョー!!」
【カマスジョー くしざしポケモン タイプ:水】
だが、一度海に入ってしまえば速かった。
男はカマスジョーのハンドルを握ったまま、荒れ狂う波の中へと突っ込んでいき、そのままサーフィンするように波に乗って宙へと飛び出し、一回転してみせる。
カマスジョーの速度はサメハダーを優に上回るが、その速さに振り回されるどころか完全に乗りこなしている程の波捌きにメグルもサメハダーも呆気に取られていた。
そのまま、一際大きな高波が押し寄せてくるが──それを好機と見たかのように、カマスジョーは波に乗って、高く高く、まだ高く昇っていく。
一頻り、即席のサーフショーに見惚れたまま放心していたメグルは──カマスジョーを乗り回していた男に声を掛けられ、漸く我に返るのだった。
「君もポケモンライドを愉しみにきたのかな?」
「は、はい……! す、すごかったです! ──どんなに練習したらあれだけ乗れるようになるのかなって──! えっと、もしかしてこの辺で有名なライドトレーナーだったりとか──」
「止しておくれよ。小生は趣味が高じてこうなっただけだ。教えられるような身分ではないよ」
「そうなんですか……!? いや、でも、俺、あんな高い波乗れないですよ」
「ははは。君の波乗りは遠巻きで見えていたよ。初めてにしては悪くないと思うね? 何か他のポケモンに乗っていたのかい」
「ヘイラッシャ……」
「ああ、それはいけない。ヘイラッシャの次がサメハダーか。大型客船からロケットミサイルに乗り換えるようなものだ、さぞかし苦労していると見える」
「例えが船ですらねえや」
あれも頑丈でなかなか良いポケモンなんだがね、と男は付け加えた。
メグルも同意する。鈍重で巨大なヘイラッシャと、泳ぎが非常に速く小回りの利くサメハダーでは乗り心地が全く違うのだ。
とはいえ今回の戦い、広い海を駆け抜ける以上、サメハダーを使う以外の選択肢は無いのであるが。
「えーと……速いポケモンを乗りこなす上で、何かコツみたいなものってあったりしますか?」
「そうだな。強いて言うなら恐れない事──何より、速さを楽しむことだろう」
「楽しむ?」
「ああ。風を切る感覚、振り落とされそうになるような衝撃。その全てを楽しめるようになる頃にはサメハダーを乗りこなせているだろうね」
「……楽しむ、か」
「そうだ。ポケモンと共に波に乗って風を切り、宙を舞う!! 何と楽しい事哉!! それを恐れていては、ポケモンと共に海を駆け抜けるなど夢のまた夢!!」
「……」
残り2日に迫った、ワームホール公団、そしてブリザベオとの戦いを考えると心の中で恐れがどうしても渦巻く。
しかし、それに伴う焦りが彼の操縦に悪影響を及ぼしていることは確かだった。
(……そうだ。一回小難しい事は全部忘れよう。こいつと一緒に……波に乗るんだ!)
パン、とメグルは自らの両頬を叩く。
「カマスジョーの速さはサメハダーを誘導するには丁度良い。エスコートしよう」
「いいんですか? ……よろしくお願いしますっ!!」
願ったり叶ったりの提案だった。
二人は海に飛び出す。
サメハダーがカマスジョーを追いかける形で、再び加速を始めた。
しかし、なかなかうまくいかない。
波が荒れ狂う中、サドルで加速、減速、そして舵取りを指示するわけだが──タイミングを誤ると波に乗れず、そのままサメハダー共々水面に叩きつけられてしまうのである。
かれこれ開始してから10分。
もう何度水面に叩きつけられ、痛い思いをしたか分からない。
「えほっ……えほっ……ダメだ……うまくいかない」
「制御しようとするな! 流れを受け入れ、波風と一体になるんだッ!!」
「はいッ……!!」
「さぁもう一度だ! 楽しもう!」
サドルを握り締め、二人は
(速いッ……体が振り落とされそうだ!! だけど……!!)
「うおっ、おおおおおおおおおッ!!」
全身に襲い掛かる風圧をう受け入れ、思いっきりメグルは前傾姿勢を取る。
サメハダーもそれに応えるようにして更に加速。カマスジョーに並ぶほどに追い上げていく。
「分かって来たか!! いや、理解するな感じるんだ!! 風を、波を、そして大空を!!」
「はいっ!!」
「じゃあ、最後はあの大波に乗るとしようか!!」
「はい──え”ッ」
目の前には見上げる程の巨大な波が高く高く巻き上がっていた。
完全にテンションが上がったサメハダーとカマスジョーは臆することなくそれに突っ込んでいく。
一瞬気持ちが引けてしまい、減速しようとするメグルだったが──
(……いや、恐れるな!! 乗りこなすんだ!! 流れを!!)
思い切ってサドルを握り締めて真正面から流れへ突っ込んでいく。
カマスジョーとサメハダーは波を駆け上がり、そして宙を舞った。
二人の気持ちは最高にハイになっており──思わず「ヒャッホーウ!!」と甲高い雄叫びを上げるのだった。
※※※
「……まだ少し拙いところはあるが、練習すれば小生よりも上手くなるかもしれんぞ?」
「ありがとうございました……!! 助かりました……!!」
「何。大したことはしていない。小生は最初から楽しんでいただけだからね」
「……流れを乗りこなすんじゃない。流れと一つになる」
「そうだ、分かってきたようだな!」
ハハ、と高笑いすると──男は浜辺に上がり、カマスジョーをボールに戻し、メグルと向き合った。
「君とはまたどこかで会えるような気がするよ」
「ええ。一緒にライド出来たらいいですね」
「ああ……楽しみが一つ増えたよ!」
すっかり意気投合した二人は、波が収まり穏やかに満ちていく海を眺める。
「しかし、随分と熱が入っていたが……サメハダーで何処か危険な場所にでも行くのかい?」
「えっ!? あーいや、それは──そんなところですね。うん」
聞かれると痛いところを聞かれ、メグルは適当に誤魔化した。
サメハダーの使い道など言えるはずもない。確かに危険ではあるのだが。
「だから、急いで仕上げようとしてたんですけど……それが良くなかったみたいだ。先ずは楽しむところから、ですか」
「ああ。乗り物のつもりでライドしても絶対にうまくいかないからね。私もカマスジョーと幾度となく波を乗り越えて、絆を深めている。大事なのは……心身共にポケモンと一つになることだ」
トレーナーとして激しい戦いを繰り返しているとついつい忘れてしまいそうになることだが──それが最も大事な事だ、と改めて思い知らされる。
特にライドはトレーナー自身の技量と、ポケモンとの関係性が試される。今まで以上に、心を通わせなければならない。
「君の波乗りが上手くいくことを祈っているよ」
「……ありがとうございました!」
浜辺を去っていく男を見送り──メグルは、サメハダーの入ったボールを手に取る。
焦りも恐怖も完全に消え去ったわけではない。だが、波には逆らわず、乗りに行くべきだということは今日の練習で思い知らされた。
後は、サメハダーとの連携を完全なものにしていくだけだ。
いずれにせよ、自分一人だけではどんどんドツボに嵌ってしまっていたことは想像に難くない。
メグルは、カマスジョーの男に心の底から感謝するのだった。
「ふぃるふぃー」
「……帰ろうか、ニンフィア。アルカ達も無事に終わったみたいだし」
スマホロトムのメッセージアプリには目当てのポケモンを捕まえたらしいアルカの書き込みが残っていた。
引っ掛かるものがあったのか少々歯切れの悪い文面にはなっていたが、それは直接聞けばいい話だ。
夕焼けがかかる浜辺を後にしながら──「そういえば」とメグルは思い出したように呟いた。
「……さっきの人の名前、聞くの忘れてたな……ま、いっか!」
※※※
「あー、楽しかったなぁ……あの少年、次に会った時はどのようなライドを見せてくれるだろう! 本当に、本当に楽しみだ! そうだろう、カマスジョー!」
うきうきで男は帰路についていた。
同じ趣味の同好の志、そして共に海を駆け抜けた体験。
鮮烈に、そして強烈に胸に焼き付いた「愉しみ」。それが彼を満たしていく。
「明日も折角の休みだ。何処のビーチへ行こうか、カマスジョー!」
そうボールに呼びかけた。
返事の代わりに、カタカタ、とボールが揺れる。
「そうなると準備をしなければ。高揚感が湧いてくる──」
思わずスキップもしてしてしまう。
しばらくは、明日は何処で何をしようか、と思索を巡らせていた彼だったが──ぴたり、と立ち止まった。
「……あー……
誰もいないのに、彼は一人そんな事をごちる。
冷めていく。理由などは無い。思いつかない。
だが、自分の中に湧き上がっていた高揚感も、情熱も、急速に冷めていく。
しかし男は今更それに驚くこともしない。何故ならば、男の人生で今まで幾度となくやってきた現象だからだ。
あれだけ楽しかったポケモンライドへの入れ込みが失せていく。
明日もライドに行こう、と思っていた気持ちが冷めていく。
彼は──海にカマスジョーのライドギアを投げ捨てた。そして、一言。
「ああ。参ったな……
傍から見れば異常、そして異様としか思えない心情光景に違いなかった。
あまりにも急転直下、ジェットコースターのような情緒。
たった今まで燃えていた趣味に、特に理由も無く、そしていきなり──彼は興味と関心を失ったのである。
そして、この”飽き”を男は心の底から嫌悪していた。
「飽きは……いけない。人生を退屈にする。どんなに楽しい趣味も……必ず飽きる瞬間がやってくる。スポーツ、ボードゲーム、俳句……色々やったが、やはり小生は長続きしないようだ」
ノーゼンは海面に向かって目配せする。
金色の光が浮かび上がっている。そこに目掛けて──カマスジョーの入ったモンスターボールを放り投げた。
「──カマスジョー、
ざぱんっ、と音を立てて海中から──野生のラプラスが飛び出した。
そして、そのトラバサミのような歯でモンスターボールに食らいつき、そのまま「バキンッ!!」と嫌な音を響かせたかと思えば、そのまま深い海の底へと潜っていく。
水面が赤く濁っていく様を意にも介さず、ノーゼンは海辺を後にした。
「
今まで幾度となく、
何事も無かったかのように後ろで腕を組み、ノーゼンは歩んでいく。
その顔は虚無。何の感情も籠っていない抜け殻同然だ。
そんな彼を一気に現実に引き戻したのは──脳に直接響く”声”だった。
『──ノーゼン、聞こえますか?』
”ノーゼン”と呼ばれた男は立ち止まる。
自分と同じ力を持つ少女からの伝達事項だ。
人間という枠組みを超えた──クローン人間としての特殊能力である。
離れた仲間と意思の疎通を行う事が出来るのである。
「ああ、聞こえている、
『
「仕方がないだろう? 飽きたものを手元に残しておいても、萎えるだけだ。小生はミニマリストだからね」
『そうやってすぐにモノもポケモンもポンポン捨てる……頼むから公団支給のクローンの浪費は勘弁してくださいよ』
「公私は弁えているよ。ちゃあんと自分で捕まえて自分で可愛がっていた子さ。良い子だった……今日も一緒に波と一体になり、心身共に一つになった……」
ノーゼンの口元は心底楽しそうだった。
カマスジョーとの思い出を、本心で「楽しかった」と振り返っている。
だが、次の瞬間にはもう何事も無かったかのように「でも飽きたね」トーンダウン。
「飽きたから、そこらへんの海をうろついていたラプラスに投げ込んでやったよ。でも見ていて大して楽しくなかったな。おススメはしないよ」
『……』
流石のユリの返事もしばらく止まっていた。
「おいどうしたんだい?」とノーゼンが呼びかけ、漸く「いや、ごめんなさい」と返事が返って来た。
そして、短い付き合いではないのでユリは単刀直入に言ってのける。
『……貴方やっぱり最悪ですね』
このノーゼンという男は──極度の飽き性であった。
一番タチが悪いのは、自分が飽きてしまった対象を徹底的に排除する点である。
それが趣味であるならば惜しげもなく高額の道具やグッズを処分してしまうし、ポケモンであるならば──末路は言うまでもないだろう。
「……分からないかい? 使わないオモチャは片付けないと……次の楽しみを探せないじゃないか」
これは彼を知る者皆が諸手を挙げて”悪癖”としており、巻き込まれた側は堪ったものではない。
”飽きた”ものは、生物非生物問わず彼にとって”処分”すべきものとなってしまうのだ。
幸か不幸か、ノーゼンは公私を弁えているのが救いであるため、今の所その牙がワームホール公団に剥くことは無い。
無いのだが──それでもユリは「一番関わり合いになりたくない人物は誰か?」と問われれば即座にノーゼンを挙げる。
物事に熱中している時と、
彼はポケモンや趣味に対して、愛情や情熱を本気で注ぐのだ。可愛がるのだ。……飽きるまでのほんの短い間ではあるが。
「大体最悪だの何だのと君にだけは言われたくないよ。弱い物虐めが趣味だなんて、よくもまあ飽きないものだ。小生なら秒で飽きる自信があるね」
『飽きるわけないでしょう? 悲鳴も苦痛も私を喜ばせてくれる。命が一つしかないか弱い存在は、私をいつも喜ばせてくれる』
「やっぱり君にだけは言われたくないな。それで? 君は小生と雑談したかったのかい? ええ? こっちは休日中だ出る所出てやろうか」
『まさか。仕事じゃなきゃ、貴方と口なんて利きたくもありませんよ』
「おお、やはり小生と君は気が合うらしい」
『……ああ、減らず口ばかり。本当に喜ばしくない……』
ユリは──漸く本題を切り出す。
『”
”REX”の単語を聞き、肺の奥から憂いが込み上げてくる。
「ああ、遅い。本当に遅い。前回のヴォルカニド捕獲作戦の時点で”REX”が完成していれば全員まとめて吹き飛ばされたりしなかっただろうね」
『同感です。ただ、私個人としては貴方にだけはさっさと死んでほしいのですが』
「……ブリザベオという特上の楽しみが得られるなら、3度目の死も悪くないさ」
『筋金入りですね……』
「当たり前だよ」
得意げにノーゼンは語る。
「……人生とは死ぬまでの暇潰しさ。今更小生は自分の生死に頓着しないよ」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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