続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第29話:恐れ

「──ねー、メグル。電話、終わったよね?」

「ああ」

「ノオト、何か言ってた?」

 

 ──その日の夜のこと。

 ミアが疲れて寝てしまった辺りで、アルカはメグルのベッドに座った。

 メグルはどうやら、ノオトと連絡を取り合っていたらしく、此処までの経緯やワームホール公団の黒い計画、そしてそれを阻止するための方法を連日話し合っていたのである。

 しかし──問題は仮にもいち地方のトップであるキリと、マーニャのトップであるコチョウが提携関係を結んでしまっていることだった。

 

「証拠もねぇのに、コチョウとの協力関係をいきなり反故にすることは出来ねえって事だ」

「何ソレ……! ノオトとキリちゃん、ボク達に協力できないってこと!?」

「政治は難しいんだよ。列島とマーニャの国交にいきなり影響が出たら多方面に迷惑が掛かるどころの話じゃねえ」

 

 そうなれば、どのようなリスクが起こるか分からない、とキリが語っていたことをメグルは思い出す。

 現在、ワームホール公団の悪事を示す確実な証拠が無い事は此方に対して少なからず不利に働いていた。

 もしもキリとノオトが表立ってワームホール公団に介入した場合、そして証拠を確保できなかった場合、残るのは「サイゴクはマーニャの公的機関に対して妨害工作を行った」という不名誉な事実のみである。

 

「だけど隠密行動と腹に一物は忍者の十八番だぜ。ノオトもそれに追従する」

「……流石キリちゃんとノオトだよ」

「大体向こうも──最初っから真っ黒だったとはいえ──誠実じゃねえぜ。異変解決で提携関係を結んだにも拘わらず、キリちゃんとノオトにブリザベオの捕獲計画を一報も入れてない」

「他の地方に知られたらマズい計画を隠してるから、だよね」

「ああ」

 

 それは最初から秘密裏にブリザベオを捕獲するつもりで、外野を介入させる気など微塵も無いことを示す。

 即ち、ワームホール公団は元よりキャプテン二人を歯牙にもかけていないということである。

 ならばキリも、彼らに友好的なフリをして、メグル達のサポートを影から行うという方向性に切り替えたのだという。

 

「そんなわけだから、明日もう一度計画を練り直す」

「そういえばキリちゃんは──」

「今、偵察に出てるってさ。一人で」

「……そっか」

「ま、キリちゃんなら心配要らねえんじゃねえか? 最強のキャプテンだぜ」

「……」

「俺達も水上移動要員手に入れたし……何も心配する事はねえんじゃねえかってな」

「その件なんだけど……」

 

 おずおず、とアルカが手を挙げた。

 

「……もしかしたら、新しい水タイプの子、捕まえ直すかも」

「えっ……!? だ、だけど、もう時間ねえんだぜ!? 何でまた──」

「あの捕まえたラプラス……まだ、子供なんだよね。しかも──」

 

 アルカは今日起きた出来事を事細かにメグルに話した。

 途中彼は何度か驚いたような表情を見せてはいたものの、最後まで黙って聞いていた。

 

「そーか……親を亡くしたばっかの子供のラプラスを、ヤベーポケモンの出る所に出すのは流石に気が引ける──」

「うん……」

「それは、俺でも気が引けるっつーか……お前の気持ちは、よーく分かるわ。俺だって本当は、お前にマニャカ海峡行ってほしくないくらいだし」

「んなッ、それは過保護すぎ! メグルが行くところにボクも行くんだもん!! それに、ボクはバトルなら君よりも──」

「強いとか弱いとか関係ねえんだよ、結局」

 

 メグルは目を伏せた。

 

「もう、居なくなってほしくねえだけだ。誰も俺の周りから……居なくなって欲しくない」

「ッ……ごめん」

「アルカの所為じゃない。だけど、同時に──ワームホール公団の奴らを放置していて良いわけもない」

「……じゃあ、どうするの?」

「俺がお前に、マニャカ海峡に行ってほしくないって言った時、お前反発しただろ」

 

 どうせ止めても行くのは分かり切ってるけど、とメグルは付け加える。

 だからこそ堪らなく怖くもある。しかし、同時にそれは──アルカの意思でもあるのだ。

 メグルは恐れを噛み締めながらも、結局それを肯定するしかない。

 

「お前はラプラスとちゃんと向き合ったのかよ? 優しいのはお前の取柄だけどさ。まだ捕まえたばかりじゃねえか。あいつのこと、全部知ったつもりかよ? 捕まえてから分かる事なんて幾らでもあるじゃねえか」

「……」

「ポケモンと人間はビックリするくらい価値観が違う。俺もポケモンの為って思ってやったことが、裏目に出たことなんて幾らでもある」

 

 これまでも、きっとこれからも同じ経験をするんだろうな、とメグルは考える。

 彼らは人間が思っている以上に「戦い」の中に生きている生き物なのだ。抑えきれぬ闘志を発散するためにバトルをする生き物だ。

 そんな彼らを人間の尺度や価値観に当てはめて考えようとするのが間違いなのかもしれない、とメグルは何度も思わされた。

 

「なんて、俺が言える立場じゃねえけどな」

「……やっぱり、怖い?」

「俺は誰か一人でも喪うのが怖い。お前が近くに居ても……いや、お前が近くにいるのが当たり前だからこそ、怖いんだと思う」

 

 メグルは震える指を眺める。

 結局、睡眠はあれからロクに改善されていない。

 ブリザベオ捕獲作戦が近付くにつれて、不安は大きくなるばかりだ。

 

「だから、俺個人の意見は──アルカにラプラスを使ってほしいと思ってる。ラプラスより強い水タイプのポケモンなんて、そうそう居ない。居るとしてもすぐに用意はできない」

 

 最終的にはお前の判断に任せるけどな、とメグルは告げた。結局の所、どこまでいってもラプラスのトレーナーはアルカなのだから。

 

「……そうだね。ボク、少し難しく考えすぎてたのかも」

「優しいのは間違いなくアルカの美点だよ」

「……ん」

 

 アルカは頭をメグルの肩に寄せる。

 

「ところでさ」

「何だ?」

「ボクを喪うのが怖いのって……ボクがクロウリーに攫われたから、だよね」

「……」

「メグルの調子が悪くなったのは、あの事件からずっとだ。ボクが頼りないから……メグルを苦しめてる」

「違う」

 

 絞り出すように──メグルは反駁した。

 

「……違うんだ。それだけは、絶対に違う」

「……」

「俺は……ずっと、あの事件を引きずってる情けないヤツなんだ」

「そんなことないよ!! あの事件は……誰も悪くない」

「だから、アルカにも、ミアにも、手持ち達にも……100%生きて帰れる方法を何とか考える。それが今の俺に出来る事なんだ」

「それはメグルだけの仕事じゃないよ」

 

 彼の震える手の甲に、アルカの掌が上から置かれた。

 

 

 

「……メグルは今までずっと、皆の為に……ボクの為に戦ってくれた。今度はボクがメグルを助ける番だ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「メグル殿から提供された情報の通り……か」

 

 

 

 ──夜間のマニャカ海峡上空。

 そこには、ばけさそりポケモンのグライオンに乗って空を飛び、海域を見渡す一つの影。

 全身真っ黒のスパイスーツ(光学迷彩付き)を着込み、そして目には高性能な暗視双眼スコープを装着。

 真っ黒な海面の状況を空から細かに確認し、更に同時進行で録画もできる優れものだ。

 そんなマニャカ海峡の状況は──明らかに異様の一言。

 多数の船舶、そして海洋ポケモンがマニャカ海峡を完全に封鎖しているのだ。

 事前通告で危険生物の調査及び捕獲のため、一時的にマニャカ海峡の一部を閉鎖する──といった声明が公式で出されてはいたものの、船のサイズ、数、共に異様の一言。

 重機を始めとした兵器らしきものが積載されており、明らかに普通の捕獲ではない。

 

(こうして一人偵察にやってきた甲斐があるというもの。奴らの行動の異常も、これで感知する事が出来るでござる)

 

『ブリザベオの捕獲の準備を進めてる……!!』

「然り。しかも拙者たちには何の報告も無しに事を進めている辺り……後ろめたいものを隠しているのは確実でござろう」

 

 インカムでノオトとやり取りしながら──上空からの偵察を続けるキリは「とはいえ」と付け加えた。

 

「拙者たちは仮にもワームホール公団と共同戦線を張ることになっている。今回の作戦で表立ってメグル殿たちを助ける事が出来ない……!!」

『でもキリさん、オレっち達ハナからハブられてるッスよ』

「建前上でも協力関係を申し出た相手の邪魔をしたが最後、相手が何をしでかすか分かったものではないからな」

 

 敵の戦力は想像以上に大きい。

 仮にもいち地方のトップであるキリが、今此処でマーニャの公的機関を敵に回すのは非常にリスクの高い行為だ。

 とはいえ、このままではメグル達をスケープゴートにしてしまうことも確実であった。

 

『かと言って座視もできねえっしょ……?』

「なに、心配無用でござるよ、ノオト殿。奴らが此処までの設備を整えているのは──ブリザベオを捕獲できる確証が無いからでござる」

『はぁ。それは逆に言えば、こっちにもブリザベオを捕獲できる算段がねぇって事っしょ』

 

 嫌気の差したような声がインカムから聞こえてくる。

 ヴォルカニドが目覚めた時に引き起こした被害は、ノオトも聞かされていたからだ。

 

『話によれば、ヴォルカニドの熱放出で周りのもの全部吹き飛んだらしいじゃねえッスか。じゃあ対になるブリザベオが同様の被害を出す事も考えられるッスよね』

「然り。だがその被害を防ぐ方法は──無い。奴らも危険を承知で包囲しているのだろう」

『命が惜しくないんスかね!?』

「ないだろうな」

 

 淡々とキリは言った。

 ワームホール公団は、平然とクローン人間やクローンポケモンを作り出し、それを捨て駒にするような連中だからである。 

 抱えられているクローンもそのような「調整」を受けていると考えるのが自然だ。

 

「とはいえ、クローン以外の人間は好き好んでこんな海域で命を捨てたくはないだろう。恐らく、あの船舶の殆どは無人操作であると拙者は考えている。最低限の船員は居るだろうが、本番では引き払うのだろうよ」

『ああ、電気系統とタービンを遠隔で操作し、船内設備はロトムで制御するっていう、今流行りの……!!』

「左様。これで、命の危険があるのはクローンのみに抑えられる。そしてクローンは替えが利く」

『どっちにしても最悪ッスね……!! でも、キリさん。メグルさん達の命は1つしかねぇんスよ!? 大丈夫なんスかね……!?』

「正直心配だ。かと言って奴らにブリザベオが渡ったが最後、どうなるか予想もつかない。伝説のポケモンの細胞をクローン研究に用いるなど正気ではないし、そうでなくとも逃げて暴れたブリザベオが広範囲に被害を出すだろうよ」

 

 いずれにせよ、座視できない事態であることは確かだ。そして、本来ならばそれを止めるべきワームホール公団が今回の黒幕である以上、外部の存在であるキリたちが動かねばならない。

 

「……此方には、()()があるでござるからな」

『サイゴクから取り寄せた()()ッスか……本当に通用するんスかねえ』

「リスクは重々承知の上でござるよ。だから、その上で最善を尽くすのが理想でござろう」

『……やっぱりサイゴク本土から応援を呼ぶべきじゃ……』

「……む? 何だ」

『どうしたんスか?』

「……海面付近に、何か大きなものが……見える」

『ポケモンッスか?』

「いや、しかし……このサイズは……」

 

 高機能双眼鏡が映し出したのは船が取り囲む巨大な影。

 魚型のそれではなく、この位置からでは全貌を掴むことができない。

 

(……何だアレは? まさか、本当にブリザベオ以外に危険生物が──ッ!! 何か、マズい気がする!!)

 

 その時だった。

 何か嫌なものを本能的にキリは感じ取り、サドルを握り締める。

 だが、一瞬だった。

 海面から突如、一直線に飛ぶ青白い光はグライオンを貫いた──

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 ──ピキピキ、と音を立てて、グライオンの身体諸共キリの身体が凍り付いていく。

 致命傷も良い所だった。グライオンの地面と飛行のタイプは、両方共氷技を苦手としている。

 だが、それ以上にキリは自らの身体が急激に凍り付いている事に危機感を禁じ得ない。

 不意を突かれたこと。そして、到底狙い撃てるとは思えない高度への射撃。

 その両方に対し、彼女は何故自分が撃たれたかを逡巡する。

 

(バカな!! この海面から、この高度にいる拙者を狙い撃った──!? これはポケモンの技!? それとも重機!? 否!! あの設備の船舶で、海から捕捉できるはずが──)

 

『キリさん!? どうしたんスか、キリさん!? 応答するッスよ、キリさん!!』

 

 最早ノオトの声に答える間も無かった。

 彼女の身体は一瞬で凍り付き、海へと落ちていく──

 

(姿勢の制御を……!? コントロールを失った!! 忍具は……マズい、凍り付いて使えない!!)

 

 迫りくる海上を見ながら──彼女は顔をこわばらせた。

 このままでは、水面に叩きつけられてグライオン共々木っ端微塵だ。

 何より、既に彼女の全身は氷に包まれており──指の自由すら奪われている。

 

 

 

『キリさんッッッ!!』

 

 

 

 ──ノオトの自分を呼ぶ声だけが、彼女の耳に木霊していくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……素晴らしい。海中から、あの高さの羽虫を狙撃できるとは……REX(王様)の名は伊達ではないらしい。これは楽しくなってきたな」

「ノーゼン様、REXは今、何を撃ち落としたのでしょう……!?」

「REXは空に敵対生命体の気配を感知した。小生はこやつの考えている事が手に取るように分かる──そう調()()()()()()()からな」

「そして、迎撃した、と……」

「ま、あらかた野生のポケモンだろうがね」

 

 どっちにしても助かるまい、とノーゼンは告げた。

 そして、相手は誰から射られたか分かる事なく空の上で息絶えるだろう、とも付け加える。

 それほどまでにすさまじい冷気であった。

 海面は凍り付いており、天に向かって貫くように柱が伸びている。

 船舶の表面にも氷が付いている始末だ。

 

「いずれにせよ、すぐ堕ちたのが見えた。ヴォルカニドやタイプ:ゼノではないことも確かだ。所詮はタイプ一致ではない”れいとうビーム”でしかないからな。あいつらは堕とせん」

「それであの威力……!!」

「嗚呼、素晴らしき哉。だが、これでも伝説のポケモンに何処まで抗えるかは……未知数だね」

 

 不気味な光を灯す目で、常人の肉眼では到底見えはしないサイズを飛んでいた「何か」を見つめ、ノーゼンはほくそ笑む。

 あれが何かは彼にとっては知った事ではなかったが──それでも何となく推測は出来た。

 有機的な羽根の羽ばたきからして、飛行タイプのポケモンであることは確かだ。そして、シルエットは海上には生息するポケモンのそれではない。

 従って、飛行ポケモンに乗った誰かが覗きにでも来たのではないか、とノーゼンは推測する。しかし、堕とした今となっては最早どうでも良い事であった。 

 何故ならば、堕とした時点で彼はその対象に「飽きて」しまったからである。一切合切の興味を失った彼は引き続き海中に身を潜めたままの”REX”を船上から覗き込む。

 

 

 

(さあて、せいぜい小生を飽きさせないでくれたまえよ)

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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