続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第31話:人の心とか無いんか?

 ※※※

 

 

 

 ──マニャカシティ某所。

 その場に集まったのは、メグル、アルカ、ミアの3人に加え──キャプテンの二人組であるノオトとキリ。

 要件は、残り2日に迫ったマニャカ海峡でのブリザベオ捕獲阻止作戦のブリーフィングであった。

 

「──初めまして、だな。ミア殿。拙者がサイゴク地方”ひぐれのおやしろ”キャプテン、キリだ」

「同じく”よあけのおやしろ”キャプテン、ノオトッス!!」

「……ミアです。ええと、私の事は──」

「拙者は既に把握している。メグル殿経由ではなく、独自の情報網でな」

「……そうですか」

 

 ミアは目を伏せた。

 彼女も、二人がキャプテンであること、そしてキリが優れた諜報機関のトップであることは聞いている。

 だが、こうしてみると忍び装束型のパワードスーツにゴーグル付きの仮面もあって威圧感しか感じられない。

 実際は互いに同年代の女子同士であることも知ってはいるが──

 

(……重い。空気が……!! この人が生物学的に私よりも圧倒的な”強者”であることがひしひしと伝わってくる……!!)

 

「拙者が重く見るのは、唯一つ。貴殿が拙者たちの味方であるかどうか。ただそれだけだ。貴殿の働きに拙者は期待している」

「ッ……」

「とか言ってるけど、要はキリさんなりに”あんたの過去なんて関係ないから気安く仲間だと思ってくれて良いよ”って意味ッスから」

「そ、そうなんですか……?」

「……掻い摘むとそうなるが」

「そうそう、キリさん、その姿の時はクソ真面目だし見た目は怖いけど、一回素顔を見ればそんなのは──」

「メグル殿」

「悪かったって」

 

 名前を呼んで圧を掛けたキリは改めて、タブレット端末を目の前に差し出した。

 

「──メグル殿たちから聞いたワームホール公団の裏の顔と真の目的……それについて確証的な裏付けが取れた訳ではないが、拙者たちに今回の捕獲作戦を知らせていない辺り、確実に後ろめたいものはある」

「オレっち達は立場上、表立って公団と敵対するわけにはいかねえッスけど……全力で今回のサポートはさせてもらうッスよ」

「そこで洋上で早速相手方の偵察をしていたのだが──」

 

(表立って敵対するわけにはいかないって言った口で自ら偵察を? ……この人、どっちにしてもただ者じゃない……)

 

 ミアは頭を抱えそうになった。とんでもないフィジカルと頭脳があるから許される強行作戦であったことは間違いない。尤も、彼女も一人でワームホール公団の飛行艇に向かって行ったので人の事は言えないのであるが──

 

「それは昨晩俺もノオトから聞いてたけど──結果はどうだったんだ?」

()()()()()。飛行中、洋上から狙撃を受けてな」

「えっ──キリちゃんが!? じゃ、じゃあ、今ボク達の前で喋ってるキリちゃんは幽霊!?」

「馬鹿言ってんじゃねえッスよ。普通に生還したに決まってるじゃねえッスか」

「キリさんならそれくらい有り得るだろ」

「そ、そうか。キリちゃんだもんね……」

 

(幽霊であってほしかった……何で空から堕とされて普通に生還してるんだろう……? ……この人、おかしいです……)

 

 ミアは列島がひっくり返っても、このキリという少女とは絶対に敵対したくないと思わされた。

 だが、それだけに気になるのはサイゴク最強の忍者が何故墜落の憂き目に遭ったか、である。

 

「拙者は決して洋上から捕捉されるような高度を飛んでいたつもりはない。だが、ワームホール公団はマニャカ海峡沖に巨大なポケモンを一匹放し飼いにしている。拙者はそいつの”れいとうビーム”に堕とされた」

 

(しかも情報までちゃんと持って帰ってる……もしかして忍者って凄い人達だったんですか? 四天王のキョウさんもこれくらいできちゃうんですか?)

 

「……うん? 待って下さい。巨大なポケモン──?」

 

 ミアは脳内でキリに突っ込みを入れるのを止める。

 そして──何か思い当たる節があるように「もしかして」と言った。

 

「何か知ってるのか、ミア?」

「……いえ。”有り得ない”って思ったんです。普通のポケモンが、高高度を飛ぶ飛翔体を撃ち落とせるわけがないので。それに大きさは──」

「拙者の目視だが……20メートル以上はある」

「20メートルって現存するどのポケモンよりもデカいだろ!? そりゃあもう、潜水艦か何かだったんじゃねえか!?」

「これは拙者のカンで、科学的な根拠は一切ないが──撃ち落とされる寸前、確かに生物の殺気を察知したでござるよ」

「キリさんがこう言ってる時のカン、外れた時無いんスよねえ」

「……ホエルオーにしても大きすぎます。有り得る可能性が一つあるとすれば──」

 

 考えたくはない可能性の断片。

 しかし、彼女は知っている。

 父の残した研究室に積まれた大量の資料。

 その中に残っていた恐るべき計画の残滓を。

 

「……ひょっとすると、キリさんを撃ち落としたのは”REX”ではないかと」

「レックス?」

 

 メグルの頭に浮かぶのは──巨大な顎を持つ白亜紀後期の恐竜・ティラノサウルスだった。

 ”王”を意味するその単語は、様々な場所で見かけるが──

 

「REXというのは、かつてセレクト団が立ち上げていたプロジェクトのうちの一つです」

「どんな計画だったの?」

「断片的な資料しか知りませんが古代ポケモンの遺伝子に対して操作を行い、古代の最強種”エイ・ペックス種”に生態パラメーターを近付ける遺伝子組み換え実験です。人為的に復活させられたエイ・ペックス……生態系の頂点。故に、”Resurrection-of-A-pex”……”REX”です……!! でも、確か資料には、様々な問題を抱えていて、遺伝物質の劣化、生体細胞の壊死、そしてより効率的なゼノ計画の立ち上げで掻き消えたとか──」

「ストップストップ!! 難しい言葉が多すぎて分かんないよ!! しかもめっちゃ早口だし!!」

「いやでもアルカよォ、化石について喋ってるお前、大体こんな感じだぞ」

「こんな感じッスね」

「私は好きなものを語ってるんじゃないんですけどね?」

「あっだだだだだ!?」

 

 笑顔のまま「遺伝子工学なんて大嫌いなんですよ?」と言わんばかりにミアがメグルの耳を思いっきり引っ張り上げた。顔は笑っていた。目は笑っていなかった。

 

「つまり──人為的に”恐ろしく強いポケモン”を作り出す、というものか。それも、古代の最強種を」

「噛み砕くとそうですね。しかも、エイ・ペックス種は常識外の巨体や能力を持つものとされていました。あまりにも突飛すぎて現在では”過剰に強く、ないし大きく見積もられていたのでは?”とされているものも少なくありませんが……」

「半ば想像上のバケモンじゃねえッスか」

「うん……でも、例えばオムナイトなんかは異常に肥大化した化石が見つかったりもしてるんだよね。保存状態が悪くて復元は出来なかったけど……」

「要は、化石ポケモンの中でもズバ抜けてデカイ亜種がエイ・ペックス。そんでもって、それを人為的に再現したのが”REX”ってわけだな」

「ただ、REXは、ゼノのように万能細胞からポケモンを作り出すのではなく、ベースとなるポケモンが存在し、そこに手を加えていくんです」

「ベースとなるポケモン……今の話を聞く限りだと──素体は」

「化石ポケモンです。そこに、現生しているよく似たポケモンの遺伝子をミックスする事で、エイ・ペックスを再現するのが”REX”のコンセプトでした」

 

 それを聞き、アルカは台パン。

 そして血相を変えて叫ぶのだった。

 

「はぁぁぁーっ!? 許されないねぇ!! 神聖なる化石に手を加えるなんてとんだ蛮行だよッ!! ミアちゃんミアちゃん、今からワームホール公団の本部焼き討ちに行こう!!」

「お前は落ち着け」

「良いですね!! 賛成です!!」

「お前も落ち着け」

「女子面子血の気マシマシの奴しか居ねえんスか!?」

「焼き討ちか──いつ出発する? 拙者も同行する」

「やめてキリさん!! あんたまでそっちに回ったら、まともな人が居なくなっちまうッスよ!!」

「もう俺知らね」

「諦めないで下さいよ、メグルさぁん!?」

 

 ワームホール公団を潰す。

 その意思だけで、女子組は結束したのだった。

 閑話休題。

 

「でもさ、ゼノとの競合に負けたなら、何で今更REXを?」

「恐らく技術革新で、製造が容易になった、かつゼノを上回る戦力になったからだと思われます。ゼノ自体が技術的には10年以上前のものですから」

「ゼノを上回るってヤバいな……でも、なんで前回のヴォルカニドの時に使わなかったんだろうな?」

「完成したのが最近なんじゃねえッスかね」

「実は向こうもカツカツでやってるのかもしれないね」

「とはいえ本当に大丈夫なのか不安になってきたな……ブリザベオだけじゃねえ。そいつも相手しねえとなんだろ」

 

 REXとブリザベオ。

 能力の詳細すら分からない二匹の強大なポケモンをまともに相手すれば、間違いなく全滅だ。

 

「──あくまでも我々の目標はブリザベオ。先ずはこれが第一だ。故に、陽動を行う」

「陽動……!」

「ブリザベオが現れたタイミングで、拙者とノオト殿が派手に暴れる事で注意を逸らし、その間にメグル殿とアルカ殿が作戦海域に突入する」

「ブリザベオと交戦してるタイミングなら、REXもオレっち達に反撃することができないはずッスからね」

「ああ。そして、REXと真っ先に交戦するのはブリザベオ──即ち、両者が損耗したタイミングでブリザベオの捕獲を行うしかない」

「共倒れを狙うって事か」

「その為には──このボールが必要になるだろう」

 

 そう言ってキリがメグル達に手渡したのは、紫色の素体に赤い半球が二つ埋め込まれたモンスターボールだった。

 思わずメグルはそれを取り落としそうになる。

 

 

 

「ちょっ、これって──」

「マスターボール。非売品の最高級のモンスターボールだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──どんなポケモンでも投げれば捕まえることができる夢のアイテム。それがマスターボールだ。

 その実態は、捕獲性能を極限まで高めたボールであり、市場には殆ど流通していない代物だ。

 元はシルフカンパニーが作りだした非売品であり、IDくじの大当たりとしてごく少数が出回っていた。

 稀少素材がふんだんに使われているため、量産しようとすると非常に重いコストがかかってしまうのである。

 それ故に性能は非常に高く、投げれば伝説のポケモンであっても確実に捕まえてしまえるほどの誘導機能とロック機能が付いており、最強のボールの名を欲しいままにしていた。

 また、その性能故に国外への持ち出しが厳しく規制されている物品の為、キリとノオトはマーニャで何とかマスターボールを手に入れられないか奔走する事になるのだった。

 

「どうやって手に入れたんだ、こんなもん……!?」

「忍びには忍びのやり方がある」

「オレっちもう二度とやりたくねえッス……」

「聞かない方が良さそうだね……」

 

 どうやら付き合わされたらしいノオトは遠い目。深く追求しない方が彼らの為なのだろう。

 

「でも、マスターボールがあっても油断はしねえほうが良いッスよ。強力なオーラを放つポケモンは、マスターボールでも捕獲後にボールが破損したって例もあるッスから」

「それボク本で読んだことある! テラパゴスってポケモンが、捕獲後に暴走してボールに戻そうとしたら壊れたって──」

「怖すぎだろ……どっちにしてもブリザベオを弱らせねえといけねえのは確実だな」

「漁夫の利、グラエナ戦法ってところッスね」

「……言い方はアレだが、そうでござるな……それゆえ、相手に感知されるわけにはいかない。作戦は隠密を厳とする」

「……それじゃあ私が海峡に出るのはマズいですね。確実に四天王は居るはずですから、逆探知されてしまいます」

 

 非常に不服ですが、とミアは続けた。

 クローン同士は互いの存在を感知できてしまう。

 もしもミアが海峡に出た場合、真っ先にその存在を知覚されてしまう。

 

「四天王って結局何なの?」

「ワームホール公団の作戦実行部隊の指揮権を握る幹部でござるよ」

「だけど……確かミアと同じクローンなんだよな」

「はい。私と同じ、万能細胞で作られたクローンで間違いありません」

「初めて見た時の異様な感覚……アレはクローンだったからなんスかね? でも、ミアさんからはあいつらと同じ感じなんてしねえッスよ?」

「それは、彼らが私よりも更に”調整”されているからだと思われます」

 

 身体機能や精神といったものを弄りまわし、最適化する。それが”調整”だとミアは語る。

 ワームホール公団の四天王は、ポケモンでなければ耐えられないような危険地帯でも平然と歩けるように強化された人間なのだ。

 それ故に、見る人が見れば異様なものを感じさせる。元が亡くなった娘の再現体でしかないミアとはそこが大きく違うのだ。

 

「彼らの素性も既に調査済みだ」

 

 恐ろしい結果が明らかになったがな、とキリは続ける。

 

「マーニャの四天王は……全員、何かしらの工作で住民票を偽造された形跡がある。要するに()()()()()()()()()()()()()だ」

「……こりゃ真っ黒ッスね」

「クローンである以上、元になった人間がいるはずだが……もしもミア殿と同じ技術で作られたなら」

「死者のクローニングか、生きている人間のスペア、どちらもあり得ます」

「倫理観の欠片もねえな……」

「四天王の一人は自分に同型のスペアが存在していることを仄めかしていました。分かりやすい言葉で例えるなら”残機がある”ってところでしょうか」

「最悪の例え来たな……」

 

 彼らの意識が連続しているかどうかは不明だが──少なくとも、クローンというものを使い捨ての駒のように危険地帯に投入できるのは、これが理由だろう、とミアは言った。

 それを聞いているメグル達も流石に気分が悪くなってくる。聞けば聞くほどに、ワームホール公団、ひいてはセレクト団というものを残してはおけないと思えてしまうのだった。

 

「死んでも代わりが居るから、危険なポケモンの捕獲に最前線で出されるってこと?」

「恐らくは……」

「そんなの間違ってるよ!! 命は一つしかないから、皆必死で生きるんじゃんか!! それを増やして使い捨てるなんて……」

「倫理観はさておいて、極めて合理的な運用だ。人を人と思っていない唾棄すべき運用でござるが」

「ブリザベオを渡す理由、猶更無くなったッスね!!」

 

 メグルは目をつぶる。

 クローンの使い捨てや倫理観。そして、ミアが今までに受けてきた傷。

 命を命と思っていないようなワームホール公団を野放しにしておくわけにはいかない。

 

「メグルさん……正直本当なら私の手であいつらを止めたいんです。でも──今回はそれが出来そうにありません」

「分かってる。任せとけ」

「ボクらが止めてみせるよ!! REXだか何だか知らないけど!!」

「ッ……」

 

 祈るようにミアは両手の指を絡めた。

 

「……気を付けてください。あいつらは自分の命すら駒にするような連中です」

「残機があるから、自分や味方が死ぬのが怖くない奴ら……か」

 

 メグルは自分の震える指を見て自嘲して笑った。

 

 

 

「……そりゃあ強敵じゃねえか」

 

 

 

 羨ましい限りだ、と思ってしまった自分に──メグルはチクリと嫌悪感を覚えるのだった。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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