続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第32話:厳冬の神

 ※※※

 

 

 

 ──それからの残り2日間は、作戦確認、そしてライドギアの練習に費やされた。

 キリ、そしてノオトの助力もあり、二人は乗り慣れない新しい手持ちを徐々に海でも乗りこなせるようになっていった。

 そして、漸く決行日の夜が訪れたのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──夜のマニャカ海峡は、無人封鎖船が周辺を取り囲み、そしてその中に。

 

「……水温が急激に低下。来るね、ブリザベオが!!」

 

 一瞬で無人船は海水諸共凍り付き、辺りは氷山の浮かぶ北極の海の如き様相と化した。

 マニャカ海峡がブリザベオの縄張りというわけではない。ブリザベオの居る場所が、氷漬けの縄張りと化すのである。

 その様を画面越しに見ていた公団の職員たちは戦慄。ヴォルカニドのようにあたりのものを消し飛ばすわけではないが、一瞬で南国のマーニャの海を自らの住処へ作り変えた力を見て伝説のポケモンの規格外さを思い知らされるのだった。

 氷の山を割り、その中から巨大な氷の甲虫が姿を現す。

 

 

 

「トブルルルルル……トブルルルルルルルルルルルッ!!」

 

 

 

【ブリザベオ がんとうポケモン タイプ:虫/氷】

 

 

 

 

 全身が氷の鎧に包まれた巨大な甲虫だ。頭部からは雄々しい一本角が生えており、鎧武者の甲冑の如き様相だ。

 そして、触れた場所から次々に海水を凍りつかせているのは、その巨体を支える1対の前脚。

 これも例に漏れず氷の鎧に包まれており、甲殻類の前脚の如き重厚さを思わせている。

 全身からは常に冷気が漏れ出しており、辺りを問答無用で凍らせる冬の神が今、マーニャで目覚めたのだ。

 

「……来たかブリザベオ。小生を楽しませてくれたまえ!!」

 

 無人船のハッチを開け、ノーゼンが姿を現した。

 そして彼が氷の海目掛けて、クロスボウのようなものを向ける。

 そこに装填されていたのは1つのモンスターボールだった。

 音を立てて氷の甲虫目掛けてそれは飛んでいき──空中で弾け飛ぶ。

 

 

 

「……さあ行け……REXの王たる所以、見せてやれ!!」

 

 

 

 光と共に、それはブリザベオを氷の海に組み伏せ、そして捻じ伏せた。

 その触手を合わせれば氷山すらも遊具に見える程の巨体がボールから突如現れたのだ。

 体表は赤くぶよぶよとした軟体生物のそれであり、顔の中央にはこの世のありとあらゆる甲殻を噛みちぎる事が出来る鋭い嘴のような歯が立ち並ぶグロテスクな口が見える。

 だが、背中には黒い鋼鉄の巻貝のような殻が背負われていた。表面には鉄鉱石がそこかしこに生えており、ただでさえ強固な殻を更に表面から守っている。

 そして、金色に光る球状の目玉が夜のマニャカ海峡に浮かび上がった。

 異様であるものの、その巨体が海面から現れた時、誰もがそれを頭足類であることを看破することができるだろう。

 

 

 

「オオオオオイ……ジィイイイイ……ソォォオオオオオオオオオ」

 

【オムスター<REX> うずまきポケモン タイプ:水/鋼】

 

 

 

 その圧倒的な体格差に、流石のブリザベオも自らが作りだした氷の地面に捻じ伏せられてしまう。

 巨体の重みで氷は割れていき、触手に絡め取られたブリザベオは一気に水の中へと引きずり込まれてしまう事になる。

 

「幾ら伝説のポケモンと言えど小生のREX……オムスターの前では稚児も同じ。この数日間、海峡で野生のラプラスを捕食し続けたが故に、パワーも全開──さあ、楽しみ給え冬の神よ!! 海の王からの餞別だ!!」

 

 ノーゼンが高らかに言ってのけた次の瞬間だった。

 海面が盛り上がる。

 あろうことか、触腕に絡め取られたまま、ブリザベオは羽ばたき、力任せに海中から浮上したのである。

 自分よりも何倍ものサイズを誇るオムスターを力づくで海中から空中に引っ張り上げたのであった。

 凄まじい勢いで波が起こり、ノーゼンもそれを被るが──辛うじて波に洗い流されずに食らいつくのだった。

 

「ふっ、ふははははは! 面白い!! 面白き事は良い事だ!! まさかオムスターが膂力で敵わないとはね!!」

『ノーゼン!! 全力のオムスターが押されるはずはありません!! 遊んでないで、早く捕まえなさい!!』

「ユリ隊長。確かに今、オムスターと小生の精神はリンクしているが……小生は一切手を抜いているつもりはないよ」

『……は? 遊んでいるのではないのですか、ノーゼン……!?』

「聞き給え。あのブリザベオとかいうバケモノ、数トンは下らないオムスターを自力で引っ張り上げたのだ。そればかりか格闘戦でオムスターを圧倒している──これはいけないよ。オムスターだけではブリザベオの荷は重いかもしれないね!!」

『じょ、冗談は止しなさい……他のREXはまだ完成していないのです、貴方だけで持ちこたえなければいけないんですよ!!』

「だが小生はまだ負けてはいない。REXの面白い所は此処からだッ!!」

『……やっぱり遊んでるじゃないですか!! 貴方って人は本当に!!』

「ああ、遊んでいるさ。ただし()()()、だがね!!」

 

 ノーゼンの目が光り輝く。

 同時に、オムスターの金色の眼球も同じ色に発光した。

 

 

 

「これならどうだ? ”パワージェム”!!」

 

 

 

 空中に釣り上げられたオムスターではあったが、今度は眼球からレーザー光を吐き出す。

 だが、ブリザベオは更に強固な氷の壁を目の前に展開すると、レーザー光である”パワージェム”を屈折させ、あらぬ方向へと逸らしてしまうのだった。

 それが直撃した無人船の一つが爆発、装甲を透過し、エンジン部が爆発炎上する──パワージェム自体の威力は決して伊達ではないのである。

 問題はそれを受け止めるブリザベオが想像以上の知能も併せ持っていることであった。

 光のレーザーは屈折させてしまえば辺りへ拡散してしまうのだ。

 

(パワージェムは勿論、ラスターカノンも実質的に封じられたか……ならば水圧であの氷の壁を砕く!!)

 

「水の鋭さというものをご教授してやろう、冬の神!! ”ハイドロポンプ”!!」

 

 オムスターの口から高圧縮された水ブレスが放たれる。

 それを受けたブリザベオの顔面──氷に覆われた装甲は角諸共抉り取られ、そのまま高度を失い、オムスターが絡みついたまま氷海へと墜落する──しかし。

 

 

 

「トブルルルルルルル!!」

 

 

 

 ブリザベオの羽根が高速で羽ばたき始める。墜落しているのではない。自ら氷の地面目掛けて加速しているのだ。オムスターを下にして──押し潰さんばかりだ。

 

「しまった──オムスター、追撃を!!」

 

 だが、既に氷の甲冑と角を凄まじい速度で再生していたブリザベオは、水ブレスを正面から受け止める。

 

 

 

 ──今度は無傷。再生したブリザベオの氷の鎧は先程よりもより堅牢になっていた。

 

 

 

 

【ブリザベオの インファイト!!】

 

 

 

 そのまま氷の山にオムスターは叩き込まれ、触腕による拘束が解除されてブリザベオは解き放たれたのだった。

 だが、それでもまだ尚、オムスターは倒れたわけではなく、再び水ブレスを何度も連射、更に目からは”ラスターカノン”を照射してブリザベオを狙い撃つ。

 しかし──その全てが届かない。

 水ブレスを正面から受け止め、更にレーザー光の攻撃は氷の壁を展開して辺りに拡散させてしまう。

 一度受けた攻撃は冬の神の前では通用しない。

 再び角に冷気が集まっていき、ブリザベオは巨大な槍の如き姿と化す。

 羽根は冷気が収束したことで更に巨大化。一直線にオムスター目掛けて飛んで行く──

 

 

 

【ブリザベオの コキュートスホーン!!】

 

 

 

 ──しかし。ノーゼンもまた、それを見て愉しそうに笑う。

 想像以上の膂力、そして想像以上の出力。

 何もかもが思い通りにいかず、立ち行かない。 

 だが、ノーゼンという男はこの状況すらも楽しんでみせる。仮に自分の命が有限のものであったとしても、彼ならば全く同じ言葉を吐いただろう。

 

「──素晴らしい!! もっと私を楽しませてくれたまえ!! 此方もオオワザを以て迎え撃とう!!」

 

 オムスターの口から巨大な大渦が放たれ、ブリザベオ目掛けてぶつけられる。

 しかし──冬の神の槍はあっさりと渦を貫き、そのまま大量の冷気を辺りに撒き散らすのだった。

 

「ッ……は、はは。何という……!! これが、冬の神──!!」

 

 ノーゼンはオムスターが斃されたにもかかわらず、恍惚とした笑みを浮かべずにはいられなかった。

 辺りは完全なる銀盤と化し、残るのは氷漬けになったオムスターだけだ。

 無人船の中から出たノーゼンは、今も尚、圧倒的な覇気を放ち続けるブリザベオに身を乗り出そうとする。

 そんな彼に、冬の神は興味深そうに視線を向けたかと思えば──

 

 

 

 ──青い稲光が落ちた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──どうなってんだ──!?」

「辺り一面、氷塗れ……!!」

 

 

 

 マニャカ海峡に突入したメグル達を待っていたのは、氷海と化した海。

 そして、氷漬けになったポケモンや無人船の数々だった。

 辺りを阻むのは船やポケモンではなく、氷塊という始末だ。

 寒さで体の震えが止まらない。

 ダイブスーツを着ているため、ある程度寒さは緩和出来ているが、本来南国で夜も暑いはずのマーニャが一瞬で冬の海と化しているのだ。

 異常気象も良い所である。

 

「これ──全部ブリザベオの力で引き起こされたのか──!?」

「そうだとしたら、ヤバすぎだよ……! ポケモン1匹で海域丸ごとテラフォーミングしたってことだよ」

『中では既に戦いが起きているだろうが──ブリザベオの力が此処までとは予想外だ』

『最早陽動どころじゃなさそーッスね……! 一刻も早く、ブリザベオを捕獲するッスよ!!』

 

 別ルートから進行していたノオト達も、流石に驚きの声を上げていた。

 当初はある程度ブリザベオとREXの力関係は拮抗しているのではないか、と考えていた各員。

 しかし、実際はこの通り。ブリザベオは無人船や多数のポケモンを容易く凍らせてみせた。 

 最早此処は冬の神の御前であり、縄張りであることを示しているかのようだ。

 

「こんなヤツ、野放しにしておけないからな──!!」

 

 サメハダーは一気に馬力を上げて跳びあがり、氷の塊を乗り越えて先へと進む。

 一方、潜ることを得意とするラプラスは、潜行することで氷の塊を避け、進んでいく。

 無人船は氷漬けにされたことで機能を停止してしまっているのか、此方を攻撃してくる気配はない。

 

「見えた!! アルカ、気を引き締めろ!!」

「……ねえ、メグル。なんか嫌な気配がする……!!」

「え?」

「このカンジ……イレギュライズだ!! イレギュライズと同じ感じがする!!」

 

 アルカが叫ぶと共に、氷塊を砕き──海中から突如としてそれは姿を現した。

 波が一気に荒れて、二人を飲みこもうとするが、それをサメハダーとラプラスは難なく乗りこなし、潜り抜けてみせる。

 そうして、銀盤の上に降り立った二匹を見下ろすようにして、それは現れるのだった。

 

「なんだ、これ、デカすぎだろ……!?」

「ブリザベオ……じゃないよね、絶対に……!!」

 

 メグル達が見えているのは、巨大な巻貝の殻のようなオブジェクトだ。

 ただし、それだけでも凡そ10メートル以上はある代物であり、竦み上がらせるには十二分だった。

 おまけに、殻の表面には身の毛がよだつような凍てつくオーラが迸っている。

 

「これがワームホール公団の隠してた怪物なのか……!?」

「でっかい……オムスターだ……! これが、REX……!?」

 

 

 

『実に愉快!! 実に面白い!! まさか……このタイミングで哀れなネズミが入ってくるとは!!』

 

 

 

 何処からともなくスピーカー音声が響き渡る。

 振り向くと──氷漬けになった無人船の甲板に、人が立っているのが見えた。

 照明等が照り輝いて、その人物の姿を映し出す。

 

『冬の神に頂いた、この力……そしてREXの力!! これが合わされば、小生は……もっと楽しむことが出来そうだ!!』

「この声、どっかで聞いたような──」

「メグル、あれ見て!!」

「ああ!?」

『……何処の誰か興味も無いが……この際どうだって良い!! この高揚感、君達にぶつけることでしか抑えられそうにないからな!!』

 

 氷の地面が砕き割れる。

 水面からそれは徐々に姿を現した。

 全身が赤い軟体生物の身体であり、多数の触腕、更にぎょろりとした眼など、それは圧倒的に巨大であることや体色を除けば「オムスター」と呼ばれるポケモンと相違は無い。

 問題は──その身体が悍ましい冷気のオーラに包まれていることであった。

 高波を避け、オムスターに接近した二人は漸く、今何が起きているのかを理解する。

 状況ははっきり言って最悪も良い所だ。辺りにはブリザベオの姿は見えない。

 相手取るとすれば目の前のREXであるが──

 

 

 

「あのクソデカ貝類……イレギュライズしてやがる!!」

 

 

 

 ──問題は、本来ならばブリザベオを止める為のREXが、その伝説のポケモンの加護を受けてしまっていることであった。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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