続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第33話:封鎖海峡上陸阻止

 ※※※

 

 

 

 ピキ、ピキピキと音を立ててノーゼンの頬に氷が纏わりついていく。

 脳内には絶えずユリの声が響く。

 

『ノーゼン、ノーゼン!! 聞こえないのですか!? 今の貴方とオムスターのステータス値は異常です!! すぐに撤退を!!』

「あー……煩い」

『!?』

「こんなに、こんなに愉しい気分はいつぶりだろう? 今なら何だって出来そうな気がするのに、君は小生に水を差すというのかい」

『ノーゼン、隊長命令です!! 下がりなさい!! オムスターをボールに戻しなさい!!』

「それは出来ないよ、ユリ隊長……このまま、マニャカに上陸したらどうなるか気にならないかい?」

『ノーゼンッ!! 貴方、一体何を考えて──!!』

 

 蒼褪めたユリの声はそこで途切れた。

 クローン同士のリンクをノーゼンが断ち切ったのである。

 これでもう、邪魔は入らない。

 体の奥底から湧き上がってくる愉悦感。

 そして、何でもできそうだと思わされる万能感。

 ただただそれがノーゼンを突き動かしていた。

 彼の身体は、罅割れ、そこから青白い光が漏れ出していた。

 冬の神の加護を受けた姿──イレギュライズ。

 ポケモンだけではなく、トレーナーにもその影響は及んでいた。

 

 

 

「絶対に楽しいだろうよッ!! この力でマーニャを蹂躙し尽くすのはねえッ!! アッハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 そう言ってノーゼンは無人船の部屋から飛び出す。

 オムスターの触腕が彼の方に伸びており、それに迷わず飛び乗ると、そのまま殻の上に設置されたライドギアに搭乗するのだった。

 REXはノーゼンら四天王に近付けば近付くほどリンクが強くなる。

 それ故に、オムスターの頭部には四方を頑強な装甲で守った専用のライドギアが取り付けられているのだ。

 

 

 

「進めオムスター!! 目標はマニャカシティだッ!! これは楽しい宴になるだろうッ!! ははははははッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「オォオオオオオオオイ、ジィイイイイイイ、ソォオオオオオオオオオオオーッッッ!!」

 

 

 

【オムスター<イレギュライズREX> うずまきポケモン タイプ:水/鋼】

 

 

 

 咆哮が氷海に響き渡る。  

 のたうち回る巨大イカはメグル達を餌と認識したのか、巨大な触腕を振り回して迫りくる。

 すぐさまメグルとアルカは回れ右。

 氷海を背にしてその場を脱するが、触腕が振り回される度に辺りの氷山が音を立てて崩れていく。

 

(し、死ぬ──!! 殺される……!?)

 

 案の定、周りを取り囲んでいた無人船舶はオムスターの触腕に絡め取られると空き缶のように音を立ててへしゃげていく。

 おまけに、殻が原種とは違い、尋常ではない程に巨大なため、動くだけで辺りの氷山も破壊されていく。

 まさに生ける氷砕艦だ。

 ただ、良くなかったのは──オムスターはメグル達を追い払った後、今度は自身も方向転換して進み始めたのである。

 助かったのか? とメグル達は怪獣の方を見やるが──すぐさまキリからの無線が飛んできた。

 

『メグル殿!! あのオムスターが進行している方向は陸地──マニャカシティでござる!!』

「ああーッ!? ウソだろあいつ!! 陸を目指してんのか!? 町をブッ壊す気かよ!?」

「イレギュライズさせられたから、暴走してるんだ!! もし上陸したら大変だよ!! オムスターは陸地でも普通に活動できるんだよ!?」

「で、でもよ、あのデカブツ、どうやって倒すんだ!? カバルドンやマイミュの時だって、ヌシポケモンが居たからどうにかなったようなもんなのに!!」

 

 本来ならばまともに相手をするつもりなど無かった敵だ。

 しかし、オムスターが陸地に向かって進行している事で話は変わってくる。

 オムスターを放置した場合、町が破壊されることは決定事項だ。

 甚大な被害が出ることは想像に難くない。

 

『図鑑でのスキャニング完了でござる。タイプは水と鋼。よって、電気・格闘・地面タイプの技が有効でござるよ』

「エンペと同じ!? よりによって、なんつーレア複合だ!! 電気タイプなんて連れてきてねえし、地面や格闘技なんて、あのデカブツにどうやって当てりゃいいんだよ!?」

「接近しただけで触手に掴まれちゃいそうだよ!!」

『何か使えそうなものを探すでござる、しばらく持ちこたえてほしいでござるよ!』

「無茶言うなーッッッ!!」

 

 暴れのたうち回るオムスターは、そのまま触手で器用に泳いでいく。もう既に町の明かりが遠目に見えてきているところだ。

 2時間もあれば岸についてしまうことは確実だ。

 仕方がないので、メグル達は少しでもオムスターの注意を引こうとする。この際ダメージは気にしない。少しでも遠くからオムスターのヘイトを買うことが最優先だ。

 サメハダーは遠方から”れいとうビーム”、ラプラスは”ハイドロポンプ”を放ち、オムスターにぶつけるが──

 

「──さっきから辺りを泳ぎ回っている邪魔な奴らがいるね!! オムスター!! 沈めてやれ!!」

「ウエ……ウェェエエエエエエエエエエエエエエーッッッ!!」

 

 オムスターの触手が無人船の一隻を掴む。

 サメハダー、そしてラプラス目掛けてそれを投げ付けた。 

 文字通りの質量爆弾。避けられたとしても、近くに居れば船諸共水底に引きずり込まれてしまうことは想像に難くない。

 最初は暗闇でよく見えなかったメグルだったが、何かが飛んでくる事に気付くなり、サドルを思いっきり握り締めた。

 

「やっべえ、急加速だ!! 抜けるぞ!!」

 

 間もなく大きな水の冠が上がった。

 投げ込まれた船は大きな音を立てて辺りの海水を巻き込んで沈み始める。

 

「……オムスター、進路をそのまま!! マニャカを目指せ!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 封鎖船を乗り越え、そのままオムスターは進み続ける。

 規格外の攻撃をすんでのところで急加速し、船と水面の間を潜り抜けて難を逃れたサメハダーだったが、メグルはアルカが近くに居ないことに気付いた。

 

「あいつ、どうなった!? まさか──」

 

 水面をスコープで観察する。

 ごぽごぽと音を立てて船が沈み──そして間もなく、燃料系統に火が点いたのか爆音を立てて炎上していくのが見える。

 これでは助けに行こうにも助けに行くことができない。

 ラプラスの速度はサメハダー程速くない。もしも、と思うと体が冷え切るような思いだ。

 しかし──しばらくすると水面から音が鳴り、サメハダーがその場から旋回して離れると、水柱と共にラプラスが飛び出すのだった。

 

「……よ、良かった……!! 無事だったのか!!」

「何とかね! ラプラスの”ダイビング”で先に深く深く潜ったんだよ。そのまま迂回したんだ」

「心臓に悪い……」

「そう簡単にやられないよ! 君の隣から居なくなるわけにはいかないかんね!」

「……頼もしい限りだぜ、アルカ。だけど状況は悪い。限りなく、だ」

「オムスター、どんどん遠ざかっていくね」

「封鎖海域を超えた……もう船投擲は出来ねえだろうけど、あいつが陸地に近付いてるって事でもあるよな」

 

 幸い、マニャカ海峡は現在封鎖中。

 通りがかる船は無い。だが──オムスターはこの間にも陸に向かって進んでいる。

 しかし、あのサイズの触手を振り回す怪物が相手では、やはり近付くだけでも自殺行為であることが分かる。

 そんな中、再びキリからの無線が飛んだ。

 

『メグル殿!! アルカ殿!! 聞こえるでござるか!?』

「悪いキリさん、マニャカはもうダメかもしれねえ!! ミアに連絡して逃げて貰おうぜ!!」

「もう諦めムード!?」

「だってよぉ、自分達の作ったポケモンが暴走してんのに、ワームホールの奴らが何かする様子もねえよ!! これ、町をスケープゴートにして有耶無耶にするつもりなんじゃねえの!? あのオムスターは巨大な謎のポケモンって事にしてさあ!!」

『それは有り得るでござるな。海上でこの怪物を止めるのは非常に難しい。町に被害が出る事に目をつぶれば、だが』

「火消しついでに町も消し飛ぶんじゃんか!! なんて無責任な連中だ!!」

『方法が無いわけではない! あのオムスターは鋼タイプ、弱点の技を弱点部位に当てれば怯ませる事が出来るだろう』

「無茶だ!! ”インファイト”にしたって、どんだけ近付かなきゃいけねえと思ってんだ!?」

『そこでオレっちの出番ッスよ、メグルさん!!』

 

 ノオトの声が無線機に割って入る。

 

「ノオト!? 無茶だ、何をするつもりだ!?」

『途中で諦めるなんて、らしくねえッスよ、メグルさん!!』

「だけどなあ、限度ってモンが──」

『オレっちの知ってるメグルさんは、どんな時でも最後まで諦めねえ──そんな熱い人だったはずッスよ!!』

「俺は──お前が思ってるほど……」

『メグルさん!! とにかく作戦を説明するッス!! オムスターに近付くッスよ!!』

「ッ……」

 

 メグルは素直に頷く事が出来なかった。

 あまりにも敵は大きすぎる。そして何より、彼の中には再び怯えが巣食い始めていた。

 触手に当たれば、人間ならそれだけで即死しかねないようなサイズだ。そんな相手に肉弾戦を仕掛ければ、命が幾つあっても足りはしない。

 

「ダメだ!! 死ぬかもしれねえんだぞ!?」

『死なねえッスよ、メグルさん!! オレっち達は、確かに今まで何回もやられたりしてきたけど……その度に立ち上がってきたっしょ!?』

「ッ……それは」

『あんただって同じはずだ、メグルさん!! でも、今オレっち達がやらねえと──町が危ねえんスよ!! 関係ねえ人もポケモンもいっぱい死ぬ!!』

「ああ、そうだよ──()()()()()()()!! あっさりとな!!」

 

 思わずメグルは叫ぶ。

 今までずっと、胸につっかえていた気持ちを吐き出すように。

 

「あのリュウグウさんだって──ヒルギさんだって、死んだじゃねえか!! ”最強”だの何だって言っても、死ぬ時は死ぬもんなんだよ!! まだ分からねえのか!? 俺はお前らにそうなってほしくねえんだよ!!」

「メグル……」

「残った奴らは、どんな思いで生きていけばいいと思ってんだ!? お前ら皆、覚悟決まりすぎなんだよ!!」

『ッ……だったら、オレっちが此処で生きて帰ったら、オレっちが最強のキャプテンって事ッスよね』

「ノオト……?」

『キャプテンは過酷な仕事で命を落としやすい。それなら、最後まで生き残れば、そいつが最強のキャプテンだ──それに、自分が死ぬのを勘定に入れて作戦立てるほど、オレっちもキリさんも馬鹿じゃねえんスよ!!』

『メグル殿!! 拙者たちを信じてほしい!! 今此処でやらなければ、町が──!!』

「ッ……」

「──おにーさんっ!!」

 

 アルカの本気の叫びが、メグルの耳を劈いた。

 

「ッ……きっと大丈夫だよ。ノオトには、キリちゃんがいるから……!!」

「……」

「でも──此処で引き返して、多くの人が犠牲になったら、その時こそメグルは後悔するんじゃないの!?」

 

 目の前で岸に向かって進み続ける巨大な海魔。

 それを前に、どれだけの人が、ポケモンが犠牲になるか──計り知れない。

 後には引くことはできないのだ。そして、此処にいる全員がそれを良しとはしない。

 仲間を喪う事を誰よりも恐れているメグルもまた、同じだ。

 

「ッ……そうだ。結局どんな結果になっても俺は……後悔するんだ。だから──死んだら恨むぞノオト!!」

『へへっ──ありがてーッス、メグルさん!!』

「うるせーうるせー……もうどうなっても知らねえぞ!! アルカ!! 全速前進だ!! 目標、オムスター!!」

「あいあいさーっ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「もうすぐマニャカか。楽しみだ!! ヨダレが出てきそうだね!! 燃える町を想像するだけで!!」

 

 

 

 悠然と触手で器用に海を泳ぎ続けるオムスター。

 しかし、その感知能力は巨大さに比例してかなり高い。

 目の前に迫りくるモーターボートの存在を、テレパスでノーゼンに伝えるのだった。

 オムスターが視界にとらえた景色が、彼の脳裏にも浮かび上がる。

 

(ああ? ポケモンどころかボートで近付いてくる大馬鹿者が居るとはね。見た所、ワームホール公団のボートに違いない。だけど目障りだッ!!)

 

「ダメだよ!! ダメだねえ!! 小生の愉しみを邪魔するならこうだ──オムスター、”れいとうビーム”で凍らせてやれ!!」

 

 最早、自身の楽しみの為ならば同じワームホール公団相手でも躊躇なく攻撃を仕掛けるノーゼン。

 イレギュライズによって彼の元から無かった理性のタガは完全に焼き切れてしまっていた。

 しかし、目の前を航行するモーターボートに搭乗しているのは、公団の職員ではない。

 それを確認しなかったことがノーゼンの最初の手落ちであった。

 オムスターが”れいとうビーム”を放とうと、大きな嘴の並ぶ口を開いたその時である。

 

 

 

 ──衝撃がノーゼンの身体を襲う。

 

 

 

 何かが爆発したかのような衝撃だった。

 ぐらり、とオムスターの身体が揺れて水面に沈んでいく。

 同時にオムスターと感覚をリンクしているノーゼンもまた、内臓が爆ぜたような激痛に襲われる。

 喀血しながらライドギアのサドルを握り締め、スコープで辺りを確認。

 

「なっ、ななっ、何が起こった……!? 小生の楽しみを邪魔するのは誰だぁっ!?」

 

 正面を何も無かったかのように航行するモーターボート。

 そこに乗っているのは──仁王立ちで此方に掌を翳すルカリオ。そして、その隣に並ぶ少年だった。

 

「クソッ!! 動け!! 動けオムスター!!」

 

 叫ぶノーゼン。

 だが、力無く触手を動かすばかりでオムスターは動けない様子だった。

 腹が爆ぜたような痛みが彼にも伝わっている。内臓部に損傷を受けたことは確実だ。

 

「あれは──キャプテン……サイゴクの──!! 小生の邪魔をするつもりか──ッ!! ふ、ふふふふふ!! 面白い!! 降りかかる火の粉を払うのも、また楽しき!!」

 

 

  

 ※※※

 

 

 

「直撃ッス!! オムスター、ダウンしたッスよ!!」

「よしっ……後は任せたぞ、メグル殿!! アルカ殿!!」

 

 

 

 モーターボートの舵を取るのはキリ。

 そして、後部座席で立ってオムスターを狙い撃ったのはルカリオ、そしてノオトだ。

 一度距離を取りながら、無線機に向かってノオトは叫ぶ。

 狙いは勿論、技を撃とうとして開いた巨大な口腔、その中だ。

 弱点である格闘タイプの技を、その中でもいっとう脆弱な口の中に撃ち込まれたことでオムスターは動けなくなり、白目を剥いて気絶するのだった。

 畳みかけるならばここしかない。

 

「流石はキリちゃんとノオトだぜ──ッ!! 俺もビビってばかりじゃ居られねえな……!!」

「あいつ、動けてないみたい!! 攻撃するなら今だ!!」

「よっし!!」

 

 二匹は急加速してオムスターに接近。

 そして、二匹掛かりで弱点の技を撃ち込みにかかる。

 ラプラスの牙には強烈な電気が纏われ、力無くその場に揺れる触手に思いっきり噛みついた。

 

 

 

「”かみなりのキバ”!!」

 

 

 

 流し込まれた電流が一気にオムスターの身体を駆け巡る。

 バチン、バチン、と何度か電気を流し込んだところに、更にメグルがオムスターの顔面に肉薄していく──

 

「ッ……ノオトがタマ張ったんだ──俺だってぇぇぇーっ!!」

「ジョォオオオオオオオオオオオオオズ!!」

 

 ──水面をジェット噴射で飛び出したサメハダー。

 硬化させた頭部をオムスターの額に向けてぶつける。

 玉砕覚悟の接近攻撃──それを叩き込まれたオムスターは仰け反るのだった。

 

 

 

【サメハダーの インファイト!! こうかはバツグンだ!!】

 

 

 

「ウウエ……? ウウウウウウウウエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーッッッ!!」

 

 

 

 悍ましい悲鳴が辺りに響いた。

 渾身の頭突きを見舞ったサメハダーはその勢いで再び水面に落ち、Uターン。

 臆病なヌシポケモンは本能で感じ取ったのだ。オムスターが再び動き出したことを。

 触手が勢いを取り戻し始め、更にオムスターが一際大きな咆哮を海に轟かせる。

 

 

 

「ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

【アルファコール:オムスターは仲間を呼んだ!!】

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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