続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第34話:切札

 ──アルファコール。

 咆哮に加え、特殊フェロモンによって辺りのポケモンを引き寄せるREXの標準搭載機能。

 この特殊フェロモンは、野生ポケモンの攻撃本能を極限まで引き上げる上に、REXに向かって強く誘引する。

 そして海中をも揺るがす巨大な咆哮は、野生ポケモンをREXに屈服させ、服従させる。

 故に──周囲の野生ポケモン達はREXの忠実な駒と化す。

 水面から浮上する金色の瞳。

 トラバサミのような歯。

 アルカが乗るそれよりも一回り大きな成体のラプラス達が次々に浮上してメグル達に敵対する。

 水底からサメハダー、そしてアルカのラプラスの鰭に噛みつき、海中に引きずり込もうとしてくる。

 

「エラスモオオオオオオオスッ!!」

「プリィオオオオオオオオルッ!!」

 

【野生のラプラスの群れが 飛び出して来た!!】

 

「──ウッソだろオイ!? やばい、引っ張られるぞ!?」

「数が多すぎる!!」

 

 ぐいぐい、と鰭を引き千切らん勢いで引きずり込もうとするラプラスの群れ。

 当然、同じ種族であるアルカのラプラスに対しても全く遠慮も躊躇も無い。抵抗しようとするラプラスだが、体格差と数もあってか、あっという間に水の中へ引きずり込まれそうになってしまう。

 幸いだったのは攻撃フェロモンで全員気が立っており、あの厄介な”歌”を使ってこないところであるが。

 

「こうなりゃ──デュエットだ!! ニンフィア、いっけぇ!!」

「ふぃるふぃーっ!!」

 

 ボールのスイッチを押すと、ニンフィアが飛び出し、彼の腕の中に収まる。

 そして、急いでガサガサとポーチを漁り、中に入っていた白い耳栓を取り出すと耳に付けた。

 アルカがレモンから貰った”こうきゅうみみせん”だ。至近距離で音技を使わせる際はこれを付けていなければ、トレーナーの鼓膜が破壊されてしまう。

 

「アルカッ!!」

「う、うんっ!! ラプラス、行くよ!!」

「ニンフィア、合わせろ!! 同時攻撃だ──」

 

 ラプラス、そしてニンフィアは思いっきり息を吸い込む。

 

 

 

「──”ハイパーボイス”!!」

「──”みわくのボイス”だよ!!」

 

 

 

 妖精の加護を受けた二重奏が、海域に響き渡る。

 海中すらも揺るがす両者の歌は、辺りのラプラス達を皆纏めて攻撃する。

 だが、そこは超耐久の持ち主である海の魔物、更に範囲攻撃で威力が拡散していることもあってか一撃で倒れはしない。

 更に捕食者としての執念が深いからか、いつまで経っても噛んだ相手から牙を離す様子が無い。

 

【野生のラプラスの ディープファング!!】

 

 ただただ動きを拘束されるだけではない。

 牙が体に食い込んだ事による出血ダメージが徐々に嵩んでいく。

 

「あーもう、しつこい!! 何匹居るのさ!? ”かみなりのキバ”で反撃して!!」

「サメハダー、蹴散らすんだ!! ”インファイト”!!」

 

 高速回転してラプラス達を振り解き、そして鰭で薙ぎ払うサメハダー。

 そして、お返しと言わんばかりに電気を帯びた牙で反撃するラプラス。

 あれだけの数居た野生の個体たちは徐々に数を減らしていく。しかし、敵は当然ラプラス達だけではない。

 

 

 

 ──突如、二匹の身体が軽々と持ち上げられた。

 音も無く触手が絡みついていたのである。

 ラプラスの群れに気を取られていたことで、近付いていたオムスターに気付かなかったのだ。

 

 

 

「んなっ、しまった、海中に触手を潜り込ませてやがったのか──!?」

「うわわわわーっ!?」

 

 

 

 長い二本の触腕がサメハダーとラプラスを先端で器用に巻き取り、そのまま空中へと釣り上げた。

 

『はははははははッ!! やっと捕まえた!! 一体何処のどいつだか知らないが──小生の楽しみを邪魔するならば、容赦はしない!!』

 

 スピーカー越しの声が響き渡る。

 メグルとアルカの視線は、オムスターの頭部に設置されたライドギアらしきものに向いた。

 

『楽しい、楽しい楽しい楽しい!! 今ならユリの気持ちが少しは分かる気がするよ!! 小生の手で、小生の手でぇ!! 』

「何言ってんのか全然分かんねえよ!! 怖ェよ!!」

「あそこから、すっごく嫌な気配を感じる……! 多分、あのコックピットみたいなヤツに人が乗ってるよ!」

「もしかしてミアの時みたいに、トレーナーも暴走してんのか!?」

『メグルさん、聞こえるッスか!?』

「ああ!? ノオトか!? 今どこに──」

『多分、近くッスね……』

「近くゥ!? ……あっ」

 

 見ると、モーターボートらしきものも触腕に巻き取られているのが見える。

 ノオト達が乗っているもので間違いない、とメグルは判断した。無人船から失敬した、緊急脱出用のものに乗り、ルカリオの”はどうだん”で狙撃するのが彼らの作戦だ。 

 しかし、先程のラプラスに取り囲まれたことで触腕に掴まれる隙を与えてしまったのだろう、とメグルは考える。

 

「お前らも捕まってんじゃねえか!! 大丈夫なのかよ──!?」

『なぁに心配要らねえッスよ。多分このボート、あと1分も持たねえッスけど』

「大丈夫じゃねえじゃねえか!!」

「ねえ、メグル!! あれ見て!!」

 

 メグルはスコープで、アルカの指差した方を拡大して確認した。

 触腕の上を──何かが駆けている。

 蠢く触手の上という最悪の足場の上を、軽快に駆ける一つの影が見える。

 

 

 

『オムスターの口がまた開いたッスね……メグルさん!! 好機はオレっちとルカリオが開くッスよ!! 決死の覚悟で!!』

 

 

 

 ──ルカリオだ。

 ルカリオがオムスターの触腕の上を駆け抜けている。

 

 

 

「ノオト、お前──ッ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ノオト殿!! 早く!! このボートはもう持たないでござるよ!!」

「焦らせんなッスよ──!! ルカリオの”はどうだん”はオレっちの集中も必要なんスから──!!」

 

 

 

 波動により、この距離ならばノオトとルカリオは互いの感覚を知覚することができる。

 両者の精神が極限まで研ぎ澄まされることで、”はどうだん”の威力と速度、貫通力は最大限にまで高められていく。

 モーターボートはキリが張り巡らせたワイヤーによって補強されており、辛うじて破壊されていないが、もう持たない。

 時間をかけすぎれば、二人共スクラップだ。

 

「──距離良し──ルカリオ、ギリギリまで近付くッスよ──!!」

 

 その瞬間、ノオトの耳には何の音も聞こえなくなる。

 ルカリオの見ているオムスターの巨大な口が、ノオトにも確かに見えた──

 

 

 

「チャージ限界──撃ち、貫くッ!!」

 

 

 

 ノオトが掌を突き出した。

 同時に、ルカリオも触腕を足場代わりにして蹴って飛び出し、オムスターの口腔目掛けて”はどうだん”を放つのだった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 爆発音が遠くからでも聞こえてきた。

 

 

 

「ヴォァアアアアアアアクゥウウウウウウウウウ!?」

 

 

 

 オムスターの触腕の力が緩み、サメハダーとラプラスは再び空から自由落下。そのまま海へと落ちていく──間もなく水柱が上がり、程なくしてサメハダーとラプラスは浮上するのだった。

 

「がはっ、ごほっ、ごほっ、やりやがったあいつ……!!」

「今なら攻撃が通る──!!」

 

 見ると、オムスターがぐったりと倒れているのが遠巻きからも見える。

 だが──同時に、ぼかん!! と音を立てて何かが爆ぜたのがメグルには見えた。

 オムスターが掴んでいたモーターボートが触腕から落ちて、海面で爆発したのである。

 

「ノオト……!?」

 

 ライドギアのサドルを握り締めながらメグルはその名を呼んだ。

 飛び出していたのはルカリオだけだ。

 まさか、と思うと肝が冷えて、顔面から体温が抜けていく。

 手が震えてサドルから離れた。

 

「ノオト──ッ!! まさか──」

 

 

 

『何やってんスか、あんたぁ!! 折角スタン取ったんスから、さっさと仕掛けに行くッスよ!!』

 

 

 

 ──直後。

 無線機から元気なノオトの声が飛んできて、メグルは頭をサドルに打ち付けた。

 

「ヒッ!! 幽霊!! モーターボートと運命を共にしたはずじゃあ!?」

『ンなわけねえっしょ!! キリさんと一緒に、とっくに脱出したッスよ!! つってもこの距離じゃあ、オレっちもルカリオに指示出来ねえし……あいつが寝てるうちに畳みかけるッスよ、メグルさん!!』

「……お前、すげーな、本当に……」

「言ったでしょ、メグル。メグルが頑張ってるように、皆も頑張ってる。過去の自分よりも強く、強くなろうとしてるんだよ!!」

「ッ……そうだな。俺は皆の事を心配するあまり、見くびってたのかもしれねえ」

『二度の口の中への攻撃──オムスターは相当参っているでござる。今がチャンスでござるよ!!』

 

 再びサメハダーとラプラスは、オムスターへ急加速して接近。

 ぐったりと倒れるオムスターに追撃を仕掛ける為に──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ライドギアのコックピットの中で、ノーゼンは口から零れた血を拭い、笑みを浮かべた。

 通用していない。目の前の小粒達に、オムスターの攻撃も、そして圧倒的な防御力も。

 その弱点を一瞬で見切って突いてきたサイゴクのキャプテン、そして呼び出したラプラスの群れをも一掃して現在進行形でオムスターを集中砲火する正体不明のトレーナー達。

 イレギュライズで高揚していたノーゼンは、更に口角を吊り上げて「楽しい!! 楽しい楽しい楽しい!!」と叫ぶのだった。

 

「良い!! 良い良い!! そうでなければ面白くない!! 楽しくない!! 楽しくないなあ!!」

 

 ピキピキピキと音を立ててノーゼンの顔に更に氷が纏わりついていく。

 その感情の昂りに合わせ、イレギュライズも進行していく。

 

「どうせ人生は死ぬまでの暇潰しだぁ、そうだろう!! 楽しまなきゃなぁ!? そうだろう、オムスター!! ひひっ、ひひひひひっ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『ひっ、ひひっ、ひぃひいいいいいいいいい!!』

 

 

 

 ──スピーカーで海域中に引き攣った哄笑が反響する。

 

『もう良い、飽きちゃったよ──マーニャを壊すのは──こいつらだ、こいつらを壊さなきゃあ、楽しいだろう!?』

 

 支離滅裂、かつ音割れした声で何を言っているのかメグル達には仔細に聞き取ることは出来なかった。

 だが、唯一つだけ言えるのは正気ではないということ。そして、そんな手合にマーニャを蹂躙できるモンスターを預ければどうなるかを改めて思い知らされる。

 やはりこの怪物は、此処で止めなければならない。

 しかし──

 

「ッ……寒い!? 辺りの海が凍り始めてる!?」

「こいつ、まだこんな力を隠し持ってたのかよ!?」

 

 ──追い詰められた怪物は、守りを固める。

 海域周辺に冷気を放ち、再び氷海と化す。

 そして、サメハダーとラプラスの身体を氷山で挟みこみ、動きを止めてみせるのだった。

 オムスターにぎりぎりまで肉薄していた二匹は、そのまま後退することも前進することもできない。

 おまけにあろうことか、オムスターの口は再び動き出し、触手も元気に動き始めたのだった。

 

『REXを此処まで追い詰めた君達に、小生は最大限の賛辞を、賛辞を送ろうと思う!! いっひひひひひひひ!!』

 

 ふるふる、と無い首を横に振ってサメハダーが鰓でピスピスと鳴き始めた。

 いよいよ「終わり」であることを嫌でも痛感させられたからである。

 この距離では逃げられない。そもそも身動きを取ることすら出来ない。

 目の前には技をチャージしているオムスター。

 そして、周囲にはルカリオの姿は見えない。あの”はどうだん”を撃った後、ノオトと離れてしまったため、今此処に駆け付けても最大威力の”はどうだん”を撃つことも出来ない。

 まさに絶体絶命とも言える状況だ。

 

「ラ、ラプラス、どうにかして抜け出して──」

「多分無駄だぜアルカ……このままじゃ、ポケモンが凍り付くのは時間の問題だ」

 

 動けないサメハダー目掛けて、オムスターの口が大きく開かれる。

 強烈な水圧の”ハイドロポンプ”で纏めて二匹共消し飛ばすつもりなのだ。

 

「だけど──ノオトがタマを張ってくれたんだ。俺がやらなきゃ……あいつに悪いよな」

「メグル、まさか──」

()()()()()()()()()()()()。へへっ、なんて心臓に悪いセリフだよ、恨むぜ神様」

 

 メグルは──コックピット型ライドギアの中に、今も座っているであろうクローン人間に向かって目を向ける。

 背筋からは汗が垂れる。

 だが、もうその時、行動は終わっていた。

 ウェットスーツの袖を捲る。

 

 

 

 ──”O”の印が刻まれた宝石が、彼の手首で夜の闇の中に一筋の光を輝かせる。

  

 

 

 そして、ポーチの中からカードを1枚取り出し、メグルはそれを宝石に翳すのだった。

 

 

 

「……クローン野郎、お前には分かんねえんだろうな──人生一回こっきりの奴らの覚悟なんて。へへ、俺だって分かりたかなかったけどよ──!!」

 

 

 

【メグルのオージュエルと、オーカードが反応した!!】

 

 

 

「サメハダー……怖いよな」

「ぴぃ、ぴぃ」

「俺も怖ェよ。逃げてえくれえだ。でも、此処で死ぬ気でやらねえと、死ぬ気で託してくれた仲間に悪いだろが──ッ!!」

 

 

 

 

 光が夜の闇に拡散していく。

 稲光が──サメハダーに突き刺さり、鎧を形成していく。

 

 

 

 

「オーライズ”サンダース”!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──二日前。

 

「こ、これって……俺のオージュエルじゃねえか……!」

「ついに完成したのでござるよ。”オーカード”──! 今朝、サイゴクから国際便で届いたのでござる」

 

 作戦会議が終わった後、キリがジュラルミンケースの中から取り出したのは、メグルがサイゴクの研究機関に修繕と研究の為に預けていたオージュエル。そして、何処かで見たようなデザインの5枚の金属製のカードだった。

 そこには、それぞれのサイゴクのヌシポケモン達の顔が刻印されており、ひと目でどれがどのカードなのか分かるようになっていた。

 何も聞かされていなかったメグルは「どうしたんだよこれ!?」とカードを指差す。

 当面、オーライズは使えないものだと思っていたからだ。

 

「前に来た、オシアスの人たちがいたっしょ? あの人らが使ってた”オーカード”……ポケモンのオーラをカードに封じ込める技術ッスね」

「オーパーツを、カードにした……ってコトォ!?」

 

 ノオトが語るオシアスの人たち──以前、マイミュの事件の際に来訪した異世界のオシアス地方のトレーナー達は、テング団のそれとは異なる技術体系のオーライズを常用していた。

 それに目を付けたキリは、メグルが今後、安定かつ安全にオーライズを使えるようにレモン(異世界の方)に話を付けて研究材料としてオーカードを提供してもらったのだという。

 

「どうやって作ったんだコレ……?」

「彼らの持っていた無記のオーカードを頂いた。オシアス磁気によって御神体のオーラを吸い出し、カードに付着させたのだ。後はレモン殿の立ち合いの元、調整したでござるよ」

「あの短い間によくやったな……マイミュの事件が終わって、あいつらが帰るまで数日ちょっとだったろ」

「後は、オーカードの光を当てれば、カードに吸着したオーラが拡散、ポケモンに突き刺さってオーライズできる……ってわけッスね」

 

 以前に提供された別世界のオシアス地方にあるオシアス磁気の技術を流用。

 こうして、安定かつ安全にポケモンをオーライズさせることができるオーパーツ”オーカード”が完成したのである。

 御神体で持ち運びに難があった以前とは違い、カードとなったことで携行性はバツグン。いざという時に取り出しやすくなった。おまけに、表向きは只の金属製プレートなので、国際便で送っても何ら問題が無いのも小さくないポイントだ。

 既に、メグルの持っていたオージュエルを用いて安全実験は完了済み。以前のように荷重負荷で人体に悪影響を及ぼす可能性も軽減された、とキリは語る。

 その分、オオワザの出力はオリジナルの御神体を用いた時よりも抑えられてしまっているらしいが──

 

「デカブツや伝説ポケモン相手に、オーライズが無いと話にならねぇッスからね──!!」

「メグル殿には文字通り、最後の切札を務めて貰いたいと考えている」

「……俺が切札、か」

 

 結局これかよ、とメグルは漏らした。正直荷が重い。

 しかも、このマーニャでのオーライズの使用にはリスクが伴う、とノオトは語る。

 

「問題はイレギュライズ。あれが放つ波形を喰らったら、メガシンカも解除されちまったッスからね。最悪……オーライズも長くはもたねえッス」

「……本当の本当に、切札……ってわけか……」

 

 もし一度解除されてしまえば、オーライズは数分以上のクールタイムを要する。

 使いどころを間違えば、一気に不利になってしまう。故に、オーライズを手に入れてもメグルは手放しで喜ぶことは出来ないのだった。

 

 

 

「……気が重いぜ……マジで」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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