続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
──ダブルバトルGPチャレンジ。
それは、列島の各地からジムリーダーや四天王といった強豪トレーナーが集い、最強タッグを決めるというもの。
同じ地方の出身同士でペアを組む者、あるいは違う出身同士でペアを組む者など様々だが──サイゴクから参加するのは、この二人。
「──ジャラランガ、”ばくおんぱ”ァ!!」
「──ドラパルト、”ドラゴンアロー”で撃ち落とすのですよっ!!」
サイゴクの誇る双子キャプテンのヒメノとノオトだ。特に姉のヒメノは調子を取り戻して以降、戦績がすこぶる良く、今大会でもサポート役から火力役の全部をマルチにこなす器用万能っぷりを見せつけていた。
一方、弟であるノオトも姉に置いていかれることなく優れた連携を見せつけており、注目を浴びている。修羅の国・サイゴクからの参戦ということもあって、優勝候補なのではないかと噂されるほどの暴れっぷりを午前の試合では見せつけたのだった。
「次の試合はホウエンのジムリーダーのフウ様とラン様、奇しくも双子対決なのですよー。確か、ソルロックとルナトーンが厄介極まりないとか」
「ああ、キリさんも目を付けてたッスね。サイゴクには居ねえポケモンだし」
──ソルロックとルナトーン……機会があれば捕まえに行きたいでござるなー。隕石ポケモン仲間で、メテノの友達になってくれると嬉しいでござるなー。
「って、バトルに何一つ関係無いのです!!」
仮面を付けていない時のキリは割とぽわぽわしているので、こんなもんである。
「なァに、今日のオレっち達は絶好調、こっから負けるなんて有り得ねえッスよ」
「また調子に乗って……」
「それにオレっちには、キリさんから貰った弁当があるんスよ!!」
そう言ってノオトがロッカーから取り出したのは、風呂敷包みの弁当箱だった。
今回は観戦に回っているキリから、今朝預かったものである。
曰く──
──その、ノオト殿とヒメノ殿に勝ってほしくて、初めて作ったでござるよ……もしよかったら、食べてほしいなぁって……。
──わ、私、料理のレシピ、あんまり知らなくって……これしか作れなくって……でも、気合入れて作ったでござる。
「えへ、えへへへへ、キリさん照れてて可愛かったなあ、でへへへへ」
「顔がキッショいのですよ、ノオト」
「えへへへへ、だって、キリさんの手作り弁当ッスよ、こんな顔にもなるっしょ」
「キッショいのですよ、ノオト」
「これをエネルギーにして午後も、このまま勝ち抜いてやるッス!!」
(効いてねーのですよ)
ヒメノは頭を抱えた。
弁当を貰ったのはヒメノも同じなのだが、やはり彼女から貰ったものというのはそれだけで至上の価値なのだろう。
「へっ、今までの彼女はこうやって何かを作って貰う前にフラれてたッスからね……何なら貢いだり作る側なのオレっちの方だったし……此処まで交際が長く続いた事の方がオレっちびっくりで……ぐっす、ひっぐ」
「こらこら昔の女をこんな所で思い出すんじゃないのですよ」
「思い出したら胸の傷が開いて……わァ……あっ……」
「こらこらこら」
【特性:ライトメンタル】
「キリさぁぁぁん、愛してるッスーッ!! オレっち達、このまま優勝するッスからねえ!!」
「全く何処に出しても恥ずかしい弟なのですよ、こんな事ならキリ様と組めば良かったのですよ」
「はぁー!? キリさんと組むのはオレっちッスけどぉ!?」
「はいはい、弁当を食べるのですよ。お昼の時間が無くなっちゃうのですよ」
そうやっていつものように言い合う二人は、全く同じ動作で、そして全く同じ所作で、全く同じタイミングで風呂敷を解き、弁当箱の蓋を開けるのだった。
そして硬直する。今まで色んなものを食べてきた二人だが初っ端から「美味しそう」に感じなかったのはきっと、気の所為ではない。
中身はチョコバーとビスケット。二人の知る一般的な「弁当」の中身とは少しずれたラインナップだ。しかもチョコバーもビスケットもやたらと大きい。
彼女はこれを「手作り」と言い張っていたが──二人の脳には既製品をそのまま弁当箱にぶち込んだのではないか、という疑惑が出てくるのだった。
「……キリさん……?」
「これは……一体……? 弁当にはその人の食事観が現れると言うけども──これは、どういう……」
「……いや姉貴、これどっからどう見ても弁当っていうか──」
「待つのですよ、ノオト。このビスケットなんて美味しそうなのですよ。多分手作りなのですよ!」
「そ、そうッスね!! 一緒に食べるッスよ、姉貴!!」
そう言って二人は同時にビスケットを齧る。そして──
「……ヴォエエエ!!」
──キリ特製、野戦用ビスケット。
保存性に長けている上に非常に高カロリー(1枚で脅威の500キロカロリー相当)だが──その代わりに味が犠牲となっている。
ちなむと手作りは嘘ではない。既製品として出回っているレーションのこれを、キリは自ら再現してみせたのである。その頭脳を以て。
しかし常人が口にすれば、ゴムのような匂いと脂っぽさ、そして脅威の無味さ加減にえづく事になることは間違いない。
二人は揃って咽込み、ロッカーに手を突くのだった。
「な、何なのです、これは!? やたらと油っこい上に、生地から変なゴムみたいな匂いがするのですっ!!」
「姉貴!! 姉貴!! チョコバー!! こっちのチョコバーはどうッスか!? チョコバーがマズいなんてことないっしょ!?」
がりっ、と縋るようにノオトはチョコバーに喰らいつく。
結論から言えば──不味かった。
口には出さなかったが、ノオトは早速えづき、チョコバーを取り落としてしまうのだった。
──同じくキリ特製、手作り野戦用チョコバー。
保存性に長けている上に非常に高カロリー(1本で脅威の500キロカロリー相当)だが──その代わりに味が犠牲となっている。
ちなむと手作りは嘘ではない。既製品として出回っているレーションのこれを、キリは自ら再現してみせたのである。その頭脳を以て。
しかし常人が口にすれば、藁の束のような食感と、木材のような苦みに悶えることになるのは間違いない。
二人は揃って床に臥せ、そして机の上にある水の入ったペットボトルに手を伸ばすのだった。
「く、口直しをするのですよ、ノオト!!」
「ダ、ダメっす、こいつら無駄にカロリーが高い所為で、もう腹がいっぱいに……おえ」
「なんで全部食べちゃったのですよ!?」
「キリさんが用意したモンを食わねえわけにはいかないっしょ!? うっぷ……」
これにより、姉弟は揃って士気が低下。
結果的に次の試合で敗退となるのだった。
「ノオト殿、ヒメノ殿、弁当……喜んでくれたでござるかなー、ふふふ」
お前の所為である。
※※※
「──”ひぐれのおやしろ”の教育はどうなっているのですっ!!」
「エリィイイイイイイイイイス!!」
──土下座するサイゴク筆頭キャプテンの姿は早々拝めるものではない。よりによってアケノヤイバを引き連れて般若の面を被ったヒメノの姿を見た時、誰もが戦争かと勘違いしたという。
しかし、最早キリに対して忖度をしなくなったヒメノは単刀直入に事情を説明。彼女は泣きながら土下座することになるのだった。
「うっ、うっ、うぅっ、そんな、あれがマズかっただなんて……私、私、ノオト殿とヒメノ殿の為にと思って、無いレパートリーから弁当を選んだのでござるぅ……」
「試食とかしなかったのです!?」
「普通に食べれたでござるが……」
「イカれてるのです……」
仮面をアケノヤイバに引っぺがされたキリは、顔を真っ赤にして涙目で謝る。
しかし、対して般若の面を被ったヒメノは横に居る忍者たちに対しても凄んでみせるのだった。
「レパートリーがあれしかないのは大問題なのですよ!! 誰か止めなかったのです!?」
「本当に申し訳ない……我々の監督不行き届きだった……弁当を一人で作ると言い出した時点で、”まあキリ様だし大丈夫かなー……”って思ったのだ」
「普段料理をしない人間を厨房に立たせる事がどれほど恐ろしいか──誰も分からなかったのです!?」
「本当にすまないと思っている」
横に正座するのは、筆頭忍者のミカヅキ。彼は首を横に振ると沈痛な面持ちで語るのだった。
「キリ様は尋常ではない精神力の持ち主、常人なら3日も続けて食べれば病むレベルのレーションでも、常食できるほど……自分で再現できるほどに愛食している」
「私は美味しいと思うでござるけど……」
「キリ様の味覚がぶっ壊れてるだけなのです!! 常人なら3日続けて食べれば病むって、ちゃあんと言われてるのですよ!!」
「ぶ、ぶっ壊れてなんかないでござるよぉ!! なぁんでそんなこと言うでござるかぁ!!」
「その味覚で、今までノオトとのデートはどうしてたのです!? 外で食べるご飯、ちゃんと美味しいって思ってたのです!?」
「味があるなぁって……世の中のものは味があるものと無いものに分かれるでござるっ! 私はどっちでも食べれるでござるよ! 何でも食べなければ潜入捜査など出来ないでござる!」
「とんでもない事を言ってのけたのですよ、この人!! 味があるか無いか!? 世の中の食事はもっと彩りに溢れているのですよーッ!!」
悉くズレた発言に、ヒメノは再び胃に穴が開くかと思った。
すっかりキリへの幻想だとか憧れだとかがぶっ壊された今となっては、忖度無しに姑ムーブが出来るようになっていたのである。
「じゃあ、あのビスケットを弁当に入れたのは──」
「戦の際は高カロリーかつすぐに栄養が取れるものを、と思ったでござる……」
「ポケモンバトルと戦争を一緒にしてもらったら困るのです!! 弁当と言われて、あんなものを出されたら、それこそ戦争なのですよ!! ノオトが許してもヒメノが許さないのです!! 次はアケノヤイバだけじゃ済まないのですよ!!」
「本当にすまない、キリ様には我々から強めに指導しておく故、アケノヤイバは勘弁してくれ──あれ? アケノヤイバ何処行った? 居なくない?」
「あっちでヨイノマガンと遊んでるのですよー♪」
「にゃあああーッッッ!! バトってるでござる!! バトってるでござる!! おやしろ壊れちゃうから止めるでござるよ、ヨイノマガンーッ!!」
おやしろの外でじゃれ合うヌシポケモン達。しかし、じゃれ合いもヌシスケールであるが故に周辺に及ぶ被害は計り知れない。
涙目で止めに入ろうとするキリだったが、仮面が無いのでヒメノに耳たぶを引っ張られ、再び座らされてしまうのだった。
「キリ様? 話はまだ終わっていないのですよ」
「はひぃ……!?」
「婿入りであれ、嫁入りであれ、いずれ二人は結婚するのでしょう?」
「けけけけ、結婚だなんて、まだ時期尚早でござるよぉ、えへへへへ」
「いずれにせよ、このままだと一番不憫な目に遭うのはノオト──そして、後継ぎとなる子息ではないでしょうか!?」
「こ、こ、ここここ子供だなんてぇ!! 私にはまだ早いでござるよぉ!!」
(キレそうなのですよ)
握り拳を振り上げそうになるヒメノだったが、我慢した。偉い。
「愚弟と言えど弟は弟。ノオトの為に、ヒメノは再び鬼になるのです!! 少なくともクソ不味いクッキー以外のものを作れるようになってもらわないと困るのですよ!!」
「クソ不味いって──確かに最初はアレかもしれないけど……何度か食べればそのうち美味しいと思うようになるでござる!!」
「キリのお嬢、そう言えるのは貴女様しか居ません!!」
「頭領、俺達でもあれを三日以上食うのは無理です、気が狂ってしまいます!!」
「うむ……拙者もそう思う!!」
「ミカヅキまでぇ……私の味方は誰も居ないでござるかぁー!?」
「家庭に入った時、料理をするのが夫婦どちらか、あるいは両方か──それは夫婦で決めれば良い事」
ポキポキ、と拳を鳴らし、ヒメノは竹刀を何処からともなく取り出して叫ぶ。
「しかしそれはそれ、これはこれ──キリ様には、”ヒメノのパーフェクトお料理教室!”に参加してもらうのです!!」
※※※
「姉貴ーッ!! 帰ってきてくれーッ!! アケノヤイバも出てっちまうし──お終いだーッ!! 旧家二社同盟はお終いッスーッ!! 戦争になるーッ!!」
──ノオトは、再建されたおやしろの屋根に括りつけられていた。アケノヤイバの影によって。
自力では脱出することは出来ず、助けを呼ぶ声も誰にも届かないのだった。可哀想。
続きます。
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
-
ラブコメ、純愛
-
戦闘シーン
-
シリアス、曇らせ
-
ギャグ、コメディ