続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──開校!! ヒメノのパーフェクトお料理教室!!
「講師は勿論、この私! よあけのおやしろキャプテン、霊能力者の方、ヒメノにお任せなのですっ! なぁに、霊能力も料理も広義の意味では同じようなものなのですよ」
「ええー? ほんとにござるかー? ヒメノ殿の料理って聞くと不安が……」
──おやしろに歯向かう奴の頭蓋で飲むポーションは最高なのです!!
──†ポーションと怪しいキノコのしゃれこうべ煮込み†
頭蓋骨を杯に、ぼこぼこと泡立つ紫色の液体、そして明らかに食べてはいけなさそうなキノコが煮込まれている絵図。心外極まりないため、早速ヒメノは声を荒げるのだった。
「そんな魔女みたいな料理を作った覚えは今まで一度も無いのですッ!! そんでもって、キリ様はヒメノの事を何だと思ってるのです!!」
「率直に言えば怖い人でござるし、華々しい実績もあるでござろう」
以下、これまでの華々しい実績。
──怨み返し。ただちに討伐部隊を編成し、テング団を一人残らず潰滅する……これが、”よあけのおやしろ”の総意なのですよー♪(※総意ではありません)
──良い機会だし決着を付けに来たのですよー♪ ……以前に舐めさせられた辛酸、此処で晴らす時、なのですよー(※晴らす時ではありません)。
──……素顔も、素性も、全て暴きたい。そう思うのは、恋患う乙女にとって当然のことなのですよ(※当然ではありません)。
ヒメノはそれを指摘されて顔が青くなっていく。
そして、ぶわぁ、と涙が溢れてくるのだった。人には誰しも黒歴史というものが存在する。
「わっ……ァ……」
「泣いちゃった!!」
【特性:ライトメンタル】
「あの頃は若気の至りだったのです……!!」
「大して年月は経ってない気がするでござるが……」
「でもっ!! ヒメノは脳も胃腸も何度も破壊されて、悔い改めたのですっ!! 反省してるのですよっ!!」
「ええー……ほんとにござるかぁー?」
ぐうの音も出ない彼女からの反撃に胸を抑えて蹲るヒメノ。しかし、これしきでくたばっていてはキャプテンなど到底勤まりようがない。
「でも、それはそれ、これはこれ! キリ様があのゲロ不味クッキーとチョコバーを作った所為でノオトが悶え苦しんだのもまた事実なのです!! その所為で午後は本気が出せずに敗北、キリ様の所為で私達は負けたと言っても過言ではないのです!!」
「わっ……ァ……」
「泣いちゃった!!」
【特性:ライトメンタル】
ぐうの音も出ない更なる反撃に平伏すキリ。残念ながらその通りであった。
「悪かったのです、ヒメノも言いすぎたのですよ!! だから、泣くのは止すのです!! なんかこう……キリ様が泣くとヒメノが悪役みたいになるのですよ!! 勝手にヒメノの株が下がって、キリ様の株だけ上がっていく!! 納得いかないのですよ!!」
「わ、私、そんなつもりで作ったわけでは……」
「ね? だから、こんな悲劇を繰り返さないように、美味しい弁当を作ろうって話なのですよ! ね?」
「ううう……ヒメノ殿ぉ……」
※※※
「今回はオムライスを作っていくのです。弁当とも相性抜群、作るのも割かし簡単なのですっ!! 余ったスペースに他のおかずを入れる事も出来るのですよ!!」
「が、頑張るでござるっ」
「先ずは調理の前準備をするのです。調理器具と、手を洗って消毒──」
「うむ、準備は大事でござるな──では、手を洗う前に、ていっ」
「──ちょっと待つのです」
早速、何食わぬ顔で小袋を厨房の入り口にぶちまけたキリの肩に、ヒメノが手を置いた。
キラキラ、と金属光沢が見えた気がしたが──敢えて彼女は目を逸らす。
「……今、何を蒔いたのです? 厨房の入り口に何かばら撒いたのです?」
「虫除けでござるよ」
「ああ虫除け」
「調理の際、背後を襲われてはいけないでござろう。まきびしを撒いたでござるよ」
「虫除けとかそういうレベルじゃねーのです!!」
【まきびし 変化技 相手の場にまきびしを撒く。地面に足が付いている相手に、交代時ダメージを与える。】
とんでもないキリの行動に、早速ヒメノは彼女の胸倉を掴んで揺するのだった。
「此処は忍者屋敷の中、一体何を警戒しているのです!!」
「──敵襲はいつあってもおかしくないでござる!! 忍の心得でござる!!」
「そんな心得捨てちまうのですよ!!」
「それに見てほしい、本来こいつは自分が敵から逃げる際の足止めに使うでござるが──見方を変えれば、こうして罠に使う事もできるでござるな。こいつは私が作った新型の光学迷彩塗料を用いていて、しばらくすると──ほら、見えなくなったぁ」
「ほんとだー、見えなくなったー♡ これじゃあ避けることも出来ねーのですよ!! なぁんて事し腐ったのです、仮面が無い時は本当にダメダメなのです!!」
これではもう厨房から出る事が出来ない。うっかり足を踏み入れようものならば串刺し確定だ。おまけにキリの言う塗料の所為で、まきびしはすっかり辺りの光景と同化しており、何処に落ちているか分からない。
「これぞ背水の陣、ヒメノ殿も拙者も料理教室が終わるまで此処から出られないということでござるな」
「もう何でも良いけど、回収するのはキリ様が責任持ってほしいのですよーッ! このままでは厨房から出られないのです!!」
結局、まきびしは放置したまま料理教室は決行されることになった。
調理器具を一通りそろえ、チキンライスの具を作る所に入る。
「えーと……早速、鳥肉を食べやすい大きさに切っていくのですよ」
「食べやすい大きさに──でござるな」
「ちょっと待つのです……その手に持っているのは何なのです?」
キリの肩を掴むヒメノ。忍者の頭領の手に握られていたのは──菱形の刃をした小刀であった。
「クナイでござるが……ッ!? 子供でも知っている暗具でござろう!?」
「正気なのです!? 用意した調理器具を使うという発想がハナからないのです!?」
「獲物の首を掻き切って、血抜きするのにちょうど良いのでござるよ」
「死んだ目で思い出したくも無いことを思い出さなくて良いのです!! それに首を掻き切る獲物なんてここには無いのですよ!!」
昔やったサバイバル訓練の事を思い出したのか、キリの目からハイライトが消えた。
メシマズに加え、馬鹿舌なのは、こうした訓練の積み重ねではないか、とヒメノは真面目に考えたし、強ち間違ってはいない。
だが、多くの忍者が心のどこかで真人間を捨てきらないまま忍者になる中、キリは色んな意味で適応力が強く才能があったとしか言いようがない。
「料理の時、食材を切るのは包丁なのです! これは当たり前のことなのですよ!」
「──盲点でござった……!」
「盲点なのはキリ様の目なのです!!」
※※※
さて、フライパンにオリーヴァオイルを入れて熱し、刻んだ玉ねぎと人参、ミックスベジタブル、そして鳥肉を入れて中火で熱する。
そしてソースとなるケチャップ、トマトピューレ、バターを加えて再度炒めていく──そこにキリは、怪しい小袋に入った何かも投入しようとしたので、ヒメノは爆速で彼女の手首を掴んだ。
「ちょっと待つのです」
「!?」
「……今、何を入れようとしたのです?」
「我が家秘伝の保存剤でござるが……? 混ぜ込めば2年は食べ物が持つでござるよ」
聞くからに怪しい匂いしかしない。ヒメノはそれをひったくり、匂いを嗅いだ。
「拝借──ヴォエエエ!! くっさ!! 変なゴムみたいな匂いがするのです!! コイツが間違いなく諸悪の根源なのです!!」
「それが無いと、長期間の保存が出来ないでござるー!! クッキーやチョコバーにもこれを入れたでござるよ!!」
「弁当なんてその日の昼には食べるのだから、こんなもん要らないのですよ!!」
「あっ──そうかぁ」
「……もしかしてキリ様って意外とバカだったのかもしれないのです」
「なぁんでそんなこと言うでござるか!? 私は常に、戦況の一手二手先を読んでいるだけでござるよ!!」
「弁当作りにおいては、ただただ空回りしているだけなのです!! 一体キリ様は何と戦っているのです!!」
「世の中の闇でござるよ!!」
「巻き込まれる側は堪ったもんじゃねーのですよ!! 二度とこれを料理に入れるんじゃねーのです!! 次やったら本当に戦争なのですよ!!」
「そこまででござるか!? 旧家二社同盟の長い歴史は此処で終わりでござるか!?」
「終わりなのですよ!!」
怪しい保存料をゴミ箱にぶん投げるヒメノ。残念ではないし当然の帰結であった。
因みに外では、じゃれ合いからガチ喧嘩に発展したヌシポケモン達が大暴れしている。終わりの始まりであった。
そんな事はつゆ知らず、悔しそうにキリは呟く。
「くっ、弁当作りとは斯くも厳しい戦場でござったか……!!」
「勝手に厳しくしてるのはそっちの方なのです」
ともあれ、保存剤という名の悪は滅びた。その後は流石に忍者ということもあり、フライパンで器用にキリはご飯と一緒に具を炒めていく。
最後の仕上げに、溶き卵を焼いて、チキンライスの上に重ねれば──オムライスは完成だ。
「できた……っ、私にも……!」
「あのフライパン捌き──飲み込みが早いのは流石忍者なのです。ヒメノも──鼻が高いのですっ」
「ヒメノ殿、かたじけない……!」
「まだ油断するのは早いのです。食べてみて美味しい、と感じて初めて成功なのですよ」
早速──二人は完成したオムライスをその場で試食する。
そして、思わずヒメノは「美味しいっ」と叫ぶのだった。そして、キリもぱちぱち、と不思議そうに瞬きするのだった。
「……ちゃんと、味がするでござる」
「そこは美味しいって言ってほしかったのです」
「す、すまないでござるよ、私はやっぱり人とは味覚が異なるようでござる」
「それは今までのキリ様の積み重ね──誰も否定しないのです。でも、美味しいものは美味しいと言えた方が良いと思うのですっ。これから、積み重ねていけばいいのですよ」
「……ヒメノ殿」
「ともあれ料理で大事なのは──振る舞う相手の事を想い続けることなのですっ。その上で、自分も美味しいと思えたものが作れたなら、それが一番なのですよ」
「……振る舞う相手──」
キリの脳裏に浮かぶのは、当然ノオトの顔だった。
「ヒメノ殿ッ!!」
「な、何なのですっ!?」
「私は生半可な覚悟でノオト殿を好きになったわけではござらん。ノオト殿と添い遂げる以上、彼を……幸せにしたいと思っているでござる」
ぐっ、と彼女は拳を握り締めた。
「私はずっと忍者の頭になるように育てられてきた。だけど──そこから一歩でも出ようとせず、ずっと与えられた忍びの使命に殉じようとしていた。周りには私に外の世界に目を向けろと言うが、私は……目を背け続けた」
怖かった。外の世界に──目を向けるのが。キリは人付き合いが得意ではないし──自分が”普通”とは違う事は重々承知していた。
「でも、ノオト殿が、皆が……そんな私の手を取って連れ出してくれたから……今の私が居るのでござる。私一人の力では、こうしてヒメノ殿と面と向かって喋る事も無かったでござるから」
「キリ様──」
(……それはきっと、私も同じなのです)
ヒメノは思い返す。憎悪と復讐に囚われていた日々の事を。相棒であるミミッキュが氷漬けにされ、失意のまま過ごしていた日々の事を。もし自分一人だったならば、きっと永遠に抜け出すことなど出来なかっただろう、と考える。
「そして今日、ヒメノ殿が私に料理を教えてくれたおかげで……また1つ、ノオト殿の傍に近付けた気がするでござる。ヒメノ殿っ!! もし良ければ、これからも私に料理を教えてほしいでござるよっ!!」
両手を掴むキリに──ヒメノはどぎまぎして目を合わせられなくなる。気を許した相手には積極的になる、とは聞いていたが──こうして自分にもそれが向けられると、嬉しいのやら気恥ずかしいのやら、だった。
「そ、そんなの、これからはノオトに頼めばいいのですっ。今日はあんまりにも腹に据えかねたから、私が出ただけで──」
「否! ……ヒメノ殿が良いのでござるよ。鍛錬は……やはり見えないところでやりたいのでござる」
「……全く、とんだワガママなのですっ」
「かたじけない」
「それに、よくよく考えればノオトはキリ様に甘いので指導にならないのです。ヒメノの方が適任なのですよっ」
満更でもない様子でヒメノは頷く。
一時期はぎくしゃくした関係が続いた二人だったが──この料理教室を通し、奇妙な友情が芽生えようとしていた。
……その時である。
「キリ様、料理の方は如何様に──」
厨房にキリの側近・ミカヅキが入ってくる。だが、忘れてはいけない。床には先程キリがばら撒いた透明まきびしが──
「ッ!? 待てミカヅキ、厨房の入り口には──」
ぶすり!! ずぶずぶずぶ!!
「あひぃいいいいいいいいいいいいいいいん♨」
──この後キリはミカヅキに滅茶苦茶に怒られた。当然の帰結であった。擁護のしようなど何処にも無かった。自宅の厨房に光学迷彩塗料付きのまきびしを仕掛けている奴が流石に悪いとしか言いようがない。
「結局、強めのバチが当たったのですよ……知らんけど……」
※※※
──その頃、
「エリィイイイイイイイイイス!!」
「ケェェェレェェェェスゥウウウウウウウウウ!!」
「鎮まれーッ!! 鎮まり給えーッ!! さぞかし名のあるヌシポケモンと見受けたが、何故そのように荒ぶるのか──ギャーッ!?」
※通りすがりのポケモントレーナー。
砂丘で激突する二匹のヌシポケモン。
互いは互いに対して全力を出せる相手故、遠慮など一切ない。
生態系における圧倒的強者である彼らは常に、死合いに飢えている。
故にこうして、数年に一度、相見える機会があったならば、己が全力をぶつけたくなるのがサガというもの。
周囲の光の一気に吸収して空が暗くなる。そして、ヨイノマガンが目から辺りのものを薙ぎ払う光線を解き放つのだった。
【ヨイノマガンの たそがれのざんこう!!】
一方、アケノヤイバも負けてはいない。
影から巨大な剣を五本、召喚してみせると、それを盾のように展開して重ね、防壁とする。
【アケノヤイバの あかつきのごけん!!】
そうしてオオワザを完全に相殺してみせた後、砂煙の中から大量の弾幕が飛び出し、更に4匹に分身したアケノヤイバが日本刀のような尻尾を振り回しながらヨイノマガンへ突貫する。
しかし、ヨイノマガンも圧倒されてばかりではない。それをあしらうように、全身を砂地へ溶け込ませると、そのまま影も形も無くなってしまうのだった。
辺りを見回すアケノヤイバ。しかし、徐々に吹き荒れる砂嵐が濃くなっていくことに気付く。
「ケェェェレェェェスゥゥゥーッ!!」
徐々にアケノヤイバの身体に砂が纏わりついていく。
そして、再構築されていく巨神の身体。アケノヤイバは首だけを残してヨイノマガンに取り込まれてしまうのだった。
「リィィ……ッ!!」
「ケェェェレェェェスゥゥゥ!!」
だが即座にアケノヤイバは、影から剣を何本も創り出すとヨイノマガンの身体を叩き切って脱出。更に、上へ上へと駆け上がり──ヨイノマガンの眼玉に喰らいつくと、そのまま砂の中から引きずり出すのだった。
「ケェェェ!?」
砂から引きずり出された目玉には、シンボラーのそれに酷似した羽根、アンテナ、尾が付いていた。これこそが、20メートルを超すヨイノマガンと呼ばれる怪物の本体。
普段こそ砂の古城の中に閉じこもってこそいるものの、その本体は普段”目”とされている僅か2メートル程度の岩の身体。これを引っ張り出すことができる程の手合はサイゴクでも限られている。アケノヤイバはその中の数少ない一匹だ。
「ケレスッ!!」
「エリィィィィス!!」
砂を吸い上げて無限に復活するヨイノマガンのからくりは、この本体にダメージを与えなければ有効打成り得ない事に起因するのである。加えて、こうして本体が外に出てしまった場合、しばらくの間は砂を纏うことが出来なくなるという弱点が存在するのだ。
とはいえ。その本体のみの姿となったところで、大きさと攻撃範囲がスケールダウンしただけで、その権能が弱まったわけではない。
ヨイノマガンもまた、大量の”ふうとん・つむじ”による大竜巻を放ち、応戦する──
「アケノヤイバー、帰るのですよーっ!」
「ヨイノマガン、切り上げるでござるよ! もう気は済んだでござろう!!」
「……エリース」
「……ケレス」
キャプテンの声で二匹の動きは止まった。
今回は──これくらいにしておいてやろう、どうせ時間は腐るほどある。
二匹は頷き、それまでの激闘が嘘のように大人しくなると、そのままキャプテンに連れられて元の住処へ戻っていくのだった。
「世話以外でそのちっこい姿を見る事になるとは」
「ケレス」
「やっぱりアケノヤイバは強いでござるなあ」
「ケレス」
「え? 私でござるか? ……ミカヅキの説教の続きが、まだ残ってるでござるよ……」
「ケリュ……」
※※※
「というわけで、ヒメノ殿に教えてもらった弁当でござるが──その、どうでござるか? 少しはマシに──」
「……うまいっ!! キリさん、これ全部一人で作ったんスか!?」
「ヒメノ殿に見守って貰いながら……でござるが」
「頑張ったんスねえ、キリさん!! オレっち感激したッスよ!!」
「っ……えへへへへ……ノオト殿に喜んでもらえたなら、頑張った甲斐があるでござる……えへへへ」
──後日。
よあけのおやしろの祭壇前で仲良く弁当を食べる二人を見て、ヒメノは安心したように微笑むのだった。
「全く、世話が焼ける弟夫婦なのですっ」
アケノヤイバが欠伸をして丸くなる。今日も、よあけのおやしろは平和だ。
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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ラブコメ、純愛
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戦闘シーン
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シリアス、曇らせ
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