続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「どうやって脱獄したんだ……!? 警備は厳重なはずだろ」
「イデアが留置されていたのは、スオウシティの地下監獄。あいつの不死性を考慮した特例措置だ」
「それが破られたって、どういうことッスか!?」
「ポケモンの襲撃に遭ったらしい。それで警備が強引に突破された、とのことだ。忍者隊も蹴散らされてしまったようだ」
よりによって拙者が居ない時に、とキリは呟く。
「オレっち達、サイゴクに戻った方が良いんスかね……!?」
「否。今更拙者たちが戻ったところでどうにもなりはしないでござろう。むしろ、ヴォルカニドとブリザベオが脱走した今、拙者たちがマーニャを離れるリスクの方が高い」
「もどかしいッスね……!!」
「何のためにキャプテンが5人、そしておやしろにトレーナーや忍者隊、ヌシポケモンが居ると思っている。イデアの事は気掛かりだが……今、マーニャを離れるわけにはいかない」
──むしろ、拙者がサイゴクに居ない事を逆手に取られたのか……? 犯行グループは何者──まさか。
「……キリさん?」
「いや、何でもない」
「あの、イデア博士って確か、サイゴク地方のポケモン博士ですよね? 少し前に行方不明になったっていう──」
「表向きにはそうだ。だが──奴はとんでもない重罪人だ」
「……ああ」
ベッドから起き上がったメグルは右の目を抑えながら、忌々しそうに言った。
思い出すだけで寒気がする。あの、イデアという男の凶行と狂気を。
都合のいい手駒として動かされていた自分の滑稽さを。
それら全て、平然とした顔で出来たのが、あのイデアという男だ。
「……でも、それを説明する以上はミアに俺やアルカが何処から来たのかも話さないといけねえな」
「どういうことですか?」
「ボク達実は……この世界の出身じゃ、無いんだよね」
「……? ……!?」
首を傾げたミアは、アルカの言葉で目を丸くするのだった。
「……時空の裂け目……ってヤツの先には、違う世界があるんだ。無数の違う世界がな」
※※※
──イデアという男を説明するには、サイゴク地方とヒャッキ地方の対立の歴史から語らねばならない。
異世界にあるヒャッキ地方は”瘴気”が充満し、それを伝説のポケモンであるルギアとホウオウが祓っていたため、人間やポケモンが住める環境として成り立っていた。
しかし、ある時──サイゴク地方から偶然ヒャッキに流れてきた男が、ルギアとホウオウを捕獲してしまい、瘴気を祓える存在が居なくなり、ヒャッキは過酷な環境と化してしまった。
「参った……ヒャッキの人たちは僕を全力で追いかけてくる……あの軍勢は流石に捌けないぞ」
「そうだァ! 全ては、おやしろがやったってことにしよう! 僕って天才?」
そしてあろうことか男が無関係なおやしろに罪を擦り付けた事で、ヒャッキ地方の軍勢は時空の裂け目を通じてサイゴクに攻め込み、全面戦争と化したのである。
「うーん……自分がやった事とはいえ、こんな事になっちゃうなんて……仕方ない。ルギアとホウオウ、何とかしてくれぇ!!」
※何とかなりませんでした。
更に男がルギアとホウオウをサイゴク地方で放した所為で、事態は混迷を極め、両陣営は大打撃を受ける羽目になる。
結果的にサイゴク地方は総力を以てルギアを封印(ホウオウは行方不明)、ヒャッキ地方はルギアとホウオウを失った上に撤退──と双方に潰滅的な被害を受ける事になった。
これが500年前に起きた戦争の真実である。
「う、うう、なんか、僕、死ねない身体になっちゃったみたいだし、サイゴクは焼け野原だし、一体全体誰の所為でこんな事になっちまったんだ……!! 許せないね!!」
この愚かで軽率、浅慮極まりない上に無駄に小賢しい”男”というのが、500年前から今に至るまで生きていたイデ──後にイデア博士と呼ばれる男であった。
無論、普通の人間が500年も生きていられるはずはない。しかしこのイデアという男は、ホウオウの炎に焼かれたことで不老不死の身体になってしまったのである。
以後500年近く、ルギアとホウオウの捕獲を夢見ていた彼は、名前と顔を変えながらサイゴク地方で暗躍を続けていた。
──そして、時は変わって現代。
異世界転移してきたメグルがヒャッキ地方のテング団との戦いの末、ルギアを捕獲。
その数か月後にテロリストである”アークの船団”がホウオウを所持していることが判明。
「……いけるな。メグル君が僕の為に捕まえてくれたルギア(※違います)──そして、アークの船団が持ってるホウオウ。こいつらが揃えば、漸く僕の悲願が叶う!! ありがとうメグル君!! 僕の為に頑張ってくれて(※違います)……感謝してるぞう!!」
これにより、イデアの500年来の計画は動き出す。
まずは自分が管理していたメグルのボックスからルギアを抜き取り、更にメグルを騙し討ちする形でホウオウを捕獲。
こうしてルギアとホウオウは再びイデアの手元に揃えられてしまったのである。
さて、このイデアという男を語るのに欠かせないのが、彼が”センセイ”と呼ぶヒャッキ地方のドーブルである。
ヒャッキ地方のドーブルは、水墨の力を宿したゴーストポケモン。それが何の因果か、博士と巡り合い、不老の彼らは意気投合して行動を共にしていた。
そして、長生きしたヒャッキのドーブルは、徐々に力を増していく。その為、ドーブルの力はメガシンカポケモンを超えるものになっており、キャプテンであっても止めることは出来なかった。
「いやぁー、最強だよねえ、僕とセンセイが居ればさあ」
伝説のポケモンを手にしたイデアには、特にこれと言った目的があるわけではなかった。
ただただ己の手にしたポケモンを誇示し、その力でサイゴクを混沌に陥れる──只それだけの為にシャクドウシティを蹂躙していく。
「いやっふぅぅぅーっ!! 最高ーっ!! このまま、サイゴクのキャプテン……いや、列島のキャプテンになっちゃおうかなぁ!!」
勿論、自分をキャプテンに選ばなかったおやしろに対する当てつけ的な動機も無かったわけではない。
だがそれ以上に、サイゴクが自分の手で崩壊するのを見たかったのである。
しかし──当然のように彼の悪行はストップが掛けられることになる。
キャプテン達の抵抗、そして殺したと思っていたメグルが、スイクンの協力を得ていたことで形勢が逆転。
ルギアとホウオウを解放させられ、更に最後の頼みの綱である相棒のドーブルも撃破された上に、力を使い果たしたことで消滅してしまう。
完全に手持ちの駒が無くなっていたイデアは相棒が消滅したショックで意気消沈。
廃人状態になったまま、連行されていき、更にキリたちの工作で、その名前も存在もサイゴクの表舞台からは”消息不明”という形で消え去る事になるのだった。
「あ、あひぃ、あひぃ……センセイ……センセイ……」
※※※
両手には手錠。
首には鉄製のチョーカー。
横には、無表情な男達が付いており、イデアの肩を持って連行している。
それを付けられたまま、イデアが通されたのはワームホール公団の最深部、ホメオスタシス・サンクチュアリ。
男達は去っていき、そのまま彼は手錠を付けられたまま一人だけで待たされる事になった。
辺りには青白い光を放つサーバーのような機械が立ち並んでおり、回廊を進んでいった先で、イデアは止めさせられた。
「んで? これはどういう扱いなのかな、
『エエ──貴方ガ咎人ナノハ変ワラナイデスカラネ』
「はぁー……帰って良いかなあ、悪いけどねえ。僕はもう娑婆に出てくるつもりは無かったんだよ。センセイの居ない世界に意味なんて無いからさ。それを君達が無理矢理連れてきたんだよ、勘弁しておくれ」
そう言ったイデアは──暗い笑みを浮かべてみせる。
髪は真っ白になってしまっており、側頭部は禿げ上がっている。
精神面は多少安定こそしたものの、センセイ──相棒だったドーブルの喪失は彼に想像以上の爪痕を残していた。
「どーでも良いんだよ、ハッキリ言って。悪の魔王は討たれ、永遠に幽閉されましたとさ。それでこの話は終わりさ」
『ソウイウワケニハイカナイ。元・セレクト団ノ研究員デアリ、規格外ノ力ヲ持ツ貴方ハ──私ノ計画ニ必要』
「一体誰なんだい、君は……当時の団員なんて幾らでも居る。だが、名前も偽り、声も偽り、おまけに顔も見せないと来た。何者だ?」
『”コードレス”。ソレガ、当時ノ私ノ名前デス』
「コードレス……?」
イデアは眉をひそめた。
あまり、聞き馴染みのない名前だったからだ。
10年ほど前、身分を変えてセレクト団の団員として研究に従事していたイデアは、当時の研究員の名前は凡そ覚えている。
しかし、”コードレス”などという変わった名前は覚えが無い。
『オヤ、覚エガ無イヨウデスネ。私ハ技術顧問……アノ島ニ、クローン技術トAI技術ヲ外カラ持チ込ンダノハ私デスヨ』
「……そう言えばずっと不可解だった。極秘裏に開発されていたとしか聞かされてなかったけど、あの万能細胞と規格外の成長速度の人工知能──アレを開発したのは君だったのか」
ミッシング・アイランドの研究員ですら、万能細胞や人工知能の技術の大本が何処からもたらされたのか知らなかった──とイデアは思い返す。
『私ハ、技術ヲ持チ込ンダニ過ギナイ。彼ラガ万能細胞ニ辿リツクヨウニ──誘導シタ。ソノタメノ”お膳立て”ヲシタノデス』
「じゃあ何だ? ”万能細胞”という答えは最初から用意されていて、当時の研究員達は自分達も知らないうちに、それに沿って研究を進めていた──そして、君がそれを全て仕組んだ、と?」
『エエ。寸分ノ狂イモナイ答エデス』
「ならば、万能細胞は何処で開発された? あれはハッキリ言ってオーバーテクノロジーすぎる代物だ。あの島を管理するAIもそうだ」
イデアは愉快そうに問うた。
久々に彼の中に探求心、そして知的欲求が込み上げていた。
「まさか──
『当タラズトモ、遠カラズ。流石ハ、異世界カラ伝説ノポケモンヲ持チ出シタ男ハ目ノ付ケドコロガ違ウ』
「正直興味が出てきたよ。いい加減教えてくれないかなあ。君は何者だ? コチョウ? それともコードレス? どれも本当の名前じゃないんだろう? 教えておくれよ。じゃなきゃ、交渉のスタートラインにも立てないぜ」
『イイデショウ』
カツン、カツン、と硬い音が何処からともなく聞こえてくる。
一体どんな顔をしたヤツが出てくるんだろう、と期待に満ちた目でイデアは待つ。
そうしてしばらくしただろうか。
「くえすぱっ!! くしゃとりゃっ!! ……ピピピピピピ」
甲高い鳴き声が響き渡った。
そして、カツン、カツン、と硬い脚が地面を鳴らす音と共に──現れたのは、ダチョウのようなポケモン。
イデアは目をパチパチ、と瞬かせる。
その身体と羽根は鋼で出来ていた。目は電飾のようになっており、身体の節々を繋ぎとめるのは青白いオーラだ。
言わば、ロボットという言葉で形容するのが相応しい。ダチョウ型ポケモン・クエスパトラに酷似したロボットだ。
それを見てイデアはこくこく、と頷いて一言。
「檻に帰るかぁ~~~♨」
回れ右をしようとしたが、クエスパトラ型のそれの目が光り、無理矢理イデアは体の向きを元に戻されてしまう。
手持ちのポケモン等居ないので、抵抗する術など彼には無い。
「えーと、これは何の冗談なのカナ? 僕も侮られたもんだな。本当の姿を見せろって言われて、まさかクエスパトラのパチモンみたいなロボットを出されるとは」
『イイエ。コレガ、私ノ本当ノ姿デスヨ、ミスター・イデ』
「HAHAHA、御冗談を──」
「──当時も今も、人の姿は仮初。
遅れて、白い白衣を着こんだ女性が姿を現す。
イデアは目を丸くした。青く長い髪に、物憂げな瞳を眼鏡で覆っており、背はすらりと長い。
だが、肌も、顔も、その身体も、あまりにも精巧に作られた作り物のように綺麗すぎる。
人間ではない、と一目でイデアは見抜いた。人間と寸分違わぬほどに作りこまれてはいるのだが──違和感を感じ取れる。
「……ああ、そう言う事か。
彼の言うお得意技──それは、高度な知性と技能を持つエスパーポケモンが、人間に憑依して言語機能を借り、コミュニケーションを取るという事例だ。
それが生身の人間から、人型の機械に置き換わっただけ、と彼は解釈する。
「ええ。今こうして喋っているのは、義体……人とコミュニケーションを円滑に取るための仮初の身体」
「驚いたよ。本当に驚いた。正体はポケモンか。それが人型の人形を操って喋っていたと」
「しかし、見る人が見れば一発で分かってしまう。当時も人との接触は最低限に留めていた」
軽く会釈した女性は──改めて名乗る。
「──私の正式名称は……
【オオヒメミコ ???ポケモン タイプ:エスパー/フェアリー】
【識別名:コチョウ】
「クエスパトラに似ているけど……何で、そんな姿なんだい?」
「私の居る時代では、ポケモンは絶滅の危機に瀕している。故に、人工的な生態系を再現するため、私達が造り出された。人間も、その殆どがクローン。保存された基盤から培養されたクローンばかりだ」
「穏やかじゃないな。文明が滅んだみたいだね? 原因は?」
ワクワクとした顔でイデアが問う。
「……生命体。
「呪禍?」
「遥か遠い宇宙から降り、辺りのものを喰らい、子供を撒き散らし、更に宇宙から仲間を呼び寄せる。拡散し、破壊を撒き散らす悪夢のような存在」
「──私達は──ソレを”オーラギアス”と呼んでいる」
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