続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

40 / 108
第37話:”ガラクタ”

 ──ポケモンの中には往々にして、宇宙から来たとされる種類が存在する。

 ホウエンに降り注いだ隕石から現れたデオキシス、ガラルに飛来した隕石と共に現れ、ガラル粒子を拡散させたムゲンダイナ。

 そして──オーラギアスもまた、それに類する宇宙生命体だ。

 ただし、その危険性は桁違いに高い。

 

「奴の放つ捕食波動は、周辺の有機物・無機物を分解してエネルギー粒子に変えてしまう。文字通り生ける災禍だ。これにより、人口はオーラギアス襲来前の30%にまで激減した」

「終わりじゃん」

「人類はシェルターを作って閉じ籠り、クローン技術によって種を残す選択をした。そして長い長い時をかけて、オーラギアス達を捕獲。その力を動力として利用するところまで進んだのだ」

「ひえー、恐ろしいのは人間の方だったか……自分達の文明を崩壊させたヤツを逆利用しようって発想をする天才が居たんだろうな」

 

 尤も、その頃には地表の殆どは荒れ果て、文明は勿論、生態系も崩壊してしまっていたがな、と彼女は続ける。

 

「故に──崩壊した生態系を管理する存在が必要だった。それが我々──オーラギアスのオーラから製造された”人造ポケモン”だ」

「……大体経緯は分かった。しかし、オーラギアスが来るってのはいつの話なんだい? この世界、もうじき終わるってこと?」

「この世界線では──既に、()()()は過ぎ去っている」

「え?」

「……この世界もまた、無数に存在する並行世界の1つだ。世界線をYとし、時間軸をXとするなら、そこにズレが生じた時点で辿る歴史も変わる。私の居た世界では、本来なら2年前にはオーラギアスの大群が空から降り注いで文明は崩壊している」

「……ハァー、成程。要するに、この世界は運よく呪禍から逃れることは出来たってわけだ」

 

 この世界にオーラギアスが降ってくることは無いわけだね、安心安心、とイデアは呟く。

 

(……どうせなら降ってきて混沌とした世を楽しみたかったけど。残念だ)

 

「で? 結局の所……今の話を聞いた限り、君はこの世界の、ましてやこの時代のポケモンでもないわけだ。それが一体、この世界で何をしようってのかな」

「──私は己に課せられた使命を、この世界でもこなすだけだ」

「ほう?」

「自己進化、成長、そして種の保存。それこそが生命の存在意義。より強く、より賢く──より合理的に生命が進化するには管理者が必要だ。私は、私の製造された意義に従い、この世界の生物を管理することで、次のステージへと進化させる」

 

 イデアは腹を抱えて笑いそうになった。

 人造ポケモンとはいえ、たかが一個体のポケモンが生態系の管理者を名乗る事のおかしさに。随分と大きく出たな、と一周回って感心するのだった。

 

「なのに──私の時代の人間は、私を恐れ、時空の裂け目に私をボール諸共投げ込んで放逐した。だから、この世界で──私は私の存在意義を──使命を果たす」

「そりゃあ、大したことで……」

 

 漸くイデアも、コチョウの目的を理解した。彼女は自分の中でプログラムされた自分の使命をこの世界でも果たそうとしているだけだ。

 しかし、既にそれが開発者の想定を超え、開発者が望んだものではなくなっていることに彼女自身も気づいてはいない。

 

(……ロボットポケモンが変な自我に目覚めちゃったから処分されちゃったわけだ、可哀想に。当初の想定から離れちまった時点で、こいつはもうまともじゃない。それが”管理”だなんて、とんだ皮肉だよ。こいつ、自分を客観視出来ないんだろうね、ロボットだからかな?)

 

 ただし──問題は、オオヒメミコがそれを実現できてしまうだけの強大な力、そして頭脳を持っていた点であった。

 此処に来るまでに見せられたクローン技術に加え、彼女がこれだけ大きな組織を乗っ取る事に成功した強かさ。エスパーポケモン故の能力と知力を存分に使ったであろうことは想像に難くない。

 

「いずれ、ゆっくりと時間をかけて、この星の生命はクローンに置き換わる。長い長い時間をかける事になるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に──」

「置き換わる? ハハハ、君達がクローンを増やしこそすれ、既存の生命体が減るわけじゃあるまいに」

「──クローンの製造は基本的に()()()()だ」

「……」

 

 イデアは口を噤む。

 

「このマーニャも()()()()()()()()()()()()()()()。我々が優れた技能を持つ人間を()()し、()()()()()()()()()()上で観察をし、実験を続けている。今は試験的だが、先ずはマーニャの人間全てをクローンに置き換える技術自体は完成している」

「それって……言葉巧みに騙して連れてきて……殺っちゃったってコト? で、そいつのクローンが、町に戻っていく……何食わぬ顔で?」

「お前達の言葉ではそう言うのだろうな。だが、こうすることで──私の管理できる範囲の生物はどんどん広がっていく」

「……ハハハ」

 

 イデアはへたり込みそうになった。自分が言えたことではないが、機械に倫理観のストッパーなどというものは存在しない。そうでなければ、ミッシング・アイランドでの生命を生命と思わないような実験を主導しはしない。

 

「四天王たちはその最新型。病院から提供された死体を用いて、”調整”を行い人間の力を超えるミュータントとして製造した。彼らは、私の計画を前線で動かす役割を与えた」

「……それって体の良い残機無限の使い捨ての駒……ってコト?」

「お前達の言葉ではそう言うのだろうな」

「……ハハハ」

「だが、私の計画は長い長い時をかけ、いずれ達成される。その暁には、全ての人類は新たなるステージへ進むことができるはずだ。クローン人類とクローンポケモン、この両者が私の管理の下で地表の盟主となる」

 

 言わば、全生命クローン置換計画とでもいうべきものだった。正気ではない、とイデアは考える。

 事実上の全人類および全ポケモンの虐殺宣言である。その後に残るのは、コチョウの管理する、全く同じ顔で、しかし──調整の名の元に”進化”を遂げた似て非なる何かだ。

 そして、このまま放置しておけば何年、何十年と時間をかけてでも彼女はそれを達成してみせるだろう、と考える。

 故に──イデアは、この場では話を適当に合わせることにした。

 

「あー、うん、すごいねぇ……尊敬する!! 凄いと思うよ!! うん!!」

「……」

「それで、新人類の管理者様は、僕に何をしてほしいのかな? 何で僕、連れて来られたのかな?」

「ホウオウに焼かれ、不老不死となった貴方は、この星の唯一の旧人類として、私の進化の行く末を見守る権利がある」

「!? ……ああ、やっぱり知ってたのか僕の身体の事を」

「セレクト団時代から、貴方には目を付けていた。結局、その前に貴方は研究団を去ってしまったがな」

 

 何処で調べられたのか考えたくも無いけどね、とイデアは続ける。

 彼の身体は──ホウオウの炎に焼かれたことで、とうの昔に死ねなくなっている。

 

「……僕を抱きかかえたいのかい? 公団に」

「ああ。同じ研究団出身のよしみだ。それに──お前は強い。優れたトレーナーとしての技術と、卓越した頭脳を併せ持つ」

「……強い、か」

 

(まさか。僕は相棒を死なせた人でなしだよ。どんなに強いトレーナーだとしても、それだけでマイナス点さ)

 

「私と共に来い。見たくないか? 全てが完全に管理された進化された生態系を──その為に私に協力しろ」

「……断ったらどうなるんだい?」

「貴方は殺したくても殺せん。だから──永遠に公団で管理する」

「それが目的か。成程ねえ──成程だ」

 

 

 

(──要は僕に恩を売って懐柔したいわけだ。僕を殺してクローンにすることができないわけだし。でも、セレクト団時代に僕の優秀さも知ってるから、仲間に引き入れたい、と)

 

 

 

 イデアは目を瞑る。

 門外不出のはずの自分の動向を彼女が知っていた理由も何となく察した。どのような手段を使っていたかは考えたくも無いイデアだったが──こうして監獄を襲撃して自分を拉致出来た理由も、ずっと彼女に監視されていたからと考えると辻褄が合う。

 

「欲しい物は何でもくれてやろう。このマーニャで暮らすための戸籍もくれてやる。あの忍者たちが追ってくるならば、返り討ちにする戦力も我々は持っている」

「ふむ、魅力的な提案だね」

「面白いものが好きなのは知っている。私と共に、新時代の秩序を築かないか?」

 

 こくこく、とイデアは頷く。

 図らずも自分は逃亡犯。しかし、こうして列島から遠く離れたマーニャに連れて来られた上で、新しい戸籍を手に入れられれば、またゼロから人生を送ることができる。

 誰にも追われず、好きなものが好きなだけ手に入る生活。まさしく、若かりし頃の彼が夢見たものだ。しかし──

 

 

 

「え? ヤだよ? 誰がお前なんかに協力するもんか、ガラクタ」

「んな──ッ!?」

 

 

 

 ──イデアはコチョウの掲げる理想を唾棄してみせる。

 彼女の計画も独善的な進化とやらも、生物学者として看過できないものばかりだ。

 

「進化を徹底的な管理の元で促す? 馬鹿言ってんじゃないよ。それ自体が矛盾だってのにね。先ずそれが無理。生理的に受け付けない。そんなもんは進化とは呼ばないよ、生物学を基礎からやり直してきな」

「かつてのセレクト団の一員として──」

「生命改造を生命改造と言えるうちは良いんだけどね。自分が何やってるか分からなくなったら、お終いだよ。お前がやってることは進化を促してるんじゃない。クローンの量産と、それに伴う既存種の絶滅だろ」

「お前はサイゴクでは重罪人──ッ!! このまま逃げ帰れる場所など無いぞ!!」

「だったら檻の中に喜んで戻るさ」

「残念だがもうサイゴクには帰れん。お前に手持ちポケモンは居ない」

「そりゃあ困った──」

 

 ピキ、ピキピキ、と音を立てて──イデア博士の背後の空間に罅が入っていき、そして──火炎、冷気、稲光が開いた穴から放出され、コチョウは思わず飛び退いた。

 

「何だ!?」

「……やれやれ、本当に使う機会が出てくるなんてねえ」

 

 イデアに付き従うように、そしてコチョウをそれ以上近付けさせないと言わんばかりに、一匹のポケモンが間に入る。

 

 

 

「……悪いけど、本当の奥の手ってのは、隠しておくモンさ」

「ピーゴォー……ピピピピピ」

 

【ポリゴンZ バーチャルポケモン タイプ:ノーマル】

 

 

 

 サイケデリックな色合いの電脳ポケモン・ポリゴンZが狂ったような挙動で動き回る。

 電子世界で作られた人工のポケモン・ポリゴン。それが、”あやしいパッチ”によって突然変異を遂げる形で進化した姿だ。

 

「……隠し持っていたのか? 手持ちを」

「いいや? ポリゴンZには、異次元潜行機能が搭載されている。それで、いつ何処に居ても僕を助けに来てくれるってワケ」

「空間を移動する程の力が──そのポケモンに……!?」

「ああ。君もご存じの通り、デフォルトの状態じゃ、バグってて使えないけどね──根気強く育てることで使えるようになる──事がある! 失敗する事例の方が圧倒的に多いだけさ」

 

 ”あやしいパッチ”は居次元空間でもポリゴンが活躍できることを期待して作られた修正プログラムだ。しかし、それによってポリゴンZは不安定かつ奇妙な挙動をするようになってしまった。言ってしまえば生けるバグだ。そのため、進化したての状態では異次元移動の機能を使う事は出来ない。だが、それは逆に言えば育成次第では”出来てしまうことがある”というわけで。

 

「こいつはプログラムから生まれた存在。それゆえにポリゴン2までは、()()()()()()()()()を発揮する事が出来ない。でも”あやしいパッチ”によって、プログラムを不安定化させることで、育成次第で当初の想像以上の力を発揮できるようになったのさ。まるで生き物のようだね」

「……何が言いたい」

「進化や、成長ってのは、管理からは生まれない。先行きの見えない”不安定さ”から生まれる事もある──ってことさ。人工ポケモンのポリゴンですらそうだからね」

「……愚かな。ならば死ねない身体に教え込んでやる必要があるようだ」

「うん? 戦うの? 悪いけど、強いよ僕のポケモンは」

 

 ポリゴンZが目から放ったレーザーで、イデアの手錠と足枷が焼き切られて地面に落っこちた。

 

「……ドーブルが居ないお前に何ができる」

「はぁ、センセイは死んだことも知ってるのか──そのくせポリゴンの能力には気付かなかった辺り、僕とセンセイにしか関心が無かったんだね。視野が狭い所まで含めて機械っぽいな」

「御託を並べたところで今のお前は、ただ不死身なだけのトレーナーでしかない」

「確かに生き残ったのは僕だけ──センセイは超常的な力を持ってたけど、僕はこれといって他に能力があるわけじゃない」

 

 しかし、それでも彼が此処でオオヒメミコに立ち向かう理由があるとするならば──

 

「……でも、お前のやり方は気に食わない。大人しく支配されてやるなんて、僕もゴメンだし──()()もゴメンだろうからね。罪滅ぼしじゃあないが、久々に暴れてやるとするよ」

 

 元より罪人である以上、彼に今更躊躇いなど無い。

 ポリゴンZが3Dプリンターの要領でスプレーのようなものを空中に吹きかける。それは徐々に白衣の形となってふわりと浮かび上がり、イデアはそれを羽織ってみせる。遅れてサングラスも現れ、それを掛けるのだった。簡単な物であれば実体化させることができるのだ。

 

「……完全に私の手落ちだ。お前は抵抗できないものだと思っていたし、私に従うものだと思っていた」

「舐めんなよ。僕は500年生きた不死身のポケモン博士だぜ」

「……確かに私はお前を多少侮っていたらしい。だから、此方も本気を出してお前を屈服させるとしよう。こうなった以上、お前を外に出すわけにはいかない」

「来いよ挑戦者(チャレンジャー)、揉んでやる」

 

 青い髪の女性型義体の胸には三角形の板のようなものが張り付いている。それが浮かび上がり──コチョウの本体である人造ポケモン・オオヒメミコの胸に装着された。

 その眼が青白く輝き、戦闘態勢を取り、羽根が大きく広がった。

 

「くえすぱっ!! くしゃとりゃっ!! ……ピピピピピ」

 

 

 

【オオヒメミコが 現れた!!】

 

 

 

 しかし、女性型義体も役目を終えたわけではない。

 その手首には──金色の腕輪が嵌めこまれており、そこに埋められた宝石にイデアは注視する。

 

「おっと、よりによってオージュエルかい? 何故それを持ってるんだか──」

「オージュエルはオーラギアスの身体から生えた結晶体から採取できる宝石。そして、その力を最大限に発揮できるのもまた──オーラギアスの子同然である私達だ」

 

 コチョウの手に握られたのは金属製のカード。それを彼女はオージュエルに翳すと、カードが空気中に粒子となって拡散し、オオヒメミコの身体に突き刺さっていく──

 

 

 

「──ギガオーライズ」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。