続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第38話:天々煌后のギガオーライズ

 オオヒメミコの羽根が黄金に光り輝き、大きく扇のように開かれた。

 その姿は、日輪を背負う神鳥の如し。全身からは金色のオーラが溢れ出し、辺りを汚染していく。

 イデアも思わず後ずさる。ギガオーライズ前からは比べ物にならない程に脅威度が跳ね上がった、と直感した。

 そして遅れてオオヒメミコの両目から金色の稲光が迸るのだった。

 

「交渉に乗れば無傷で済んだのに……」

 

 

 

【オオヒメミコの サイコイレイザー!!】

 

 

 

 オオヒメミコの目が光り、天井から無数のレーザーが降り注いだ。

 すぐさまポリゴンZ共々後退しながら避けようとするイデアだが、全て見切る事など出来るはずもなく、頬にレーザーが掠り鮮血が噴き出す。

 だが、それでも猛攻が止むことはない。ポリゴンZは異次元への扉を多数展開し、レーザーを吸い込むことで対応しようとするが、それでも被弾は避けられないのだった。

 

「クソ──トライアタックだ!! こっちを気にして勝てる相手じゃないぞ!!」

「……」

 

 しかし──ポリゴンZが放った電撃、冷気、火炎は全て真っ向から受け止められてしまう。

 全くダメージが入っていないわけではないが、オオヒメミコは微動だにしておらず致命には遠く届いていない。

 特性”てきおうりょく”で威力が倍増しているはずの一撃が通用していない事に流石のイデアも逆らう相手を間違えたのではないか? と早々に怖気づくのだった。

 

(タイプ相性での半減じゃない、単純に硬いのか──!!)

 

「配下のクローン頼りの私が弱いとでも思ったか? 心外だ──ッ!!」

 

 お返しとばかりに天井からレーザーが次々に降り注いでポリゴンZを撃ち貫く。

 そうして転がった電脳戦士に、オオヒメミコはつかつか、と近寄り──その瞳を輝かせた。

 

 

 

「そうか、元はクエスパトラか──それは本当にマズい!! ”テクスチャー2”展開!!」

 

 

 

 オオヒメミコの全身から眩い光が放たれるが、その前にポリゴンZの全身に薄い電子の被膜が纏わりつき、それを正面から受け止めてみせる。

 

「……流石だな。私の”ルミナコリジョン”の前動作を見切ったか」

「……どーも」 

 

 ”ルミナコリジョン”は相手の特殊防御力を激減させる非常に危険な技だ。”てきおうりょく”による火力上昇を投げ捨ててでも阻止するべきだ、とイデアは考えたのである。

 故に。ポリゴンZに、仮初の電子被膜を纏わせることにした。タイプが相手の技に対抗できるように変化したことで、今のポリゴンZのタイプは悪タイプとなっている。

 

(火力が下がるからやりたくなかったんだけどね……!! でも、これであいつのエスパー技は効かない……!!)

 

「……それだけの力を持っていながら、どうして無駄にしようとする? どうせ世界は私の子供に埋め尽くされる。その時お前はたった1人の旧人類だ」

「決めつけるなよ。僕じゃなくても、違う誰かがお前の言う浅っさい”管理”とやらをブチ壊すかもしれないぜ?」

「私としても、お前という重大な戦力を失うのは惜しいのだがな」

「勝手に頭数に入れるんじゃないよ……!!」

「力を見せて尚、戦意を失わないか。面倒極まりない。まだ未完成故に……この手は使いたくなかったがな」

「ああ?」

「最後のチャンスをくれてやると言っている」

 

 義体が空に手を翳すと、タッチパネルのようなものが現れる。それを操作すると、床下が開いて、そこからモンスターボールが規則正しく並べられたケースが現れる。

 その中の1つを手に取ると、義体はそれを投げ込んだ。ぽしゅ、と音が鳴り──中から飛び出したのは、

 

 

 

「──どぅーどぅる」

 

 

 

 絵筆のような尻尾を持つ黒い体毛の犬のようなポケモンだった。

 その身体からは常に水墨のような液体が滴り落ちている。

 イデアは──あまりの衝撃に立ち尽くす。ヒャッキ地方にしか生息していないはずのドーブルだ。

 そしてそれは、かつて彼が戦いの果てに喪った相棒そのものの生き写し。イデアは立ち尽くす。

 喪失の記憶が頭の中に駆け巡り、真っ白になった。

 だが、それでも一抹の冷静さは失いはしない。辛うじて、言葉を紡ぎ出す。

 

「……センセイ──いや、違う。クローンか──ッ!! 一体いつの間に……!?」

「言っただろう? 望むものは何でもくれてやる、と。ただ、この個体はお前の個体に比べれば戦闘力は然程高くない。それが気掛かりでな。交渉材料には成り得ないと考えていた。だが──”調整”次第では戦力になり得るかもしれんぞ?」

「お前、何も分かってないな……!?」

 

 わなわな、とイデアの左手が震え始める。

 

「戦闘力が何だって!? はは!! 流石ロボット様だ、人の心ってモンが無いんだろうな!! 僕ァ、強いからセンセイと一緒に居たんじゃあないよ!!」

 

 イデアはサングラスを投げ捨てて叫ぶ。

 彼女の言う「望むもの」では、彼の心の空白を、穴を埋められはしない。

 

「大人しく従えば、代わりが手に入るのに……」

「僕のセンセイは死んだ。もう居ないんだッ!! 代わりなんて居ないッ!!」

「……そんなに大事なら、何故死なせた?」

「そうだね──何でだろうねッ!!」

 

 イデアが叫ぶと共にポリゴンZが次々に”トライアタック”を乱射していく。

 だが、それをドーブルは”ひかりのかべ”を展開して全てコチョウに届く前に防いでみせるのだった。

 心底失望したように吐き捨てたコチョウは、ドーブルに目を向ける。

 人間の真似事は出来ても、その心理は彼女に分かりはしない。この瞬間、ドーブルは交渉の材料から──この場でイデアを確実に叩き潰すための戦力になるだけの話だ。

 

 

 

「……本当に、残念だ」

 

 

 

 天井からレーザーが再び降り注ぐ。

 高圧縮されたレーザーが辺りを切り裂き、そして──イデアの左腕を切り飛ばした。

 

 

 

「あァ──ッ!?」

 

 

 

 痛みは遅れてやってきた。

 吹き飛んだ自分の二の腕から先を見て、イデアは蒼褪めた。

 辺りを赤黒いものが染め上げていく。びしゃびしゃ、と血が白衣を染めていく。

 意識がふぅ、と遠のいた。急激な失血によるショックが起こっていた。不死身であるが故に死にこそ至りはしないが──

 

(痛ァァァ!? 痛い痛い!! ってか、感覚無い!! おいおいおい冗談じゃないよ!! 不死身だからって、すぐ再生するわけじゃあないんだぞ!?)

 

「ピーゴォーッ!?」

 

 ポリゴンZが異変を感知したのか此方を振り向く。しかし、イデアも叫ぶ。

 

「僕の事は良い!! 反撃だ、ポリゴン──ッ!!」

 

 切れ飛んだ右腕の行方を確認する余裕もイデアには無い。 

 長生きしてきた彼だが、四肢欠損の憂き目に遭うのは初めてだった。

 だが、そんなものは最早どうでも良かった。相棒の紛い物、生き写しを見せられたことで、イデアは怒りが頂点に達していた。

 

「……連携だ。ドーブル、”インファイト”」

「どぅーどぅる」

 

 地面を一気に蹴ったドーブルがポリゴンZに肉薄する。そして、水墨を集中させて硬化させた尻尾で思いっきりぶん殴る。

 野球ボールのように吹き飛び、壁に衝突したポリゴンZだったが、更に追い打ちをかけるようにしてオオヒメミコが光の球体を天井に向かって打ち上げる。

 

 

 

「……お終いだ。これが神鳥の裁きと知れ」

 

【オオヒメミコの ムーンフォース!!】

 

 

 

 球体は爆ぜ、そこから大量の光の柱が飛び出した。

 その場にいたドーブルも巻き込み、辺りに穴を開け、焼き焦がしていく。

 しかし、その場の機械の被害など、最早オオヒメミコは気にも留めなかった。

 重要なのは此処でイデアを再起不能にしてしまうことだったからだ。しかし──

 

「──はぁ。やはり逃げたか」

 

 

 

 ──煙が晴れた時、そこにはポリゴンZは勿論、イデアの姿も無かった。

 

 

 

「……異次元潜行能力……厄介だが、そう遠くには逃げられないだろう。四天王を動員するとしよう」

 

 

 

「どぅ……どぅ──」

 

 

 

 呻き声が聞こえてくる。

 オオヒメミコの”ムーンフォース”の巻き添えを喰らったドーブルの声だ。

 しかし、瀕死のドーブルをオオヒメミコは一瞥すると、

 

 

 

「……やはり弱い。()()()()()()の再現は──どの道不可能だったか。残念だ」

「どゥッ」

 

 

 

 ──鋼の足で頭を踏み潰す。

 万能細胞で出来た造られた泡沫の命は、無常にも粒子となって消えていくのだった。

 セレクト団時代に採取した毛から再現したクローンだったが──あまりにも情報量が少なすぎたが故に、能力は本物に遠く及ばなかった、と彼女は考える。

 しかし、彼女は知らなかった。ヒャッキのドーブルは生態系では最底辺に位置するものの、長い年月をかけて生き残った個体は水墨の妖力が高まり、非常に強力になることを。

 

 

 

「……ブランカ、サリ。お前達の出番だ。イデアを追え。奴を逃すな」

 

 

 

 コチョウはすぐさま”通信”で、配下のクローンに指示を出す。

 ノーゼンは長い長い調整、ユリも定期メンテナンスの途中。使えるのは──サイゴクの監獄を襲撃に行かせてイデアを拉致させた二人だけだ。

 

 

 

「……REXの使用許可を出すとしよう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あだっ、あだだだだだ!! あー……臭……焦げ臭ッ!! 人肉が焼ける匂いなんていつぶりだよ、マジで痛い……死ぬ……死なないけど……」

 

 

 

 ──ポリゴンZの異次元潜行は無制限に使えるものではなく、感覚としては海へのダイブに近い。

 類似の能力を持つポケモンとしてはアケノヤイバが挙げられる。尤も、アケノヤイバはこれを無制限に、長時間使う事が出来る点で優れているのであるが。

 そして、ポリゴンZが耐えられても人間の方が異次元に耐えきる事が出来ないことも手伝い、イデアはあまり遠くまで逃げ果せる事が出来ないのだった。

 おまけに此処は全く土地勘のないマーニャ。

 千切れ飛んだ右腕の断面をポリゴンZの目から射出されたレーザーで焼いて貰い、何とか止血。ぼろぼろ涙が出る程痛かった。死ぬ程痛かった。死なないけど。

 放っておいても死にはしないのだが、このままでは鮮血を左腕のあった場所から垂れ流し続ける不審者となってしまい、あまりにも目立ちすぎる。

 ついでに血まみれになった白衣も火炎で焼却処分して貰い、町に潜伏する為の服装も、ポリゴンZに3Dプリントしてもらう。

 非常に暑いマーニャだが、止むを得ず、長袖のシャツを作って貰うのだった。

 

「……参ったね。このまま大人しく捕まるわけにはいかないし、かといって頼れる相手も君以外に居ない」

「ピーゴォー……」

「悪いね、わざわざ来て貰ったのに、こんな目に遭わせちゃって──いや、今更か。君らには散々僕の好き勝手に付き合って貰ったもんな」

 

 疲れがドッと押し寄せ、イデアは路地裏の壁にもたれかかる。

 此処は何処かの町には違いない。人の喧騒が聞こえてくる。

 だが、この中にきっと、自分の知るものは一つもないのだろう、と憂う。

 

「あーあ……こんな時、センセイが居たらなあ……」

 

 へへ、と自嘲気味にイデアは笑う。

 

 

 

「本当……なーんで、消えちまったんだよ、センセイ……」

 

 

 

 彼は自分のやった事に、悔いなど無い。メグル達に負け、檻に入れられ、全ての社会的地位を失ったという結果にすら納得している。

 負けた自分が悪い。ただそれだけの事だ。だが──それでも納得できない事が、受け入れられない事があったとするならば、相棒であるドーブルを喪ったことだった。

 当初は廃人寸前にまで精神は荒れ果て、奥地の檻に隔離されていたこともあってか回復は見込めないと思われていた。

 だが、それでも少しだけ、彼が持ち直した理由があるとするならば、最近面会客が1人現れた事が大きかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──調子どう?

 

 ──……。

 

 ──すっかりやつれちゃって。自業自得だから同情なんてしてあげないけど。

 

 ──……。

 

 ──別にあんたの事を許したわけじゃあないんだから。ただ最近、あんたのそっくりさんに会って──ちょっとだけ、あんたの顔がどんなだったか確かめに来ただけ。

 

 ──ハッ、良い趣味してるね。そうやって僕を笑いに来たのかい。

 

 ──そんなことしない。誰かが罰を下さなくったって、あんたはこれからずっと、永遠に罰を受け続ける。

 

 ──……。

 

 ──生き続ける事自体があんたの罰。あんたは取り返しのつかないものを悔いながら生きていくの。

 

 ──はは、そりゃ最高だ。死のうにも死ねやしないからな、この身体だと。きっと僕は永遠にセンセイに会えないんだろうね。

 

 ──でも……昔馴染みの好だし。あたしだけは、こうやってあんたに会いに来てあげる。

 

 ──そうかい。……やっぱりユイちゃんは優しいね。

 

 ──……別に優しくないんだから。じゃあね、博士。またしみったれた顔を見に来てあげる。気が向いたら、だけど。

 

 ──ああ、そうだ。1つだけ教えてくれないかい。

 

 ──何?

 

 ──皆は……どうしてる?

 

 ──サイゴクは──あんたなんか居なくたって恙なく回ってるわ。

 

 ──そう……安心したよ。それだけ、気掛かりだった。

 

 ──どの口が言うのやら……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(罰、罰ね……シャバに出られたのに、こんなに嬉しくないなんて……捕まる前は思わなかったな)

 

 

  

 しばらく町をふらついただろうか。

 結局頼るアテも無ければ、金も無いので、空腹を抑えたままイデアは町を彷徨う事になった。

 気が付けば、高層ビルの立ち並ぶ都市街に辿り着く。

 このまま自分を知る誰かに見つかって捕まり、サイゴクに帰りたい。だが、今捕まれば、送還されるのはワームホール公団の元であることは確実だった。

 

(この街並みは……何処だ? やっぱ分からん……ベニシティよりは都会だな……)

 

「あーあ……サイゴクに帰りたいよ。あんなにクソッたれた田舎だって思ってたのに、ずっと滅茶苦茶にしてやりたかったのにさ、今はすっごく恋しいや」

「ピーゴォ……」

「……どうしたもんかね」

 

 途方に暮れて、駅前の噴水にイデアは座り込む。

 ポリゴンZだけが彼を気遣うように顔を覗き込んでいた。雑踏は彼を気にすることなく、近付いては通り過ぎていく。

 

(こんな所に知り合いなんているわけないし……サイゴクの忍者も、ピンポイントでマーニャに追いかけてきたりはしないだろ……はぁーあ)

 

 

 

「此処がココナッツシティかぁ。やっぱマーニャの首都ってだけあって、ビルばっかだな」

「こんな所で、本当にヴォルカニドとブリザベオ、居るのかなあ」

「目撃情報が確かならいるのでしょう。この間のように着ぐるみではない事を祈るばかりです」

 

 

 

 聞き覚えのある声。そして振り向けば──見覚えしかない立ち姿と顔。

 イデアは一瞬で過呼吸に陥り、思わず慌ててターミナルのオブジェクトの影に隠れるのだった。

 確かめる為にもう一度顔を確認する。間違いない。見覚えしかない。かつて自分が助け──そして騙し、陥れた結果、返り討ちに遭った張本人がそこに居た。

 

 

 

(な、ななななな、何で居るんだい!? メグル君──ッ!?)

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  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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