続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
変態はブロロロームの頭部部分に乗っかっていた。
当然、ポケモンの目は塞がれ、前方が見えていない状態の為──
ズガドォォォン!! ドゴッシャラァァァ!! バンギッ!! メキャメキャメキャッ!!
減速出来ずに壁にぶつかり、盛大に爆発炎上するブロロローム。
流石に死んだかと思った一行だったが、炎の中から何事も無かったかのようにその男・シャインは現れたのだった。尚、髪はチリチリのアフロになっていたことは言うまでもない。言うまでも無いのだが──どうしてこれで済んでいるのか、甚だ疑問である。目を回すブロロロームには見向きもせず、変態はつかつかと歩み寄ってきた。
「ココナッツシティに行きたいが、飛行機のチケットが無い……といったところかな? ──美しい私に、助けを求めるとは……君達もなかなか見所があるじゃないか」
「……」
因みに最初から助け等微塵も求めていない。
「おっと、少々騒がしくしてしまったようだな。だが、此処は私の美しさに免じて赦して貰えないだろうか?」
「……」
一体何を免じるというのだろうか。
「……大事故じゃん」
「具合が悪くなってきました」
「何で死んでねえんだ? 今ので?」
「ははは、そんなに賞賛を浴びせないでくれたまえ。照れるじゃないか」
「やっべえ、もうちょっとで俺のオオワザ・ジャジャン拳が出る所だった」
「メグル、気持ちは分かるけどグーは下ろして!! 気持ちはすっごく分かるけどぉ!!」
「あ、あの……なぜシャインさんはこんな所に?」
「丁度私はココナッツシティへ向かおうとしていたんだが……ブロロロームとのドライブに興じていたら、二人に置いていかれてしまってね」
(残念でも無ェし当然だ……)
(全く可哀想に思えない……)
(そのまま朽ち果ててくれれば良かったのに残念です、気持ちが悪い……)
1100km先のココナッツシティ行に置いていかれるのはまあまあ悲惨なのだが、残念な事に普段が普段なので全くと言っていいほど同情されないのだった。
「それに私も友人の恋路は応援したくてね……今頃二人は素敵なフライトをしているだろうよ」
※※※
──その頃、飛行機の中。
案の定ファーストクラスの座席を取ったレモンだったが、どうも不満があるようだった。彼女の不満は唯一つ。絶対に許せない事だ。温厚で天真爛漫、そして純真無垢な彼女が許せない唯一つの事。それは──
「ラズ!! エナドリがありませんわ、この飛行機!!」
「ちっとは我慢出来ねーのかテメェはァァァ!!」
これである。こいつはいつもどこでもエナジードリンク。
「私のポケットモンスターエナジーは!? 私のレッドレイジングブルは!? このままでは翼を授かれませんわ!!」
「良いか……お前の親父さんに言われてんだよ、俺ァ!! この調査を機に、どんな手を使ってもテメェの身体から抜けるだけのエナドリを抜けってなあ!! 親父さん泣いてたぞォ!!」
「そ、そんな、私がエナドリ中毒者みたいな……!!」
「中毒者だろがァァァ!!」
この場にシャインが居なくて良かったかもしれない。収拾が付かなくなっていたところである。
※※※
「とはいえ、ラズもなかなか手厳しい。この私を置いていくとは……全く、美しいって罪だと思わないか君達」
「公然わいせつ罪でしょうか、強いて言うなら」
「そこで此処は、私の美しさに免じて頼みがあるのだが……ココナッツシティへ行きたくても行けない者同士、協力し合わないだろうか?」
「最初っからテメェも困ってたんじゃねえか!!」
「ブロロロームで走れば良いじゃん、ブロロロームで」
「ところがぎっちょん、そうもいかない」
チッチッチッ、と指を振るシャインに、ジャジャン拳とは名ばかりのグーが出そうになるメグルとミアだったが、アルカに首根っこを掴まれて事無きを得た。ヒャッキの民の怪力が生かされる数少ない場面であった。
「……陸路1300km……だが、その間が過酷な理由は単に道が長いだけではない、なんせその間は鉄道も挟むからね」
そもそも、道が長いだけならば、スタミナ面で非常にタフなブロロロームやモトトカゲに乗れば良いだけの話だ。彼らは自転車を超える速度を出す事が出来る上に、メグルの居た世界の生き物からは考えられないくらいの間連続して走り続ける事が出来るため、車に代わる移動手段としても有用なのである。問題はその移動手段が現在進行形で爆発炎上している点であるが。
「ムーナ諸島は、この私の美しさではどうにもならないくらいに危険な──」
「ブロロロロロロロロッ!!」
【ブロロロームの ホイールスピン!!】
【シャインは たおれた!!】
残念でもないし当然であった。何かを言いかけたシャインは、後ろから飛んできたブロロロームに撥ね飛ばされ、ゴミ箱の中に頭から突っ込んでいった。
「……多分死んでねえんだろな、アレで」
「うん……」
※※※
──何も、馬鹿正直に1300km近く道路を走り続けるわけではない。
マニャカシティから、ココナッツシティに陸路で進む場合、先ずは鉄道でサニー半島(マレー半島)の最南端まで移動する。その後、此処からマニャカ海峡大橋を通ってムーナ諸島へ移動する──ところまでは何も問題は無い。
問題は、橋を渡り、ムーナ諸島へ進んだ後であった。マーニャ地方には幾つか、ポケモンの生息地としての色が濃いエリアが存在する。このサニー半島もそうだし、ムーナ諸島も言うまでもない。自然保護区として人間が管理できているエリアはまだ良いが、そうでないエリアには危険が付きまとう。
「町と町の間が危険なのは、何処の地方でもそうだと思いますが」
モトトカゲのサドルを握るアルカ──にしがみつくミアが、隣を走行するシャインに問うた。現在、メグル達一行は、既に鉄道を使ってサニー半島を下り終えて、マニャカ大橋を通ってムーナ諸島に向かう最中であった。ブロロロームのサドルを握るシャインが返す。今度はボンネット部に乗らず、ちゃんと運転しているので何も問題は無い。半裸ではあるが。
「いや、侮ってはいけないね。ガラル地方のワイルドエリアって聞いた事が無いだろうか? あそこは、危険なポケモンが多すぎて人間が開発を諦めた場所だ、あの手合が幾つもマーニャには散見される」
「……流石、生態系の天国ってところだな」
「そうだ。あまりにも強いポケモンが多いため、線路が破壊され、鉄道が止まる事も多い」
「本当だ、当たり前のように運休になってやがるぜ」
ブロロロームが引っ張るサイドカーに乗るのはメグルだ。流石お金持ちということもあって、シャインにとっては安い買い物だったらしい。半裸の変態が常に隣に居る精神的苦痛に目をつぶれば、運転もしなくて良い上にしがみつき続ける必要も無いので楽なポジションである事には違いない。しかし、ただただシャインが変態であるという理由で、メグルは進んでこのポジションに立候補したのだった。ミアをこの位置に置いたら、神経質な彼女はいつか発狂してしまうのではないか、という危惧が確かにあったのである。
(俺の犠牲でミアの胃が助かる……それなら、俺は喜んで変態の隣に座るさ)
(本当にありがとうございます、メグルさん……)
ぎゅう、とアルカを抱きしめながらミアは彼の気遣いに感謝するのだった。
閑話休題。
「尤も、現地の人間は鉄道をあまりアテにしていないがね。元より、交通もあまり発達していないからだろう──いや、
「列島のように、鉄道の時間や速さに厳格な国の方が少ないでしょうし、そこは驚きませんけど……今は困りますね」
「だから、ポケモンで道路を走破することになるわけだけど……もしかして、ボク達の力が欲しい理由って」
「ああ。道路には、非常に強いポケモンが生息しているエリアが幾つもある。流石の美しい私も、1人では越えにくい。だが、こうして優秀なトレーナーが4人も居れば──突破出来る可能性は高くなるだろう?」
「サラッと自分を優秀なトレーナーに数えたね」
「優秀なトレーナーはブロロロームに乗って激突したりしないんですよ」
「あと暁〇カーごっこもしねえんだよ」
「?」
「悪い、今のは忘れろ」
残念だがメグルのツッコミはこの場の誰にも通じないのであった。ウテナはポケモンの世界で放映されていないのである。後、H×Hも。
「さて、ムーナ諸島でポケモンが蔓延る危険地帯は”熱帯林”。視界は最悪、おまけに沼からいつどんなポケモンが出て来てもおかしくはない」
「怖ェ……」
「しかし悪い事ばかりでもない。”ポケビル”と呼ばれる小さい吸血生物が居てね。こいつに噛まれたポケモンは、ポケルスを発症して能力の伸びが良くなるか──そうでないなら病気になる」
「おい、とんだ丁半じゃねえか、噛まれるポケモンは堪ったもんじゃねえだろ」
「もちろん、人間が噛まれれば早めに剥がさないと病気になる」
「悪い事ばっかじゃねーかふざけんな」
「だから、服装の準備は入念にせねばなるまい。私も大変不本意だが、厚着をしていかねばならない」
「……何故そこで信念を曲げてしまうのでしょうか? 変態としての矜持は無いのですか? 全裸で沼地へダイブするべきだと私は思います」
「おっと幾ら私でもヒル塗れは美しくないな」
無駄に小賢しい変態だった。
※※※
──大熱帯林と呼ばれるジョウゲン島南部最大の湿地帯は、町と町の行き来を阻む危険エリアである。故にメグル達は、ジョウゲン島に着くなり、この蒸し暑い中、わざわざ厚底のブーツに防虫用の長袖シャツまで買って着込むハメになるのだった。
当然、水やスポーツドリンクも大量に買い込まなければならない。もしも、次の町に着く前に水のストックが切れたが最後、不衛生極まりない沼地の水に口を付けることになる。普段はふざけているシャインも、このようなサバイバルに於いては大真面目に考えており、結果的に準備万端でメグル達は湿地帯脱出を目指す事になる。
ライドポケモンで進めば数時間程度で抜けられるが、その数時間が地獄なのだ。
しかし──当然のように悲劇は起こったのである!!
「こ、此処は誰、俺は何処……?」
「ボク達、いったいどこを歩かされてるの……?」
「モトトカゲがバテてしまいました……休ませないと……」
「ふーむ。これは参ったね。私の美しさでもどうしようもなさそうだ」
一行は、気が付けば同じ場所を何度もぐるぐるしていた。見事に正規ルートを外れて道に迷ってしまったのである。
そして、本来の予定から外れて1時間以上も同じ場所をぐるぐるしていると、そろそろおかしくなってくる者が現れるわけで。
「あっ、メグルさん見て下さい!!」
アルカにしがみついていたミアが、突如何も見えない場所を指差した。
その目は虚ろで焦点が合っていない。
「二重らせん構造が!! 二重らせん構造が盆踊りしてます!! ウッヒョー!!」
「ねえ見ておにーさん!! 化石の群れが盆踊りしてる!! ウッヒョー!!」
アルカも目を回しながら言っている。二人共正気ではない。乗られているモトトカゲも心配そうに女子二人を見ている。
メグルは肩をすくめた。いよいよダメそうであった。
「おい、どうすんだ変態、女子共おかしくなりだしたぞ」
「ふむ──仕方ない、あまり暑い場所で出したくないのだが、強めのお薬を出そう」
「コイツに強めのお薬って言われる日が来るとは思わなかったぜ……でも頼む、俺もそろそろ暑さでどうにかなりそうだ」
「科学の力ってすごいですねぇ!! 今の技術なら、ミトコンドリアでドリアが作れるなんて!!」
「化石可愛いねえ、化石」
「頼むぞ──トドゼルガ!!」
シャインが投げたボールから飛び出したのは、見上げる程に大きな長い長いキバの生えたセイウチのようなポケモンであった。
甲高い鳴き声を上げたそれは、すぐさま口から冷気を吐き出してアルカとミアの頭を冷却する。流石のモトトカゲも暑さで参っていたのか、気持ちよさそうな顔でそれを浴びるのだった。
結果、女子二人の視界からは幻が消えたようであった。もう少しで頭がゆだっていたところである。
「あ、ああああ、何てことするんですか!! 折角、世紀の大発見、ポケノーベル賞は私のものだったのに!!」
「化石の群れが!! 化石の群れが……居なくなっちゃったァ……」
「良かったなお前ら感謝しろ、シャインのおかげでマスキッパの巣に飛び込まないで済んだんだからな」
メグルは進行方向を指差した。
沼地にびっしりと緑色のトラバサミ状に開いた奇妙な植物が生えているが、これは恐ろしい事に全てポケモンである。ハエトリグサの姿をしたマスキッパが獲物を来るのを待ち構えているのだ。
「化石の正体はマスキッパだった……?」
「ンなわきゃねーだろ、正気を保て!!」
「正気を保ったところで、下手したら私達ああですよ」
ミアは沼地に埋もれた哀れなケンタロスの骨を指差した。
そこに集るのは、ヤンヤンマにメガヤンマ。彼らにとっては、底なし沼に埋まったポケモンは良い御馳走なのだろう。
「……そうならないように頑張ろうってんだよ」
「ふぃるふぃー……」
んべ、と舌を出しながらニンフィアが死にそうな顔で鳴く。
前にもこんな事あったな、と言わんばかりにうんざりしているが気の所為である。多分。
「大体ボク達何でまだ森を抜けられてないのさ」
「そろそろ次の町についているはずです」
「──私達は何らかのポケモンの攻撃を受けているに違いない」
シャインは大真面目な顔で言った。
「何らかの……」
「……攻撃?」
「スタンド攻撃的な……アレか」
「この事態を引き起こした、新手のポケモンが居るに違いないという事さ。ちゃんと思い出すんだ諸君、思い出せ──」
──シャインは回想する。
このような事態に至った原因を。
あれは、今から数時間前のこと。大熱帯を歩き出して20分程経ったときのことだった。
※※※
──全ての始まりは足元不注意からであった。
ずぶずぶ、と沼地に足を取られながら進むモトトカゲとブロロローム。
しかし、ブロロロームが突如、何かを踏んづけたようだった。
「ん? 何か踏んだような気がする──」
「シャ、シャインさん、それ、ハブネークの頭──」
「プップルップーッ!!」
【ハブネーク<ヌシ> キバへびポケモン タイプ:毒】
「……フッ、私の美しさに免じて赦して貰えないだろうか?」
「プルルルルルッシャァァァァーッッッ!!」
「ほぎゃぁぁぁーっ!? こいつ滅茶苦茶にデカい──ッ!?」
沼に埋まっていたヘビのポケモン・ハブネークが突如大口を開けて飛び出し、メグル達に襲い掛かる。
1匹だけならばまだ良かった。2匹、3匹、4匹と同様のサイズの大蛇が沼から飛び出して来たのである。
沼を泳ぐハブネークの速度は陸地のそれとは比べ物にならない。とてもではないが、真っ向から戦えるような数ではない。ポケモンは良くても、先に騎乗しているトレーナーが襲われてしまう勢いだ。
「おやおや、そんなに私の美しさが気に入ったのかい?」
「お前いっぺん黙れよふざけんなァァァーッ!!」
「ごめんなさいでしたァァァーッ!!」
「怒らないでくださーい!!」
疾走するライドポケモン達。
しかしまたしてもブロロロームが何かに追突する。
撥ね飛ばしたのは──ナゾノクサ。頭から草の葉っぱ、足が生えた一頭身のポケモンだ。
問題はそのカラーリング。メグルが知るものとは異なり、身体の色は鮮やかなオレンジ色となっている。葉の色も危険を示すかのように、赤いラインが入っている。
撥ねられたナゾノクサは目から涙を流すと──そのまま叫ぶ。
「キィイイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」
【ナゾノクサ<マーニャのすがた> ざっそうポケモン タイプ:草/炎】
それも、耳の鼓膜を破らんばかりの勢いの大声量。
耳を手で塞がなければ発狂してしまうほどの叫び声だ。
すぐに”こうきゅうみみせん”を付けたミアが言った。
「マ、マーニャのナゾノクサは危険を感じると、原種以上の大きな声で叫んで仲間を呼ぶんです!!」
「うるさいうるさいうるさい!! 何言ったのかさっぱり分からない!!」
過失だったとはいえ、危害を加えられて泣き叫ぶナゾノクサ。
その瞬間、沼地の草が次々に頭を出して這い出てくるのだった。
そして同時に、辺りには鼻をつまむほどの悪臭が漂ってくる。
「キィィイイイ……!!」
「キィィィィイ!!」
「キャァァァアアアア!!」
【クサイハナ<マーニャのすがた> ざっそうポケモン タイプ:草/炎】
現れたのは口からヨダレを垂らした、これまた派手な色の花を咲かせたポケモン達であった。
その花弁から漂う臭気に、思わずハブネーク達も悶絶し、逃げ帰ってしまう。しかし、これでは追手がハブネークからクサイハナに変わっただけの事。
「犬も歩けば棒に当たる、ブロロロームも走ればナゾノクサに当たる……ってね。見給え、ハブネークを撒くことに成功したぞ」
「プラマイゼロじゃねえか、ふざけんなクソがァァァーッ!!」
「ねえ、クサイハナの数、更に増えてるんだけど!! うぎゃあああ!! 鼻がひん曲がる!!」
「うるさいし、臭いし、頭がおかしくなりそうですッ!!」
”はっぱカッター”だけではなく、口から炎を吐きながら追跡してくるクサイハナから逃げ切った頃には、気が付けば完全に進行方向を外れており、此処が何処なのかも分からなくなっているのだった。
※※※
「……やれやれ、困ったね。私の美しさが、どうやらこの事態を招いてしまったらしい」
「メグルさん、アルカさん」
「うん」
「おう分かった」
「おや、どうしたのかな、三人共──」
3人は思いっきりシャインを蹴り飛ばす。
物凄い勢いで回転しながら、変態は沼地に叩きこまれるのだった。
しかし、沼と熱烈なキスをしても尚、変態は微笑み──何かを悟ったように呟く。
「フッ……今回は私の敗けという事にしておいてやろう。だが、今度はそうはいかない──」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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ラブコメ、純愛
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戦闘シーン
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シリアス、曇らせ
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