続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
【セゴール<マーニャのすがた> いわビレポケモン タイプ:ドラゴン/岩】
「原種と大分顔が違う……!?」
「岩でコーティングしたんだ……! それで顔の形が変わった!」
プロテクター、とでも呼ぶべきだろうか。原種のセゴールは口元が鉱石に覆われていたのに留めていたが、このマーニャ種は口元は勿論、目元、頭部を隠すほどに鉱石が広がっている。そして瞼に当たる部分も大きく隆起しているため、目元は暗い影となっている。
まるで──騎士の甲冑の如し。
アルカの指示も待たずにその場を飛び出したセゴールは、大きく跳躍すると背を地面に向ける姿勢となり──進化前のそれよりも鋭く、そして大きくなった鰭を向けてクサイハナに突き刺すのだった。
進化に面食らっていた上に、あまりの速さに対応が遅れたクサイハナは、その一刺しを受けた上に、更に尻尾による叩きつけを受けてしまう。だが、セゴールの猛攻は止まる事を知らない。振り上げた腕で二匹のクサイハナを纏めて薙ぎ払ってみせる。
【セゴールの ドラゴンクロー!!】
あまりの膂力に、その一掻きでクサイハナ達は吹き飛ばされる。
相手がヌシポケモンでもお構いなし。元の成長率が良かったのか、アルカの育成が良かったのか、はたまた両方か定かではない。
だが、セゴールはタイプ相性で有利を取っているとはいえ、ヌシポケモン二匹を同時に相手取っている。
(600族の中間進化の種族値なんて、たかが知れてるのに──!?)
「キィイエエエエエエエエエーッッッ!!」
【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】
クサイハナ達の咆哮が辺りを揺さぶった。人間ならば足が震えて動けなくなるほどの怒号。しかし、それを受けても尚、セゴールは全く響いた様子を見せない。そればかりか、再び地面を蹴り、その爪をクサイハナ達に浴びせるのだった。
頂点生物たる龍に、どうして下等なる有象無象の咆哮が通用しようか。
クサイハナの放ったやどりぎを腕力だけで引き千切り、蔓が埋め込まれたならば逆に引っ張って引き寄せ、地面に向かって叩きつける。
だが、その行動の一つ一つには理性というものは全く感じさせられない。本能、そして昂る攻撃衝動だけで戦っているようだった。
「セ、セゴール……!? 止まって──!? 止まって!!」
アルカが叫ぶ。
幾ら圧倒していると言えど、トレーナーの指示を無視し続けて戦うセゴールの姿に彼女は不安を覚える。彼女の声に、セゴールは全く耳を貸していない。
「な、なあ、アルカ……!? これ、ヤバくねえか!?」
「うん……!!」
トドメと言わんばかりにセゴールは上空から大量の大岩を召喚してみせる。先程までとは比べ物にならない数と量だ。その全てがクサイハナ達に降りかかり、辺りを埋め尽くしていく。
「キィイイイイイ!?」
文字通りの圧殺。
多量の岩に押し潰され、沼に埋め立てられてしまったからか、もうそこからクサイハナ達が出てくる事は無かった。
メグルもアルカも、ヌシ二匹を圧倒してみせたセゴールに言葉を失う。だが同時に進化する前とは比べ物にならない程に凶暴化したセゴールに、戸惑いを隠せないようだった。
「グルルルルゴォォォル……!!」
「セ、セゴール……!? 終わったんだよ、もう……!! ボク達は大丈夫だから……ボールに、戻ろう……?」
「グルルルルゴォォォォル!!」
咆哮したセゴールは、今度はアルカとメグルの方に向き直り、地面を蹴って突っ込んでくる。戦闘が終わったにも関わらず、その衝動は留まる事を知らない。
「──躾をしてやろうか。トドゼルガ、”れいとうビーム”だ!!」
シャインの声、そして冷気を圧縮した光線がセゴールの額を撃ち抜く。
ギャン、と鳴き声を上げると、セゴールはごろごろと転げるのだった。
「シャイン!?」
「全く、クサイハナは問題ではなくなったね。目下我々の最大の脅威は──そのセゴールだ!!」
「どういうこと……!?」
「さっき話そうとしたんだがね。間が悪く奴らが来た所為で言えなかったのさ。……私もセビエをセゴールに進化させたときに似たような事があったのだよ」
「……暴走、か!?」
「ああ。ドラゴンポケモンは1度目の進化で能力が大幅に跳ね上がる。その際、身体から込み上がる龍気に頭をやられて、凶暴化する個体も居るのさ」
個体差があるけどね、とシャインは続けたものの──セゴールは明らかに暴れ狂っており、我を失っている。
効果バツグンの”れいとうビーム”をまともに浴びたにも拘わらず、再び尻尾をバネにして起き上がるのだった。
「それに見てみろ。天性の戦闘センスの賜物か、それともトレーナーの腕が良かったのか──”れいとうビーム”を頑丈な顔面で受けたことでダメージを最低限に抑えている」
「……も、戻ってセゴール!!」
リターンビームをセゴールに向けるアルカ。しかし、それを瞬時に見切って避けたセゴールは、ボールに戻る事はなく、そればかりか上空に巨大な岩を召喚してみせる。
【セゴールの いわなだれ!!】
「あっぶねぇ!!」
思わずメグルはアルカを突き飛ばし、その場を飛び退いた。
二人揃って沼地へダイブすることになったものの、岩に押し潰されるよりは百倍マシである。ざぼん、と水しぶきが上がり、そこに岩が鎮座していた。
一方のシャインも、トドゼルガが空目掛けて撃ち抜いた水柱によって難を逃れている。この攻撃で大打撃を受けた者は居ないが、もしもまともに喰らえばさっきのクサイハナ達のように生き埋めでは済まない。
野生ポケモンは瀕死になっても縮んで逃走することで難を逃れられるが──人間は岩を頭に受ければ普通に死ぬのである。
「あ、ありがと、メグル……!!」
「ッ……なりふり構ってねえ上に、見境なしかよ……!! こいつ、俺達の事分かってねえのか!?」
「まるで、怖がってるみたいだ、セゴール……!!」
「何だって……!?」
「ま、間違いだったのかも……!! 慣れない沼地でヌシポケモン相手に戦わせたから……!!」
「あのなぁ、アルカ! お前がセビエを出さなきゃ、俺達あのまま全滅してたかもしれねえんだぞ! それに暴走は龍気の所為だ! お前は悪くねえ!」
「そうだけどぉ!!」
怯えに伴う攻撃性。
今のセゴールは、視界に入っているもの全てが自らを脅かす敵に見えているのだ。
近付こうにも、ヌシ二匹を同時に圧倒した腕力に加え、岩タイプ特有の大岩を召喚するといった飛び道具まで扱える以上、生身同然の此方では立ち向かう事が出来ない。
未だに辺りにはクサイハナ達のばら撒いた臭気が漂っており、ニンフィアやサメハダー、モトトカゲは戦闘不能。ラプラスも、不得意な沼地で消耗した状態で戦わねばならない。
今まともに戦えるのは、シャインのトドゼルガしか居ないのであるが──
「キィエエエエエエ!!」
──仲間達を倒されたことで怒ったナゾノクサとクサイハナの群れが、再びシャインとトドゼルガに寄って集り、”やどりぎのタネ”を放出して動きを止めてしまう。
何故こうもシャインだけが目の仇にされるのかと言えば、このマーニャナゾノクサというポケモンは最初に敵と判じた相手に対して攻撃フェロモンに似た物質を葉からばら撒く習性があるからである。最初に撥ねられた個体がブロロロームと一緒にシャインの身体にもこの物質を吹きかけたがために、ナゾノクサとクサイハナの群れはシャインを集中して攻撃するようになっていたのである。
そして戦いの中でトドゼルガにもフェロモン物質が吹きかけられたがために、余計にナゾノクサとクサイハナ達はこのコンビを狙うようになっていた。
結果。トドゼルガは再び、一匹だけでこの群れを相手にすることになってしまうのであった。
そうなると、もう誰もセゴールを止められる者がいないわけで。
「くそっ!! 邪魔だ!! 今は君達の相手をしている場合ではない──ッ!!」
(やれやれ全く面倒だね……”ふぶき”なら一撃で終わらせられるが、範囲が広く被害が大きすぎる……そして実家のポケモンならさておき、このトドゼルガに加減が出来る程のトレーニングはさせていないからね!! ”れいとうビーム”に留めるしかあるまい!!)
「戻ってッ!! 戻ってよッ!!」
メグルとアルカは、セゴールの攻撃の回避に終始しながらリターンビームを当て続ける事になるわけだが、動き回りながらであるが故になかなか狙いが定まらない。更にセゴールの投石攻撃まで回避しなければならないので、余計に当たらないのだった。
(くそっ、生身でポケモンをボールに戻すのに苦労する感じ……ニンフィアがイーブイだった頃を思い出すけど──イーブイとの違いは、攻撃の威力が洒落にならないくらい高い所だ!! ツキノワグマの子供サイズで、熊以上の腕力を振るうモンスターが、無から投石攻撃までしてくるなんて……!!)
しかもそれが、全身のリミッターを外して暴れているので、こうして逃げ続けられているのが奇跡と呼べるほどだ。
恐らく、まだセゴールが変化したばかりの自分の身体を扱いきれていないからであると考えるメグルだが、そうだとすれば逃げられなくなるのも時間の問題。
一刻も早くセゴールをボールの中に収めなければならない。
「くっそ、こんなのどうすれば──!!」
「ぷにぷに」
「戦える手持ちが居れば……!!」
「ぷにぷに」
「……」
「……」
「ぷにぷに」
気が付けば、メグル達の足元にはうにうに、とセゴールの方目掛けて這いずり回るアゴジムシの姿があった。
メグルは、思わず腰のベルトを確認し、ボールを手に取った。アゴジムシが──勝手に外に出ている。
「戦場を駆け回る大馬鹿野郎か──ッ!?」
「ちょっと何やってるのさ!?」
すぐさまアゴジムシにもボールビームを当てようとするメグル。
だが、その前にセゴールが召喚した岩が降ってきたので、それすらも叶わず。
そんな事つゆ知らぬ無敵の芋虫は相も変わらず「ぷにぷに」と発しながら、セゴールに近付いていき──思いっきり飛びついた。
「ぷにぷに」
「……」
バチン!!
セゴールの鼻先にジャンプして迫ったアゴジムシは、思いっきりその鼻先を大顎で挟む。
しかし──セゴールの顔は全面が岩のプロテクターで覆われており、痛くも痒くもなくなっていた。
その為、最早セゴールにとってアゴジムシは、毎回事あるごとに鼻を挟んで来る厄介者から、只の取るに足らない芋虫に成り下がっていたのである。
ぺしっ、と岩龍が腕で跳ね除けるだけで、アゴジムシは宙を舞い、沼地へと落ちていく──
「アゴジムシッ!!」
すぐにメグルはアゴジムシの方へ駆け寄ろうとするが、またもやセゴールが岩を降らせてきたため、近付く事も叶わない。
一方のアゴジムシと言えば、頭から沼に顔を突っ込んだかと思えば、そのまま水面から顔を出し──
「ぷに……ぷにぷに……」
──その大きな目に大粒の涙を溜めたかと思えば、
「ぷにぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいーッッッ!!」
(こっちも泣いちゃった!!)
わんわんと泣き出してしまうのだった。
今まで遊び相手(と一方的に思っていた)セゴール(元セビエ)に跳ね除けられたのがショックだったのか、あるいは腕で払いのけられた痛み故か定かではない。
だが、ぷにぷにと泣き始めたアゴジムシの身体は、その身を守る本能の元に突如硬化を始める。
メグル達は思わず目を見張る。
一際眩い光が沼地に溢れ出したかと思えば──次の瞬間、沼地にあったのは白い芋虫ではなかった。
「ポロロロロロン、フォンフォン」
【デンヂムシ バッテリーポケモン タイプ:虫/電気】
バッテリーを思わせる程の四角く角ばったサナギのようなポケモンであった。
当然、メグル達もこの姿は見たことがある。以前、ヴァルカン島で虫ポケモンの暴動があった際、クワガノンに付き従っていたサナギ型のポケモン。
「こっちも……進化した!?」
その名は──デンヂムシ。
姿を見た途端、メグルの脳裏にはその能力を示す数値が浮かぶ。
(──H57 A82 B95 C55 D75 S36……!! ッ……これならいけるかもしれねえ!!)
「アルカ!! 要するにリターンビームを当てられりゃ良いんだろ!! 此処から……戦況をひっくり返す!!」
「う、うんっ……!!」
ただのひ弱な芋虫でしかなかったアゴジムシ時代に比べれば、デンヂムシの耐久力は大幅に向上している。
後ひっくり返すべきは、セゴールの攻撃を半減するためのタイプ相性だ。
オーカードを取り出したメグルは、すぐさま腕輪にそれを翳す。燃え滾る爆炎のオーラが拡散し、デンヂムシに突き刺さった。
「──オーライズ、”ブースター”!!」
爆炎をデンヂムシに纏わりつき、その身体の表面を溶けた鉛が迸っていく。
そして、サイゴク地方の火山を統べるヌシの姿が一瞬現れたかと思えば消えた。
すぐさまそれを最大の脅威と認識したセゴールは、デンヂムシに襲い掛かり、大腕による一撃を見舞う。
しかし、既に鋼のオーラを纏っていたデンヂムシには、龍気を纏った拳は響かなかった。
何度も何度もデンヂムシを殴りつけるセゴールだったが、一向にダメージがまともに入る様子が無いと踏むと、今度は岩を浴びせてデンヂムシを押し潰そうとする。
だが──
「──デンヂムシ、”スパーク”!!」
──岩を受けても尚、目を光らせ、喉元に突っ込んできたデンヂムシの思わぬ反撃にセゴールは逆に気圧される事になるのだった。
今のデンヂムシは、鋼を喰らう獣のオーラによって守られている。本来弱点である岩の攻撃すらも跳ね返す屈強さを手に入れているのだ。
【デンヂムシ<AR:ブースター> タイプ:[炎/鋼]】
「ドラゴン技は鋼タイプに効果いまひとつ……!!」
「デンヂムシ!! 拘束するぞ、”いとをはく”!!」
メグルの声に合わせ、デンヂムシの口から大量の糸が吐き出され、セゴールの身体に纏わりつく。
先程のやどりぎ同様に無理矢理腕力で引き千切ろうとする岩龍だったが、鋼をも喰らう溶岩獣の力を借りているが故に、デンヂムシの糸はワイヤーのように硬く強化されていた。
そのため、暴れれば暴れる程にセゴールの身体に糸が食い込み、痛むだけだ。
「ポロロロロロン……」
「グルルルルゴォォオオオオオオオオオオオオル!!」
「待ってて!! 今戻してあげるから……ッ!!」
セゴールの悲痛な叫びが辺りに響く中、アルカが今度こそボールのスイッチを押すとビームが放たれる。
そのまま、セゴールの身体はボールの中へと吸い込まれていき、収まるのだった。
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