続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「ショージキ……自惚れてたんだよね。自分がポケモンに反抗されるわけがない、ってさ」
沼地も終わりに差し掛かった頃、アルカはぽつりと呟く。
その後も度重なる野生ポケモンの襲撃で体力も気力も擦り切れつつある一行だったが、町は目前に迫っていた。そんな余裕が出てきたからこそ、弱音を吐けるようになったのである。
「しばらく、セゴールはボールから出さない方が良いのかな……? ボクが攻撃されるのは良いよ。でも、皆にも迷惑が掛かっちゃう」
「龍気の奔流は、次第に収まる。尤も──自分が辛い時に放置していたトレーナーに、果たしてポケモンが従うかな?」
「でも危険だぜ。あの暴れっぷりはデンジャラスだ」
「
いつになく真剣な面持ちでシャインは言った。
その声には、確かにセグレイブを最後まで育て切ったものの重みがあった。
「言い方は悪いが、私のような金持ち……あるいは優秀なトレーナーにしか許されない”道楽”と言っても良い」
「サラッと自分を優秀なトレーナーに数えたなコイツ」
「子供だった私がセビエをセグレイブに育てる事が出来たのは……言ってしまえば、私が”ボンボン”だったからだ。恵まれていたからだ。幸運だったからだ」
自分の力だけでセグレイブを育てたつもりはない、むしろ──周囲の力無くして育て切ることは出来なかった、と彼は語る。
事実、龍の暴威は中間進化にも拘わらずメグル達の手を焼かせるものだった。龍気による暴走の可能性がある限り、これからも同じ事があるかもしれない。
そのリスクを加味して言えるのは──
「簡単に飼って良いポケモンではない、ってことですね……」
「アルカは、トレーナーとしての技量は優れている。それは間違いない。だが、セゴールを……その先のセグレイブまで進化させ育て切ることができるかはまた別問題なんだよ」
膨大な時間、膨大な金、そして優れた技量。それら全てをカバーできるトレーナーでなければ、育てる事は難しい、とシャインは言い切る。
彼はインナーを捲る。浅黒くて目立たなかったが、噛み痕のような傷、そして縫ったような痕がびっしりと残っている。
「うわっ、よく見たらコレ、全部傷……!?」
「腕を噛まれ、ケガ塗れになる覚悟はあるか? 周囲の物を壊されても寛大に、しかし躾ける事が出来る厳しさを君は持ち合わせているか? 桁違いの力と超自然を操る暴威を御さねばなるまい。そしてドラゴンの寿命は長い、一生ついて回るぞ」
「晩成型のドラゴンポケモンの世話って大変なんだ……そう考えると、ノオトやヒメノちゃんって、やっぱりすごいトレーナーだったんだね……」
「おっと私は?」
「折角良い事言ってたのにそういうところだぞ」
彼らが当たり前のように育成していたジャラランガやドラパルトもまた、大器晩成型のドラゴンだ。サイゴクのキャプテンは他地方の四天王並みの技量を有するとされているが、それは単純なバトルの腕前だけではない。
強く、恐ろしいポケモンを従え、育てる事まで含めて「技量」とされているのだ。
「かと言ってシャイン。セゴールをそのままには出来ねえだろ。アルカには無理で、諦めろって言ってんじゃねえだろな」
「トレーナーの技量次第では、最悪はボックスの肥やしにする選択肢もある。ドラゴンの育成は、そんなに甘くはないね。よしんば育て切ったとして、有事の時に言う事を聞かないポケモンはお荷物だ。却って危険だ」
「ッ……やっぱ、そうなっちまうのか」
「ああ。君達がこの先どのような敵と戦うのか私は知らないが──セビエをセグレイブに育てたいという事は──そう言う事なのだろう?」
「……やるよ」
覚悟を決めたようにアルカは言った。
「ボクだけじゃない。セゴールの為でもあるんだ。セゴールには……怖い思いをさせちゃったから……」
「……良いだろう」
「それに、ボクはこの試練を乗り越えたい。もっと強くなりたいんだ!! トレーナーとして……セゴールのパートナーとして!!」
「アルカ……」
「ごめんメグル。心配かもしれないけど、ボク頑張るよ!!」
それを聞いて満足そうにシャインは頷いた。そして、上着とシャツを脱ぎ捨てる。
「美しい心がけだ……私も一肌脱ぐとしようッ!!」
「おい待て何故今脱いだ」
「ランクルス、サイコショック」
※※※
その日の夜。漸く中間地点である町に着いた一行は、買い出しを済ませて宿を取っていた。
そして、シャインとアルカは二人で町の離れへ行ってしまう。どうやら、セゴールを慣らすための訓練らしい。メグルも様子を見に行こうとしたが──
──おっと。あまり大人数で行かない方が良い。セゴールが警戒する。
──……。
──彼女が心配かい?
──心配じゃねえ訳ねーだろ。セゴール止めるのにどれだけ苦労したと思ってんだ。
──だろうな。だが、彼女は強い。信じてやるのも、また仲間の務めでは?
──アルカの事は信じてる。だけど、あんたに任せて良いんだろうな。
──責任以をもって預かるとするよ。彼女も、セゴールもね。
──……そうか。
──それはそれとしてアルカの前で脱いだらテメェの股間は無ェモンと思えよ。
──ハハハ心得た。
「シャインさんはセグレイブの育成経験があります。セゴールの事は彼に任せた方が良いかと」
「そっちの心配はしてねーんだよ、ハナから俺は」
「……私もです」
「あ、そうだ。セゴールの事ばっかりでデンヂムシの事を忘れてた。こいつも進化させてやらねーと」
「それが──進化はもう少し待った方が良いかと」
「何でだ? すぐ進化できるのが石進化ポケモンの良い所だろ」
ミアは首を横に振った。
「デンヂムシはいわばサナギの状態。体内では進化するため体組織を組み替えているんです。だから、かみなりのいしでクワガノンにすぐ進化させると、羽化不全を起こす可能性が」
「うかふぜん?」
聞きなれない言葉に、メグルは思わず問い返す。
見て貰った方が速いですね、と言ったミアは1枚の画像ファイルを取り出して彼のスマホロトムへ送信した。……思わず「うげ」と声が出る。角がぐにゃぐにゃに曲がり、見るも無残な姿になってしまったクワガノンの画像が出てきた。
「なんだこりゃ、もう戻らねえのかコレ……!?」
「はい、此処から正常なクワガノンに戻る事はなく、そればかりか寿命も……早期での進化は非常にリスクが高いです」
「ふぃるふぃー? フィッ(絶命)」
「あーあ、見ちゃった」
覗き込んできたニンフィアも、あんまりにショッキングな画像を前にノックアウトされてしまった。
「レベルアップで進化する他の虫ポケモンでは起こり得ないのですが……準備が整っていない状態での急激な身体の変化によって、奇形が生まれたり、最悪の場合は死ぬことも──いや、むしろ死んだ方が楽まであるかと」
「う、うへぇ……デリケートなんだな。”羽化不全”ってのは、そういうことか」
「戦闘経験を無防備かつ無抵抗なサナギの状態で積ませる必要が無いという点では、他の虫ポケモンに比べれば楽ですが……実際に強く美しいクワガノンを育成するのは非常に大変なんです」
「ふーん……結局時間が解決するのを待つしかねえってのは、こういう事なんだな」
「焦る気持ちは分かりますが、急いては事を仕損じるという言葉があります」
「ミアに言われると説得力があるな」
「……怒りますよ」
「悪かったって」
ぱちん、と部屋の電気を消す。アルカは──まだ帰って来ない。
「……メグルさん、ちゃんと眠れますか?」
「寝れなかったらニンフィアに寝かして貰うよ」
「ふぃるふぃー」
「……大丈夫じゃないですよね、それ」
※※※
──その夜、町の外れにて。
「セゴール、出てきて」
「グルルゴォォォル」
岩の甲冑に覆われた顔は、表情を完全に伺い知る事が出来ない。
しかし、セゴールは常に低く唸っており、目の前にあるもの全てを警戒しているようだった。体からは今も赤黒い稲光が迸り続けている。
「昼はゴメン。怖かったよね……?」
「グルルルルルルルル……!!」
「やはり、進化の影響で凶暴化してるな」
「どうやって……!?」
「正面から屈服させることだ」
「──屈服って……バトルでセゴールを倒せってこと……!?」
「龍気に中てられて暴走したドラゴンは、誰の言う事も聞かないし、ただただ苦しんで暴れるだけだ」
「ッ……!!」
ギリッ、とアルカは口を噛み締める。
自分の手持ちと戦うなんて──ましてや化石から復元させてずっと育ててきた我が子のような存在を傷つけるのは、彼女の良心がとがめた。
「甘さは──君もセゴールも傷つけるだけだ。主従、どちらが上かハッキリさせなければ──今後も同じ事が起こる」
「ッ……主従……!!」
「ドラゴンを従えるというのはそう言う事だ。ポケモン全般そうだが──力づくで抑え込むのが不可能ならば、手綱を付けるしかない。……主従という名の絆紐で」
「そんなのどうやって──」
「先ずは暴走しているセゴールを捻じ伏せるしかない。君とポケモンの力でね」
冷淡に言い放つシャイン。その口ぶりは普段の陽気で軽快な物とは真逆、氷のような冷たさすら孕んでいる。
強大な生物を従わせる事へのシビアさをよく知る彼の言葉には、何一つ偽りは無い。
「セゴールに意識は無いだろうが──”暴れても抑え込んでくれる”というのを覚えさせるんだ。手持ちを出せ!!」
「……ッ」
「グルルルルルゴォオオオオオオオオオル!!」
「アルカ君ッ!?」
アルカは微動だにしない。
飛びついてきたセゴールは鋭いキバを突き立て、アルカの腕に思いっきり噛みついた──鮮血が噴き出し、夜の闇にぼたぼたと飛び散る。
「……正気か!? ポケモンに自分の腕を噛ませたのか!?」
「……痛い。痛いよ、セゴール」
「ッ……!?」
静かに。しかし、はっきりと彼女はセゴールに言い放つ。
腕全部を襲う激痛。滴り落ちる血。食い込む牙。だが──
「でも、ボクが痛いのは良い。ボクは慣れてるし、皆より頑丈だから。こんなのより……よっぽど痛い目に遭ってきたから」
ズキズキ、と隠れた前髪の下の裂き傷や、背中の無数の傷跡が思い出すように痛み始めた。
体中に刻まれた痕跡は──今も尚、残っている。
「……だけど、君が他の誰かにその牙を剥く可能性があるなら……ボクは、君を止めないといけない……!!」
(きっと、ストライク相手に苦労していたメグルも、こんな気持ちだったんだ……!! ボクがこんなんじゃあ、メグルが安心して隣を任せてくれるわけがない……!! ……メグルの傍で戦うなら……ボク自身が、今よりももっと強くならないと)
「ラプラス……君の出番だッ!! これで狙えるはず──”れいとうビーム”!!」
ボールから飛び出したラプラスは、躊躇うことなく主人の腕に噛みついたセゴールめがけて“れいとうビーム”を放つ。
背中に弱点となる攻撃を受けたことで、セゴールは驚き、顎を放してその場に落ちるのだった。
(動き回るセゴールを止める為に、自分の腕を囮にしたのか!? 最悪骨まで噛み砕かれてもおかしくなかったのに──!!)
ヒャッキの民の肉体は頑強──しかし、それでも尚、激しい出血と絶え間ない激痛が彼女を襲い続ける。しかし、只の自己犠牲ではない。アルカは受け止めたかったのだ。これから自らが傷つける事になるセゴールの苦しみを。
「ガルルルルルルルルル……ッ!? グルルルルゴォオオオオ!!」
その隙にラプラスが長い首を伸ばし、セゴールの首を噛むと宙に向かって放り投げる。だが、セゴールもまた負けてはいない。大量の岩石を召喚すると、アルカを押し潰すべく降り注がせるのだった。それを彼女は天性の身体のバネで避けてみせる。
「やっぱり手数が多い……ラプラス、セゴールを止めるんだ!! ”ディープファング”!!」
首が一気に伸びたラプラスは、大顎で噛みつくと地面にセゴールを叩きつけ、そして投げ捨てる。
本気でやらなければ自分も倒されることをラプラスもひりひりとその身で感じ取っている。セゴールから放たれている殺気は、野生ポケモンのそれと相違ないからだ。更に、辺りに立ち込めるのは血の匂い。自分の主人が──怪我をしている。
「グルルルルゴォォォル!!」
しかし、主人に気を遣ったことで反応が一瞬遅れた。セゴールが龍気を纏わせた爪で何度も何度もラプラスを殴りつけ続ける。
水中での戦いは無敵のラプラスだが、地上戦では真っ向からの殴り合いが然程得意なわけではない。こうして懐に入られると、一方的に攻撃を受け続けることになってしまう。
そんなラプラスにアルカは呼びかけた。
「ラプラス!! ボクは大丈夫だから!! セゴールを……助けるよ!!」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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