続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
パチ、パチパチパチ
電気の音ではない。拍手だ。
プテラが捻じ伏せられて尚──ユリの表情からは余裕が消えない。
「……ああ、残念です。ギリギリの勝負なんてしたくはなかったのですが……これでは喜びが感じられません」
「勝負アリです。私達を此処から解放しなさい」
「何を勘違いしているのですか? ……私はまだ、負けて等いません」
彼女は何処からともなく金属製のカードを取り出す。
そこに刻まれたのは──紫色の蜘蛛のような形をした紋章だった。
そして、それを宝石の埋め込まれたチョーカーに翳す。
「……後悔してくださいね……私のプライドを傷つけたことを。プテラ、オーライズ──”オーラギアス”ッ!!」
「──ッ!?」
プテラの身体から毒々しい色のオーラが溢れ出す。
思わずピカチュウはトドメを刺すべく何度も何度も拳を叩きつけるが──既にその身体はオーラの鎧によって守られており、攻撃が通用しない。
それに伴い、ユリの右目からも毒々しい紫色の稲光が迸っていく。
「オーラギアス……!? ……オーライズ……!?」
「くふふ、世の中には知らない方が良い事があるのですよ。キ、キキ──喜-ッ喜喜喜喜喜喜喜!!」
それに伴い、ユリも高揚感が隠せないのか狂った笑い声をあげていく。
プテラの身体には鉱石が次々に生えていき、そこからは瘴気が溢れ出していく。
頭部は完全に蜘蛛の姿を模した甲冑に覆われ、プテラの目は真っ赤に変色していった。
【プテラ<AR:オーラギアス> タイプ:[虫/毒]】
「キィイイアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンッ!!」
オーラの鎧からは絶え間なく瘴気が溢れ出し、それがプテラに力を供給し続けている。
倒したと思った相手が、全く違うエネルギーを纏い復活したのを見て、レモンは理解が追い付かない。
『呪いは……廻る。永遠に途切れなどしない。試作品だが……うまくいったようだ』
コチョウは満足げに呟く。
オオヒメミコを始めとした人造ポケモンの大本はオーラギアスにある。流れるオーラを再構成すれば、オリジナルには劣るとはいえ、オーラギアスの力を再現することが可能──ただし、それはあくまでも理論値での話であり、実現には長い時間が掛かってしまった。
その上、ヴォルカニドやブリザベオの起こすポケモンの暴走現象相手にオーライズは通用しない。しかし──そうでないならば、ポケモンのタイプを変え、更にオオワザを一時的に習得させるオーライズは凶悪極まりない武器となる。
咆哮したプテラの背中からは巨大な蜘蛛の如き脚が音を立てて生えだす。
飛び退いたピカチュウは再び拳を握り締め、”かみなりパンチ”で相手をしようとするが──
「プテラ!! ”ジェットウイング”ですッ!! 喜喜喜喜喜ッ!!」
直線移動が中心だったさっきまでとは逆に、でたらめな軌道を描いてプテラは上空を飛び回る。
そして、あまりの速度で分身を生み出し、ピカチュウ目掛けて飛び掛かる──
「”アイアンテール”で打ち返しなさいッ!!」
だが、そこはレモンも負けてはいない。
飛び掛かってくる事が分かっているならば、ピカチュウ側も対応はできる。
インパクトの瞬間、硬化させた尻尾を野球のバットのように振り切り、プテラの顔面に叩きつける。パワー勝負ならば此方に分がある──そう思っていた。しかし──
「ぴぃっ……!?」
「つーかまーえたぁぁぁー♡ 喜喜喜喜喜ーッ!!」
ヨダレを垂らしながら愉悦に浸った表情でユリは言った。
プテラの背中から生えた8本の腕がその小さな身体を掴んでいた。
めきめきと音を立てて、蜘蛛のアームはピカチュウを吊り上げていく。
勿論、全身から放電して抵抗するピカチュウだったが、全く効いている様子が無い。
高速移動の為にパワーを捨てたプテラだったが、このオーライズにより、全身の力が先程よりも格段に強化されている。
「喜喜喜喜喜ッ!! その絶望に満ちた表情ッ!! 私をもっと喜ばせて下さいッ!! 喜喜喜ッ!!」
ズシャッと音が鳴る。
プテラがアームを伸ばし、ピカチュウを地面に叩きつけたのだ。
悲鳴が木霊する。
圧倒的な力に拘束され、逃れる事が出来ない。
それでも尚、動かなくなるまで何度でもプテラはピカチュウを地面に打ち据える。
その地獄のような光景を前に、レモンは戦意を削がれてしまった。
このままではピカチュウの命が危ない。
「喜ッ!! 喜喜喜ーッ!!」
「や、やめて……!!」
「喜ッ!!」
何度も、何度も何度も蜘蛛の脚がピカチュウを叩きつける。
次第に電気は弱まり──ピカチュウの身体から力も失われていく。
「やめて……!! 私の友達を……!! 奪わないで……!!」
「喜ッ喜喜喜喜!! 喜喜喜喜喜喜ッ!! トドメです、プテラ!! ”ダブルジェットウイング”ッ!!」
聞く耳持たないユリは、処刑宣告を行う。
ピカチュウを8本の脚で再び拘束したプテラは、ジェット噴射で高く高く飛び上がる。
そのまま空中でピカチュウの身体を離したかと思えば、プテラは両手の鍵爪を交差させ、思いっきり急降下した。
【プテラの ダブルジェットウイング!!】
落雷すらも凌駕する速度でプテラは落ちる。
ずしゃっと何かが潰れる音が聞こえたような気がした。
勝ち誇ったようなプテラの咆哮が辺りに響く──
「喜喜喜喜喜ッ!! 喜ー喜喜喜喜喜喜ッ!! 他愛もないですねえ!! 喜喜喜喜喜ッ!!」
「そ、そんな……ピカチュウ……!!」
「最高の喜びですッ!! 弱者を蹂躙し、その悲鳴を聞き、絶望に満ちた貴女の顔を眺める今この時ッ!! 私は今、最高に喜ばしいッ!! 喜喜喜喜喜ッ!!」
興奮のあまり、ユリは自らの頬を掻きむしる。
肉が爪で裂け、血が流れ、痛みが迸るが──全身を駆け巡る喜びの方が強いのか、ずっと恍惚としている。
「貴女の絶望した顔……最高に喜ばしかったですよ……喜喜喜喜喜ッ!!」
「……びーが」
「……うん?」
ユリはプテラの方を見やる。
その脚が押しのけられ──眩い電光が辺りを包み込んだ。
「ビッガァァァァァァーッッッ!!」
雷轟が──爆ぜた。
プテラの身体は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
そして、そこには肩で息をしているピカチュウの姿があった。
殺しても次がある。死ぬことすらも恐れないユリはこの日──初めて、恐怖という感情を覚えることになった。
カチカチ、と歯が鳴り、身体には震えすら走った。
「何故、何故立っているのです……!?」
有り得ない事だった。あってはならない事だった。
スペックが圧倒的に上回るはずのREXが──渾身のオオワザをぶつけても尚、ピカチュウを倒しきれていない。
あんな何処にでも居そうな電気ネズミ相手に、逆に消耗戦すら仕掛けられている事に、ユリは恐ろしさを感じていた。
「ピカチュウ……!!」
「ビーガッ!!」
叱るようにピカチュウは振り向き叫ぶ。
諦めてるのは──お前だけだ、と言わんばかりに。
「私は……そうですわね。貴方が戦っているのに……何故私だけ弱気になっていたのでしょう」
彼女は帽子の鍔に手を掛け、そして脱ぎ捨てる。
電光のような鋭い眼差しでプテラを、そしてユリを見つめる。
(ラズ……私は……)
「私はオシアスのチャンピオン、レモン・シトラス!! その名の下に、貴女を成敗しますわッ!!」
「──不愉快です……!!」
※※※
「はじめましてっ、ピカチュウ! わたくしがレモン! きょうからあなたのかぞくよ!」
「ぴかぴーか!」
三人がポケモンを持ち始めた時期はほぼ同じだ。
互いに競い合い、一番に抜きんでたのは──ラズが最初だった。
ガキ大将気質のラズは、あちこちでバトルを吹っ掛け、勝利していた。
そもそも昔からレモンの事が好きだったラズは彼女に良い所を見せようとして強くなったのだが──次第にそれは己の実力を誇示するための示威行為へと変わっていく。
勿論レモンも負かされてばかり。一生追い抜けないのではないかと思っていた。
「何故諦めるんだい? ピカチュウはそう思っていないようだけどね?」
「……!」
そんな弱気な幼少期の彼女を励ましたのはシャインだ。
負けず嫌いのピカチュウは、レモンの腕に抱かれる中でもずっと、にっくきラズを打ちのめしたいと言わんばかりに蹴るような仕草を続けていた。
「……ポケモンが諦めてないのに、他でもない君が諦めるのはよくないな」
「私に出来るかしら……?」
「自信を持ちたまえ。君の強さは私も知っている」
「……シャイン」
そんな時、シャインの言葉にレモンは励まされた。
レモンが強くなったのは──他でもない、相棒の闘志に応えるためだ。
そして、ピカチュウの事が大好きなレモンもまた、彼を勝たせるためにトレーナーとしての勉強を続けることになる。
それはいつしか、ライバルだったラズを追い抜くまでに至り、今日まで続くレモン・シトラス伝説を紡がせることになったのだった。
※※※
(私が此処まで強くなれたのはピカチュウが居たから……でも、それだけじゃない。シャインが、そしてラズというライバルがいたから……!!)
決意を再度胸に、彼女は空のモンスターボールを握り締める。
ラズを助ける為にも、この戦いは負けるわけにはいかないのである。
「私は負けません……!! 負けるわけにはいきませんの!!」
「……何故私を喜ばせてくれないのですか!! 許せないッ!!」
楽しみに水を差されたと言わんばかりにユリは金切り声を上げる。呼応するようにしてプテラも蜘蛛の脚を支えにして起き上がる。
『ユリ──出し惜しみをしている場合ではない。相手はオシアスのトップ、チャンピオンだ』
「ッ!? ……まさか
ぎり、とユリは自らの唇を噛む。しかし──納得できなかった。
彼女の肥大した自尊心と過剰な自信は、彼女に”切り札”を使わせることを躊躇させる。
『オーライズの本領は、オーラを纏わせたポケモンのオオワザを使えるようになる点だ。切れ!! オオワザを!!』
(この私が本気で相手と戦うなんて有り得ない!! 私は、貴女の絶望した顔が見たかったのに──!!)
レモン・シトラスは──未だに絶望していない。
「屈辱……です……!! 今の貴女と戦っても喜びなんて感じない……!!」
「ピカチュウ! 電撃最大出力ですッ!! ”ボルテッカー”ッ!!」
「ビィィィガッ!!」
全身に電気を走らせたことで、ピカチュウの身体は一瞬だけ電気タイプとしての極致に到達した。
それは、全身を電光に変換して光と同等の速度で移動することができるというものだ。
電撃が走る。その全てを置き去りにして、一筋の弓矢の如く──
「……オオワザ」
ただし、レモン・シトラスが”電光化”の極致に真の意味で到達するのは──この世界線ではない。
ましてや、光の速度に到達したとて、生まれた時からずっと音速に慣らされてきたプテラに比べれば──その速度を使いこなせるわけがない。
「プテラ……”ジャミングオブボンド”ですッ!!」
【プテラの ジャミングオブボンド!!】
波動が──プテラの身体から放たれる。
紫色の瘴気が断続的に放たれ、ピカチュウも、そしてレモンも飲み込む。
レモン・シトラスと言う少女の積み上げてきた道程を、全て否定するほどの威力だった。
ぶつかりにいったピカチュウの身体からは電気が消え失せ、紫色の靄が飲み込んでいく。
気が付けば──レモンも、ピカチュウもその場に倒れ、もう起き上がることはなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」
だがそれでも、ユリは勝った気がしなかった。
あのピカチュウが起き上がった時、確かに嫌な汗が伝ったのだ。
それは常に自分が優位な側で居なければ気が済まない彼女の自尊心を著しく傷つけることになったのである。
「はぁ、はぁ──」
「ッ……う」
力無く横たわるレモンにピカチュウ。
それを見てユリは心の奥底から憎悪が湧き上がっていく。
「よくも、よくもよくも私の喜びをッ!! 貴女なんて嫌いですッ!!」
毒がたっぷりと走った蜘蛛の脚。
鋭利な刃物のように尖ったそれが──レモンの背中を貫いた。
始終を見ていたラズは──凍り付いたまま、ずっとそれを見せつけられていた。
(く、そ、レモンが……!!)
そして──迫るプテラを前に、自分ももう長くない事を悟る。
希望があるとすれば、今この場に居ない彼しかいない。
(シャインの奴……うまく逃げたな……お前だけは……生き残──)
「──プテラ。そこの氷像も貫きなさい」
※※※
『──ご苦労様でした、ユリ』
「プテラの調整は……まだ必要です、コチョウ様。これでは喜べません」
公団の職員たちによる「片付け」が終わっても尚、ユリの顔は強張ったままだった。
一時的とはいえ、逆転されかけ、追い詰められたという体験そのものが彼女にとっては深い傷となっていた。
「……ああ、残念です。喜べると思ったら、この始末……!!」
『だが、オーラギアスの力は完璧だ。他の四天王にも配備しよう』
「……ええ」
運ばれていく担架を眺めながら──ぽつり、とユリは呟く。
「レモン・シトラス……貴女が死んでせいせいしたと思ったのに、この胸のわだかまりは──」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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