続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──レモン達と連絡が付かない」
「どうしたんですか?」
「いつもならすぐ返信が来るのだがね。長引いているのだろうか。あれから1日経ったのだが」
ココナッツシティを目前にした日の夜、ぽつりとシャインが言った。
「……本当に長引いてるだけなら良いんですがね」
ワームホール公団の黒さをよく知るミアは呆れたように言った。しかし、今此処でそれを案じても自分達には何も出来ない事も知っている。
「少し心配だな。まあ良い。どっちにせよ明日、漸く彼らに会える。公団本部の場所は知っているからね」
「ええ──ココナッツシティは、目の前です」
「何やかんや2日近く掛かっちまったな……」
ポケモン達の体力、そして道中でのトラブルも加味すれば無理もない事だ。
「なぁに。もうじきレモン達に会えるんだ。明日が楽しみだぞ」
「……置いてかれたのに、恨んでないのですね」
「私は常日頃から彼らには迷惑をかけているからね! これくらい許すさ!」
ハハハハハハ、と陽気な笑いが食卓に木霊する。
「……それにね、これしきの事はよくある事だよ。私達は、小さい頃から一緒だからね」
「幼馴染、なんだな」
「ああそうだ。一緒に泣いて笑って育ったんだ。だから……離れていても、絆は確かだよ」
珍しくふざけずに語るシャインの顔はとても穏やかだ。
「……だが、そろそろ私はお邪魔なんじゃないかって思っていてね」
「何でだよ?」
「あの二人は良い空気だからさ! レモンがあんまりにもゆるふわだし、ラズはアレで奥手だから進展しないがね……」
「あー分かるぜそれ」
「何でメグルが同調すんのさ、怒るよ」
「そこに私がいつまでもくっついていても、お邪魔虫だろう。ラズは、レモンの事が好きだからね──いつまでも私とべったりってわけにはいかないよ。度々私のワガママに付き合わせてしまってるが……そろそろそれもやめにしないとね」
いい加減背中を押してやるべきだと思ったのさ、とシャインは語る。友人としてのお節介と言うやつなのだろう。
(ただの変態で変人だと思ってたけど、友達想いなんだ。でも、シャインは自分の事お邪魔虫だって言ってるけど──)
アルカは思い出した。自然公園でクワガノンの着ぐるみを着ていたラズの事を。
(きっとラズさんも、一緒にバカな事できるシャインの事、大事に思ってるよ)
「さあて、明日はココナッツシティだ! 漸く、マーニャの首都で私の美しさを民に知らしめることができるというわけだ!」
「頼むから脱ぐんじゃねえぞ」
「それは約束できないかな」
※※※
──こうして、一行はココナッツシティに辿り着くことが出来た。
ムーナ諸島・カゲン島の経済的な中心となる大都市はビルが立ち並び、リニアモーターカーが走る近代的な町だ。
交差点は人が行き交い、雑踏ではぐれてしまいそうだ。
「すげーな……東京……いや、それ以上の混み具合だな」
「辺りは車ばっかり、空はモノレール……!」
「間違いない。名実ともに、マーニャ一の大都市というわけだね。くれぐれもはぐれないように注意したまえ」
そこまで言ったところで──メグルは声が1人分足りない事に気付く。
すい、と視線を下に向けるとさっきまでそこに居たはずのミアが居なかった。
「あれ!? ミアは!?」
「た、たすけてください~~~!!」
「人混みに飲まれてる──!?」
アルカ程ではないものの、小柄で体の薄いミアは雑踏に飲まれ、後ろの方で足踏みしていた。人が邪魔でなかなか此処まで来れないようだった。
しばらくして、必死の思いで合流したミアはげんなりした様子でメグルの顔を見上げる。
「もう二度と会えないかと思いましたぁ……」
「大袈裟な……」
「それじゃどうする? 伝説のポケモンの情報探し、する?」
「ああ。目撃証言があるはずだぜ」
「そう言えば君達もマーニャの伝説のポケモンについて調べているんだったかい」
「そうだよ。これから調べるんだよね」
「ならば私にも手伝わせて貰えないだろうか?」
「え?」
シャインは何処か寂しそうにスマホロトムの画面を見せる。未だにメッセージアプリの返信すら来ていないようだった。
「これでも私達は研究の為に此処に来ていてね。レモン達が仕事の間、進めておけば少しは助けになるだろう」
「あんた……まともな所あるんじゃねーか」
「ハハハ! 褒め過ぎだよ」
「前言撤回していい?」
旅は道連れ世は情けということなのだろうか。シャインという思わぬ協力者も加わり、4人は街角での調査を続けていく。
「──赤い彗星が通常の3倍の速度で過ぎ去っていったんだ……」
「気温が急に乱高下、まるでシンオウ地方がやってきたみたいだったね!!」
「トリックだとかチャチなものじゃ断じてねえ、本当に恐ろしい物の片りんとやらを思い知ったね」
「ドロー♡ ドロー♡ クイッククイックドロー♡ 素晴らしいカード捌きですご友人♡」
──こうして、一同は伝説のポケモンについての情報を聞きこんでいくが、ロクな情報は引き出す事が出来ない。決定的な居場所に繋がりそうなものには辿り着かないのだった。
「結局こっちも収穫無し。ネットで分かった以上の事は分からなかったかな」
「正直、骨折り損といったところでしょうか」
「そうして私のカメックスのハイドロポンプで勝負が決まったわけだ──トレーナーカード無制限ルールも私の美しさの敵ではなかったね」
「おい、何で俺は違法ポケカの話聞かされてんだ? テメェ俺達が足で情報を追ってる間に、1人だけ楽しくカードしてたのか? ええ?」
「ハハハハハ! ステイ! 暴力は良くないよ暴力は! 此処は私の美しさに免じて赦してくれたまえ」
「だから何を免じるんだテメーは!!」
胸倉を掴まれるシャインは相も変わらず陽気に両の手を挙げる。どうやら、繁華街の酒場でカードゲームに興じていたようだ。どんな酒場だ。
「私が会った男の名は、ザ・キラー。カードに勝てば何でも情報を教えてくれる情報屋さ」
「はぁーん? それで何か分かったのかよ」
「彼曰く──このような事を言ってたね」
──おっと。旅の方。このマーニャで調べ事をするなら、ワームホール公団にだけは気を付けた方が良い。
──何故だい?
──奴らには黒い噂が絶えません。それに首を突っ込んだ者は──例外なく消されています。私の知り合いにも1人、ハッカーが居ますが……恐らくマーニャの外に亡命していますね。
──彼らが悪の組織だと?
──口は禍の元。公団は伝説のポケモンを追っています。目的の邪魔になるものは排除したいでしょうね。おっと、この話はオフレコで。
「ということでね」
「オフレコの意味全く成してないじゃん」
「ははははは! しかし困ったな。そうなると、レモン達の事が急に心配になって来た──」
「まだ返事ねえのか? まさかマジで何かあったんじゃ──」
メグルが懸念を露にする。無理もない。公団の狙いは伝説のポケモン。そして、レモン達もまた伝説のポケモンを調査している。彼女はなまじ強いトレーナーであるため、公団にとって「障害」であるとみなされてもおかしくないからだ。
そう考えていた時、それを払しょくするようにしてシャインのスマホロトムにメッセージが入る。
「お、レモンからだ」
「マジ?」
「何々──”返事が遅れてすみません、昨日は色々あって向こうの御厚意で宿泊させていただきましたの。ココナッツシティに着いたのなら、今から合流出来ます?”だと──ははは、可愛い奴め、疲れてしまったようだね」
「なんか早口だけど、すっごく安心してますね」
「良かったよ、連絡がついてー」
「しかしどうしますか、メグルさん。分かったのは、公団が危ないという暗黙の事実だけです」
「暗黙じゃねーよ最早……まさか、今此処での会話も傍聴されてるとかねーよな」
「まっさかー! もしそうだったら、ミサイルでもすっ飛んでくるんじゃない?」
「おい縁起でもねえこと言うんじゃねえよ──」
──ズガドォオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「え?」
爆音。そして爆風。
そして、異様な熱気が吹き込んだ。
火の手が──この人の密集した大都市で上がっている。
これまで何事もなく送られていた日常生活が一瞬で崩壊し、人々もポケモンもパニックになって逃げ惑う。
黒い煙が近くから上がっている。
「うそ、ホントにミサイル!?」
「だったらもっと大変です!」
「……な、何事だ……ッ!?」
「ただ事ではないようだね。レモン達に会うのは後回しだ」
真剣な面持ちでシャインが言い、メグルに目配せした。
「生憎私は、他者の悲鳴は聞き逃せないタチでね」
「……なかなか殊勝だな。ちょっとだけ見直したぜ」
「ねえ、待って下さい」
現場に急行しようとする二人を引き留めるように、ミアが袖を引っ張った。そして、強張った顔で辺りの群衆の顔を見渡す。
「なんか……様子がおかしくないですか……!?」
確かに群集は爆発から逃げている。
しかし、その表情からは必死さが感じられない。
まるでロボットのような顔でその場から駆け、そして次々に辺りから離れていく。
不自然なほどに群衆は連携が取れており、先程までの不規則極まりない雑踏とは対照的だ。
さっきまで普通に会話をし、談笑し、仕事に追われていた人々の顔から──生気が失われているのである。
──極めつけには、彼らの目は──薄っすら緑色に光っていた。
※※※
(な、ななななな、何で居るんだい!? メグル君──ッ!?)
ターミナルのオブジェに隠れ、ずっとメグル達の動向を探っていたイデア。しかし、自分が裏切った手前、話しかけに行くことも出来ず、そのまま気まずい空気を味わうことになった。正直、このまま彼らに捕まえてもらってサイゴクに護送してもらった方が良いのだが、それ以上に不味いのはコチョウの存在だ。彼女から聞いた野望は、野放しにしておくことなど出来ない。
いずれあの悪意はマーニャから全世界に拡散する。そしてサイゴクも時間を置かずに、その毒牙にかかる。それは何故か許容できなかった。その理由の一つは──やはり彼なりにサイゴクに愛着があったということだろう。故郷を滅茶苦茶にして良いのは自分だけだ、と己に言い聞かせ、イデアは喪った腕を摩りながらよろよろと近付こうとした。
(き、気付いてくれメグル君……!! 君達は良しとしないんだろう──!? あのイカれたマシンのやろうとしてることは──)
「見ィ付けたァァァーッッッ!!」
その時だった。
何処からともなくバラバラと音を立ててヘリコプターが迫ってくる。
イデアはふと我に返り、空を見上げた。マークからして、間違いなく公団のものだ。
何事か、と市民たちは迫るヘリにスマホロトムを向けるが──電子機器の使用が電波ジャミングで無効化されているのか撮影出来ない事を不思議がっているようだった。
そのまま、ヘリからは生身で大男が飛び降りてくる。後に続くようにして銀髪の少女もその傍らに立つ。
そして──大男は開幕で周囲が慄く程の怒号で叫ぶのだった。
「アァァァァドレナリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッ!!」
きぃいいん、と耳が痛くなる。
当然、強化された聴力を持つ横のクローン少女も耳を塞ぐのだった。
「……うるさい……本当にうるさい……ブランカと組まされる私、可哀想……」
「テメェ、仕事増やしてんじゃねえよクソ博士ァ!! アドレナリンッ!!」
「君、アドレナリンを何かの掛け声と勘違いしてないかい?」
「うるせぇ!! テメェの所為で追加の仕事だ!! 脱獄しやがって……マジでアドレナリンどばどばだぜッ!! だけどなァ、アドレナリンが出ると仕事が捗るッ!!」
「良かったじゃん、永久機関だよ」
「諸悪の根源が喋ってんじゃねえぜアドレナリンッ!!」
「ブランカ……余計な事喋り過ぎ……」
呆れたように少女は言った。この喧しい仕事相手にうんざりしているようである。
「でも……仕事は完遂する。私達からは逃げられないから、覚悟して」
「そう言う訳だァ、サリ!! 残業さっさと片付けちまうぞ!! アドレナリィイイイイイイイイイインッ!!」
【”ワームホール公団・四天王”ブランカ】
「うっざ……暑苦しい……頼むから黙っててほしい……早くユリ姉さんに会いたい……」
【”ワームホール公団・四天王”サリ】
ぬいぐるみをぎゅっ、と抱き締める少女は──今すぐには叶わぬ願いを零す。あんまりにもブランカが喧しいので、イデアもついつい同情してしまうのだった。
「うーん、お気持ち察するよ。でも生憎、捕まってやるわけにはいかないかな。それにしてもしつこいね。どうやって僕を──」
「ずっと追ってたさ。コチョウ様が仕掛けたマイクロサイズの発信機! それでテメェの逃走場所は筒抜けってわけよ、アドレナリンッ!!」
「……もしかして逃げ場がないって奴かなあコレ」
じり、とイデアが下がる中──四天王ふたりはボールを投げる。
「ああそうだッ!! 後、テメェを捕えるのはREXの使用が許可されていてね!!」
「……早急に解決させて貰います」
「おいちょっと待てよ──!?」
そのボールから飛び出したのは──燃え盛る火炎。そして、嵐のように吹き荒れる木の葉。
その中から、辺りを揺さぶるほどの怒号が響き渡る。
全身が燃え盛る白い体毛に覆われた巨大な獣脚類が、イデアを見下ろしていた。
そして、その隣に並び立つのは葉脈が走った木の葉の羽毛に覆われた鋭い鉤爪を持つ始祖鳥のような怪物。
いずれもイデアが知るポケモンに似てこそいるものの、致命的に違う何かが混ざっているかのような違和感を感じる。
何より、サイズが一回り以上どちらも大きいのだ。
【ガチゴラス<REX> ぼうくんポケモン タイプ:炎/ドラゴン】
【アーケオス<REX> さいこどりポケモン タイプ:草/飛行】
「……これが例の、遺伝子改造ポケモンか……!!」
※※※
「逃げられるなどと思わぬ事だ」
四天王たちと視界を共有するコチョウは、不機嫌そうに言った。
機密情報を漏らす前に再度捕える。あるいは──此処で口が利けない程に痛めつけてやるか。
どちらでも構わなかった。少なくとも、REX二匹がかりならそれも可能だ。
それに──既にこのココナッツシティは、とうの昔にワームホール公団の手に落ちている。
「……このマーニャ地方が、私の箱庭であること、嫌でも思い知るだろう。お前は袋小路に追い詰められたコラッタに等しい」
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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